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空気猫

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ネットで公開するのはここまでです。









「キツネ!」
「あっちへおいき!」
「店の前が汚れたよ。塩撒いておくれ!」
子供にとって商店街での買い物は悪夢だった。下忍になったからといって里の大人が自分を認めてくれるはずもなく、むしろ出る杭が打たれるように、周囲の視線は冷たくなったように感じる。
狐のくせに忍になるなんてと忍の里ならではの妬み嫉みの視線も加わって、落ちこぼれの自分ならばまだ良かったのかと、虚しくなってしまう。
家に帰って来てから少し吐いた。恐ろしかった。人の感情が。里人の殺意が、それよりも無数の視線が。自分は生まれてきて良かったのだろうか。否、いつだって疎まれるような視線が、ナルトの背後から追いかけてきたのだ。
無数の目は、無数の殺意。死んで欲しいという人々の願い。生まれ出て12年間。うずまきナルトは人の視線が怖かった。
それはある夕暮れ刻だった。朝顔の咲く季節より少し以前のことだったと思う。
「あー…」
見知らぬ里人から突然水をかけられ、呆然とした任務帰り。ナルトは今日は運が良かったなぁとこっそり微笑んだ。本日の天気は快晴。歩いて帰えるうちに服は大方乾くだろうし、洗濯をする必要もないだろう、と子供は踏んだからだ。
「おまえ、びしょ濡れだね」
しかし水滴がポタポタとアスファルトの地面に滴るのを眺めていると、長い影が伸びた。見上げるとそこにいたのは自分の班の担任上忍だった。
「あれぇ、カカシ先生ってば仕事があったんじゃねぇのぉ?」
間の抜けた返事をすると、逆光からで詳細な表情までは確認出来なかったが、どうやら大人は苦笑しているようだった。
「仕事はあとで。おまえ、とりあえずうちにおいで…?」
カカシは自分の服が濡れるのも構わずナルトを抱き上げると自宅へと連れ帰った。そう、いつだってはたけカカシはうずまきナルトに優しかった。




五感とは、視力、聴力、嗅覚、味覚、触覚のことを表わす。いずれも日常生活を送る上でなくてはならない機能で、目が見えないというだけで人の行動は結構制限されるのだな、とナルトは感じた。
真夜中に電球が切れて部屋が真っ暗になった状態でずっと歩いているようだ。窓からカーテンを揺らして入ってくる風の音や、ちょっとした物音に敏感になった。テーブルの上にあるマグカップを手に取ることすら、一苦労だ。もし、普通の人間が視力を失いまったくの盲目になったとしたのならば、さぞ不安に感じたことだろうと思う。
「カカシ先生。オレの努力はなんだったんだろう。目が見えなくなって、こんなに安心するなんて…。本当はいけないことなのに、オレってばほっとしてるんだってば」
「ナルト。そんなに自分を卑下するな」
昼も夜もない世界の中。担任教師はいつだって、自分の味方だった。優しい、優しい、カカシ先生。大きな手のひらで、躊躇うことなく自分の頭を撫でてくれる大人。
「おまえはうずまきナルトじゃないか。オレの知ってるうずまきナルトはこんなことくらいじゃへこたれたりしないよ?」
担任教師として最高点を弾き出す励ましの言葉。叱咤を含んだ激励。全てがナルトのためを思っての言葉だと理解することが出来る。
「ナルト。先生と一緒に頑張ろう…?」
だ け ど?
「でも、カカシ先生は本当はオレのこと好きでも嫌いでもないでしょう?」
「ナルト。何を言ってるんだ?」
「カカシ先生はオレのことずっと監視してたよね。じいちゃんに言われてオレのこと監視して、オレが壊れて狐が出て来るの、いつも心配してた」
先生は里思いの優しい忍だってばよ、と子供は笑う。けして任務を放り投げたりしないのだから偉い。例え、監視対象者が鼻摘まみ者の九尾の子供だったとしても彼は、任務に私情を挟んだりはしなかった。
なんて優しく優秀なカカシ先生。だけど、ナルトは気付いてしまった。彼がいつも一歩離れた忍の視線で自分のことを見ていたことに。優しく撫でてくれた手のひらの温もりは、いつも擦り抜けて消えてしまうことに。
「カカシ先生は、オレのことなんとも思ってない。先生はオレの監視者だから」
子供は淡々と事実を述べた。余計な脚色も、過分な悲壮感も同情して欲しいわけではないから必要ないだろう。今、ナルトの視界にはカカシの姿は映らない。ただ暗闇がそこにあるだけで、だからカカシが今どんな表情をしてナルトの前に立っているかなんてわかるはずもない。それで良かったのだ。それが良かったのだ。
頬に当たる風が心地良いとさえ感じる。
「―――どうして気付いたんだ…?」
ああ、目が見えなくって良かったね。貴方の驚愕に見開かれる顔なんて見たくなかったから。








 




 
 
Q鬼畜よりな話になりますか?
Aいいえ。割と優しい話になるように書いてる(つもり)
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空気猫取扱説明書概要
ここは二次創作小説置場です。無断転載は禁止。本物のカカシ先生とナルトくん、作者様とは一切関係がありません。苦手な人は逃げて下さい。
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管理人の生態
自己紹介
名前    空気猫、または猫
職業    ノラ
趣味    散歩・ゴミ箱漁り
餌      カカナル
夢      集団行動
唄      椎名林檎
性質    人間未満

日記    猫日和

ある日、カカナルという名のブラックホールに迷いこむ。困ったことに抜け出せそうにない。
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