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空気猫

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悩殺ジャンキー☆

はたけカカシの頭の中の98%は恋人のうずまきナルトのことで占められている。まるで健康に悪い甘味ジュースのような数値である。
朝。カカシはカーテンの隙間から漏れる朝日の眩しさで起床した。時刻は午前6時。傍らにはすぴすぴと寝息を立てているナルトがいた。昨夜の疲れのためか、ぐっすり眠っている。2週間の長期任務から帰ってきたカカシは、帰宅してすぐにナルトの家に押し掛けた。カカシは帰宅の挨拶もそこそこに、ナルトを押し倒すとその場で少年の身体を求めた。任務明けのナルトの身体は我慢した分だけ一層柔らかく人肌は温かった。1回や2回抱いただけで、離してやれるはずもなく、少々無理をさせてしまったのかもしれない。結局、深夜過ぎまで情事に耽ってしまい就寝時間がかなり遅れてしまったのだ。
目元を赤くさせたナルトの様子から察すると、もしかしたら泣くまで責めてしまったのかもしれないが、カカシはナルトから発露する快楽を追うことに必死でよく覚えていなかった。
カカシは、記憶に残らないほど愛してしまったことを、後悔した。なぜなら、ナルトに関する記憶は全て覚えていたいと思っているからである。
ナルトの起床までまだ時間がある。カカシはシーツを引き寄せるとナルトを自分の腕の中にしっかり抱き込んで再び眠りの中に落ちた。
「カカシ先生、起きろってばよ!」
「ううん……」
「起きろ、起きろ~!」
「………ナールトもうちょっと寝かせてよ」
「もうお昼だってばよ。トースト焼いたからさっさと食えってば!」
「オレ、パンじゃなくてご飯がいいな~」
「我侭言うなってば。もうもうもう。布団干したいんだからどけろってば」
「ああ、任務明けに消化の悪いものを…。センセーせめて柔らかいお粥が食べたかったなぁ」
「………」
カカシの言葉にナルトがぐっと詰まる。任務明けで疲れている人間はあんなに激しく恋人に欲情しない、というツッコミが入りそうだが、ナルトはカカシの自称繊細な胃に同情してしまい、「わかったってば」とエプロンを付けてキッチンに向かおうとした。ん、エプロン……?
「ナ、ナルト。ちょっと待ちなさい。その格好はなあに?」
「この間の誕生日にサクラちゃんに貰ったんだってば」
「へぇ~、サクラも随分と気が利くようになったじゃない」
ナルトはシンプルなデザインのエプロンを見下ろして、首を傾げる。
「カカシ先生。ただのエプロンで大袈裟だってば」
「それも十分に似合うけど、男の浪漫的には、もっとこうふりふりとした夢のある奴もいいよねぇ~」
「ロリコン……」
ナルトは、汚いものでも見るようにカカシをばっさり切って捨てた。最近、ナルトが少年特有の潔癖な視線でカカシを見るようになった気がしないでもない。やだねぇ、これだから思春期は…とは思うものの、カカシ自身の10代の頃を思うと、唇を尖らせて半眼になっただけのナルトなど可愛いものかもしれない。
カカシのベッドの傍らで、顎を蒲団の上に乗っけてこちらを睨んで、手にはお玉。ここからでは見えないがキッチンにはきっと手作りの朝食が用意されているのだろう。なんだか新妻を貰ったようではないか。
「しあわせ……」
にゅーっと布団の中から伸びてきた腕に抱き込まれ、オンボロアパートにナルトの悲鳴が轟いたのはその3秒後。
「もー、もー、もーー離せー!」
「牛?」
「ちげぇっ。カカシ先生。本当に、そろそろ離せってばよ。ご飯作り直すから!」
「んー…オレはもうちょっとおまえとこのままでいたいんだけど?」
「ぶー。だめーっ。シカマルたちと遊ぶ約束してるんだってばよ。早く仕度しないと遅れちゃうだろ」
「え」
夢見心地幸せ気分だったカカシはナルトの意外な言葉に思わず冷水を浴びせられたように目を丸くした。
「今日は一日中オレとベタベタコースでしょ」
「何言ってるんだってば。カカシ先生ってば予定より二日も早く帰って来ただろ。今日の予定はもう入れちゃったの。オレ、これから遊びに行くから」
カカシはシーツを手繰り寄せると「酷い。浮気者!」と女々しくも嘘泣きを始めた。
シクシクと枕を濡らす恋人に、ナルトがため息を吐いたのは言うまでもない。



「そんなわけでナルトが浮気しないように見張りに来ました」
「カカシ先生が付いてきちゃったってば。ごめん、シカマル」
ナルトの後ろに控えている上忍の姿を見て、シカマルは顔をヒク付かせた。
「おい、おまえの先生ってちょっと異常じゃないか?」
「…いつものことだってばよ」
ナルトは身体の右側に棒線を引いて黄昏ている。それからキバやチョウジと合流しても、カカシは例の大ベストセラーの本を片手にナルトたちの後を付いて回った。
「ナルト。カカシさんはあのままでいいのか…?」
「ん?いいんだってばよ、カカシ先生がオレたちに勝手に付いて来てるだけじゃん」
「いや…でもよ、一応お前らデキてるんだろ。気ぃ使わなくていいのか」
「んー。んー。カカシせんせぇー。どこか行きたいとこある?」
「なーい」
「いや、そういうことじゃねぇよ。あー…、めんどくせぇ」
シカマルは天を仰いで、お決まりの文句を言った。結局、その日はナルトとチョウジの提案で甘味屋巡り(カカシ付き)、途中忍具屋に立ち寄り(カカシ付き)、演習場で全員で軽く手合わせ(カカシ付き)をして解散となった。
もちろん、はたけカカシはどの項目にも居たものの、参加は一切していない。大体は、甘味を食さず渋茶を啜っていたり(それはシカマルも一緒だったが)、店の外で居眠りをしていたり、木に背を預けていたりしていた。
この上忍は何が面白くて休日を過ごしているのであろう。そして、カカシが黙って付いて来ることを、ナルトは何とも思っていないようなのである。
「カカシ先生、アイス食う?」
「食べない。おまえが全部食えばいいでしょ」
「だって、オレおまけで付けて貰った抹茶味好きくねぇ…」
「オレはダストボックスじゃないぞ」
「うぇえ、お願いだってばよ。先生、抹茶味なら食えるだろ」
「ナルトー。何やってるんだよ置いて行くぞ」
「ワンワン!」
「おう。今行くってばよキバ。それじゃー、カカシ先生一口だけ。はい、あーん」
キバとチョウジと別れ、あとにシカマルとナルトだけが残った。最後に向かった先は近所のスーパーだった。シカマルが母親のヨシノから簡単な使いを頼まれていたので、ナルトも夕飯の買出しをするためにカカシと共に付いて行くことにしたのだが…。
「む。先生、塩ってまだあったっけ?」
「あー、かなり減っていたと思う」
「牛乳は?」
「はい、いつものやつ」
「サンキュ」
勇ましい牛のパッケージの牛乳パックを手渡され、ナルトは阿吽の呼吸でそれを受け取る。
「おまえらは夫婦か……」
「へ?なにが」
呆れたシカマルの呟きにナルトはきょとんと首を傾げた。カカシはナルトの傍らで、ちゃっかり自分の好物の秋刀魚とナス、それにたっぷりの緑黄色野菜をカートに入れていた。
「あっ。カカシ先生ってば勝手に野菜入れるなってばよ」
「おまえこそカップラーメン買い過ぎ」
「これはオレの必需品―!」
カップラーメンを抱き締めて、ナルトが高らかに宣言する。ナルトに好意的な里人なのだろうか、何人かのおじさんとお姉さんが、クスクスと笑いながらスーパー内を通り過ぎた。
「そんなに食ったら背ぇ伸びなくなるよ」
「へっへーん。オレってば絶賛成長期。そのうちカカシ先生も抜かしちゃうんだってばよ」
「どうだか。油断してるとちっちゃいままだよ」
「そんなことねぇもん!」
カカシが挑発すると、ナルトは簡単にムキになる。それが、面白くてカカシもわざとナルトが癪にさわる言い方をしているのだろう。ナルトに食って掛かられている上忍はこの上なく幸せそうだった。
「まぁ、まぁ、カカシさん。こいつの好き嫌いは今に始まったことじゃねぇんだし、それくらいで勘弁してやったらどうです?」
騒ぎ出した銀色と金色にシカマルがやんわりと割って入ると、「シカマルゥ…」ナルトが感動したように瞳を潤ませた。
シカマルが口出ししたのは、何もナルトを思いやってのことではない。やたらと目立つ外見の二人に人が集まり出したためだ。そうでなければ誰が犬も食わない類の喧嘩に口を挟むか、というところだったのだが、次にナルトが発した台詞で事件は勃発した。
「シカマル。おまえってばやっぱオレの大事な親友だってば。好きー!!」
「え、ナルトっ?」
「うわ、抱きつくなってナルト。いや、カカシさんこれはその……」
「…………」
「カカシさんっ?」
「……ナルトが浮気した」
「はい?」
「へ?」
「オレの前でナルトが浮気した」
ぐしゃっと、カカシの持っていたトマトが握り潰される。嫌な、勘違いをしている大人が一人。
「カカシ先生……?」
ナルトは驚いて、カカシの足元に視線を落とした。台無しになったトマトのせいで床はまるで殺人現場のようだった。
「何やってるんだってばよ先生。あーあ、これ買い取りじゃん」
「浮気なんて許さないからね!」
「は?」
今にも、泣きそうな表情でカカシがナルトの腕を引っ張った。
「別れてもやらないから!」
「な、何言ってるんだってばよカカシ先生」
「ナルトがシカマルを好きでも、オレの方が何倍もおまえのこと愛してるからね。ナルトを悦ばせてあげられるのも、満足させてあげれるのもオレだけだからね!」
「!?」
「大体ベッドの中でオレ以上にナルトを愛してあげれる男なんて――……」
「本当に何言ってるんだってばよーーー!!!」
カカシの言葉の意味を汲み取ったナルトは顔を真っ赤にさせて激怒した。


「カカシ先生。外でバカなこと言って騒ぐなってオレ、言ったよね。これで何度目っ?」
店内でこれ以上騒がれては堪らないとナルトはカカシの首根っこを引っ掴むとスーパーの外に引っ張り出した。
「1213回目です」
「相変わらず憎らしくなるほど素晴らしい記憶力だってば…」
数分後。腰に手を当てて激怒する16歳くらいの少年の足元で、正座する銀髪の男の姿があった。
「どうして頭は良いのに常識は身に付けてくれないんだってば?」
「…………」
「カカシ先生―っ?」
「謝らないよ。オレは悪くないもん」
「何が〝もん〟だってば。可愛い子ぶりっこしてもだめだってばよ!」
ちっとも可愛くないとナルトが言い捨てると、カカシが驚いたように目を見開いた。
「そんなに目を大きくしてもダメだってば!」
ナルトの言葉にカカシはしょぼんと項垂れる。
「カカシ先生に反省の色がないなら一ヶ月間、オレにさわるの禁止だから」
最終手段とばかりにナルトはカカシに重罰刑を与えた。どうだとばかりに腕を組んで、カカシを見下ろすと、カカシが見るも無残に蒼褪めている。
「そ、そんな一ヶ月もナルトにさわらなかったら死んじゃうよ。ナルトは、オレが死んでもいいの?」
ナルトの足下にカカシが縋り付いた。
「哀れっぽい声を出してもだめ。子犬みたいな目ぇしてもだめ。オレってば綱手ばぁちゃんにカカシ先生を甘やかさないように言われてるの」
「綱手様までオレの恋路を邪魔するのかっ。最近長期任務がやたらと多いと思ったらそういうこと?皆でオレのことを苛めて楽しいの!?」
「だーかーらー…。気色悪いこと、言うなってばよ!!」
酷い、大人の純情を弄ばれた、と騒ぎ出した上忍に周囲の注目が集まり出す。
「シカマル。オレってばとりあえず家で〝これ〟とカタをつけるから、ここで帰っていい?」
「ああ…。それは構わねぇけど………ナ、ナルト。早まるなよ?」
「大丈夫。カカシ先生って体力ねぇけどゴキブリ並みの生命力なの」


ぷんすか怒ったナルトを見て自分の分が悪いと気付いたカカシは途端にめそめそと泣き始めた。ナルトは、「ナルト~、ナルト~。ごめんねぇ」と両手で顔を覆ってる上忍と荷物を引きずって、ナルトは自分のアパートに辿り着く。
「あのさーカカシ先生、いつまで嘘泣きしてるつもり?」
「ナルトが許してくれるまで」
「そう。それじゃあ泣いてる限りオレってば怒ったままだから」
玄関の鍵を尻ポケットから取り出しながらナルトが言うと、「うっ、うっ、うっ」と震えていたカカシの肩がピタリと制止した。
「もう泣きマネは終わりだってば?」
「うん」
右目だけ晒した上忍がこちらを見上げていた。本当に優秀な涙腺だ。ついでに言えば要領も良くて頭が痛くなる。未だ正座をしているカカシをナルトは呆れた顔でカカシを見下ろしていたが、やがてくつりと喉の奥で笑った。
「カカシせんせぇ、上向いて?」
「?」
カカシが首を傾げた瞬間、ふっくらとした感触の熱が唇に押し当てられた。
「えっ。ナルト、キスしてくれるの?」
カカシはキスが嫌いではない。例えナルトがしたくなくても、してしまうほど好きだ。しかし、まさかこのタイミングでナルトからキスが貰えるとは思わずカカシは驚いてしまった。
「シカマルに嫉妬なんてして。バカな先生」
カカシの口布を人差し指で引き下ろし、ナルトはカカシの唇を啄む。かっこいい顔のくせに、どうしようもないへたれで、だけどそれに絆されてしまう自分は、結局カカシに弱いのだ。
「オレが、浮気するはずないだろ。そんなにオレって信用ない?」
「だって、ナルトは誰にでも好きって言うでしょ」
「そりゃ、皆好きだもん」
「ほら、やっぱり…」
ナルトの言葉にカカシはまたしょぼくれる。
「おまえは誰にでも懐くし、オレは心配だよ」
「…。確かにオレってばシカマルもキバもチョウジもサクラちゃんも好きだってば。もちろんサスケもそう。イルカ先生や綱手のバァちゃんも里のみんなが大好き」
カカシが悔しそうに、震え出す。しかし、先程のことを反省して賢明に何かを堪えているようだ。
「でも……」
ナルトはカカシの手を引っ張ると自宅の玄関の中に引き入れる。忍服の膝の部分を握り締めて取り乱すまいと耐えているカカシが愛しかったからだ。
「オレが愛しちゃってるのはカカシ先生だけだってば」
「!!」
「知らなかったの、カカシ先生?」
耳元で囁かれてカカシは首を振る。
「ナルト。おまえの気持ちをもっと言って。毎日、ちょーだい。でないとオレはおかしくなっちゃうんだよ」
「カカシ先生ってオレのこと好きだよな…?」
ナルトが上目遣い気味に大人の頬を撫ぜると、カカシが破顔した。
「キスして、ナルト。オレがシテもいいけど、おまえからちょうだい?」
カカシが訊ねるとナルトは薄っすらと頬を染めてカカシの首に腕を回した。
「カカシ先生って本当にしょうがない大人」
「ナルト中毒なんだよ。お願いだからオレから離れないでね」
まだ少しだけ泣きそうな声で告げられて、ナルトはしょうがねぇなぁとまた呟きながら、服を脱ぐのも煩わしいという仕草で、玄関先で自分を押し倒してくる銀髪の大人に身を委ねた。





 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
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自己紹介
名前    空気猫、または猫
職業    ノラ
趣味    散歩・ゴミ箱漁り
餌      カカナル
夢      集団行動
唄      椎名林檎
性質    人間未満

日記    猫日和

ある日、カカナルという名のブラックホールに迷いこむ。困ったことに抜け出せそうにない。
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