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空気猫

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さくさく進めるよ。







病院は嫌だという子供を説き伏せて、無理矢理検査を受けさせた。どうやら病院にいい思い出がないらしく、子供の生い立ちを考えれば当たり前のことなのだが、カカシは少しだけ眉を寄せた。
もったいぶったような待ち時間とは反比例するような素っ気ない態度の医師の診断は「問題ないようですね」のたった一言で、そんなわけないでしょう、と迫ったカカシの言葉はあっさりと黙殺された。
つまり特別、頭に強い衝撃を受けたわけでも、体のどこにも怪我を負ったわけでもないのに、うずまきナルトの視力は失われたのだ。
「ナァールト。風鈴だよ。綺麗な音だねぇ…」
「………」
「この音を聞くと夏って感じがするよねぇ。おまえもそう思わない?」
カカシの腕の長さは丁度ナルトを包み込むように誂えたかのようだ。こうして里を歩くと、カカシが如何に偉大な忍者であるか十二分とわかる。だが、カカシに抱きあげられた状態で歩くことは、安全であるには違いないが、担任の教師に甘えているようでナルトは好きにはなれない。
「ナルト。アイス、食べようか。ソーダ味、おまえ好きでしょ?」
「せんせぇ、もう帰ろう?」
「えー。せっかくのデートだったのに」
旋毛にふんわりとした感触が降って来た。カカシはナルトの旋毛に顎を乗せるのが好きだ。そのままの状態で喋られると頭蓋骨に直接カカシの声が響くのが変な感じで、ナルトはあまり好きではないのだが、カカシはお構いなしのようだ。
「それじゃあ、先生が奢ってあげるからあんみつ食べて帰ろうよ。先生、寒天の入ったやつがいいなぁ」
「いらないってば…」
食欲の落ちたナルトにカカシは顔を顰める。ナルトは元来、元気で溌剌とした子供だ。食事を奢ると言えば、いつも喜んでカカシに飛びついて来たものだ。今のナルトは視力を失ったことで気分が落ち込んでいるだけだと思いたい。カカシはナルトを抱えたまま子供のアパートへと帰宅した。
「ナルト、大丈夫だよ。先生が傍についているからね?」
ナルトの手を握りベッドサイドで繰り返し呟く大人の励ましの言葉を聞いて、ナルトは大人に対して申し訳なく思った。こんな言葉を掛けて貰う資格なんて、自分にはないのだ。
「ナルト、どこか具合の悪いところはないか?お水持ってくる?そうだ、冷蔵庫にプリンがあったはず…」
カカシは優しかった。いや、元から優しい大人であることは、ナルトにもわかってはいたのだが、一人暮らしのナルトを心配してか、カカシは普段から何かと世話を焼いてくれたりと細やかな心遣いをしてくれた。今回も流石は上忍というべきかカカシの看護は適切でどこも過不足がなく、また過分なところがない。
冷蔵庫を開けたカカシが「まーた買い物サボってたデショ」としゃがみ込みながら苦笑している。もちろん、ナルトはその光景を見ることは出来ないが、優しく微笑むカカシの姿が容易に想像することが出来るのだ。真っ暗闇に手を伸ばすと、大きな大人の手に包まれる。
目が見えない分、他の感覚が鋭くなっているのだろうか。カカシの指は十班の担任のようにがっしりとし過ぎているわけではない。男性にしてみれば関節は細い方に入るのだろうが、ナルトはカカシの手が恰好良いと思う。
「ん。なぁに、ナルト」
「な、なんでもねぇ」
ナルトはカカシに頭を撫でられるのが好きだった。大きな手でわしゃわしゃと髪の毛を掻き回されると、それだけで幸せな気分になる。
自分にふつーに優しくしてくれる大人。それだけでも貴重なのに、カカシはナルトに特別優しかった。でも…。
ナルトは戸惑いを隠せなかった。じっとりとTシャツに汗が張り付く不快感にも似ている。あまり部屋に人がいる状態に慣れないというのもある。今は構われるよりもひとりにして欲しいと、そう思ってしまうことに対してカカシに悪いと感じた。
「先生。オレ、もう大丈夫だってばよ?」
「………え?」
「オレってば一人でも大丈夫だから帰っていいってばよ?」
冷蔵庫の中身をチェックしてたカカシは驚いてナルトを見詰める。こちらを見ているのに、こちらを見ていない瞳で、ナルトが微笑んだ。窓から差し込む光の角度のせいか、子供の肌の色はいつもよりいっそう儚く見える。
「何言ってるの、おまえ。今、おまえは目が見えないんだよ」
「別に視力を失ったって体が動けないわけじゃないじゃん?」
確かに、任務中の事故で体の一部のパーツが欠損してしまう忍は少なくはない。忍としては致命的なことではあるが、珍しくはない。四肢が欠損しなかっただけマシというものだ。
「先生だって、片目じゃん」
「オレは…見えてないわけじゃないデショ?」
「そうだっけ…?―――でも」
ナルトは沈痛そうに顔を伏せる。躊躇ったように口籠る子供はどこか大人びていて、とても12歳の子供には見えなかった。
「今はカカシ先生がついていてくれるからいいけど、カカシ先生は上忍で忙しいだろーし、そのうちオレ一人でやらないといけないだろ。それなら今のうちに慣れていた方がいいじゃん」
「おまえは…」
「オレ、一人で大丈夫だよ。だから、心配しないで大丈夫だってば」
「オレに遠慮してるのか。なら、そんなものはいらな…」
「ううん、その逆だってばよ」
カカシの言葉を遮って、ナルトは絞り出すようにニシシと笑った。カラ笑いとも取れるその笑い声が、音もない部屋に余計に寂しく響く。
「オレ、今凄く心が落ち着いてンだ。目が見えないってすげぇ不安になるかな、って思ったけどそうでもなくて…」
ナルトは窓から入ってくる風を感じているようだった。その横顔をカカシが凝視していると、やがてナルトが口を開いた。
「こうしてると、凄く静かなんだってば…」
カカシに抱えられ病院に行く道すがら、里に出た時に気が付いた。いつも自分を責め苛んできたあの視線をどこにも感じないことに。カカシの腕の中で瞬きを繰り返しても、目の前に広がるのは暗闇ばかりで、まるで世界に誰もいないようだった。
「オレ、ほっとした…ほっとしちゃった」
「ナルト…」
何も見えないということは、もうあの冷たい視線に苛まれることもない。うずまきナルトは視力と引き換えに、安寧を手に入れたのだ。なんということだ。少年がこの12年間、努力し、追い求め続けた、〝里の人間に認められたい〟という願望は何も見えない世界に放り出されることで呆気なく崩壊した。
「なぁんだ…」
手を伸ばして、掴みたくて、必死に追いかけて、あの視線から逃れたくて、ただそれだけがナルトの足を動かしていたというのに、何も見えなくなって世界が一変した。もうあの冷たい視線は追いかけて来ない。
「なぁんだ…」
こんなに簡単なことであったのかと、涙がボロボロと零れた。今、ナルトの世界は、優しくて心地良い。
「カカシせんせぇ。オレ、頑張れなくってごめんなさい…」
ベッドの上で膝を抱えて蹲る。ここで丸くなっていれば、安全。まるで、世界に誰もいなくなったかのような静寂。それは、忘れてしまったはずの胎児の眠り。

















普通なら直接聞こえる言葉が嫌だろうに、原作でナルトが視線が嫌だったと言っていたので
もしなんらかの異常がナルトの身体に現れるなら視力だと思いました。ていう話。
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自己紹介
名前    空気猫、または猫
職業    ノラ
趣味    散歩・ゴミ箱漁り
餌      カカナル
夢      集団行動
唄      椎名林檎
性質    人間未満

日記    猫日和

ある日、カカナルという名のブラックホールに迷いこむ。困ったことに抜け出せそうにない。
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