空気猫
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雑木林の中。大人の手から逃れた子供は息を切らして全力疾走。なんで、なんで。初日から不可解な大人の行動。ナルトには理解できない、否、理解を拒む存在。「きらいだ!」と言われた時、ああやっぱりと思った。嫌われることには慣れている。この大人も同じ。納得した。だけど「きらいだ!」と言ったくせに、自分の頭の上で優しく弾んだ手。信じてもいいのかわからない。裏切られるのは怖いから。憎しみを向けられるのはわかる。けどその逆は?人の優しさに臆病な子供はそのすべを知らない。
火照った頬の熱さも、息切れ以外で速まる動悸も、子供には全部初めてのことで、それがとても怖い。だから今はただ蓋をして見ないふり。
「イルカせんせー!!」
演習場を抜けると見慣れた背格好の大人が立っていた。ナルトはそのままイルカの懐に猪突猛進。
「お、どうした。今日はやけに元気がいいなぁ」
「っだってさ、だってさ。イルカ先生と会うの久しぶりだってばよ!」
「そういえばそうだな」
ははは、と笑いながらもイルカは金色の子供を抱きとめる。
「おまえ、ちょっとでかくなったんじゃねーか?」
「え、マジで!?」
「はは、まあ一週間かそこらでそんなに変るわけないけどなー」
「む。そんなことないってば、オレってば日々せいちょーなんだってば!」
「お、言うようになったじゃないか。そうだなぁ、もうおまえも立派な木の葉の忍だもんな。どうだ、上忍師の先生の言うことをきいてちゃんとやってるか?」
イルカの何気ない言葉にとたんナルトの身体がびくんを強張った。
「……ナルト?」
イルカは顔を曇らせる。
「――どうした、なにかあったのか?」
優しく問いかければきゅううと己の腹に抱きついてくる子供。甘えたようなそれ。イルカは首を傾げ、ナルトの行動と自分の発言を振り返る。元気過ぎた態度。「上忍師の先生」という単語に反応した子供。
まさか下忍指導の教官と何か諍いでも起こしたのだろうか。イタズラ小僧だという他にもこの子には九尾のこともあって。担当官の年齢を考えれば九尾事件の当事者の世代だ。
三代目が選別した担当官に不備があるとは思えないが、不当な扱いを受けてやしないかとイルカは不安になった。
「ナルト…、おめぇ」
「んでもねってば」
顔を埋めて離れようとしない子供の頭をわしゃわしゃと撫れば、すねたような駄々っ子の口調。なんでもないわけないだろーが、と思わないでもなかったが無理矢理聞こうとしたって頑固な子供のことだから、絶対に口を割らない違いない。だから、自分にできることはただこの子が話してくれるのを待つだけだ。自分は、甘えべたな子供が唯一、弱味をみせてくれる存在だから。
「仕方ない奴だなァ」
イルカはぽんぽんとナルトの背中を叩く。
「よぉし今日は特別に好きなもん注文していーぞ」
「んあ?」
「なんだぁ、うれしくねーのか?」
「う、ううん!うれしいってばっ。イルカ先生、どうしたんだってば。今日ってばもしかして給料日ィ?」
「ばっか。そーじゃなくておまえがなぁ…」
ぱっくり金魚のように口を開けている子供の顔を見下ろしてイルカは次の言葉を飲み込んだ。
「んなに大口開けてるほどうれしいのか、そうかそうか!」
明るい声を出して、ガシガシ金糸を乱暴に掻き回すと、腕の下の子供は途端にもじもじと上目遣いで「……大盛りいいってば?」と小さく呟いた。服の袖をきゅっと握った子供にイルカは苦笑する。
「おう、男に二言はない!」
「おかわりも?」
「しょうがない奴だなぁ」
「やった――!」
イルカせんせー大好きー!!ナルトはイルカの首根っこに飛びつく。小隕石の突撃を中忍の意地で受け止めたイルカはよしよしと元生徒を抱き抱える。
ナルトはイルカの背中越しに今、自分が走ってきた道を見つめる。瞼の奥で銀色の尾っぽが霞んだ気がしたけど、振り払うように首を振る。芽生えた想いに子供が気付くのはもう少し先のこと。
「どうしたナルト?」
「んでもねー」
「おめぇ、今日はそればっかだなぁ」
イルカにまたくしゃくしゃ頭を撫ぜられてナルトは思った、あの手はもっと熱くて、壊れ物のように自分にそっとふれた気がすると。じんわりと侵食するように沁み込む存在。
「おーい、ナルト。オレは別にいいけどよォ、おめぇいつまでオレにひっついてるつもりだ?」
「んーもうちょっとだけ~」
「しょーがねぇなあ、森を抜けるまでだぞォ?それからはちゃんとひとりで歩けるんだろ?」
「ん~…」
「寝てもいいけどちゃんと起きろよー」
「イルカせんせー、大好きィ…」
この場所はあたたかくて何より安心する。だけど、このチリリと焦げ付くような熱の正体はいったいなあに?
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職業 ノラ
趣味 散歩・ゴミ箱漁り
餌 カカナル
夢 集団行動
唄 椎名林檎
性質 人間未満
日記 猫日和
ある日、カカナルという名のブラックホールに迷いこむ。困ったことに抜け出せそうにない。