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空気猫

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灰色ねずみはYUKIのプリズムがテーマソング。
 







「ねずみ、大丈夫だってば?」
「ああ……」
「ひとりで帰れう?」
「帰れるよ」
「転ばないように気を付けて帰るんだってばよ」
子供に心配そうに見上げられたカカシは、苦虫を百匹ほど噛み潰した表情で、ナルトの頭を撫でた。ふらふらとしたカカシの背中を見送りながら、ナルトはこてんと首を傾げる。
カカシが公園から去って行き、ナルトは給食の牛乳パックを握り締めて、河原へと続く道を駆けていた。今日のねずみ変だったってばと思いながら。だけど、「絶対、おまえのことあそこから助けてあげるからね」と手を握られて言われた言葉。擦るように何度も手の甲を撫ぜた大きくて骨ばった指。
変な、変なねずみ。ナルトの心が知らずにふわっと温かくなる。
なんだか、今日はいいことがありそうな気がした。
「チビー!」
ナルトはカカシと一緒につけた仔犬の名前を呼ぶ。
「お腹空いたろ、オレってばしばらく来れなくてごめ……」
はふはふと息を切らしてナルトが土手から橋の下へと走り寄る。だけど、ナルトの足がだんだん走力を失くした。ナルトが近寄ると、いつも聞こえる元気な鳴き声がない?
「――…んな?」
一歩、二歩と、ナルトはゆっくりと秘密基地へと近付く。
「チビ……?」
ぐしゃぐしゃに荒らされた段ボール箱。近くに転がっている鉄の棒と鋏。地面にボロ雑巾みたいに転がっている塊。数日前まで真っ白だった毛にはべったりと血がこびり付いていた。四肢は折れ曲がり不自然な方向にひしゃげ、口からはみだした千切れた舌が、だらんと地面に垂れて、先が裂けている。
ナルトの頬をペロペロと舐めた舌。くすぐったいってば、なんて言いながらも、一生懸命生きる小さなその存在が愛しくて、大好きだった。
抱き上げた時ドクドク脈打つ心臓は、確かに生きている証だったはずなのに。ナルトは呆然と広がる赤を見下ろした。「きゃん!」と仔犬が鳴くことはもうない。



泣いた子供を灰色ねずみは見ていた9





別に生きていても死んでいてもいいと思っていた。たった一人で生きて行くことはコンパクトで簡単だ。ずっと一人で生きて来たのだからこれからもそれでいいのだと思っていた。だけど惰性で生き続ける毎日とか、自分の周りにいる人間が煩わしくて仕方がなかった。大切な人間なんて誰もいない。たくさんの人々に囲まれているくせに、何故か自分の心は、喜びも、感動も、躍動も、哀しみすら何も感じなかった。
最後に涙を流したのはいつだっただろうか、とそれすらも思い出すことができない。もし自分の身体を切り開き、内蔵を引きずり出したなら、己の中には何が残るのであろうか。カカシの心臓、心の代わりに詰まっているもの。ああ、これは空洞を叩いた時の、からっぽの音。
カカシは深い眠りの淵から浮上した。公園から帰ったあとカカシはベットに横になり、これからのこと、それからここ数日ことを考えていた…三日ばかり色んな方面を駈けずり周り、ろくに寝ていなかったせいだろう、体力の限界が来ていたようだ、夕寝をしていたらしい。見た夢は自分が手術台で実験動物よろしく切り刻まれてホルマリン漬けにされるという、相変わらず最悪な悪夢だったが、何故だろうやたらとすっきりした気分だった。
………―――――。
「………?」
誰かの泣き声が聞こえた。透明な空気を通り抜け鼓膜を震わせる音。誰の泣き声だろう。カカシは引き寄せられるように伏していたベッドから起き上がった。
「………ナルト?」
辺りは夕焼け。ナルトと会えなくなって最初の二日。公園に行ってもあの子の姿はなく、肩を落とし帰る日が続いた。あの子のいない公園は色褪せて見えるから不思議だ。公園で遊ぶ子供たちはまったくカカシの興味をそそらなくて、またスロットと飲み屋に足を運ぶようになった。
いつも通りの生活。いつも通りの毎日だったはずなのに。これほどつまらなく、味気ないものだっただろうか、と少しも美味くない酒を飲んだ。そして、公園でナルトと過ごした数日間にはつとそうしたことを思ったことがなかったということに気が付いて、呆然とした。
二日目の夜が明ける頃、カカシはある決心をして、動き出した。今までサボっていた分を取り戻すように、走り回り、色んな方面に協力を試みた。
「………ルト」
擦れた声が出た。……―――これは焦燥?
こんな気持ちも初めてだった。
「………ナルト」
ナルトが泣いている。公園の遊具を通り過ぎ、木造建築の民家と民家の壁の間、猫の通り道、薄暗い路地裏、空き地の土管の中、工場の傍、古びた堤防を横切って、順々にあの子が歩いたと思われる足跡を辿って、カカシは歩く。
聞こえる。音のない声で助けを呼ぶナルトの泣き声。
細く長い、悲鳴。
等間隔で連なる電信柱の影を踏み越え、カカシはあの河原へとやって来た。
「………ナルト」
真っ赤な空を乱反射した水面。風が吹いて短い草が靡く。河原の真ん中に立っている小さな後姿。
「動かなくなったってば…」
夕日を背にして、金色の頭が振り向いた。土手を降り、カカシはナルトへと駆け寄る。泣いていると思った子供の頬はしかし濡れていなかった。あの泣き声は気のせいだったのだろうか。
いや、違うこの子は確かに泣いていた。
真っ赤な世界の中で子供がカカシに話し掛ける。
「……ねずみ、こいつのこと埋めなきゃ」
ナルトの腕の中に抱えられた小さな塊。カカシはそれが何か理解して、眉根を寄せた。
「ナルト、それ……」
「わかんね、どうしてこんなことになったのかな」
淡々とした会話。生き物の死を厳かに悼む子供が、ふいと視線を河辺に逸らした。
「チビ、死んじゃった」
「………」
カカシは誰にともなく問いかけたい。泣かない子供は抱き起こさなくてもいいのだろうか。弱味を見せない子供には労わりの言葉を掛けなくてもいいのだろうか。
大勢の子供たちが痛い、哀しいと泣き叫ぶ中で、ただ一人俯いて涙を堪える子供。それを果たして「偉い子」であると言えるのだろうか。なんて我慢強い子だと褒めてもいいのであろうか。答えはノー。
強いことばかりが美徳であるわけがないのに。涙を堪えたぶんだけ、おまえは強くなるとでも思ってるの。違うでしょ。
痛いって感覚を鈍らせちゃダメなんだよ。音のない声でなんて泣かないで。カカシは跪くとナルトを抱き締めた。子供の懐は血だらけだったけれど構わず強く。
「……ねずみ?」
「泣いてただろ、ナルト」
「……泣いてねーよ?」
「聞こえたんだよ、オレには」
「………泣いてねぇもん」
「…………」
ナルトは、あどけない頬をカカシの首元にすりっと寄せた。
「ちゅ、しようかナルト?」
「………」
「元気になるキスしてあげるね?」
「ん……」
すん、と鼻を啜ったナルトの頬に手を当てて、カカシは己の唇をふっくらとしたそれに近付ける。
「ね、じゅみ……」
ナルトは薄っすらと瞳を開けて、カカシの首に手を回す。しかし、落ちてきた影に目を見開いた。ざざざと風が吹く。ねずみの兄ちゃんの背後にいる大きな男の人はだあれ?
「ねずみ、危ない!」
ナルトの悲鳴。鉄パイプを振り上げた山のように大きな男。ガツといやな音がして、地面がへこむ。カカシはナルトを抱きかかえ、振り回される鉄パイプを避ける。
「なんだ」
「うぉ…ぁぁぁ……」
言葉になっていない不気味な唸り声。
―――この間の変質者か。
懲りずにナルトを付け回していたらしい。仔犬を殺したのもこいつか?
おそらくそうなのだろう。そして、ナルトが可愛がっている子犬の存在を知った。近隣で騒がれている変質者の出没とペット連れ去り事件はおそらく同一犯の犯行。その証拠にでっぷりとした腹の男の手には目を背けたくなるような動物だったものの死骸が握られていた。
カカシは咄嗟に弾力のありそうな腹に蹴りを入れる。「ねずみ、ねずみ、ねずみ」と腕の中のナルトがパニックになったように叫んで、必死にカカシにしがみ付く。カカシの渾身の蹴りは見事、起き上がろうとした木偶人形みたいな男に当たって、男は地面に昏倒した。



カカシは携帯で警察を呼ぶと、子供と向き直る。ナルトは仔犬をスコップで埋めていた。他の動物たちはそのままだ。おそらく飼い主たちがせめて亡骸だけでも引き取りたいと願うだろうから。
ナルトは盛り上がった地面を撫でる。
「オレのせいだってば。オレがこいつのことを構わなければ…」
「それは違うでしょ、ナルト」
「ううん。オレの、せい」
「ナル……」
震える肩。俯く顔。
「泣いてもいいんだよ、ナルト?」
何度も振られる首。カカシは見かねてナルトへと膝折ってしゃがみ込む。
「バカだね、おまえは…」
やっぱり泣き出す一歩手前の顔で、必死に唇を噛んでいる。
泣けば誰かが助けてくれるかもしれないのに。同情でもいいから、抱き起こしてもらえるかもしれないのに。救難信号を送ることの出来ない不器用な子供。
「おいで、ナルト」
カカシはナルトに向かって両手を広げる。だけど、いつまでたっても近寄って来ないナルトに苦笑して、カカシは自らナルトの腕を引き寄せた。
「あっ」
「泣きなさいよ」
ぺちぺちと頬を叩いて、おでこをこつんと合わせて見る。ひう…と子供から嗚咽が漏れる。
「泣いてごらん、ナルト?」
オレが見ていてあげるから、安心して泣きなさいよ。おまえが泣いて呼んだら、駆けつけてあげるから。だから―――、
「もう大丈夫だよ」
カカシの言葉に子供の涙の粒が決壊した。
「うぁぁああああん」
咆哮にも似た泣き声。人間の泣き顔なんて汚いだけで、見苦しいとすら思っていたのに、ぽろぽろ涙を零すこの子供の姿はこんなにも美しい。










 
 
 
 
 
 
 
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空気猫取扱説明書概要
ここは二次創作小説置場です。無断転載は禁止。本物のカカシ先生とナルトくん、作者様とは一切関係がありません。苦手な人は逃げて下さい。
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管理人の生態
自己紹介
名前    空気猫、または猫
職業    ノラ
趣味    散歩・ゴミ箱漁り
餌      カカナル
夢      集団行動
唄      椎名林檎
性質    人間未満

日記    猫日和

ある日、カカナルという名のブラックホールに迷いこむ。困ったことに抜け出せそうにない。
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