てってけ、てってけ、とひよこさんのぽしぇっとを横掛けにした半人半獣の仔狐が人生色々へとやって来た。左右に揺れる尻尾をふりふり、元気良く木の葉の里を闊歩して飼い主のカカシをお迎えに来たのである。
「さしゅけ…!」
人生色々に遊びに来たナルトは見知った黒髪の青年を発見して、とてとてと駆け寄って行った。
「さしゅけ、なうととさくらちゃんをかけてしょーぶしろってば!いざ、じんじょーにしょーぶ!しょーぶ!」
「おまえはいつもそれだな。いい加減あきねぇのか?」
「なうとはちっともあきない!今日こそさくらちゃんをかけておとこ同士のしょーぶしろぉおおしゅかしやろーっ!」
人生色々のベンチに腰掛け、頬杖を突いていたサスケは呆れたように、眼下のへんてこな生物を見降ろした。するとへんてこ生物は、サスケが見ている前で、ぷうっと頬を膨らませた。
「さしゅけ、なうととしょぉおぶ!しょぉおぶ!今日こそ〝ぎゃふん〟って言わせてやるんだってばよー!」
「あのな、ドベ。オレは手前に構ってやるほど暇じゃねぇんだよ」
「なんだとーっ。さてはなうとの実力に恐れをなしたってば!?ふっふっふ、さしゅけってばなうとに負けるの怖いんだろーっ」
「……ウスラトンカチが」
「やーい、弱虫んぼ。てきぜんとーぼー。なうとに負けるのが怖いんだろーっ?」
この青年。クールな見た目にそぐわず案外、負けん気の強いところがある。そのままむにーっと三頭身生物の頬を左右に引っ張るとぶさいくな顔がそのまま者の見事に泣きっ面になる。
「う~~さしゅけのくせに引っ張るなぁああああ。おのれ、うちはさしゅけ。このくつじょく、はらさずにいるものか~!」
「あーもー…少し黙ってろ。なんか奢ってやるから」
「…おごり!?」
奢りという言葉にナルトの三角耳がぴんと立つ。このお子様、ラーメンしかりすべからく人間から与えられる食べ物に弱い。カカシから知らないクマがお菓子をあげると言ってもついて行ってはいけないと厳しく躾されているほどだ。
「さしゅけがどーしてもって言うならおごってくれてもいいってばよ!」
「……お、まえなぁ」
どーん、と満面の笑顔でサスケの隣を陣取った仔狐。きゃー、サスケ君と小動物!と中忍のくのいちたちが遠巻きに騒ぎ出すのを横目で流しつつ、サスケは隣の仔狐を見降ろした。
「女ってのはどうしてこういちいちどうでもいいことに騒ぐんだか…」
「どうしたんだってば。さしゅけ。おなかいたいのか?」
「おまえはそれくらいしか悩みがなくっていいな…」
お汁粉缶を両手で持ったナルトは「うむ。くるしゅうないってば」と偉そうにのたまったあと、ふーふーと缶を啜っている。
「………」
頬杖を突いたままナルトを見降ろしていたサスケはしばらくの沈黙のあと、ぎゅとその頬をつねった。思っていたとおり、餅のようにナルトの頬はよく伸びたが、
「ふぎゃぁあああん」
当然のことながらサスケからの仕打ちにナルトは盛大に泣き出した。がぶっと噛みつかれそうになり、さっと避けるとそれも気にくわなったらしく、まるで子供同士のように手足を交差するような喧嘩に発展しそうになる。
「んー。おまえら、なにやってンの?」
白い煙と共に現れた上忍がいなければ、16歳とお子様による底辺の喧嘩が始まったであろう。
「ナルト。泣くくらいならサスケに突っかかるんじゃないって何度も言ったデショ?」
「だって、あいつ、ムカツクんだってば。なうとのこと、ドベって言うんだってば。なうと、ドベじゃねぇのに」
ジンジンと痛む両頬を抑えたナルトは人生色々の床に二本の足を投げ出したまま、ぷっと膨れる。
「サスケも少し大人気ないよ。子供相手におまえらしくもない…」
サスケといえば、お子様と一緒にカカシに叱られ、ついとそっぽを向いてしまっている。
「ほら、ナルトもサスケと仲直りして来なさい」
「さしゅけはいじわるだからきらいだってば」
「そう。オレは二人に仲良くして欲しいと思うけどねぇ」
カカシの言葉にそれまで頬を抑えていたナルトが不思議そうに首を傾げる。そうすると子供の三角耳も子供の気持ちと一緒になってぱたんと頭に倒れるので見ていて面白い。だから、カカシは苦笑しながら言葉を続けた。
「あいつはオレの生徒デショ。それにサスケは一人暮らしなんだよ。見ての通りあの性格だし、
人の親切突っぱねちゃうから、誰かが面倒を見ていてあげなきゃいけないデショ?」
〝わかった、おやごころってやつなんだな!〟とナルトが知ったかぶりをするとカカシは何かツボだったのか爆笑した。
「ふぅん、じゃあさしゅけもなうとと同じなんだな…」
「そうだね、オレからすれば、おまえもサスケも同じくらい手のかかるヤツだよ」
くっ、くっ、くっ、と未だ背中を震わせて唯一晒した右目の涙を拭ったカカシは、次いで思い付いたように言った。
「ああ、そうだ。今日はみんなで夕ご飯食べようか」
このカカシの呑気な一言に、サスケ青年はぎょっとした顔をし、ナルトは「どーしてもっていうんなら、いっしょにたべてやってもいーってばよ。どーしてもって言うならな!」とふんぞり返って、尻尾を反らした。その後のナルトといえば、夕飯時に野菜を全てサスケの皿に移動させるという好き嫌いを発揮して、案の定カカシに叱られていた。