空気猫
記念企画的なものはやらないの?と言われてたんですけど、ここでその需要はありますか?とそこから聞かないといけない落とし穴です。
22222hitでにゃんにゃん企画とかやりますかとか程遠いボールを投げてみます。
にゃんにゃん企画って・・・と自分でも意味不明になったところで5/26の猫パンチお返事です。
あああ、何か書こうとして詰まっちゃうみたいなことってありますよね。猫もよくある、よくあるですよ。なんとなく察しました。
コニーさま
これって猫の日記なんです。元ネタの人たちは大人なので捕まりません。
あとこの話は小説目録一覧には加えません。日記扱いでこのまま足跡に埋もれさせます~、ぶくぶく。
失踪ディズ2 ―Tuesday~Wednesday―
鳴り止まない電話といやがらせのメール。
「とりあえず電話は消音にしておいたし…じゃ、オレは会社に行ってくるからここでいい子にしてるんだよ?」
ちゅ、と目尻にキスを送ってカカシは上着を羽織る。
「いってらっしゃいってば、カカシせんせぇ」
本当はずっと一緒にいてあげたい。だけどこの子を守るためにも働かなければいけない。マンションの1番上の階。小箱みたいに小さな部屋に少年を残して、カカシは家を出た。
珍しく遅刻もせずに出勤したカカシに奇跡だ天変地異の前触れだと職場がざわめきつつ、午前の仕事を終える。昼休みも間近だという時間帯。
戸惑ったような表情で電話受付の女性職員がカカシに電話を渡してきたのはカカシがコーヒーを淹れて戻った時。受話器からわんわんと喚くような声にカカシはすぐにそれが誰であるか悟った。
「アンタのオンナ?会社に電話かけさすんぢゃないわよ」
向かいのデスクの紅が化粧を直しながら、軽蔑の視線を送ってくる。おまえこそ仕事しろよ、と思いつつ、
「・・・・ちがうよ。今の子はそんなことしないね」
「へえ、随分と自信満々なのね?見てくれだけでオンナを選んでいたあんたがねぇ」
「ま。その話はまた今度ね・・」
適当に百戦錬磨の女と名高い同僚に受け答えをして(なんの、とは聞いてはいけない)まったくどこからこの番号を調べたのだろうかと、ため息を突きつつ、カカシは受話器を受け取る。
「お電話代わりました、はたけです」
言った途端、またお決まりの文句が始る。「絶対許さない」「警察に連絡をするぞ」「全部おまえのせいだ」支離滅裂な言葉の嵐。
おそらくカカシを精神的にまいらせてナルトを誘き出す作戦なのだろうが、残念ながら彼等は相手を間違った。いや、初手を間違った、と言っていうべきだろうか。
普通、本当に子供を返してもらいたいのなら、こんな罵詈雑言付きの電話を寄越して相手の気分を害させるだろうか。ナルトのことを心配するでもなく、ただ文句を言いたいというような態度には呆れるしかない。
「ここは会社なんですよ。非常識だとは思わないんですか?」
思っていたより、冷えた声が出た。そして言いながらも思わないんだろうなと苦笑する。昨日いやというほど聞いた女の声が聞こえたが、カカシが霜の降るような声を出すとしん、と黙る。
「聞いてますか?それとも意味がわかりませんか?」
結構失礼なことを言いつつ、カカシが尋ねると、主人に代わります、とこれまたお決まりのパターンが始って、次に聞こえたのは男の声。夫婦で受話器に齧り付くように応対しているのだろうか、こんな場面にも関わらず想像すると少しだけ笑えた。
「〝アレ〟を返してもらえませんか。あんたの連れ出した〝アレ〟を」
連れ出したねぇ・・・とカカシは男の言葉を反芻する。まぁ、間違ってはいないが、これまた随分と失礼な言い方をしてくれる。
「それはオレが嫌がるナルトくんの腕を無理矢理引っ張り拉致、誘拐したというんですか」
「・・・・・・・」
「泣き叫ぶナルトくんを無理矢理、車に連れ込んだ、ということですか?」
「いや、べつにそこまでは・・・」
硬質になったカカシの声に電話の向こうの人物の声が急に勢いを失う。
「貴方がたがおっしゃられてることはつまりそういうことでしょう?」
拉致・誘拐の言葉に、オフィス内の視線が集まるのを感じたが、かまっていられなかった。今、この場面ではっきりさせておかなければ。
―――こちらとて伊達に修羅場の場数を踏んでいないのだ。今でこそ堅気の商社に勤めているカカシだが、十代の頃はそりゃあ警察のお世話になることも日常茶飯事と言えないまでも多くあって、はっきり言えばこういう場面には慣れていた。
いつまでも大人しく対応してあげているとは思ってはいけない。失礼な対応に対して、礼儀で返して上げられるほど、カカシも人間ができているとはいえなくて、言ってみれば根が戦闘体質なのだ。
昨日はナルトの手前きついことも言えなかったが、今はたとえ相手がナルトの義理の両親だとしても容赦するつもりはなかった。
「オレがいやがるナルトくんの腕を無理矢理引っ張り連れ出したというならともかく家を出たのはあの子の意思であって、オレはそれを援助したに過ぎません。警察にご連絡したいならどうぞご勝手に。ただ、事が明るみに出て困るのは貴方がただって同じではありませんか?」
「・・・・・・・・・・・・」
「言っておきますけど、オレは警察の事情聴取でもなんでもよろこんで応じますよ」
この言葉も男の予想の範囲外だったらしく、黙る。ここでカカシはある法則に気付く。彼等はカカシが下手に出ると勢いをますが、強気に出ると途端に引っ込むのだ。
(どうもこの人らは口だけは達者なようだねぇ)
肝心な行動力はなし、か。あんだけ大きなことを言っていたわりには嫌がらせが電話やメールなど以外になかったことにも納得する。会社の電話番号がわかったのなら、カカシのアパートもわかっても良さそうなものなのに。
この手の人種はどうも理解し難いな。
法則に気が付けば、攻略は簡単だろうが、気をつけるに越したことはない。先手を打っておいた方がいいだろうと、カカシは声を柔和にする。
「ま、貴方も奥さんに言われて仕方なく?オレに電話をなさったと思ってますけど?」
わざと同情するような言葉を掛ければ男が「ええ・・・」と小さく相槌を打ってきて、思っていた通り、折れてくる。
「あの子のことを心配だと思う気持ちはよくわかりますけど・・・」
言いつつ、オレって大嘘吐きだよねぇと大人の建前という名の台詞に舌を出す。
「あの子はもうあなた方のところに帰る意思はありません。オレもただで渡すつもりもありません。しかるべき公共機関に訴えるのはこちらの方です。オレは貴方がたと相殺される覚悟はありますよ?」
「・・・・・・・・・・・」
「貴方も奥さんのことを愛しているなら彼女の意見ばかり鵜呑みしないで、ちゃんと叱って上げてください。まずは夫婦できちんと話し合って見られてはどうですか?」
男が黙る。
「もしオレに用があるなら今度からオレの携帯に掛けて下さい。もちろん時間を選んで頂けるとうれしいですね。これからはいつでもお相手致しますよ?」
「・・・・・・・・・・・・」
「もし警察に訴えた場合、ナルトくんが誰の味方をするかということをよくよく考えて頂きたいです」
黙した相手に確信の微笑を浮かべて、カカシは受話器を置く。
「ああ、オレの昼寝の時間」
時計の針は12時過ぎを差していて、昼食の時間を仮眠に充てているカカシにとっては痛いロス時間だ。
オレの貴重な昼寝の時間を邪魔しやがってどうしてくれよう。とこの日一番の凶暴な本音が出たのだけど、ふと周りを見回して、あーらら?とカカシは物の見事に固まった。
「は、はたけくん、どうしたんだい?」
電話越しの応戦を何事かと見守っていた上司や同僚が眉を潜めている。ああ、しまった。すっかり忘れていた。
「ご迷惑お掛けして申し訳ありません」
隠すわけにもいかず仕方なく職場に事情を話す。こりゃ、こんな問題事を起こしたら会社もクビかなぁと思いつつ頭を下げると、
「なんて常識のない方たち!」
オフィス内に大爆笑が巻き起こった。
「………へ?」
「普通、会社まで電話を掛けて来ます?それもはたけさんに文句を言うためだけに!」
「あの女の人、私が電話に出た時すでに怒鳴り散らしていたんですよ!はたけさんに代わってくださいっていうくらいアルバイトの学生だってできますよ」
カカシは下げた頭をおそるおそる上げる。
「いやー、はたけくんデカしたぞ。駆け落ち、けっこうなことではないか」
恰幅の良い上司が高らかに笑う。
「・・・・か、かけおちですか?」
その時代錯誤な単語はなんですか?と思いつつ、カカシは結果的に見ればそれなのか?と首をひねる。まぁ相手は同性の少年相手、という言葉を飲み込む。
「で、相手は男なんだろ?」
ぶっとカカシは噴出しそうになる。そうだった、ナルトくんと名前を出していたな、オレ。非常事態だったとはいえ迂闊だった。
「いえ、部長それはですね・・・・」
「なになに、なにも正しいばかりが人生ではない。裏道、曲がり道、大いにけっこう。お互いがしあわせなら人生なんとかなるもんだぞ」
み、見も蓋もないこの人たち。若干カカシが実は自分ってこの職場で一番の常識人だったんぢゃあ?と引き腰になっていると、いつからそこで立ち聞きしていたのか廊下から白髪の男が「あいやしばらく!」とやってきて、
「わしも今のかみさんとは駆け落ちだがのう!今もあちらの家族には許されておらんがしあわせよ」
か、か、か、かと豪快に笑い出す始末。
「自雷也社長、その告白はいりません…」
前々から少し常識ない職場だとは感づいていたが(カカシの遅刻を容認したり)まさかここまでとは思わずカカシはやや呆然としたあと苦笑した。
「とりあえずわしらは味方だからのう!」
真面目なステレオタイプの人間ばかりの集まりだと思っていたのだが、どうやら最強の非常識集団だったらしく、
「――――ありがとうございます」
頭を下げたカカシに
「はたけさーん、その子かわいいですかぁ?写真みせてくださいよー」
からかうような声が掛けられる。
「もったいなくてみせてあげられないくらい美人だよ」
のろけ全開のカカシの台詞に今度飲み会につれてこーいとどこからかやっぱり非常識な声が掛かる。
玄関の鍵を開けて帰宅すると、華奢な腕が巻き付けられた。
「おかえりなさいってば、カカシ先生!」
カカシの服を着たままのナルトをカカシは抱き止める。
「ちゃんとメシ食ってた?変なことはなかった?」
「うん!ってば」
カーテンを締め切ったままの部屋の中で、二人は抱き合う。
「でもメール来たってば。カカシ先生に迷惑をかけてやるって。全部カカシ先生のせいだって。オレが自分の意志で家を出たのになんでカカシ先生のせいにするんだってば?」
「ナルト・・・・それは仕方ないよおまえのことをオレにとられたと思ってるんだから」
家庭が壊れたことを誰か外部の人間のせいにして、押し付けたいのだろう。だけど結果的にみれば、カカシ自身にもわからない。自分はこの子のことをただ渇望するように欲しかっただけかもしれない。
我慢のできない大人でごめんね。柔らかい金糸に指を絡ませながら、1番大人の都合に巻き込まれたのはやっぱりこの子なのかもしれないと思う。
「警察にも連絡するって…」
「この場所は誰にもバレてないから平気でしょ?」
まぁ、調べようと思えばすぐに知られてしまうだろうが。
「オレが帰らないと死んでやるって。・・・オレのせいで誰かが死ぬの?」
「・・・・。それはナルトが気にすることじゃなーいよ?それにナルトのことを本当に思ってる人だったら、そんなことするわけないでしょ?」
「そうかなぁ・・・・でもオレってば実はちょっとだけ期待してたんだってば。あんな人たちでもオレがこんなふうに家を出たら心配してくれるのかなって。でもお金と世間体のことしか気にしてくれなかった」
ナルトの携帯が受信したメールの文章を見て、吐き気がした。そこには自分勝手な彼等の都合ばかりが書かれていて、帰ってきて欲しいだの、心配だのという言葉は一切なく、―――ただ吐露される悪言。
「笑っちゃうってばよ。〝息子が家出したら自分の監督の不届きだと思われる〟〝自分の出世に響いたらどうするんだ〟ってなんだってば・・・・もう一人はお金の心配しかしてねぇみたいだし―――ほんと、サイアク」
「ごめんな、ナルト。ひとりでつらかっただろ・・・」
「ううん、カカシ先生はお仕事だってば?しかたねぇってばよ」
「ナールト、うつむいてないで上をむいて?」
「カカシ先生っ?」
そのままなだれこむようにキスが始って、どちらのともわかない垂液が伝う。玄関先で立ったまま交じ合わされる行為に、ナルトは苦しそうな顔をしながらも必死にカカシに応えて、大人の首に腕を絡める。
「・・・・・・・・っカカシせんせぇ、も・・・無理ィ息が・・・」
「・・・ん」
「んはぁ・・・」
カカシの胸元にナルトが酸欠からかずるずるともたれこむ。キスにすらまだ慣れていない少年にがっついているという自覚はあったけど、それで止められるほどカカシも大人でもなくて、愛してるからごめんねなんて、結局は自分勝手で身勝手極まりない結論に落ち着いてしまう。
「・・・カカシ先生、不安ってば?」
「え?」
「カカシ先生、不安な時とかキスして誤魔化すくせ、あるってば?」
ぼそぼそと呟かれた言葉に参ったなとカカシが後頭部を掻く。出逢った時から薄々は気付いていたけれど、この少年は無頓着なようでいて人の感情の機微に恐ろしく敏感だ。それがあの家庭に育ったためなのか、それとも天性のものなのか、カカシにはまだ推し量ることはできないけれど、まさか十四歳も年下の子に自分の不安を見抜かれてしまうとは思わなくて、
オレもまだまだだなぁと思いつつ、もっとオレがしっかりしていれば良かったのにゴメンねという気持ちを込めて、腕の中の温もりを抱き締める。
ぐりぐりと仔犬のようにカカシに抱き潰されて、ナルトが苦しいってば苦しいってばと暴れる。
「あはは、ごめーんね?おまえ抱き心地いいんだもん」
「カカシ先生、オレのこと窒息死させる気だったろ!?」
「そーんなことないよ?」
むうと頬を膨らませた表情は、実年齢より幼く見えて、改めてまだ十代なんだよなぁとカカシは苦笑する。そのガキンチョに骨抜きにされる自覚はあるのだけど。それも僅か一週間で。
だけど、一緒に過ごした時間の多さなんか関係ないくらい、まるで何かに惹かれあうように、二人は出会って、急速に近付いた。
この想いが一時期のものなのか、永遠のものなのか、カカシにだってナルトにだってわからないのだけれど、ただ一緒にいたいという気持ちだけは、何よりもずっと強くて、自分たちはきっとデキタニンゲンではないから、一時の感情にのまれて墜ちていくのもきっと一緒。
もぞもぞと腕の中の少年が息苦しそうに身動きしたので、カカシは拘束する腕の力を緩める。
「でも不思議なんだってば。あんなにうるさかった電話とかメールがお昼からぱったり止んだの」
「え・・・・・・?」
ちょうどカカシが会社で電話を受けた頃だ。
「カカシ先生あの人たちになんかした・・・?」
「ああええと。ちょーっと穏便なお話し合いをね?」
「・・・・・なにいったんだってばよ?」
「なにって昨日出来なかったお話し合いだよー?」
「カカシ先生、笑顔が怖いってば」
半眼のナルトにカカシが噴出す。「ぶさいく」と鼻の頭を突かれてナルトがぶんむくれる。だけど、くくくと背を丸めて笑うカカシにナルトの表情も段々弛んできて、久方ぶりに二人で声を上げて笑った。
しあわせな家庭に育った人たちはきっと声を揃えて二人のとった選択を批判すると思う。なぜ、家族という集団を壊してまで、きみたちは自分勝手な行動に出たのかと。
彼等は話し合えばわかるのだというのだ。ではなぜニュースや新聞で母親が赤ん坊を殺したり、父親が一家全員を巻き込み無理心中をさせたり、娘や息子が両親を刺したりするのだろうか。
歪んだ家庭というのはたしかに存在する。なぜなら、家族とは血の繋がりのある、なしに関わらず偶発的に集まった人々のコミュニティだからだ。絵に描いたような優しい母親や、寛容な父親、出来の良い息子や娘が必ずしも用意されているわけではない。母親や父親、娘や息子にも「個人」があることを忘れてはいけない。その点で、家族とは友人のように切り離したり、選んだりすることができないぶん厄介だ。
カカシ自身幼い頃に父が自殺して家族は崩壊した。
全ての家族がしあわせな道を選択できるなんてことは、実は天文学的な数値で、そのしあわせな状態を維持し続けることがどれほど大変なことなのか。
個人としての人格を尊重してくれる家庭、または掛け値なしの愛情を与えてくれる家庭が、どれほど貴重なのか。
仲良く円満に解決できたならどんなに良かっただろうか。だけど世の中には、家族を壊さなくては進めない選択肢も確かに存在する。
それが間違っているかなんて、ね・・・誰にもわからないから。死ぬ間際に後悔するかもしれないし、いい人生だったと笑って終われるかもしれない。
ホームドラマのように主人公が熱く語れば両親が改心してなんてことは起こるはずがない。すべてが正しく収まることなんて、あるわけがなくて、なんていうか割り切れないこと、正にも邪にも分類できないことってのはたしかに存在する。
ならば今カカシにできることはたとえ世間的には間違った選択だったとしてもこのまま突き進むしかなくて、一番大事なものを優先させるだけ。
「ねぇ、カカシ先生?」
そこで腕の中のカカシの「1番」が口を開いた。
「オレってば学校は続けたい」
屹然と言い放たれた言葉にカカシは目を見開く。
「もし親の援助が完全に受けられなくなったら生きていくために高校ぐれぇは出ておいたほうがいいってば。やっぱさ、やっぱ全部カカシ先生に頼りっきりになるわけにはいかねぇってばよ」
ぱきぱきと少年がカカシに説明をする。
「元々学費は自分の働いたバイト代で通ってたってば」
この子とあの家の人たちのちがいを述べるとしたらここなのだ。十五歳でここまで人に気を使うその所作が哀しい、と思わないでもなかったけれど、どこか吹っ切れたように話す少年に、カカシは苦笑した。
「・・・・・・・オレに、頼ってくれていいんだよ?」
「へ?」
「別におまえ一人くらい養えるくらい稼いでるつもりだし。結婚は男同士だから今の法律ではできないけど、いろんな抜け道があるし。オレの奥さんになってくれたらうれしいな。おまえ、はたけナルトになる気持ち、ある?」
「・・・・・・・・・っ!」
「オレは全然いいんだよ?オレも覚悟を決めたから」
蜜のように甘い言葉にナルトの瞳が揺らめくけど、腕をつっかえ棒のようにして、ふるふると首を振る。
「…・・・カカシ先生の気持ちすげーうれしいってば。でもオレってばやれることは後悔しねぇようにがんばってみてぇ」
碧い瞳にたしかに宿る意思。ああ、オレはこの子のこの表情が見たかったのかもしれない。アーケードに座っていた少年。ちょっと途方にくれたような顔はもうない。今あるのは、
「高校の保証人は親御さんだよ?このままだと話し合いは・・・無理だろうな」
「・・・・なんとかしてみせるってば。オレってばぜってーあきらめねぇ!」
ただ眩しいばかりの笑顔。
「ナールト?」
「ん、ってば?」
啄ばむようなキスがナルトに落とされる。そのまま食むように唇を何度も甘噛みされて、恥ずかしいからやめろってば、とナルトが声を上げるまで続けられる。
「―――ああもう。さっきの訂正。カカシ先生ってばキス魔だってばよ」
ふふふと笑うカカシにナルトはむうと頬を膨らませていたのだけど、ふっと悪戯っ子の表情になる。
「カァーシせんせ?」
ふわ、とカカシと同じ石鹸の匂い。瞬間、のびる少年のつま先。
「――――え?」
ちゅ、とナルトはカカシの頬にキスをする。ふいうちをくらったカカシはただ呆然。
「シシシ、おかえしってば」
カカシの首に腕を巻きつけて照れ臭そうに笑う少年。
「おまえはー・・・・」
意外性ナンバーワン。そんな言葉が思い浮かんだ。本当に骨抜きにされそーだわ・・・。カカシの独白めいた予測はあながち外れでもなく、「はたけさんは伝書鳩のように家に帰りますね」と彼が同僚に冷やかされる日も、そう遠くはない未来だったりする。
「……ナルトー、このまま玄関で押し倒されるのとベットいくのどっちがいーい?」
「っ!!!」
「煽ってくれちゃって・・・・覚悟しなさいよー」
「なななにがだってばよ!」
「こーんな可愛くおねだりされて応えなきゃ男がすたるってもんでしょー」
「お、おねだりなんてしてねぇってばよ!??」
「はい、問答無用」
どさささと玄関で何かが転がる音と共に、少年の悲鳴が上がる。だけど、大人に抵抗している少年の声に色めいた響きが交じるまであとわずか。
問題は山積みなんだけど、ハッピーエンドに向かって、二人ならきっと歩いていける。だって諦めない限り道は繋がっていると思うから。
End
終わり方が似ているけど、前よりもちょっとずつ前向きになってる二人。
いなかったら何事もなかったかのように闇に葬ろうと思っていた続編作成中です。
5/24
カカシ先生のモデルの人に伝えておきます!チョーシに乗ると思います!
続き、それでは書きますね!
「失踪ディズ」ドキドキしながら読ませていただきました~様
5/25
ちょこさん
今日のメッセでコメントのお返事しちゃったよ、ていう罠です。本当の部分とつくった部分を織り交ぜつつ、カカ&ナル的にはあまーくがんばりますよ。あああと贈り物ありがとうございます!!!家宝です!!
「失踪ディズ」読みました。猫さんまた怖いものを~様
また!?えええええ、いつ?いつ書いてましたか怖いもの。また!?ええええええ。そんな認識ですか、猫は!
「失踪ディズ」読みながら『バッドエンドなのか?鬱エンドなのか?』とビクビクでした~様
続き知りたいです~。何時も萌えを~様
萌え!ですか!?あああありがとうございます!萌えですか!?驚きのあまり二回言って見ました。あれ、萌えって言われたのも二回目?ここ萌え系ですか?うん、ちがいますね!わかってます!
黒猫郵便局お返事
響さん
おおおイチゴミルクシェーキをお買い求めに!?某ファーストフードさんの売り上げに貢献した気分ですよ笑。
失踪ディズは響さんが好きそうな雰囲気だと思ってました、ええ笑。「元気だして」のナルトはこのタイミングで来るか!?という猫さん的にクリティカルヒットに偶然な時に笑。
あ、きらきら的なものは全速力で良かったです。せ、せつなーまた響さんにやられた。
ぱちぱちだけも感謝感激!
失踪ディズーmondayー
目をうさぎみたいに真っ赤にさせた少年の様子が落ち着いた頃を見計らい、大人の立場にいる人間としてやらなければいけないことを切り出した。
ナルトの年齢は十五歳。下手すればカカシは誘拐犯だ。愛しい子との関係をそんなふうに言われてしまうのは本意ではないのだから。
「ナールト、よく聞いて?家を出るにしても親御さんの許可がなくっちゃいけないよ。きちんとオレたちの今後のこと彼等と話し合おう?」
カカシの言葉にナルトの顔が弾かれたように上げられて真っ青になる。
「ど、どうしてそんなこというんだってば?―――カカシ先生もオレをあそこにまた引き渡すの?」
家出の経験が一度や二度ではないことは薄々を勘付いていたが、どうやらナルトは中学生の時に家出をして失敗してるらしい。同級生の家に転がり込んでいたところをすぐに見つかり、その友だちとは―――それきりらしい。いったいその友だちが何をされたのかなんて聞きはしなかったけれど。
「ダメだってば、話を聞いてくれるような人ぢゃないんだってば!―――カカシ先生が行ったらカカシ先生まで酷い目にあっちゃうってば!」
ナルトの碧い瞳が恐怖で凍り付いていた。
「オレを渡さないでってば?カカシ先生、あの家に帰るのはいやなんだってば!」
「ナルト?」
「オレのこと引き渡さないでっ。やだぁ!!」
「ちがうよ、ナルト」
また混乱を始めた性根を宥めすかし、涙で濡れた両頬を覆う。
「オレはナルトのことを真剣に考えてるから、それがたとえナルトにとってどんな親御さんだとしてもナルトを育ててくれた人だから、ナルトがその人たちに嫌われてしまう形で家を出て欲しくないよ、わかる?」
「・・・・で、でも。カカシせんせぇ」
「おまえの荷物もとりにいかないといけないしね?ま、オレの服だけで生活してくれてもそれはそれでいいけど?」
「・・・・・・・・せんせー、それってちょっとエッチィってばよ・・・」
「ちゃんとご両親と話し合ってみよう?ナルト?」
「んせ・・・」
ナルトは力なく首を振ったけれど、誤魔化すように唇に啄ばむようなキスをすればすんと鼻を鳴らして「わかったってば・・・カカシ先生がそうしたいならそうする・・・」と静かに頷いた。
助手席のシートで硬くなるナルトの手を片手で握ってやりながらカカシは車でナルトの養いの親がいるという住宅街に向かった。同じ形の家が、同じ工場のベルトコンベアーの上で生産されたように等間隔に並んでいる。「閑静な住宅街」そんな言葉が似合う地域だ。
「あの人はここに365日家に篭りっきりでいるんだってば・・・・・・・」
家族以外の誰とも会わずに。と、あの人、とは義理の母親のことなのだろう。どこか呆然としたふうにナルトが話す。
ゆったりとしたスロープの道の先、箱庭のようにこじんまりとした家が目的の場所だった。傍目にはどこからどうみても平和そうな中流家庭の家。
「汚いとこだから驚かないでってば?」とナルトが言うので首を傾げつつ、鍵を開けるナルトの後ろから敷居を跨ぐと、しかし扉を開けて入った瞬間、カカシは異臭を感じて鼻を覆った。玄関まで散乱しているゴミの山。横倒しになった家具や、あふれかえった衣類。階段に放置されている土がこぼれた鉢植え。
「ウッキーくん!」とナルトが駆け寄って大事そうに鉢植えを抱える。
「ごめんってば、オレのせいで・・・・・・」
しおれた植物はどうやらナルトが毎日水をやり育てていた植物だったらしく「カカシ先生、こいつのこと車に積んでおいて?」と涙で潤んだ瞳で見つめられ、カカシは黙って頷く。
外に出ると、家の中のあの現状が嘘のようにその家は静かに佇んでいた。
綺麗な外観をしていたのに、この小さな家の中は何かが歪んでいた。それをカカシはとても残念に思った。
「誰もいないってば・・・・・・?」
不審そうにナルトが家の中を見渡し、慣れているのだろうどんどん進んでいく。カカシが虫の湧いたキッチンに足を止めていると、二階に上がったいたナルトの悲鳴が聞こえた。
絹を切り裂くような声にカカシが戦慄する。
階段を上がれば、金髪の少年に掴み掛って、殴りつけている女の姿。抵抗すら見せず、頭を抱えて小さくなっている姿に、カカシは弾かれたように飛び出した。
「何をやってるんですか、その子から手を離して下さい!」
金糸の髪を引っ張り、悲鳴が上がるのにも関わらず、女は少年を蹴り、叩いていた。
「どこいってたの、どこいってたの!?ここから出て行くなんて許さないわよ!!」」
「この子を叩くのをやめてください!」
カカシが女の腕をひねり上げると、かっと見開いた眼はどこか焦点があっていなくて、常軌を逸していた。
「あんたがこの子をそそのかしたのね!」
廊下から半分開いたドア。女がいたと思われる寝室はやはりゴミや衣類で溢れかえり、ベットの上のシーツのくぼみが女が一日の大半を、いやナルトの話では365日、そこに座り続けていたであろうことを如実に表していた。
「もうこの子に関わらないと3回言いなさい!」
犬ぢゃあるまいし、とカカシはこれが本当に大の大人の言うことなのだろうかと若干呆れつつ、ナルトから女を引き剥がす。
「ナルトくんがここを出て行くのは彼の意思です、お母さんどうかオレたちの話を聞いてください」
「部外者は出て行きなさい!」
ごもっとも、というか言われると思っていたお決まりの台詞にカカシはため息を吐く。「部外者」とはなんて便利で都合の良い言葉なんだろうか。それだけで全てが拒絶できるのだから。使い勝手がよくて卑怯だと思う。
「たしかにオレはここの家の人間ではありません。だけど、オレが家の中に一緒についていくことが、ナルトくんがここに来ることをのんだ条件なんです」
カカシ先生、家の中に入ってきてくれるってば?不安そうにカカシを見上げた少年。むしろあの状況でナルトを送るだけ送って自分だけが車の中に入ってるのもおかしいだろうに。
「これは家族の問題なのよっ、おせっかいだと思わないの」
そのナルトがカカシの救護を望んでいるというのに、それがこの人には通じなかったのだろうか。
「おっしゃるとおりです。本来なら家庭内のいざこざは家族間で解決すべき問題ですから。だけどオレだって、まったく無関係ではないでしょう。貴方はオレとナルトのことで怒っているんですよね?」
「・・・・・・・・っそうよ!!あんたがこの子を誑かしたのね!」
ナルトに愛情がないわけではないのだろう、それは酷く執着にも似た感情であったのだけど。
「もういい。荷物をまとめるからどいてってば」
「ナルト・・・」
「これ以上話し合ってもわかりあえない。カカシ先生もわかっただろ?この人たちには言葉が通じねーの。オレはここを出て行くってば」
「育ててやった恩も忘れてなんて口の聞き方!勝手にすればいいんだわ!!」
「―――ああ、するってば?」
「!」
ナルトは凍りついた目で女を見下ろした。
それからの女の言うことはめちゃくちゃだった。ナルトの部屋の前にはすでにナルトの衣類がまとめられてあり、最初はそれを投げつけ「出て行け」と言ったくせにナルトが躊躇いもなくその荷物を持つと愕然としてナルトを引っ張り始めた。きっとナルトがこうもあっさりと家族を切り捨てるとは思いもしなかったに違いない。夫に養われ続けている彼女にしてみれば誰かの保護化を離れてまで外の世界に飛び出すナルトの決断など、選択肢の中にはなく、「家を追い出す」と言えばナルトが泣いて縋るのだと思ったのだろう。
「出ていくなら今までアンタに掛かったお金をおいていきなさい」
ぶあついノートがナルトに向かってぶつけられる。そこには細かい文字でびっしり掛かれた数字。
「ぜんぶ払いなさいよっ、今までアンタに掛かった〝料金〟よ!」
今この場面で金銭の問題を出すのかとカカシは目を見開いて、髪を振り乱した女の視線がカカシを射抜く。
「・・・っあんたなんかに誑かされなければっ」
「・・・・」
「この子が出て行ったぶんうちに入るお金が減るのよ!!その責任をどうとってくれるの!?」
「あなたって人は・・・」
そんなに金が欲しければ自分で働けばいい。喉元まで出掛かった言葉を飲み込む。
「よくも堂々とうちに入ってくれたものね、変態!男同士ですって?気持ち悪い。あんたみたいな男なんて―――」
カカシのシャツに女が掴み掛かる。そこで初めてナルトが声を上げた。
「カカシ先生にさわるなってば!!」
肩で息をしたナルトが女に飛びついて、廊下になだれ込むように共々倒れこむ。
「オレのことはいくらでも殴ったり蹴ったり罵ったりすればいいってば!だけどカカシ先生のことを悪くいうことは許さないっ」
涙をぽろぽろこぼしながらナルトが女の上に馬乗りになって、手を振り上げようとした瞬間、その腕をカカシがやんわりと掴んだ。
「は、離してってば、カカシせんせぇ・・・・っ」
「おまえ、声震えてるぢゃなぁーい?ナルト、よーく考えてごらん?おまえはその人を叩きたいの?」
「だって、だってさカカシせんせぇのこと・・・っ」
「ナールト、いいからこっちにおいで?」
潤んだ碧い瞳が頼りなげに揺れて潤む。いやだと首を振るナルトの手に自分の指を絡めて、廊下に座らせる。額にキスを落とすと、ナルトの身体から力がくたりと力が抜ける。
「オレたちは愛し合っているんです、それをわかってくださいとはいいません。だけど、どうかこの子をもう解放してあげてください」
カカシがどこまでも落ち着いて、屹然と言い放つと、女の視線がきょろきょろと忙しなく動き始め、ふらりと部屋に戻ったかと思うと、すぐに返ってくる。
「しゅ、主人に電話しました!怒られるといいんだわ」
陳腐な台詞を吐いて携帯電話を差し出す女にカカシがやはり呆れたようにため息を吐き、ナルトは諦めたように視線を伏せる。
「お電話代わりました、はたけですけど。お仕事中に申し訳ありません」
「ええと、はたけ・・・・・・さんですか」
電話に出た男はこの家の中のテンションについていけないというふうな、一歩遅れた対応。どこか機械的な声の持ち主だった。多少の話はわかるのかという希望を持ってカカシが事情を説明する。
だけど、全ての説明を終えても男の声はどこまでも平坦で。
「悪いけど、その子をおいて帰ってもらえますか?あとは『家族』で話し合いますので」
わざと強調された『家族』という単語にカカシがつまると、ナルトが絶望した顔でカカシを見上げる。錠前の外れた、部屋が見える。そこがナルトの部屋なのだろう。部屋の中が尋常じゃなく荒れているのは、女がナルトの部屋を勝手に漁ったからか。
廊下には髪を振り乱した女が立っていて、力なくへなへなと座り込んでカカシを見上げるナルト。今この状況で、ここにこの子をおいていけと?ニュースを騒がせるような事件が、現実のものとして起こるなんて思えないけど、もしそれに自分が直面しているとしたら、起こるはずがないなんて、楽観的な答えは出せなかった。
「カカシせんせぇ…いかないでぇ」
何度、この手が助けを求めて離されたのだろう。期待しては諦めて、失望して。
「・・・・。この状況でナルトくんを置いていくことはできません。お互い冷静になって時間を起きましょう」
「貴方も大人ならわかるでしょう。貴方の行動は貴方の社会的地位を脅かすことになりますよ」
「今はオレを脅すことよりもナルトの話でしょう。この子の話を聞いてあげて下さい」
「貴方さえ帰ればうちは丸く収まるんです。我が家を引っ掻き回して楽しいのですか?いいからその子をここに置いていきなさい」
威風堂々と電話の向こう側の人間は言い切った。アナタさえ、という言葉に引っ掛かりを覚えたが、男の喋っている言葉自体は正当な響きを持っていて、もしこれが別の場面であったなら、カカシでさえ頷いてしまったかもしれない。ただ、この場面で使う言葉として若干の齟齬が感じられるのはどうしてだろう。
会話選択ボタンをプッシュして出て来たような答えは、このゴミであふれた部屋や、ナルトの腕についていた縄のあと、さきほどの暴力で、全ての効力を失う。
「・・・・・・・・お父様とはお話し合いの機会を設けたいと思います」
「貴方は私の社会的地位まで脅かす気か!!息子が家出したとなったら私の出世にまで響くんだぞ!」
「・・・貴方にはできればナルトくんのお話を聞いてもらいたかったです」
女に携帯電話を返すとカカシに向かって携帯電話が投げかえされてガツといやな音がした。
「か、しせんせぇっ」
「なーると、おいで?」
これ以上、会話は無理と判断したカカシはナルトを懐に招き入れる。容姿端麗な長身痩躯の男の腕の中にいる少年を見上げて、女が僅かに目を見開く。
そこに微かな嫉妬を入り交えた視線を送ったのはまだ彼女がかろうじて女であったということの証だったのか。
「ここからこの子を連れて行くってことは貴方にも責任が生じるんですからね、覚悟はできてるの?警察にだって訴えますからね」
昨今の警察が家庭内の揉め事に迅速な対応をするとは思えないが、カカシは階段の上で仁王立ちする女を見上げる。
「……貴方は人に委任することしかできないんですか?なんでこんな事態になったのかよく考えて見てください。オレたちは今日ここに話し合いをしにきたんですよ?」
「それは主人が帰ってきてから主人から貴方たちに話すべきことですっ」
「・・・・・・・・・・」
だめだ。話しが通じない。会話の堂々巡りというか、そもそも回線がどこかで捻じ曲がっているのだろう。なんというか一個一個の台詞や言葉を聞いていると、正当なことを言っているように聞こえるのだけど、やっている行動やこちらに対する受け答えが微妙にズレて誤作動を起こしているのだ。一生懸命説明したところで、会話が成り立たない。どこが変なのか、本当に説明がしづらいのだが、同じ言語の言葉を喋っているはずなのに、こちらの熱意に対してもあらかじめ用意された言葉で(おそらくこんな事態に直面した時彼等が何度となく使い古した言葉なのだろう)、そこから選ばれた言葉でしか受け答えをしない、そこが、不気味で怖かった。
確かにこの手の人種を相手にするのはとても労力がいるし疲れることにちがいない。
「出て行くなら出て行ってみなさいよ、後悔させてやる!」
する、ではなく、させてやるか。
階段を下りて、玄関に向かう。ふらふらしていたもののナルトの足取りは確かで、二人揃って玄関を出ようとしたところで。
「いらないわよ、こんなものもう全部!」
階段の上から放り投げられたトランクケースをカカシとナルトは「げ」とどちらからともなく呟いて、慌てて避けた。ちょっと破壊的な音と共に、散らばるこの家の中にあったナルトの持ち物。
上でわけのわからないことを喚いている大人を残し、カカシとナルトは転がるようにその場から退場したのであった。
車に乗った瞬間、ナルトは大泣きして、カカシは黙って外の風景を見つつナルトの頭を数度撫でて、車を発信させた。
「結局、荷物持ち出せなかったねぇ」
「うんってば・・・」
「ま、しばらくはオレの服で我慢してもらうしかないな♪」
「カカシ先生、みょーに楽しそうぢゃねぇ?」
胡散臭そうに顔を顰めるナルトにカカシがクククと笑う。片手にハンドルを握ったまま、ナルトの頭を撫で、
「終わったね、ナルト」
「・・・・・・・」
ぐりぐりと掻き回してやる。安堵感とともに、カカシが車を発進させる。すると隣でうつむいていた少年が突然、顔を上げた。
「ううん、これがオレの始まりだってばよ!そうだよな、カカシ先生?」
泣いた子供がもう笑った、そんなことわざってあったっけ?
「ナルト・・・」
「オレってば、すげー前向きになってきた!」
「―――そうだな、これからがおまえの新しい人生のはじまりだよ」
「・・・・オレとカカシ先生の、ってば?」
上目遣いでぼそぼそと呟いた少年に、銀髪の大人はハンドルを切り損ねそうになったとかなかったとか。
「そういえばこの三日間まともなメシ食ってなかったってばー」
とのんきにのたまったナルトに、若干蒼褪めたカカシは急いでキッチンに立った。たまごのリゾット、コーンスープ、あとは冷蔵庫にあったものを適当に並べていく。
風呂場に放り込んでおいたナルトが頭から湯気を出して上がってくる。――ほんのり色づいた肌がなんとも魅惑的にカカシを誘う。
「すげー、カカシ先生ってば料理なんてできるんだってばね!」
「ほとんどあたためただけだけどねぇ」
ナルトがはふはふ食事に口をつけていると、ナルトの携帯が鳴って、怯えたように少年が顔を上げる。
「―――いいよ、オレが出る」
ナルトが何か言う前にカカシがナルトの手から電話を取り上げる。
「はたけですけど」
「貴方の存在があの子を不幸にするんだ」
「・・・・・・・・・・」
「私たちは絶対にアンタを許さない」
「・・・・・・・・・・」
呪詛のように続く言葉をカカシはただ耳に受け、静かな雨に打たれるように受けた。
「せんせ・・・?」
「なーんにも心配しなくて大丈夫だよ?オレが、おまえを黙って渡すわけないでしょ?」
携帯の電源を切ってソファーに放り投げる。笑みをつくったカカシを伺うように見上げるナルト。
貴方がたの方こそ二度とこの子と関われさせやしませんよ。
心を貰ったのは自分。勝者の笑みを浮かべてカカシは微笑する。ナルトを離すつもりなど自分には絶対にないのだから。
「ナールト、ホットミルクつくるけど飲む?」
ことさらに明るい声をだして、甘く囁けば、きらきらと碧い瞳が輝いた。
「飲むってば!!!」
カカシ先生大好きィ!とにぱ!と笑った少年がカカシの腕に抱きついてくる。この金糸を、けして手放したくないと思う。
「ナルト・・・・・・・っ」
「んっ」
気が付けば、両腕を床に縫いとめて少年を押し倒していた。噛み付くようなカカシのキスにナルトが驚いたように目を開いて、だけどすぐに成すがままになる。腕を絡めあい、食べ掛けのままの食器の横で、淫靡な交わりが始る。
「んせ・・・?ホットミルクは・・・?」
「ん、ナルトのこと愛し終わったらね?」
カカシの五指が内腿を滑り、軽く息を詰めた少年をやわらかく愛撫していく。カカシの渡したシャツしか身に付けていない少年を見下ろして、襟元から覗く白い肌にキスを落とす。ボタンを一つ一つ、焦らすように外すと、碧い瞳がこれからの行為を想像して揺らめく。
「カカシ先生・・・・・・・・ゆっくりしてってば?オレってばまだ慣れてねぇし」
カカシの下でナルトが不安そうに、だけど頬を染めて呟く。
「ごめん、ナルト」
「へ?」
「――――我慢できそうにないよ」
「・・・・・・・っんせ!!」
上がった悲鳴をキスで押さえつける。ナルトの爪がカカシの肩に食い込む。背徳的な気分は、今はただカカシを煽るだけで、カカシは性急に少年を求めた。
「痛かったら言って。オレに掴まってて」
「カカシせんせぇ・・・」
切なそうに眉を潜める少年は、徐々に快楽にのみこまれていって、痛みからかそれとも心が通じ合った人と結ばれている幸福からか涙をこぼす。
「好きィ、カカシ先生・・・」
「オレもだよ、ナルト」
たとえこの先、彼等にどんな試練が待っていたとしても。
この二人の続き知りたいですか?
突発、現代パラレル読みきりです。イチゴミルクとはまったく別物。
ええと、その・・・読まなくてもいいですよー。脱兎。
なぜって凄く個人的な話をカカシ先生とナルトに変換したものだから。
失踪ディズーmondayー
「助けてってば・・・」
小さく掠れた声で携帯に電話が掛かってきたのは、カカシがちょうど会社に出勤しようという時だった。定時刻よりもやや二十分ほど遅れた出勤時間。入社以来、遅刻癖のサラリーマンの代名詞を華麗に掻っ攫っているはたけカカシ二十九歳。ただし、仕事はできるので誰も嫌味を言えないというのが、誠に嫌味な男は、だけど携帯の向こうから聞こえる少年の声にだけは敏感に行動した。
「もう耐えられないってば・・・あの家から出るってば」
「ナルト・・・?」
只ならぬナルトの台詞にカカシは、会社へと続く自動ドアの前で、あんぐりと口を開けた受け付け嬢を残して踵返すとそのまま指定された駅のホームに向かった。涙で震えた声を見捨ててしまうことなんて出来なかった。
駅のホームに着くと、コインロッカーの隅にしゃがみ込んでいる金色の少年を発見した。
「どうしたの、おまえ!?」
憔悴仕切り蒼褪めた顔色の少年にカカシは驚く。目の下にクマを作り――、一睡もしていないのだろうか?カカシと繋がっていた携帯だけが頼りだとでもいうように手が白くなるほど握り締めている。
「カカシせんせぇ・・・」
ぽろぽろと涙を零し嗚咽する少年。そこにいつものような太陽の笑みはなくて。
「ごめんってば・・・頼れるの、カカシ先生しか思いつかなかった」
前にこの子と会ったのはいつだっただろうか。痩せて薄くなった身体を抱き締めて思う。やつれた顔は本当に可哀相としか言いようがなく、少年の身に何か異常な事態が起こったことは明白だった。
「どうしたの、ゆっくりでいいから話してごらん?」
「ごめんってば、カカシせんせぇ、お仕事だったってば?」
「そんなこといいから――今はそれよりもおまえでしょ?」
ね?と震える少年の頭をくしゃくしゃと撫ぜれば、へへへと泣き笑い。とりあえず、座れる場所を探し、プラットホームのベンチに二人が並んで座る。自動販売機で買った缶ジュースを渡せば「気が利くってばよカカシせんせぇ」と無理に明るい声を出すものだから「大人の魅力にくらくらするでしょ?」と全然笑える状況ではないのだけどおどけて返しておく。
「カカシ先生、オレんちの親って知ってるってば?」
「ああ、✖✖さんと✖✖さんだっけ?たしか義理の?」
「オレ、監禁されちまうかもしんねぇ」
「―――は?」
「カカシ先生とのことバレちまったの。男が恋人なんてありえねぇって大反対されて。オレのこと色狂いとか、淫乱とかよくわかんない言葉で罵りだして。家を出て一人で生活するっていったら部屋に鍵掛けられて、ずっと出してもらえなかった」
「おまえ、閉じ込められてたの?」
「必死で窓から逃げ出してきたんだってば・・・」
三日間、とぽつり呟かれた少年の腕には食い込んだような縄の痕があって、缶ジュースを持ったままカタカタと震えだした少年の様子に、彼が今しがた話した説明に嘘がないことを悟った。
「こういうのって警察に言ったほうがいいんだってば?でも証拠なんて何もないし、オレってばもうよくわかんねぇってばよ・・・」
金髪の少年が頭を抱える。
「もうヤダってば。ガキの頃からそうだったんだってば。門限の五時を一分でも過ぎたら、遊んでた友達に〝もうこの子とは会わないで下さい、迷惑です〟って言うの。そいつが泣いて〝もうナルトくんとは遊びません〟っていうまでずっとそいつのこと責め続けるんだってば。だからオレと遊んでくれる子なんて誰もいなくなった。小学校も中学校もずっと友だちなんてできなくて一人だった」
それは一種の愛情の形であったのかもしれないけど、過保護だと言い切るには何かもぞりとしたものを感じる行いをどう捉えていいのか、カカシには推し量ることができなかった。
「でも高校生になって、街で偶然カカシ先生に拾ってもらえて、オレの人生が変った」
カカシはナルトとの出会いを思い出す。今日と同じような格好で街のアーケードの隅にしゃがみ込んでいた少年。黒山の雑踏の中で一際目立つ金髪は、残業帰りのカカシの目を惹くのに十分な存在だった。真夜中に差し掛かる時分だというのに、どこかに帰る素振りすら見せずちょっと途方にくれた横顔。声を掛けたのは、その子のちがう表情を見てみたかったから。男だなんてこと不思議なことに考えもしなかった。
まだ未成年だということ一目でわかった。線の甘い顔立ち。細い未発達な骨格。だけど、カカシは気づけば少年を自宅のマンションに招きいれ、何かの熱に浮かされるように―――抱いた。
同性のセックスに抵抗を見せるかと思った少年は、甘い吐息を漏らして、カカシの首に腕を絡めてきた。まるで足りないものを補い合うように二人は求めて愛し合い、その日から二人は恋人同士になった。お互いのアドレスを交換し別れたのが、わずか一週間前のことだったのだけど、三日ほど前からぷっつりと連絡の取れなくなっていた少年がこんな事態に陥っていたとは思わずカカシは言葉をなくす。
「カカシ先生と会って初めて失いたくない人が出来たと思った。まだ二回ぐれぇしかあってないけどオレにはわかるんだってば。直感みてーなもんかな?オレにはカカシ先生しかいないって。だからオレってば今度こそカカシ先生としあわせになりたくて、なろうとしてたのに・・・」
初めて抱いた夜の日に、義理の両親のことは涙ながらに聞いていた。ぽつりぽつりとした説明であったが、少年の説明では彼等は彼に並みならぬ執着心を抱いているらしい。それを愛情と言ってしまえばそれまでだけど。
「なんで、あの人たちはオレの大事なモンを全部壊そうとするんだってば・・・?」
カカシせんせぇのこと、やっとみつけたのに・・・オレの大事な人なのに・・・それでもダメなんだってば?大切なものすら守れない自分の年齢が悔しい、と少年は咽び泣いて、カカシのシャツに縋る。
からん、と少年の手の中の缶ジュースが落とされる。
「・・・・ナルト」
床にトクトクとこぼれたオレンジ色の液体を見つつ、カカシは金色の頭を抱きかかえる。職場の同僚には決断はいつだって早いほうだといわれる。とくに、それが大事なものであるほど。
「・・・オレと一緒に暮らす?」
「え?」
「おまえがそんなに辛いなら、オレのとこにくればいいでしょ?」
「だって・・・そんな迷惑ぢゃ・・・」
「そのために呼んでくれたんぢゃないの?大人のオレを頼ってくれたと思ったのに、センセイ、ちょっとがっかりするぞ?」
「ほんとにいいんだってば・・・?」
「オレの大切な恋人でいてくれるならね?」
おどけたように言ってみせれば、くしゃくしゃに顔を歪めた少年が一時息を止めたかと思うとわああああと泣いた。
「おまえ泣き顔ぶさいくだねー」
とカカシが言うと少年はぽかぽかと大人の胸を叩いたのだけど。
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職業 ノラ
趣味 散歩・ゴミ箱漁り
餌 カカナル
夢 集団行動
唄 椎名林檎
性質 人間未満
日記 猫日和
ある日、カカナルという名のブラックホールに迷いこむ。困ったことに抜け出せそうにない。