空気猫
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日常編
―お使いの時間―
―お使いの時間―
と、狐の子供が突然宣言をしたのは、はたけカカシがコーヒーを啜りながら読書というこの数年変わる事のない、インドアな休日の午後を過ごしていた時だった。
「カァシってば、なうとになんか買ってきて欲しいものあるだろ。なんでも言ってくれってばよ!」
「とくに何もないなー…」
平素通りのテンション、平素通りのリアクションで、カカシがのんびりした口調で答えると「そんなはずないってば!」と金髪碧眼のちみっ子が地団駄を踏んだ。
「なうとってばなんか買い物するんだってば。何かねえの。なうとに頼みたいこと!」
「急に言われてもねぇ」
塩も胡椒も砂糖もとりあえず当分買わなくて済むくらいの量は蓄えてあるし、シャンプーもリンスも洗剤だって別段切れていない。はっきり言って、のんびりとした休日の午後をつぶしてまで、わざわざナルトに買い物に行っても貰う程の用事は何もなかった。
大体、ここでカカシが「それじゃあ米を買ってきて」と言ったところで、ナルトの腕力では10キロもある米袋を持って帰る事など不可能だろう。Dランク任務すら無理そうな三角耳に尻尾付きのナルトなのだ。
カカシは、彼にしては珍しく相手を気遣うような所作が出来たらしく、瞳をキラキラさせているナルトを前にはっきりと「おまえには無理」と言うようなことはなかったが、この幼児の興奮を収めるような上手い返答も思い浮かぶ事もない。
こうした時、子供の相手に慣れているアスマなら、ナルトの興味を移す上手い手を幾つか思いつくのであろうが、カカシは基本的にこのお子様に対して不器用だった。
「なー、なー、カァシ。ぼーっとしてばっかいねえで何かねえのかよ!」
黙ったままのカカシの前に立ってナルトはますますヒートアップしている。カカシは仔狐に肩をガクガク揺すられつつ、さてどうしたものかな、と思考を巡らせていた。
狐の子供の後ろでは良い子が見る教育番組がテカテカピカピカしながらブラウン管から放映されている。
お使いに行った赤ずきんちゃんが狼に向かって銃を乱射して、おばあさんにご褒美の棒付きキャンディを貰っている所だった。(教育番組的には衝撃的過ぎる内容ではないかとカカシは心配してしまうが、自分はまともな感性がないと噂なので黙っておく事にしている)
「ははぁ…」
「なんだってばよ」
「おまえ、食い意地張ってるね」
やる気満々で「なうとってばカァシのお手伝いする良い子になるってば!」と言う狐っ子に対して、カカシが呆れた顔で笑った。
「なうとってばつぉおい雄狐だから、敵が出てきてもけちょんけちょんにしてやるんだってば!」
「敵って何……」とカカシが居たなら、ツッコミを入れそうな事をつらつらとお喋りしながら、ひよこさんのポシェットを横がけにしてナルトは元気良くお出かけした。
ちなみにナルトの現在の身長はちんまいアカデミー生より、さらにちんまい。というわけで、お子様の前に広がる風景全てが巨大な状態でのお使いであったわけだが、ナルトは大好きな木の葉レンジャーの鼻唄を唄いながら元気一杯だ。
そして、〝牛乳、カップラーメン、お菓子〟といったナルトに甘々なお使いラインナップの書かれた紙と十秒間睨めっこすると、狐の子供はふるふると体を震わせ始めた。
そんなナルトの前を店先の丸椅子に座っていた八百屋の親父が訝しげに首を傾げ、配達人の青年が不思議そうな顔をしながら通り過ぎて行ったのだが、ナルトはそれどころではなかった。お子様はここにきて、〝ジュウダイ〟な問題に気が付いたのである。
「なうとってば字が読めねえってば…」
三角耳尻尾付きのお子様は愕然とした顔で震えた。そう、ちょっぴり不勉強なナルトはまだ字が読めなかった。
(ええと、カァシってばさっきなんて言ってたっけ。そうだ、すーぱーってところに行ってこの紙を〝店員さん〟にみせろって…)
店員さん…。と、思い悩んで、ナルトは咄嗟に目の前に立っていた男の膝を引っ張った。
「こえってば、どこにあるってば?」
「あぁっ?」
どうやらお子様の押し出し式の単純な脳味噌は〝スーパー〟という場所と〝行く〟という行動をすっ飛ばして、〝店員さん〟という経緯を踏んだらしく、一番傍に居た人間の服の裾を握ったらしい。ところが…。
(こ、こあいってば…!!!)
ナルトが話し掛けた男は顔を包帯でぐるぐる巻きにしていた。ざざざとナルトの顔から血の気が失せる。一応、忍服を着ている所を見るとこの里の忍ではあるらしいが、びっくりしたナルトにその判断が付くはずもない。
「ありゃ、おまえはカカシ上忍のところの…」
なんちゃらトンボという名前の特別上忍がモゴモゴと呟き掛けたが、
(この兄ちゃん、顔がねえってば!!!)
お化けだ!!!とナルトは真っ青になる。
「ぎゃーーーーーっ」
「はぁ?」
大きな悲鳴を上げたナルトは脱狐の如く、ぎゃんぎゃんと四つん這いで逃げて行った。
「…………なんだありゃ」
あとに残されたのは、休日中の特別上忍だけであった。
「うう。カァシに聞きに帰らなきゃってば」
ナルトは商店街の中を駆けづり回るが、今日は丁度月に一度のマーケットがたつ日らしく、人通りはいつもの倍の上、今日限りの露天商のせいで道も混雑していた。
「ふぇ…」
とうとう、ナルトの表情が大変ぶさいくになった。涙が決壊する一歩手前の顔だ。そして―――。
「かぁしー…。かぁしー……」
呼ぶ人はいつも一人だから、それ以外を知らないから、だからナルトは、ありったけの声を張り上げて、上忍の名前を呼んだ。
「………………っ!」
その瞬間、狐の子供の頭上で、何者かが悶絶する音のない音が響いた。
「ふぇ?」
ナルトが頭上を見上げると、銀色の大人が居た。
「おまえねぇ、なんていう鳴き声なの」
「あっ、カァシ!!」
途端に涙を引っ込めた子供のゲンキンなこと。ナルトの目の前にいたのは何ともバツの悪い顔をした、はたけカカシだった。
「カァシ。お顔が真っ赤だってばよ…?」
きょとんとした顔で言われて、はたけカカシは口布を手で覆い、そっぽを向いた。
「オレのことはいいから。おまえこそ、ちゃんとお使い出来てないでしょ。まったく…」
「あう。だって、これ読めなかったんだもん」
達筆で書かれたメモ用紙を握り締めて、しゅんとナルトが項垂れる。カカシは、メモ用紙とナルトを見比べると、あー…としまったなぁという顔をした後、カリカリと後頭部を引っ掻いて長いため息を吐いた。
「はぁ。わかったよ。今度、オレが文字を教えてやるからな。それでいいだろ?」
「え。カァシが。なうとってば、頑張っちゃお!カァシ、大好き!!」
きゃー、と己の懐に転がり込んできた仔狐を抱きとめて、カカシは曖昧な笑みを零した。
「それじゃあ、今日はオレと一緒にお使いの続きしようか。たまには外に出るのもいいかもねぇ」
「本当だってばっ?」
〝一人でお使い〟から〝カァシとお出かけ〟というナルト的に百倍は魅力的な休日プランに変更になった事で、ナルトは尻尾をパタパタとはためかせた。
「カァシの荷物はオレが持ってやるってばよ」
「ふぅん。ナルトは男前だねぇ」
「おう、なうとってば、かっくいい雄狐なんだってば」
「そっかぁ…」
その後、二人はマーケットを粗方回り終えた。紙袋を渡したものの、はっきりいってナルトが歩いているのだが紙袋が歩いているのだか、わからない状況になりそうで、大丈夫かなぁ…と思いつつナルトに荷物を渡したカカシだが。
「カァシ。抱っこ!!」
それこそ、背景にお花畑が広がりそうな満面の笑みで、
両腕を広げて言われた狐っ子の言葉に、カカシはしばし静止した。
しかし、腕を広げたままスタンバイオッケーな仔狐を前に、逆らう術が彼にあるはずもなく、ノロノロと黄金色の物体を抱き上げる。
そして、そのままナルトを抱えたまま徒歩する事、十歩ほど。
「……気のせいかな。前よりオレの運ぶものが増えた気がするんだけど」
ニシニシ笑う狐の子供を見降ろしながら、釈然としない顔のはたけカカシは今日も彼の愛しいペットを甘やかしてしまうのであった。
空気猫取扱説明書概要
ここは二次創作小説置場です。無断転載は禁止。本物のカカシ先生とナルトくん、作者様とは一切関係がありません。苦手な人は逃げて下さい。
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管理人の生態
自己紹介
名前 空気猫、または猫
職業 ノラ
趣味 散歩・ゴミ箱漁り
餌 カカナル
夢 集団行動
唄 椎名林檎
性質 人間未満
日記 猫日和
ある日、カカナルという名のブラックホールに迷いこむ。困ったことに抜け出せそうにない。
職業 ノラ
趣味 散歩・ゴミ箱漁り
餌 カカナル
夢 集団行動
唄 椎名林檎
性質 人間未満
日記 猫日和
ある日、カカナルという名のブラックホールに迷いこむ。困ったことに抜け出せそうにない。
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