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空気猫

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スプーンとフォークでお気に召すままのその後1。







「カカシくん。きみは絵が上手いだろうけど、ただそれだけだね」
ただ上手いだけだね。きみのデッサンは学年で、いやこの大学内で一番だろうけど、すごく残念だよ。確か大学一年生の春のことだと思う。麗らかな小春日和に教授室に呼ばれたと思ったら、つい一週間前に提出したデッサン課題を前にいきなり切って捨てられた。
カカシと言えば、なんだこいつはという怒りを覚えなければいけない場面にも関わらず、ぼんやりと春の日差しを浴びていた。老教授のアトリエは長年積もった埃と絵の具の匂いがしみついていて、光の中で滲んで溶けそうだった。
教授は尚も続けた。きみが例えどんなに叙述的に鳩のデッサンが出来たとしても、きみの絵からは何も感じないんだよ。わかるかい?きみの描いたものは紛れもなく鳩だ。だけど、それだけなんだ。君はもしかしたら天才かもしれない。だけど、ただそれだけだね。
ただカカシの描いた鳩というのは、蒼と白の背景を基調とし、羽がちぎられ首が捻じ切れたスプラッタなもので、いったい被写体のどこをどう見たら、これほど悪意に満ちたデッサンが出来るのだろうと首を傾げたくなるような代物だった。つまり無個性どころか見る者が見れば個性のオンパレード、果ては悪趣味の域にまで達するであろう作風だったにも関わらずだ。しかし、先の教授はこれを「ただの鳩だ」と言った。こんなもの写真の鳩を見ているのとどこが違う?それでは意味がないのだよ、カカシくん、と。
その後、カカシの作品は世間的に注目を集めることになる。カカシを表立って批判していた教授陣は途端に手の平を返したようにカカシの才能を賞賛したが、
「きみの絵、つまらないよ」
まったくもって面白味がないね。件の教授だけはカカシを謗ることを止めなかった。例えそれで学内で肩身が狭くなろうとも、大学の看板学生となりつつあったカカシに対して、容赦なく批判をした。
だが、今にしてこそ思えば、天才だと褒めそやす周囲の意見に逆行するように唯一苦言を告げた大学教授こそ、真実カカシの本質を見抜いていたのではないか。あの偏屈な老教授は絵というレセプターを使い、当時きっと誰よりもカカシの本質を理解していたと思う。





―――金木犀の香りが通り過ぎた。ナルトはすれ違った老紳士に少しばかり瞳を奪われつつ、やたらと反響するアパートの階段をあがった。途中、カカシの部屋の住民とすれ違い、なんとなく頭を下げると向こうは一瞬びくりと身体を痙攣させたあと慌てたように階段を降りて行った。意味がわからない反応にナルトは、彼に何かしただろうか?と首を捻るが、思い当たる節がないので、そのまま保留にしておく。
今日はカカシのアパートの扉の前にて疑問が二つ出来た。そして、少年は軽く深呼吸をした―――



「カカシ先生?」
油絵の具がぶちまけられた極彩色の部屋を、コンビニのビニール袋を引っ提げた少年が軽くノックをする。
この部屋の主がこの少年の来訪を一度だって拒んだ試しがないくせに、少年はいつだってノックをする。
「お邪魔しますってばよ!」
「はい、いらっしゃい。ナルト」
「そろそろかなぁと思って食料を調達してきたってばよ」
「あーそう言えば腹が減ったかもな?」
「かもな、じゃなくて減ってるはずだってばよ?」
その疑問系はなんだってばと返されて、最近立場が逆転してる気もするなぁと思いつつ、カカシは台所の辺りをちょろちょろする少年を主人を待つ犬のように目で追う。
いつの間にか「何もそんな関節に悪そうな体勢で作業しなくてもいいんじゃないか」という体勢を長時間続けていたような気がする。首をコキコキと鳴らしつつ、天井を仰いでると、揺れる金糸が視界の真ん中にやって来た。
「そういえば修学旅行、楽しかった?」
「おう!―――はい、お土産だってば」
床に散乱する硝子の破片を注意深く避けて、カカシの額に小瓶を乗っけると、ナルトはニカッと笑う。
「あ。いいな、これ。使おうかな」
「うわぁ。そーさくのオニめ…」
「ウソウソ。ナルトからのプレゼントだから大事に取っておくよ」
嬉しそうに星型の砂が入った小瓶に視線を落とすカカシを横目で見つつ、ナルトはカカシの食料の入ったビニール袋を床に置く。置いて、埃だらけのそこは不衛生だ、と判断して結局、絵の具がぶちまけられた缶でいっぱいのテーブルの上の比較的安全な地帯に当分の食料を置いた。あとで冷蔵庫の中に入れねばならない。
「あ」
と、そこでナルトは先程のことをふいに思い出して声をあげた。振り向けばカカシが不思議そうにこてんと首を傾げている。
「そういえば、カカシ先生ってば、このアパートの人に何かしたってば?さっきカカシ先生の部屋に入る前に階段のところで大学生っぽい人とすれ違ったんだけど、なんだか態度がおかしかったんだってばよ」
ワークパンツから携帯を取り出して、写メを何枚か撮りながらナルトは窓をあける。ふーっと息を吹きかけると、窓の桟に薄らと積ってた埃がキラキラと煌めいて外に散った。
「ナルト、そいつに何かされたの?」
「は?逆!逆だってばよ!なんだかお兄さんがオレの顔を見て、すげービクついてたんだけどオレってばなんにもした覚えないからカカシ先生には心当たりあるかなぁって話だってば」
「あ。ああ…なんだ。そういうこと、ね」
カカシは合点したらしい。そしてナルトに睨まれたため少しだけ叱られた犬のような顔をした。
「ほら。オレ、最近これを作ってるでしょ?一応気は使ってるけど、結構派手な音が出るわけ。あとガラスで手を切った時に多少スプラッタなまま外に出てぎょっとされて以来、怯えられてるかもしれない。はは」
「笑い事じゃねぇってば」
カカシは現在自分が制作しているのは巨大なステンドガラスアートを指し、へらりと笑う。十中八九それであろう。昼間っから部屋に籠っている職業不明の男。それも昼夜問わずその男の部屋からおかしな破壊音が聞こえたら、怪しいを通り越して既に恐ろしい。
「オレ、カカシ先生と一緒に危険人物扱いされたのかよ?」
「はは。ごめ~んね?」
ナルトは盛大なため息を吐き、何か手伝うことあるってば?と訊ねた。
「―――何枚かの硝子板、外の光に当てて、色の反射をみたいから運ぶの手伝ってくれる?」
まったく悪気のない顔で笑うカカシに、ナルトは肩をがっくりと落とす。あけた窓から春の麗らかな陽射しが差し込んでいた。



極彩色の硝子板を並べながら、ナルトは反射する硝子の欠片に目を細めた。バラバラになった硝子の破片が卵の殻のようだと思う。ナルトにはよくわからないが制作者もそれを意図しているのかもしれない。
「これ、いつになったら完成するんだってば?」
「もうすぐだよー」
「これとこれ、好き」
幾つかのカラフルな板を指差すと、カカシは「そうだと思った」と笑った。最近のカカシはこうやっておだやかに笑うことが多い。
「ここに来る前に、知らないじいちゃんとすれ違ったんだけど、あの人ってカカシ先生の知り合いだってば?」
カカシの知り合いにしては珍しく妙に品の良さそうな老紳士だったため、違和感を感じたのだ。ナルトもナルトの父もアカデミックな雰囲気の人間と親交はない。
「んー。オレの恩師かな?今度の個展を手伝って貰おうと思ってね」
「へ?」
「おまえ、随分面白くなったな、って言われたよ」
「ふぅん?――って、それ褒められてるんだってば!?」
ナルトはわけがわからないという顔をしたが、カカシはナルトのその顔を見ただけで勝手に納得してしまったらしく、「これ、運んでー」とのんびりとした口調で笑い、また作業へと没頭し始めてしまった。おそらくあと三時間は熱中しているのだろうなと思いつつ、ナルトは作業を中断してコンビニで買ってきたアイスを口に含んだ。



陽射しの中で極彩色の硝子細工が滲んで融けていた。
















*教授の話が書きたかっただけ
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空気猫取扱説明書概要
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管理人の生態
自己紹介
名前    空気猫、または猫
職業    ノラ
趣味    散歩・ゴミ箱漁り
餌      カカナル
夢      集団行動
唄      椎名林檎
性質    人間未満

日記    猫日和

ある日、カカナルという名のブラックホールに迷いこむ。困ったことに抜け出せそうにない。
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