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空気猫

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「記憶は戻りそうにないみたいだねぇ…」
「はぁ。努力はしてみているのですが、さっぱりです」
「そうか。このままおまえを休ませておくわけにもいくまいし、三日後から通常任務を再開させる。いいな?」
「御意。支障はありません」
その日オレは、火影邸に、定期報告をしに来ていた。とは言っても相変わらず記憶が戻らないので、これといって芳しい報告もできない。オレが記憶を失くしてから早いもので一週間が経とうとしていた。
「カカシ先生。ばぁちゃんとの話、終わったってば?」
「ああ、ナルト。三日後から仕事すれってさ。ま、身体は元気なんだから妥当な措置かな?」
堅っ苦しい執務室を出ると、ナルトが壁に寄り掛ってオレのことを待っていた。とててて、とオレの傍に寄って来るものだから、思わず口布越しに頬が弛んでしまう。
記憶が戻らなくても、このままこいつといつまでも居たいなぁ、なんて思ってしまう。オレ付きの任務を受けている限りナルトはずっと傍にいてくれるだろう。もしかしたら、オレの記憶が戻らないのも、少しでもこいつとのこの時間を少しでも引き止めたいせいかもしれなかった。





「カカシ先生。里の中を歩いてみるのもいいかもしれないってば。思い出の場所を見ると、何か思い出すかもしれないってばよ」
「ああ…」
「オレが案内するってば。なっ!」
ナルトは、オレがよくラーメンを奢ったという一楽やら(詳しく聞くと後輩に奢らせていたらしいが)、本屋の前、映画館に、恐ろしいことに何故か甘味屋、そして里の名所にもなっている火影岩の下にも連れて行ってくれた。だが、オレは気も漫ろだった。人目があって恥ずかしいのもあるだろうが、ナルトが小さくオレの服の裾を引っ張るのだ。可愛いなぁ、と思わずにはいられない。男に対してそう表現するのは変だろうが、とにかくこの青年は可愛かった。
改めてみると、ナルトは綺麗な顔立ちの青年で、一見粗雑に見える性格は、一緒にいる時間が長くなるほど、そうでもないことがわかり、むしろ家の中でのこいつの気配はごく薄かった。
まるで黄色い日だまりのように、オレに付き添ってくれる。家事や洗濯はあまり得意ではないようだが、ナルトの小さな失敗はオレに笑いを齎してくれた。
――本当に。
――まるで月が満ちるように。
愛しさが募って金に縁取られた瞳に、唇を寄せると、オレの突然の行動に気が付いたナルトが、驚いたように目を見開いた。
「ねぇ…。ナルト。オレさ、おまえのことが段々―――…」
「カカシ先生――…?」
〝それ〟が起こったのは、オレが告白の言葉を紡ごうとした時だった。酒瓶を持った里人が、ナルトに向かって石ころを投げつけたのだ。
「―――っカカシ先生、危ない!!」
一般人の投げた石は、的を外れナルトのすぐ傍に居たオレに命中しそうになり、そんなもの片手間で避けられたというのに、ナルトはオレを庇って自ら石をこめかみに受けた。
「―――っ!!」
ナルトがよろめいて、オレは里人に向かって飛び出す。それを制したのは、負傷したナルト自身だった。
「カカシ先生、やめろってば。オレは大丈夫だってば」
「何言ってるんだ、ナルト。あいつはおまえを―――!」
投げつけられた石は、こぶしの大きさほどあり、これは明らかに、相手に致命傷を負わそうと思わなければ、投げないサイズのものだった。
「この化け物が!」
里人が訳のわからないことを叫んだ。
「……っ貴様!」
「やめろってば、先生っ。オレはっ、大丈夫だから!」
「大丈夫なものか。ほら、こんなに血が…。……!?」
そこでオレは驚くべき光景を目の当たりにした。腕の中のナルトは確かに額から血を流していたはずなのに、それが見る見る間に治癒していくのだ。
「ほら…。オレは、大丈夫だから……」
「ナルト。その力はなんだ…?」
哀しそうに微笑んだ血濡れたナルトに、オレは驚きを隠せない。里人がまた叫んだ。
「この化け狐!この里から出ていけ。上忍になったからって、それでおまえの居場所ができたと思うなよ。オレたちはおまえの罪を忘れない。咎を許しはしない!」
「何を言って…」
オレは呆然としてこの非常識な状況に固まってしまった。いったい何が起こってるんだ。ナルトがどうしたというんだ?
「ははは。上忍さん。あんた、記憶喪失中なんだって?なら、オレが教えてやるよ」
「―――っ。」
男の言葉に、ナルトが蒼褪める。
「やめろってば!」
ナルトが悲痛な悲鳴をあげる。
「記憶を失う前のあんたはその小僧と付き合っていた。気がしれないが仲睦まじそうになぁ。だがな…」
ナルトがまた叫びをあげたような気がした。だが、ナルトの叫びはオレには届かなかった。里人が尚も吠える。
「うずまきナルトは九尾の化け狐なんだよ!」
「………」
「里の負の遺産だ。火影様には可愛がられているみたいだがなぁ。こいつは19年前にこの里を壊滅に追い込んだ九尾の器だ!」
血が凍りつく「音」がした。
「九尾…?おまえが、あの……?」
立っていた地面が揺らぐのを感じる。オレの腕の中に居るナルトが?視線を見降ろせば、ナルトが縋るような、哀しそうな瞳でオレを見上げていた。オレは…、気が付くと、その身体を叩きつけていた。
「化け物がオレと付き合ってるってどういうこと…?」
オレの言葉に地面に倒れ込んだナルトが、ビクっと小さく震えた。九尾?あの禍々しいチャクラを振り撒き、里を…最愛とも言えた師を死に追いやったあの九尾が、こいつ?
「ははは。おまえ…オレを誑かしたのか?」
見上げたナルトの顔は、里人に罵られていた時とは比べ物にならないほど、絶望した顔だった。








 
 
 
 
 




 
転。暗黒カカシ先生、降臨です。 
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名前    空気猫、または猫
職業    ノラ
趣味    散歩・ゴミ箱漁り
餌      カカナル
夢      集団行動
唄      椎名林檎
性質    人間未満

日記    猫日和

ある日、カカナルという名のブラックホールに迷いこむ。困ったことに抜け出せそうにない。
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