失踪ディズ後日談
喫茶店に呼び出されたうみのイルカは、困ったなぁと頭を掻いていた。向かい合った席には銀髪のサラリーマン風の男と、ここ数日、学校を無断欠席していた金髪の教え子。
「つまり、高校は続けたい。しかし、保証人の問題をクリアしなければいけない」
「オレが授業に出てるってバレたら連れ戻されちゃうってばよ。なんとか秘密で通わせて貰うことってできないってば?」
「ナールト?落ち着きなさいって」
結構無理めなことを頼み込むナルトにカカシがぽふんと金色の頭に手を置きつつ、やんわりと制する。
「とりあえずここ一週間で起こった出来事を順にお話します」
教え子の「恋人」だと堂々と名乗った男にイルカは「はぁ・・・」と生返事を返す。ナルトおまえどこで、んなデカいカレシ見つけて来たんだと突っ込みたくなる気持ちを堪えつつ、
「学校は公共機関だからなぁ・・・おまえは未成年だし、親御さんに連絡しないわけには・・・」
と最初は渋っていたイルカもカカシとナルトの説明を聞いていくうちに顔を曇らせていく。
「イルカ先生にしか頼めないんだってばよ!」
ぱん!とナルトが手を合わせる。
「端的に言えば、ナルトに限り法外的で柔軟な処置をして頂きたいんです。ま、一時的にですが」
つまり自分に共犯者になれということか。強引な人だなぁと、思うものの自分だって教職をとった人間だ。学ぶ意欲のある人間を追い出すことはしたくない。
「―――わかった。今週の会議でおまえのことを話し合ってみよう。どうなるかはわからないが、本人に学びたい意思があるってことは強味だな。学校側としてはそういう意見を無視するわけにはいかないからな」
イルカはそこで斜め向かいに座っているカカシと向き合う。
「抜け道でカカシさんに保証人になってもらう手もあります。保証人の条件は〝返済能力のある大人〟ですから」
「ま、そのつもりです」
カカシが肩を竦める。とりあえずナルトには内密にあの両親と「穏便で長いお話し合い」が必要だなと心構えつつ。
上手く養育権を辞任してもらわなくては困る。意地でもぶんどる自信はあるのだけど。
「イルカ先生、迷惑掛けてごめんってばよ」
「オレもおめーにはちゃんと卒業してもらいたいしな」
「!!!・・・・イルカ先生だいすきだってばぁああ!」
「ナルト、わざわざ飛びつかなくていいから、ね?」
ナルトの首根っこをしっかり捕まえたカカシはニコニコと笑っていたが、顔が怖かった。またひとり味方が増え、カカシとナルトの未来は明るい?
コンビニの袋を片手に犬塚キバは塔のように聳え立つマンションを見上げる。
「でけー・・・・・・」
若干、引き腰になりつつ、キバは意を決してつるつるピカピカの大理石の玄関をくぐる。
「キバ、ひさしぶりだってば!!」
マンションの一番上の、角から二番目の部屋。インターホンを押すと、名前を名乗る前に、金色が飛び出してきた。
「入れ入れってば」
「おまえ、なんかもうここに馴染んでんな。邪魔するぜ」
大きめのパーカーを羽織ったナルトの姿にキバは声には出さないまでもカルチャーショックを受ける。そのうえ、白い素足がぺたぺたとフローリングの床をなんだか思わず目を逸らしてしまう感じで、色っぽく揺れていた。
なんで同性なのにこっ恥ずかしいんだよ。
それは貴方が新婚さんの新居に来てしまったから・・・とこっそり耳元で囁いてくれる訳知り顔の誰かがいるわけはなく、キバは見てはいけない現場を見てしまった気分で、
「これは差し入れ」
とぶっきらぼうに適当に見繕ったカップ麺とか甘味を渡す。
まぁ経済力がある大人のようなので、食べ物には困っていないようだが。
「あと頼まれた買い物。適当に服、買ってきたぜ」
「キバ、愛してるぅぅぅ!!」
がばぁとナルトに抱きつかれ、今度こそキバは赤面する。
「バ、バカ抱きつくな。あつっくるしいだろ!?」
首に巻きついてくる金髪碧眼の友人を無理矢理引き剥がしつつ、キバの背中にいやな汗が伝う。ソファーに頬杖をついて腰掛けている銀髪の男から物凄い殺気がガンガン突き刺さってくるのだ。
この余計なことしやがってのオーラはなんだ!?
こ、こえぇえええ。
「いつまでもカカシ先生の服ばっか借りてちゃわりーだろぉ。先生のって大きいしさぁ」
なんてニコニコと暢気に笑うナルトにキバは引き攣った生ぬるい笑みを浮かべた。恋人と変人って字はよく似てるよなぁと国語の時間に常々思っていた記憶がフラッシュバックして、ナルト、おまえの男は間違いなくマニアックな趣味の変態だぞと注意を促したくなるものの、口元に笑みを称えたままの大人の無言の圧力に犬塚キバあっさり降伏。
―――わりぃ、ナルト。オレはまだ命が惜しいぜ。
心の中で、パン!と手を合わせて何も知らないでいる金髪碧眼の友人にこっそり頭を下げるキバ。いたいけにメェメェ鳴く子羊を手練手管な狡賢い狼に差し出す羊飼いの気分である。たとえではあるが。
幸い、はたけカカシの執着心は今現在のところナルトに危害を与えるような種類ではないようだ。ナルトの心は完全に彼のものであるのだから。ナルトが彼から離れていかない限り、執着から来る凶暴な牙が向けられることはないだろう。
今、ナルトを見る彼の目は慈しみに満ちていた。本当に、愛しくて堪らないというようなとけきった微笑だった。そして・・・
「キバ、これから俺んちはここな?オレが家に帰るって行ったらここのことだから」
やけにきっぱりとだけど否を許さない笑顔で言い切られた言葉をキバは複雑な気持ちで聞く。ナルトに、この人から離れる意思がまったくないのなら、これだけ思われることはある意味、彼にとってしあわせなのかもしれない。キバは窓辺に置かれている観葉植物に目を向ける。ナルトが唯一あの「家」だったところから持ち出したそれ。しおれていた葉はいまや日光を受けて青々としている。
あの植物のように、枯れかけていたナルトに愛情をたっぷりと与えてくれたのが、あそこのソファーで暢気に寝ころがっている大人だとしたら、オレはきっと何も言えない。
「あー、はいはい了解しましたっつーの。おまえ一度言い出したらきかねぇからな。しかたねぇから最後まで付き合ってやらぁ―――面白そうだしな」
最後に不謹慎な本音をちょっろと混ぜてニィーと笑えば、さすがは悪戯仲間で有名な相棒のこと同じような笑みでニィーと笑ってくる。人間、どんな時も遊び心は忘れてはいけないのである。
「おまえたち仲いいねぇ・・・・ちょっと妬けちゃうよ」
呆れ半分、疎外感からの嫉妬半分でソファーの大人が、読んでいた本を放り投げて、のしっとナルトの肩に覆いかぶさる。
「俺らの仲間内は大体こんなんっすよ?」
凄い嫉妬屋だ、と思いつつキバは苦笑する。半眼の大人に降参のポーズを取るキバを、ナルトはきょとんとした顔で見つめている。
変なところは鋭いくせにこう言った方面に「ミラクル」がつくほど疎い少年にカカシは、まぁそんなとこも可愛いんだけどさと思わないでもなかったけれど、この少年を好きになればなるほど、腕の中に閉じ込めてしまいたくなる衝動の制御が困難になる自分に驚いてしまう。
「はたけさん、心配しなくてもオレ、他に好きな子いるんで」
「なにいってんのキバ?」
ナルトは不思議そうにキバを見つめる。
高校に入ってから出来たナルトの数少ない友達。ナルトにとってはやっとできた、と言ってもいい友人なのだ。傍目から見ても、ナルトが交友関係を大事にしているのはわかる。家族とのコミュニケーションが円滑でなかったぶん、本来は家族に向けるはずの注意や関心が友人に注がれるのだ。
ナルトから友達を奪うことはできない。なぜならそれをやれば自分もかつてナルトが育った場所の住民と同じになるからだ。
「ああ、そうだ。忘れてた。おまえの身分証だろ、判子だろ、通帳、国保・・・まぁその他いろいろ持ってきた」
「・・・・キバ、これどうやってとってきたんだってばよ」
「・・・・・・ははは。聞きてぇ?いっとくけどここでバラしたらオレが警察に捕まる」
「キバァ・・・」
「もともとおまえのだし。まぁ国保がねぇといざ病気した時につれぇらしいからな。他の保険に入るって手もあるけど・・・あ、これはシカマルが言ってたんだけどな。オレはこーいう小難しいことさっぱりわかんねぇわ。まぁ、あっちの人たちと話つけるまではこれでなんとか乗り切れるんぢゃね?」
キバがちろりと大人に視線を向けると、大人が心得たように頷いている。
「もう元おまえんちの近所うろつけねぇよ。見つかったら確実に抹殺されるぜオレ」
まぁ、ものを多少持ち出したところで、気付きもしない荒れようの家内だったけれど。
「キバくんはナルトに協力してて大丈夫なのかい?」
「ああ、平気っすよーうちは母ちゃんもこいつの味方なんで。それに一応ダチなんで」
ケラケラとキバが笑う。そのあとぼそっと「それにどーせオレら前科もんだしな・・・」と乾いた笑みを浮かべて、ナルトも同じように視線を逸らしつつ、へへへと怪しーく笑う。「暴れん坊だったってばよ、あの頃は~」なんて言って警察の事情聴取とか仕組みにやけに詳しい語りが入り、カカシはティーンズの謎に満ちた過去に、おいおいと思うものの、まあ本人たちがふれられたくなさそうだったので放っておくことにする。もちろんあとからナルトにはベッドの中で個人的な事情聴取をしてやるつもりだけど。
「ナールト、キスしたくなっちゃった。はい、キスターイム」
「ちょ、先生!?キバの前だってばよ!?」
「あ、オレ目ェ瞑ってるんでお好きにどうぞ」
「キバァてめぇ裏切り者!!!うぎゃあああああ」
「ちょっとおかしいけど、はたけさんって案外、普通なのな」
ちょっとおかしいけど、と感想を漏らす辺りがキバの正直なところである。そしてサイフォンでコーヒーを淹れているカカシに聞こえない程度に、こそっと尋ねる。
「・・・・ナルト。おまえさ、しあわせか?」
「?」
「たしかにおまえんちはぶっ壊れていたと思う。だけど、いろんな縁を切ってあの人を選んでしあわせか?」
だって自分が知る限り、友人のうずまきナルトはノーマルな人間であったはずだからだ。そう、正しく少年であったはずの友人が、何をどう転んで、男と、その・・・抱いたり抱かれたりの関係になっているのか。
やっぱもうヤラれてるんだろーなぁと結構即物的なことを思いつつ、どうにも男の自分には想像のつかない領域だ。
大きめのパーカーから覗く、首筋の赤い痕。わざと見せつけるような際どい位置につけられたそれ。玄関で喋っていた時からキバの目の端にちらちらうつって離れなかったものであったりもする。
ナルトは気付いていないだろうが、つけた本人は確信犯であったはずだ。ナルトの話しでは、ナルトを恋人にするまでは、そっちの気がなかった人らしいのだが。
所有印を刻み主張するほど、自分の恋人だと、言いたいのか。
きっと今、ナルトの身体にはたくさんの赤い痕が散らばっているのだろう。きょとんとする友人が色めいた姿になるなんて、ちょっと信じられないけど。
何も知らない顔しやがってぇとキバは訳もなくナルトの頭を小突く。突然の友人の暴力に、いってぇってば、とナルトが抗議の声を上げつつ唇を尖らしたのだけど、やがて花が咲くようにふっと柔らかく笑った。
「オレってばここにいたらすげーぐっすり眠れるの・・・・」
「?」
しあわせだってば、とナルトは碧い瞳を細める。
「あの家にいた時、オレってばなにもやる気が起きなかった。どうせここから抜け出せないんだ。誰も助けてくれないんだ。もうどうでもいいって思ってた」
「・・・・ナルト」
何かを言いかけたキバをナルトが待ってとでもいうように遮る。
「今は、朝起きるのが毎日たのしみだってば・・・」
「・・・・・・・」
「いろんなことをがんばりたい。少しずつ」
「そっか・・・」
「そうだってばよ」
玄関までの見送りでいいと断ったのに、なぜかずるずるとマンションの下まで見送りに来た二人にキバは手を振って去ろうとしたが、外に繋いでおいた赤丸が見知ったナルトの姿を嗅ぎつけてきゃんきゃんと吠えている。
「赤丸、久し振りってば!」
犬好きのナルトが赤丸を抱き上げて、顔を綻ばせる。
「ニシシ、くすぐったいってばよぉ、赤丸」
赤丸もナルトに懐いている。ぺろぺろとナルトの頬を舐めて、しっぽを振る赤丸。まるで二匹の犬っころがじゃれあうようなほのぼのとした光景にキバが苦笑していると、ぬーと大きな手が赤丸を取り上げた。
「あ、カカシ先生ってばなにするんだってば?」
「キバくんが待っているでしょ?はい、キバくん。きみの犬」
ちょんとナルトの唇が赤丸とくっついたところで、赤丸がキバに素早く手渡される。表面上はニッコリと笑っている大人にキバは背筋を正しつつ、赤丸を受け取る。
受け取る時の手がちょっとだけ震えたのは、男キバ一生の秘密である。赤丸を抱き締めて、今度この人と会う時は赤丸が犬鍋にされないように気をつけなくてはと心に決める。
「キバ、また来てくれってばよ。もうちょっと落ち着いたらまた学校に行くことになると思うけどさ」
「りょーかい。オレもおめーがクラスにいねぇとチョーシでねぇし」
ぱしんと手を叩き合って、んぢゃあと今度こそキバが去ろうとすると、後ろから思わぬ声を掛けられた。
「キバくん」
「え?ああ、なんっすか?」
まさか赤丸を犬鍋に渡せと?と若干ありえない妄想をしつつ振り返ると、微笑する大人がそこにいた。
「オレからもお願い。また来てやってね」
お騒がせしましたと、大人が少年の頭に手をやって二人でぺこりと頭を下げる。
「ははは・・・」
もう完璧に夫婦ぢゃんと、キバは乾いたように笑って、
いやーダチの旦那がしっかりした男でよかったわともはや悟りモードである。このさい、同性だとかいうのは小さい問題なのかもしれない。ま、オレも回りもんなこと気にする方ぢゃねぇし、と結論に辿り着いて、とりあえず、尻ポケットから携帯を取り出し、着暦から友人の番号を発信する。2,3回のコールのあと、面度臭そうな声が電話口に出た。
「あー、シカマル?オレだけど。ナルトのことだけどちょっと協力たのめねぇ?この間、言ってたなんだっけ、シンケンソーシツなんたらって話だけどさぁ・・・・?」
こんなふうにちょっとずつ味方を増やしていけば、祝福の鐘がなる日も近くて、はたけカカシがナルトの出身地(もうあそこはオレの家ではないのでとナルト談)のとこに「穏便で平和的な話し合い」を成功させて帰ってくるのはそれから一週間後の話。はたけカカシ本人は「快く快諾してくれたよ?」とけろりと言い放ったが、その笑顔が結構黒かったとかなんとか。キバくんの睨みでは恐喝まがいに脅したにちがいないとのこと。
さらに翌週には、ナルトは無事に学校に復帰。その時にはなぜかナルトの旦那は絶対怒らすなと噂が立っていて、ナルトが顔を赤くさせたこと。キバが悪戯を成功させた顔で舌を出したこと。
シンケンなんたらの法律に関しては大人に話すとこの紙のこと?とあっさり重要書類を見せられて、ティーンズがまぢかよ!!と声を揃えるのはその翌日。
はたけカカシ、ぼーとしているようでなかなか仕事の早い男であった。
うずまきナルトがすったもんだの末、はたけの性を名乗ってしまうのはその半年後のこと。
キバくんがマイブーム。そして甘くしとけ!と誰かから指令が来た気がする。
よしきた。
なのでおまけ↓
マンションの一番上の、角から二番目の部屋。はたけカカシが、鍵を開けて玄関に入ろうとすると、うしろからふわりと目を覆われた。
「だーれだってば?」
シシシ、と悪戯っぽい声。カカシは自分よりも体温の高い手に自分の手を絡め、ちゅっと手の平にキスを落として、振り返ると爪先立ちの少年。
「今、帰り?」
「ん。カカシ先生ってばおかえりなさい!」
「ただいま。ナルトもおかえり」
「ただいまってば!」
じゃれあうようにキスを落としあいながら、玄関のドアが閉まる。
掃除と洗濯はナルトが引き受けている。カカシは断ったのだけど、オレがやりてーのと言われたら苦笑するしかなくて。新妻をもらったような気分になってしまったのはナルトには内緒。
ご飯は家に早く帰ってきた方がつくる決まり。一緒の時は二人で。お風呂はナルトが恥ずかしがるのでまだ別々。―――夜は同じベッドの中。
「会社の連中がおまえのことみたいって」
「へ?なんでぇ?」
ベットの中でうつぶせになったナルトが横で本のページを捲る大人を仰ぎ見る。さらさらと素肌にふれるシーツの感触が心地良い。スタンドライトの灯りだけに照らされている部屋。情交のあと特有の気だるいようなまどろむような空気。
同じく何も衣服を身に付けていないカカシは、ナルトの髪の毛を飽きることなくもてあそびながら、ふふふと首を傾ける。
「オレの美人の奥さんをみたいらしーよ?」
「はぁ!?」
ナルトはガバと起き上がって「イテテ」と悶絶する。カカシはそんなナルトの様子に苦笑していたわるように、腰の辺りを撫ぜてやる。
「どーする?飲み会という名の強制連行行事に巻き込まれてみる?」
「なんだってばそれぇ。変なネーミング。つか、オレってば男だけどいいの?先生、変な目で見られねぇ?」
それにまだガキだしとぼそぼそと呟くナルト。
「んー、ていうかおまえみせろってかなりうるさい」
「・・・・・なんでってば?」
「基本がおまつり体質の人たちだからねぇ・・・・面白がっちゃって」
「?」
「オレがおまえに骨抜きのメロメロになってんのが、おっかしいんだって」
「・・・・・・・なってねぇぢゃんカカシ先生。余裕ぢゃん、いつも」
「なってるよ~、もうね離したくないくらい」
嘘くせーとナルトはむくれてみるも、膨れた頬を突かれて、キスを落とされる。ちょっとの抵抗はやんわりとねじ伏せられて、うつぶせになっていた身体をカカシの方に引き寄せられる。
カカシの腕の中で暴れて、軽く腕に歯を立てると、「こーら」と髪の毛をくしゃくしゃにされて抱きすくめられる。
「噛まないの」
「シシシ。痛かったってば?」
「くすぐったいでしょ?」
読んでいた本をぱたんと閉じて、カカシは細い少年の肢体に覆い被さる。滑るように愛撫が首筋から下に落ちていって、ナルトは吐息を漏らす。
「カカシせんせぇ・・・・・・またスルの?」
「シタいな・・・・いや?」
「いやぢゃねぇけど・・・電気消して?」
恥ずかしいってばよ、と視線を逸らすナルトに、カカシがくくくと笑って、スタンドライトのスイッチに手を伸ばす。
「明日の朝ごはんはスクランブルエッグだってばよー」
「またか。おまえ、早くオムレツとかもつくれるようになりなさいね」
「シシシ。カカシ先生がつくってくれてもいーんだってばよー?」
「んー、それはおまえの今晩のがんばりしだいかな?」
「うわ。カカシせんせぇ、ひっでぇの!」
言って、ナルトはカカシの首に腕を絡める。ちゅっと唇をくっつけ合わせて挑発するようにニィーと笑めば大人が破顔して、少年の細い身体を抱き寄せた。夜の帳にクスクス笑いあう声が溶けて、あとはただ睦言と愛の囁きだけが寝室を満たした。