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空気猫

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―Wednesday night―

「オレたちの奢りだ。食えや」
ひっくひっく、涙を零しているナルトの前にドンブリが置かれる。一楽の座席に座っているのは、左から、ナルト、ゲンマ、ライドウだ。
「……早くしないと伸びるぜ?」
「うううう~」
ポタポタと大粒の涙がドンブリの中に入る。泣きながら、味噌味のラーメンを食べ始めたナルトの頭に、ゲンマの手がぽんっと置かれる。
「しょっぱいってば」
「そりゃな…」
苦笑して、ゲンマが横で酌を傾けているライドウに同意を求める。
「オレにふるな」
ガキの涙には弱いんだよ、とライドウがため息を吐く。ナルトは、そんなライドウの顔を見た後に、またじわりと目尻に涙を溜めた。
「うお……!?」
泣いた、泣かせた!?とライドウが椅子から転げ落ちんばかりにズザザザと仰け反り、「落ちつけや」とゲンマが楊枝を咥え直す。
「カカシせんせぇ、怒ってたってば」
「あー…。そうだな?」
「なんで急にいなくなっちゃったんだろう」
ゲンマとライドウはお互いにナルトから視線を逸らす。彼等はカカシがナルトの「好きな人」の話をナルト自身の口から聞いたために、不機嫌になったと知っていた。だが、それをこのお子様に告げて良いものだろうか。
担任からlike以上の思いを寄せられていることに気付いていないお子様は、単純に自分が何か失敗をして「また」カカシに嫌われたと思っているようだった。
「ほら、食えよ。好きなんだろ。ラーメン?」
「……カカシせんせぇと一楽食べたかったってば」
ナルトはしょんぼり肩を落とす。おいおい、奢りでそれを言われちゃあこっちの立場がねぇよ、とゲンマは、乾いた笑いを漏らした。
風の噂では、下忍のうずまきナルトに一目惚れした上忍のカカシが、傍迷惑な自分の恋を実らせるために部下であるナルトを追いかけ回しているという噂が流れていた。
これまでは、ゲンマ自身もはたけカカシの一方通行だと思っていた。しかし、今、自分の横に座るうずまきナルトの様子を見て、あながちはたけカカシの恋は一人相撲ではなかったのではないか?と思えてくる。
「うずまきは、カカシさんのことが好きなのか?」
「………っ」
ゲンマの言葉に、ぶわっと、碧い瞳から涙が溢れ出す。ナルトの想い人は、以前に里人に暴行されている時に助けてくれた男の人。カカシではない。
だけど、演習の時カカシに頭を撫ぜてもらえないと哀しくて、カカシに拒絶されると、胸が絞られるように痛かった。
ナルト自身も担当上忍に対して芽生えた想いに戸惑いを隠せないでいた。
「オレ…っ。その…っ。わ、わからな…っ。ふぇ…」
「あー…。すまん」
とりあえず食え、とゲンマは気不味い顔で、視線をそらして、ぽふぽふとひよこ頭を撫でる。
大きなドンブリを前にすると一層ナルトの小ささが目立つ。足をぶらぶらさせて、目とほっぺを真っ赤にさせながら、ラーメンを頬張るナルトはさながら小動物のようで、見降ろすゲンマの表情が緩む。
そんな視線を余所に、箸を進めていたナルトは、麺を飲み込んだあと伺うようにゲンマとライドウを見上げた。
「ゲンマさん、ライドウのおっちゃんありがとうってば…」
「まぁ、あのまま放っておけなかったしな。成り行きだ」
「誰がおっちゃんだ!」
二人の声が重なって、きょとんとしたナルトは一拍おいてニヘヘと笑う。
その笑顔が余りに綺麗だったので、ゲンマとライドウはしばらく固まる。
「こりゃ、カカシさんが嫉妬の鬼になる気持ちがわかるな」
「……ああ」
実際、人生色々で泣いていたお子様をあのまま放っておくのは如何なものかと子供が好きだと噂のラーメン屋へと連れ出した二人なのだが、それはナルトが人生色々であまりに目立っていたためだ。
別にそういった趣味の人ではなくても、ぐらりとグラつく何かを、子供は持っていた。ゲンマが目に見えない吸引力に引き寄せられて、ふわふわの金糸を弄んでいると、
「おい、ゲンマ」
「ん、なんだ?」
「もう止めとけ…」
「?――……っと」
ライドウに肩を突かれて、振り向いた先には、銀色の上忍がいた。
「カカシせんせぇ……!?」
次の瞬間、ナルトがお姫さま抱っこでカカシに抱き上げられる。いつもは無臭のカカシの忍服から煙草の匂いが香って、抱き締められた腕の強さにナルトの涙が引っ込んだ。
「オレの生徒と、何してたの…?」
「何って普通にメシ食ってただけっすよ」
「それにしては随分、ベタベタさわってたみたいだけど?」
露骨に牽制をかけてくる上忍の殺気に、ゲンマとライドウの背中に嫌な冷や汗が伝った。しかしその時、
「…せんせぇ?」
カカシの腕の中で、もぞもぞとナルトが身じろぎする。
「ナルト。ごめんね、また潰しちゃった?」
それだけで上忍の纏う空気が柔らかくなって、この上忍のわかりやすさにゲンマとライドウは呆れ果てた。
「あれぇ…?」
カカシの間の抜けた声。
「ナルト、どうして泣いてるの」
「ふぇ」
涙のあとが残っていた目尻をカカシの親指でそっと拭われる。
「もしかして、あいつらに泣かされた?」
鋭い視線が特別上忍コンビに向けられる。ぶんぶん、と慌ててナルトが首を振った。
「ちがうってば!」
「ちがうの?」
「お、おう」
「それじゃぁ、なんで泣いてるの?」
「それはそのっ。オレってばカカシ先生と……」
「オレと?」
「カ、カカシ先生と…」
「なぁに?」
ぽっとナルトの目元が赤く染まり、子供はカカシの忍服を掴んでそこにそっと顔を埋めた。
「カカシ先生と一緒に一楽行きたくて。でも先生に嫌われるのが怖くて、オレってば勇気なくて誘えなかったから…」
「え」
「カカシ先生と一緒に、一楽に行きたかったのに」
すん、とナルトは鼻を啜る。本当は言いたかったことはそれだけではないのに、ナルトはそこで黙り込んだ。何かを言ってカカシに嫌われたらと思うと、これ以上喋れなかった。
「そっか。オレのせいか…」
カカシが息を吐いて、ナルトの頭を撫でる。優しい声で言われたら堪らなくて、「……カカシせんせぇのせいだってば」とナルトはぎゅっとカカシの首に抱き付いた。
「あの、カカシさん。この後オレたちが、うずまきを家まで送ってく予定だったんすけど」
「ふうん、ご苦労さま。でも、もう用無しだね。ナルトはオレが家まで送ってくよ」
ゲンマが横から喋りかけるが、間発いれずナルトを抱えたままカカシの気配が消える。
「……割り込みかよ」
「こえぇぇ」
お互いに顔を見合わせた特別上忍コンビが、最重要危険人物にうずまきナルトが「お持ち帰り」されたことに気付くのは、その数秒後の話。











 
 
 
 
 
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空気猫取扱説明書概要
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自己紹介
名前    空気猫、または猫
職業    ノラ
趣味    散歩・ゴミ箱漁り
餌      カカナル
夢      集団行動
唄      椎名林檎
性質    人間未満

日記    猫日和

ある日、カカナルという名のブラックホールに迷いこむ。困ったことに抜け出せそうにない。
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