失踪ディズ 番外編3
「はたけさん聞いて。旦那が浮気したのよォ。シャツの裏に口紅の痕がべったり」
「あーらら」
「普通シャツの襟元の裏になんか口紅なんてつかないでしょ?最近、やたら携帯を気にしてるし、なーんか怪しかったのよねぇ」
声を顰めてカカシ相手に昼ドラチックなことを語り出した美人なお姉さん。
「風俗嬢の営業メールぢゃないですかぁ?」
若い感じの後輩女性社員が首を傾げる。そんな彼女。学生時代は、風俗系アルバイトでがんがん稼いでいたことはもちろん秘密なのである。
「それがね……ああここからは18禁だわぁ残念」
カカシの隣に座るナルトをみてウィンクひとつ飛ばして言葉を切る。普段カカシに18禁なことをされていますだなんて言えるはずもなく、ナルトはわけもなく真っ赤な顔で膝に視線を落とす。
「ふふふ、まだ泳がせてやるの。‘誰とメールしてるの?’って聞いた時の旦那の顔ったら」
こんな面白いこと滅多にないぢゃない!!と女がケラケラと笑い始めた。
「もう少し遊んであげてから吊るし上げてブランド品のバック買わせてやるわ」
スーパーポジティブだってばよ、お姉さん。浮気されたと泣き叫ぶ人もいると思えば、怒りまくる人、彼女のようにその状況ごと楽しんでしまう人もいて、本当に世の中にはいろんな人がいると思ったナルトであった。
深夜を過ぎても飲み会はお開きとはならなかった。ナルトは会社の同僚と軽口を叩くカカシを不思議な気持ちで見ていた。
こうして見ているとカカシがいかに普通の男性であったかよくわかる。普通の恋愛をして、普通のお付き合いをして、普通に結婚できる人・・・だったのだろうと。
その未来を自分が摘み取ってしまったのかと良心がチクリと咎めたけれど、それでも傍にいたいと思う。
オレってばすげー我儘。
カカシが聞いたら小躍りしそうなこともナルトにはまだ初めての経験で、まだ少しだけ戸惑ってしまう。
「ナルト、ちょっと席外すけど平気?」
「え」
さらりと髪の毛を撫でられて、ナルトはハッと顔を上げる。「うん」と咄嗟に返答してしまったものの、隣のカカシがいなくなると、途端に寄る辺を失ったように不安になった。
オレってばいつだって一人でも平気だったのに。
集団の中に取り残されて改めて気付いたこと。他の大人もナルトに優しくしてくれたけど、カカシと一緒にいると甘く痺れるような気持ちになること。
どうしてカカシを恋人に選んだのだろうと何度も自問自答した。他の人間でも良かったのではないかと。それほど、二人の出会いは突然で、過ごした時間はまだ僅かだったから。
あの状況から救い出してくれたのはたしかにカカシ。アーケードで蹲っているナルトに声を掛けてくれた日から、カカシはもうすでにナルトの特別な存在だったけど、それだけで好きになったかと言われれば、答えはノー。手を離さないで連れ出してくれたのはカカシには感謝している。だけどそれ以上に、あの日以来、ずっと空気のように寄り添ってくれる大人に、ナルトは・・・
(大好きってば・・・)
一緒に暮らしていて、これほど気持ちが安らかになる人がいるなんて、知らなかった。
それが家族なんだよとカカシはナルトに教えようとしているのだけど。
「かんぱーい!」
またどこかで上がる歓声。カカシ先生早く帰って来ないかなとコップを握って、忠犬よろしく大人の消えた襖をちろちろ見ていると、
「大丈夫よ、そんなに不安そうな顔しなくてもカカシならすぐ帰ってくるわよ?」
唐突に掛けられた声にナルトは驚く。飲み会の前にカカシと親しげに喋っていた人だ。
紅さん。カカシに視線を流して意味ありげに笑っている姿に心臓がひとつ跳ねたのを覚えている。ぼそぼそと話していて何を喋っているのかわからなかったけど、カカシと彼女が談笑している姿にやたらとドキドキした。そんな感情もナルトにとっては初めてだった。
「ふふふ。〝カカシ先生早く帰ってきてー〟って顔してる」
図星をさされてナルトは赤くなる。
「本当に可愛い反応なのねぇ。そんな調子だとちょっと心配だわ」
「え?」
「同性同士の恋愛って大変よ。とくにあなたはまだ若いでしょう?」
女の人特有の細長い手に髪の毛を撫でられる。
「それにカカシに流されていないか心配だわ。住処を提供してくれてるからって無理にカカシと付き合う必要なんてないのよ?」
もっともな紅の言葉にナルトはこくりと喉を鳴らす。自分を心配して言ってくれているのだとよくわかる。初めて会った人なのに、わざわざ不興を買うようなことを言ってまで、ナルトに忠告してくれてるのだから。
「オレがカカシ先生を利用してるって思うってば・・・?」
「そんなこといってないわ。ごめんなさい、言葉が悪かったわね――――泣きそうな顔しないで?」
「・・・・・ううん。きっと当たり前の意見だと思うってば」
そう。ずっと不安だった。自分とカカシの関係をそういうふうに言われてしまうのではないかと。そしてもしかしたら自分もカカシを都合の良い様に利用しているのではないかと。
だけど今は、
「・・・・・・好き」
「え?」
「オレってばカカシ先生のこと、すげー好き」
大好き。
「オレってば、自分の意思でカカシ先生の傍にいるんだってば」
ニシシと笑った少年に紅が顔を赤くする。
「やだ。カカシの奴。どこがオレばっかり好きな気がする・・・よ」
ちゃんと愛されてるぢゃない、と呟いた紅の言葉にナルトは首を傾げたのだけど。
店の方に延滞プランを相談しにいったカカシが居酒屋特有の狭い廊下を歩いてると、ぽすんと金色の塊が突進して来た。
「ナルト、どうしたの?」
「カカシ先生おせーんだもん」
拗ねたようにカカシの襟元に顔を埋めるナルト。
「カカシ先生迎えにいけって紅さんに追い出された」
「なんで紅?」
「人さまの恋路を邪魔して馬に蹴られたくねーからだって。だからカカシ先生にお詫び?どーいうこと?」
「いや、直接聞いてたおまえがわからないならオレもわからないよ」
図らずもナルトと二人っきりの状況になってカカシの手が自然とナルトの腰に回る。ふわふわのひよこ頭に顎をのせて和んでいると、腕の中のナルトが熱心にカカシの襟元の裏を指で引っ張って覗いている。
「なにしてんの、おまえ?」
さきほど話題にのぼった浮気チェックみたいなことをするナルトにカカシがくすくすと笑いを漏らす。そんなカカシにナルトは半眼で片頬を膨らませる。
「―――だってさ、だってさ、オレってばなんか不安なんだもん。カカシ先生ってやっぱモテるんだってばね」
「ん?」
「カカシ先生の会社の女の人って綺麗で明るい人ばっかだってば」
普段のぱきぱきしたナルトらしくない歯切れの悪い口調にカカシは首を傾げる。
「カカシ先生ってばお姉さんたちに人気だってばよ」
いやそれはおまえでしょ?と思わないでもなかったがカカシはそこで唇を尖らせてむくれている少年をおや?と見下ろす。
「おまえもしかして・・・」
飲み会の途中から様子が変だとは思っていたけど。まさかと思い当たる原因に行き着いてカカシの口元が弛みそうになる。
「・・・・・なんだってば」
「ヤキモチ妬いてくれたの?」
「なっ」
「あ。顔、真っ赤」
ちがうってばと顔を朱に染めそのまま逃走しようとした少年の首根っこをつかまえてカカシはナルトを抱きしめる。自分の腕の中にあつらえたかのようにすっぽり納まる身体。
「はなせってば!」
「うれしいよ、ナルト」
「ちがう、ちがう、ちがう!焼き餅なんて妬くわけねーぢゃん」
「可愛い…」
「~~~っ」
恥ずかしくてどうにかなってしまいそうだった。認めたくなかった、そんな感情を持ってしまった自分を。みっともなくて、カカシに嫌われたらどうしようなんて、ありえない妄想までしてしまって、じたばた暴れるのに、大人はナルトの葛藤なんてまるで無視して、―――ニヤついていた。それはもう満面の笑みで。
「ね、このまま二人で抜け出しちゃおうか」
狭い廊下でぼそぼそと耳元で囁かれて、ヤダ離せってばなんて抵抗を試みるもがっちり腕を掴まれてしまって逃げ出すことができない。
「カカシ先生、不謹慎だってばよ!」
会社の飲み会なのに、途中退場するなんてだめだってば。ナルトがガミガミ怒りそうになると、しぃーと指で唇を塞がれた。
「だっておまえが初めて焼き餅を焼いてくれたんだよ?これはもう記念にエッチするしかないでしょ」
「バカだろカカシ先生!?」
口元の指を押しのけてナルトが叫ぶ。
「いや、オレは大真面目よ?おまえが嫉妬なんて感情を持てるようになってうれしいの。ね、だからエッチしよ?」
「どーいう理屈だってば!やだぁ、こんなとこでシタくねぇの!!」
「いやならオレに本気で抵抗してみなさい。恋人同士はフィフティフィフティ。意見は押し通したもの勝ち。〝うち〟のルールはそうでしょナールト?」
結局、ナルトはトイレの中に見事に連れ込まれそこで声を押し殺しながら鳴くことになったのだけど。
「あー、ついつい長居しちゃったねぇナルト」
ウン十分後、やたら晴れやかな顔のカカシとぐったりとしたナルトが長いトイレから帰ってくる。
「カカシ先生、二週間皿洗いの刑」
「個室が狭かったのが残念だねぇおまえがちっちゃくて良かったよ」
小さい、の単語にナルトがギロっとカカシを睨む。
「洗濯、食事、掃除…全部やれってば」
「………あー、ナールト?機嫌なおしてよ?ごめーんね?」
「二回も突っ込みやがって!!」
サイテーだってば!!
うあああんとナルトが拳を握って叫ぶ。
あけすけな少年の言葉に居酒屋店員がぎょっとした様子で立ち止まって、銀髪のサラリーマンらしき男がいたわるように金色の少年の腰に腕を回してイチャついている姿に……うんオレは何もみていないぞと踵返したのであった。
「・・・・―――カオスだってば」
宴会場に帰ると死屍累々の光景が広がっていた。酔っぱらいの上に酔っぱらいが倒れて積み重なって、窓に上半身だけ出している人、なぜか鞄に頭をつっこんでいる人、「酔っぱらってごめんなさーい」と高らかに笑い続けている美人なお姉さん。
「カカシ先生、この倒れてる人たちどうするんだってば」
「んー…酒を飲んでない車係が各自の家まで送るか、タクシーかな」
「カカシ先生、‘車係’が見当たらないってば」
全員できあがってるってばよ?
「ま、這ってでも帰るでしょ」
いい大人が酔っぱらうと十代のガキ以上に質が悪いのでは?と思ったナルトであった。
心地よい夜風にあたってマンションに帰宅した二人は、玄関でなだれこむようにキスを交じわす。
「・・・・・・・・さっきもシたぢゃん、カカシ先生サカり過ぎぢゃねーの?」
カカシのネクタイを緩めてやりながらナルトが笑う。電気も点けないで寝室に移動した二人の背後では先程いた歓楽街のネオンがチカチカと輝いている。
「だっておまえがせっかく傍にいるのにイチャつけなかったんだよ?」
それも何時間も。
どれだけ我慢したと思ってるの?と囁かれて、シャツを捲ってくる大人の熱い手。
「ひぁ……っ」
思わず出たひっくり返ったような恥ずかしい声。
「ナルト、可愛い…」
「いきなり変な触わりかたすんなぁっ」
「さっきもシたから感じやすくなってるね?」
「っうっせーの!」
「外で初めてシたね。最初はあんなにイヤイヤ言ってたのに、最後は積極的に奉仕してくれてうれしかったなぁ」
「あれは口でしなきゃカカシ先生がもう一回スルって言ったからぢゃん!それなのに二回目も突っ込みやがってどれだけズリィ大人なんだってば!!」
「突っ込む言わない。おまえね、もうちょっと男を誘うような色っぽい言い方覚えなさいよ」
「オレってば男らしい男!」
ジーンズを半分ほどおろされたところで、ぱこっと足でナルトがカカシの顔面を蹴る。歯を剥き出して威嚇するが、そのまま足を持ち上げられて、ベッドの上にひっくり反される。
「い~眺め」
ふふふ、と笑われ、つま先から脹ら脛、足の付け根にキスを落とされ、ナルトはぴくんと痙攣する。つつつ、と食むように自分の肌を辿る唇。
「エッチ、変態、キス魔っ」
頭上から降ってくる罵詈雑言を光栄な褒め言葉と受け取って、ご立腹な恋人に手の甲にふれるだけの軽いキス。
「ねぇ機嫌なおしてよ?」
「っ!」
近寄ってくるカカシの両頬を包み込み、ナルトはきゅうと目を瞑る。また負けたってばなんて思いながら、カカシの頭を抱え込む。
「ふぅ・・・・」
ナルトが熱っぽいため息を吐く。やがて、あ、あ、や、やぁ・・・・やんと寝室に変声期を終えたばかりの少年の押し殺した声。
「カカシ先生ってさぁ、んなとこ舐めておもしれぇの?」
「ん、ちゅ。…ん」
自分の平たい胸部にキスを落とすカカシの頭を撫でながらナルトは首を傾げる。熱心な愛撫を繰り返す大人に、自分よりずっと年上の人のくせに、どうしてこんなに可愛くて愛おしいのだろうと思いながらも、息は徐々にしかし確実に上がっていく。
「ふぁ…んんんんっ」
くちゅんと先ほどの情事で濡れた箇所に指を差し込まれ、ぐるぐる掻き回される。まだ前戯が恥ずかしくて身体を折って快楽を隠そうとするナルトに全部見せてよとカカシが細い顎をついと持つ。
潤んだ碧い瞳が、下半身に刺激が与えられるたびに揺らめく。
下準備を終えてゆっくりと腰を進めてやれば、あ、あ、あ、あ、とナルトの唇から色めいた声が上がった。ゆさ、と揺すって、しっとりと己に吸い付く内壁と、熱を確かめる。狭い内部の奥深くの感触に理性が飛びそうになるのを堪えて、優しく己自身を打ち込んでいれば、「カカシせんせぇ」とナルトが銀色の大人に腕を伸ばして首に巻きつく。
―――しあわせだってば。カカシの鼓膜を震わす声。
「好き・・・・オレってばカカシ先生と一緒にいられてしあわせ」
「・・・・ナルト」
カカシは細い少年の身体を抱き締めて、愛してるよと何度も、何度も繰り返し囁いた。
いつだってカカシの鳥籠はあいている。そこに自ら入るのはナルト。カカシの元に帰るために。
鳥籠という表現をするナルトにカカシがバカだねぇと笑う。
首を傾げるナルトのおでこに、キスが落とされる。
おまえなにもそんな緊縛的な薄暗い表現しなくてもいいでしょーよと。
そーいうのをね、家族っていうんだよ、とベットの中でカカシに教えられて、ナルトがまたひとつかしこくなるのは熱く甘い情事のあとの話。
失踪シリーズ最終話です。
ど、どうでしたか?
上手くまとまっているか心配ゲージが爆発する勢いで不安なのですけど。
ちなみに最後の部分は某さまが失踪の二人はエロで締めておけって・・・・笑。
でもこれくらいの描写なら年齢制限かけなくても平気かな?と思いフリーダム。
リクエストして頂いた方!ありがとうございました楽しかったです^^
日陰ブログですがこれからもよろしくお願い致します。