空気猫
空気猫
猫さんがどれだけオトナルに夢を見ているかとくと味わうがいい!
(オトナルは背中に大輪の花を背負ってると思います効果音はシャランラ)
でわknock、knockからどうぞー。
でわknock、knockからどうぞー。
「カカシ先生いい加減にしろってばよー!」
火の国、木の葉の里。麗らかな午後のある日。伸びやかな青年の声が、アカデミーの校庭に響いていた。12歳に満たない子供たちに囲まれているのは、金髪碧眼の二十歳前後の青年で、通常より長い鉢巻型の木の葉マークの額宛てが風に靡いて、青年の金糸を一際美しく見せている。
青年の名前はうずまきナルト。現在、不慮の事故で足を骨折して入院中のうみのイルカの代理として、一週間前からアカデミーの下級クラスの担任を受け持つことになった風変わりな毛色の臨時教員だ。
彼の特徴をあげるとすれば、忍者としては、目立ち過ぎる色彩も然ることながら、まず、第一に声が大きい。そのうえ、忍なのに、気配を隠そうとしない。教師のくせにおっちょこちょいで、落ち着きがなく不器用だ。廊下では、教材を満載したダンボール箱を両手に持ってコケている姿をよく目撃され、本当に上忍なのかと生徒たちに首を捻られることもしばしばで、忍のくせに人懐っこく無防備で女子生徒からクッキーなどを差し入れられるとこれ以上ないほど、綺麗な笑顔で笑う。
だが、彼は紛れもなく、この里の代表格と成りつつある上忍なのだ。隠れた実力はもちろんのこと、懐は大きく、面倒見も良い。生来のノリの良さから男子生徒とは休み時間に一緒になってはしゃぎ笑い、美しい容姿のため女子生徒からは憧れの視線を向けられる。褒める時は褒め、叱る時はがっつり叱る指導方針。座学よりも課外授業が多いことが難点だが、生徒と一緒になって授業に望み、よく笑い、よく仕事に励み、そのうえ器量良しときたものだ。器量の面はプライスレスオプションではあるが、これ以上、アカデミーの教師として適任の教師も居まい。
そんな新米臨時教師に、一つだけ悩み事があった。
「カカシ先生!」
それは、彼の恋人はたけカカシのことだ。
「毎回、毎回、オレの授業を邪魔して何が楽しいんだってば!」
額宛てを靡かせたナルトは腰に手を当てて、カカシを怒鳴り散らす。
「邪魔なんてしてないよ」
「カカシ先生がいると生徒たちが集中できねえんだってば」
上忍はたけカカシは、課外授業中のナルトと生徒たちの傍で、木の幹に背を預けて、素知らぬ顔で本のページに目を落としていた。
「子供の前で堂々とエロ本を読むんじゃねー」
ナルトの注意もなんのその、18禁本を片手にカカシは怪しい笑いを漏らす。
「カカシ先生―!!!」
ムキーというナルトの怒鳴り声が地響きとなって、職員室で呑気にお茶を啜っていたベテラン教師スズメに、茶を噴かせた。
「ナルト先生、なんであんな人と付き合ってるんですか」
授業が終わり、何名かの生徒を引き連れて一楽に向かう途中の道で、生徒の一人がそんなことを言った。ナルトは困ったように三本髭の頬を指で引っ掻き、自分たちの一歩後ろをのそのそとした足取りで付いてきている上忍にちらりと視線を向ける。
「いやぁ、まぁ、なんつーか………カカシ先生とオレの付き合いは結構長くてさ。別れる理由もないし、成り行き?」
「ええええ、そんな感じなんですか!?」
信じらんなぁい!!と女の子たちが騒ぎ出す。彼女たちの目は大恋愛の果ての関係でなければいけないと如実に語っていた。
「でも、ちゃんと好きだってばよ…?」
ナルトは照れが入るのか、はにかんだように顔を赤らめて笑う。その笑顔が落ち着いていて、伏せられた睫毛が余りに綺麗だったから「ナルト先生って意外に大人なんですね…」まだお付き合いの経験のない女の子たちが声を顰めて密かに尊敬の眼差しを送る。
熱の籠った眼差しに欠片も気付かず、ナルトはまた微笑む。
「……ああ、見えてもいい人なんだってばよ」
「あれのどこがですか!?」
猫背の上忍を指差して生徒全員が声を揃えた。「ははは……」とナルトが乾いた笑みを漏らす。そう言えば、自分も初対面の時はなんて胡散臭い教師なのだと思っていたのを思い出し、子供たちに自分とカカシとの間に流れている関係をどうやって説明しようかと頭を悩ませた。
確かに、四六時中暇さえあればエロ本を読み、左目を額宛で隠し、顔の半分以上を口布で覆った表情の伺えない忍は怪しいことこの上ないかもしれない。
そのうえ、カカシと来たら一楽でも子供たちを押しのけて、ちゃっかりナルトの隣の席を陣取り、子供たちと諍いを起こすのだ。ぎゃーぎゃー騒ぐ子供たちを余所にイチャパラ本を片手に無言でナルトの横をキープする姿は大人気ないという以前に変人の域に達しているかもしれない。
「あのさ、あのさ、カカシ先生ってば実はマスクの下は凄くカッコイイ人なんだってばよ」
「ええ、うそぉ!」
ナルトの微妙に外れたフォローに女の子たちが一斉に騒ぎ出す。ナルトはまた「ハハハ」と笑い、後ろを歩く大人に助けを求めたが、カカシは相変わらず本のページに目を落としたままだった。
(ちぇー…カカシ先生ってばぜーんぶ聞いてるくせに知らんぷりだってば)
「うおー、食った食った」
一楽を出てからも相変わらず、子供に囲まれたナルトと、後ろを歩くカカシの距離は変わらない。夕暮れの空に、すでに見え始めた薄っすらと浮かび上がる三日月。月が、近い。
次の瞬間、ナルトは身体をぴくりと強張らせた。背筋を駆け上がるその感覚は…。
「……――わりぃ。おまえら今日はここまでに勘弁してくれねぇ?」
「えー!!」
「今日はナルト先生の家に連れてってくれる約束だったのに」
「ごめんな。今度、埋め合わせをするから」
ナルトの腰元に群がっていた子供たちが抗議の声を上げるのを「わりい!」と手を立てに振って謝罪して、ナルトは解散の合図を告げる。ぶつくさ文句を言う子供たちと別れ、あとに残ったのはナルトとイチャパラ本に目を落とした大人だけだった。
夕暮れの空の下、沈黙がしばらく上忍二名の間で落ちて、最初に口を開いたのは、金髪碧眼の青年の方だった。
「………カカシせんせぇ」
「なあに?」
「今日、暇……?」
言わずと知れたことを尋ね、ナルトは息も絶え絶えに自分の上忍服のベストを鷲掴んで、近くの壁に凭れ掛かった。体温も上昇しているようで、頬が上気している。
「…………っはぁ」
「月が赤いな……」
「……そうみてぇ」
睫毛を震わして、身体の芯から湧き上る疼きに耐える青年の頬を撫でながらカカシが答える。「んん、カカシせんせぇ……」とナルトが物欲しそうにカカシを見つめ、熱の灯ったため息を漏らした。
「カカシ先生が欲しいってば。シヨ…?」
日頃のナルトの性格からは考えられない露骨な誘い文句と情事の催促。
「オレの腹の中、掻き回して?」
「ナルト……」
「そのために、オレに傍にいてくれてたんだろ…?」
「オレは、大切な恋人の望みならいつでも喜んで抱いてあげるよ?」
「ありがとうってば…」
「もちろんそれ以外の時もね?」
「うん。早くカカシ先生とシタいってば。シテ?」
熱っぽい瞳が誘うように、眇められた。はぁはぁと荒く甘い息を吐き、色っぽく自分を見つめる青年に、カカシはごくんと喉を垂下させる。
「ここで可愛がられるのと、オレの部屋で可愛がられるの、どっちがいい?おまえに選ばせてあげる」
カカシの声に耳を撫でられて、ナルトが鳥肌を立てる。寒いのではない、吐息を掛けられたところが熱いのだ。擦り切れそうな理性でナルトはカカシの首に縋り付いて「オレの家っ。早く運んでってば」とだけ呟いた。
火の国、木の葉の里。麗らかな午後のある日。伸びやかな青年の声が、アカデミーの校庭に響いていた。12歳に満たない子供たちに囲まれているのは、金髪碧眼の二十歳前後の青年で、通常より長い鉢巻型の木の葉マークの額宛てが風に靡いて、青年の金糸を一際美しく見せている。
青年の名前はうずまきナルト。現在、不慮の事故で足を骨折して入院中のうみのイルカの代理として、一週間前からアカデミーの下級クラスの担任を受け持つことになった風変わりな毛色の臨時教員だ。
彼の特徴をあげるとすれば、忍者としては、目立ち過ぎる色彩も然ることながら、まず、第一に声が大きい。そのうえ、忍なのに、気配を隠そうとしない。教師のくせにおっちょこちょいで、落ち着きがなく不器用だ。廊下では、教材を満載したダンボール箱を両手に持ってコケている姿をよく目撃され、本当に上忍なのかと生徒たちに首を捻られることもしばしばで、忍のくせに人懐っこく無防備で女子生徒からクッキーなどを差し入れられるとこれ以上ないほど、綺麗な笑顔で笑う。
だが、彼は紛れもなく、この里の代表格と成りつつある上忍なのだ。隠れた実力はもちろんのこと、懐は大きく、面倒見も良い。生来のノリの良さから男子生徒とは休み時間に一緒になってはしゃぎ笑い、美しい容姿のため女子生徒からは憧れの視線を向けられる。褒める時は褒め、叱る時はがっつり叱る指導方針。座学よりも課外授業が多いことが難点だが、生徒と一緒になって授業に望み、よく笑い、よく仕事に励み、そのうえ器量良しときたものだ。器量の面はプライスレスオプションではあるが、これ以上、アカデミーの教師として適任の教師も居まい。
そんな新米臨時教師に、一つだけ悩み事があった。
「カカシ先生!」
それは、彼の恋人はたけカカシのことだ。
「毎回、毎回、オレの授業を邪魔して何が楽しいんだってば!」
額宛てを靡かせたナルトは腰に手を当てて、カカシを怒鳴り散らす。
「邪魔なんてしてないよ」
「カカシ先生がいると生徒たちが集中できねえんだってば」
上忍はたけカカシは、課外授業中のナルトと生徒たちの傍で、木の幹に背を預けて、素知らぬ顔で本のページに目を落としていた。
「子供の前で堂々とエロ本を読むんじゃねー」
ナルトの注意もなんのその、18禁本を片手にカカシは怪しい笑いを漏らす。
「カカシ先生―!!!」
ムキーというナルトの怒鳴り声が地響きとなって、職員室で呑気にお茶を啜っていたベテラン教師スズメに、茶を噴かせた。
「ナルト先生、なんであんな人と付き合ってるんですか」
授業が終わり、何名かの生徒を引き連れて一楽に向かう途中の道で、生徒の一人がそんなことを言った。ナルトは困ったように三本髭の頬を指で引っ掻き、自分たちの一歩後ろをのそのそとした足取りで付いてきている上忍にちらりと視線を向ける。
「いやぁ、まぁ、なんつーか………カカシ先生とオレの付き合いは結構長くてさ。別れる理由もないし、成り行き?」
「ええええ、そんな感じなんですか!?」
信じらんなぁい!!と女の子たちが騒ぎ出す。彼女たちの目は大恋愛の果ての関係でなければいけないと如実に語っていた。
「でも、ちゃんと好きだってばよ…?」
ナルトは照れが入るのか、はにかんだように顔を赤らめて笑う。その笑顔が落ち着いていて、伏せられた睫毛が余りに綺麗だったから「ナルト先生って意外に大人なんですね…」まだお付き合いの経験のない女の子たちが声を顰めて密かに尊敬の眼差しを送る。
熱の籠った眼差しに欠片も気付かず、ナルトはまた微笑む。
「……ああ、見えてもいい人なんだってばよ」
「あれのどこがですか!?」
猫背の上忍を指差して生徒全員が声を揃えた。「ははは……」とナルトが乾いた笑みを漏らす。そう言えば、自分も初対面の時はなんて胡散臭い教師なのだと思っていたのを思い出し、子供たちに自分とカカシとの間に流れている関係をどうやって説明しようかと頭を悩ませた。
確かに、四六時中暇さえあればエロ本を読み、左目を額宛で隠し、顔の半分以上を口布で覆った表情の伺えない忍は怪しいことこの上ないかもしれない。
そのうえ、カカシと来たら一楽でも子供たちを押しのけて、ちゃっかりナルトの隣の席を陣取り、子供たちと諍いを起こすのだ。ぎゃーぎゃー騒ぐ子供たちを余所にイチャパラ本を片手に無言でナルトの横をキープする姿は大人気ないという以前に変人の域に達しているかもしれない。
「あのさ、あのさ、カカシ先生ってば実はマスクの下は凄くカッコイイ人なんだってばよ」
「ええ、うそぉ!」
ナルトの微妙に外れたフォローに女の子たちが一斉に騒ぎ出す。ナルトはまた「ハハハ」と笑い、後ろを歩く大人に助けを求めたが、カカシは相変わらず本のページに目を落としたままだった。
(ちぇー…カカシ先生ってばぜーんぶ聞いてるくせに知らんぷりだってば)
「うおー、食った食った」
一楽を出てからも相変わらず、子供に囲まれたナルトと、後ろを歩くカカシの距離は変わらない。夕暮れの空に、すでに見え始めた薄っすらと浮かび上がる三日月。月が、近い。
次の瞬間、ナルトは身体をぴくりと強張らせた。背筋を駆け上がるその感覚は…。
「……――わりぃ。おまえら今日はここまでに勘弁してくれねぇ?」
「えー!!」
「今日はナルト先生の家に連れてってくれる約束だったのに」
「ごめんな。今度、埋め合わせをするから」
ナルトの腰元に群がっていた子供たちが抗議の声を上げるのを「わりい!」と手を立てに振って謝罪して、ナルトは解散の合図を告げる。ぶつくさ文句を言う子供たちと別れ、あとに残ったのはナルトとイチャパラ本に目を落とした大人だけだった。
夕暮れの空の下、沈黙がしばらく上忍二名の間で落ちて、最初に口を開いたのは、金髪碧眼の青年の方だった。
「………カカシせんせぇ」
「なあに?」
「今日、暇……?」
言わずと知れたことを尋ね、ナルトは息も絶え絶えに自分の上忍服のベストを鷲掴んで、近くの壁に凭れ掛かった。体温も上昇しているようで、頬が上気している。
「…………っはぁ」
「月が赤いな……」
「……そうみてぇ」
睫毛を震わして、身体の芯から湧き上る疼きに耐える青年の頬を撫でながらカカシが答える。「んん、カカシせんせぇ……」とナルトが物欲しそうにカカシを見つめ、熱の灯ったため息を漏らした。
「カカシ先生が欲しいってば。シヨ…?」
日頃のナルトの性格からは考えられない露骨な誘い文句と情事の催促。
「オレの腹の中、掻き回して?」
「ナルト……」
「そのために、オレに傍にいてくれてたんだろ…?」
「オレは、大切な恋人の望みならいつでも喜んで抱いてあげるよ?」
「ありがとうってば…」
「もちろんそれ以外の時もね?」
「うん。早くカカシ先生とシタいってば。シテ?」
熱っぽい瞳が誘うように、眇められた。はぁはぁと荒く甘い息を吐き、色っぽく自分を見つめる青年に、カカシはごくんと喉を垂下させる。
「ここで可愛がられるのと、オレの部屋で可愛がられるの、どっちがいい?おまえに選ばせてあげる」
カカシの声に耳を撫でられて、ナルトが鳥肌を立てる。寒いのではない、吐息を掛けられたところが熱いのだ。擦り切れそうな理性でナルトはカカシの首に縋り付いて「オレの家っ。早く運んでってば」とだけ呟いた。
ちなみに某響さんとこ寄贈のオトナル先生と微妙にリンクしています^v^
絵本調の世界です。
メランコリニスタ シンドローム
お散歩、お散歩。楽しいな。木の葉の里を出て、草原を超えて、一番星が見える丘に登る。
シナモン、チョコレイト、レモンキャンディ、ソーダ水、バニラアイスクリーム、そうそうショートケーキも忘れずに。バスケットにたくさん詰めて、二人で大きなリュックサック背負って、カカシセンセーには苦い、苦いコーヒーなんて…おまえは用意してくれるのかな?
「カカシ先生?」
「んー…」
「起きてってば。カカシ先生」
「修行、終わったの?」
「今、終わったってば」
「それでは先生と一緒に帰りましょ~か?」
「おう!」
手を握って、二人で帰る帰り道。オレの中ではデートなんだけど、おまえはどうかな。
オレの一歩は、おまえの二歩半で、子供の息が切れないように、小さな歩幅に合わせて歩く。しあわせってこういう時間を言うのかもしれない。
「今日は一楽に寄って行きますか」
「やったー!」
「お代りは二杯までな」
「カカシ先生のケチ」
「おまえ。食べ過ぎると、おなか壊すでしょ」
そんなことねぇもん、とムクれた顔で足にじゃれつく子供。オレの腰元までしかないんだよね。下忍選定で合格にさせた、初めての教え子。黒色、桃色、金色。悲劇の一族の復讐者に、裏になーんか別の人格を隠してそうな女の子に、最後は里の嫌われ者。一癖も二癖もありそうな、子供たち。だけど、その中でもオレの格別のお気に入りは金色のこの子。
ドベ? なにを言ってるの。おまえたちの目は節穴なんじゃなぁい?この子は伸びるよ。オレが保障する。今にキラキラ輝いて、雛が卵から孵化するように、身も心も美しく成長するだろう。あ、もちろん今でも十分に可愛いんだけどさ。
「なー、なー、カカシ先生。夕日ってどうして赤いんだろうな!」
「うーん、どうしてだろうねぇ……?」
「えー、カカシ先生も知らねえの」
「大人にもわからないことがあるものなの。ナルトはなんでだと思う?」
「うーん、うーん。あ、そうだ。真っ赤なトマトが熟して落ちちゃうから!」
「そういう答えもいいよねぇ」
「んだよ、それ。実はカカシ先生どうしてか知ってるだろ」
「今日は一楽に寄って行きますか」
「やったー!」
「お代りは二杯までな」
「カカシ先生のケチ」
「おまえ。食べ過ぎると、おなか壊すでしょ」
そんなことねぇもん、とムクれた顔で足にじゃれつく子供。オレの腰元までしかないんだよね。下忍選定で合格にさせた、初めての教え子。黒色、桃色、金色。悲劇の一族の復讐者に、裏になーんか別の人格を隠してそうな女の子に、最後は里の嫌われ者。一癖も二癖もありそうな、子供たち。だけど、その中でもオレの格別のお気に入りは金色のこの子。
ドベ? なにを言ってるの。おまえたちの目は節穴なんじゃなぁい?この子は伸びるよ。オレが保障する。今にキラキラ輝いて、雛が卵から孵化するように、身も心も美しく成長するだろう。あ、もちろん今でも十分に可愛いんだけどさ。
「なー、なー、カカシ先生。夕日ってどうして赤いんだろうな!」
「うーん、どうしてだろうねぇ……?」
「えー、カカシ先生も知らねえの」
「大人にもわからないことがあるものなの。ナルトはなんでだと思う?」
「うーん、うーん。あ、そうだ。真っ赤なトマトが熟して落ちちゃうから!」
「そういう答えもいいよねぇ」
「んだよ、それ。実はカカシ先生どうしてか知ってるだろ」
「教科書に載ってることだけ答えてもつまらないでしょ。第一、ロマンチックじゃない」
「カカシ先生って、教師のくせに変なの!」
ニシシ、と例の笑い声が漏れて、ナルトの歩くステップが弾む。
今日はどうしたの。随分とご機嫌だねぇ。
オレと一緒に帰るのが、嬉しいとかだったりして。どうかな。
繋いだ手がやけにあったかい。自惚れてしまいそうになるよ。
オレとおまえの間には、縁も所縁もあるのだけど、運命だとか、必然だとか、そんなことを抜きにしても誰よりも大切な子。生徒としてじゃないよ。まだ、この子には秘密だけど。
「あ、ナルト」
「なーに?」
「先生、今決めました。今日は冷蔵庫チェックしに行きます。牛乳腐らせてたら腕立て30回」
「えーーー!」
「野菜も減ってなかったら、おしおきだからなー」
「うげ」
「あらら、ナルト。その顔はなーに」
「野菜はノーセンキュー!」
「カカシ先生って、教師のくせに変なの!」
ニシシ、と例の笑い声が漏れて、ナルトの歩くステップが弾む。
今日はどうしたの。随分とご機嫌だねぇ。
オレと一緒に帰るのが、嬉しいとかだったりして。どうかな。
繋いだ手がやけにあったかい。自惚れてしまいそうになるよ。
オレとおまえの間には、縁も所縁もあるのだけど、運命だとか、必然だとか、そんなことを抜きにしても誰よりも大切な子。生徒としてじゃないよ。まだ、この子には秘密だけど。
「あ、ナルト」
「なーに?」
「先生、今決めました。今日は冷蔵庫チェックしに行きます。牛乳腐らせてたら腕立て30回」
「えーーー!」
「野菜も減ってなかったら、おしおきだからなー」
「うげ」
「あらら、ナルト。その顔はなーに」
「野菜はノーセンキュー!」
「よーし。そういう態度を取るか、こちょこちょの刑…」
「ふぎゃー、カカシ先生ってばセクハラーっ」
この子に近付く口実はたくさんある。寂しがり屋の強がり虫。そのうえ、誰かの体温には飢えているときた。オレの人肌で良ければ温めてあげたいんだけど、今のおまえに言ったら火影岩の向こう側まで逃げて行きそう。――ひとりぼっちの子は悪い大人に攫われても知らないよ? なんて、オレの願望です。
ナルトとふざけていると里人がざわめいた。いつの間にかひと気のある場所まで辿りついていたらしい。陰口、悪口、冷たい目。見えない無数の棘。痛いよね、心が。
途端にナルトの表情に影が差す。
「あのさ、カカシ先生。オレたち、ちょっと離れて歩こう?」
「なんで?」
「どうしても」
「えー……。それはいやだなあ」
別にこんな奴等、蹴散らしてもいいんだけど、おまえの精一杯の強がりがあんまりにも意地らしいから愚鈍な大人に甘んじてあげる。だけど手は離さないよ。我儘な大人でごめーんね?
「……カカシせんせぇ」
こら、こんなとこで舌っ足らずな可愛いお願いの仕方を使わないで。おねだりなら、もっと別の場面されてみたいもんでしょ。男なら。
「ナルトぉ」
思わず情けない声が出た。そして、「なんだってば」と小首をかしげてくれる、可愛い子。
「もしもの話なんだけど聞いてくれる?」
「?」
ナルトと手を繋ぎながら、茨道のような商店街を歩く。通行人がオレたちのこと、避けてくれるのは有り難いんだけど、ねえオレが手を繋いでるこの子は人間ですよ?それも格別可愛い子供なんです。なんて、オレがいくら騒いだところで、憎しみで心がいっぱいの聾唖者の集団には聞こえないのかな。
「先生、今考えたんだけど」
――ねぇ、ナルト。おまえの哀しい所作を見てしまうたびに、ナルトにとってのしあわせって何かなって先生、考えちゃうんだ。
「もし、おまえがどうしてもこの場所で我慢出来なくなったら、オレと一緒にしあわせな国に行こうか」
「っ?」
「世界は広いよ。木の葉以外にも大きな街や都市はたくさんある。そこでいつまでもいつまでもしあわせに暮らそう。毎日、甘いお菓子をいっぱい食べてさ」
ああ、菓子類を使って子供を釣るなんて、これでは本当に誘拐犯の台詞だ。そういえば、昔一回だけまだ赤ん坊だったナルトを連れて、里を抜けようとしたことがあったけ。
あの時は、火影さまの差し向けた暗部に捕まって、オレたちの逃避行は呆気なく終了したが、もしもあの時、あの逃走が成功していたらどうなっていただろう。ナルトは、理不尽な暴力も罵倒も浴びることなく、平和に暮らせていただろうか。オレは、オレの手で育てたナルトと一般人のように生活し、オレ以外の男を知らないナルトと恋人同士なんて関係になれていただろうか。毎日、一緒に寝起きして、おはようのちゅーとかしちゃったりしてさ。…はは、若い若い。苦い、苦い。
「カカシ先生」
夢想家なオレに呆れてか、ナルトは、ぽっかり口を開けてオレを見上げている。その意外性ナンバーワンの頭で何を考えてるの?
もし、オレが里を抜けるって言ったらおまえはついて来てくれるかな。ズルい大人が言葉巧みにお願いしたら優しいおまえはどうするかな。
「そんなこと考えちゃだめだってば」
あらら、怒られちゃった。真ん丸いほっぺがぷっくりと膨らんでいる。誰かに聞かれたら大騒ぎになってしまいそうなとんでもないことを。口に出したつもりはないけど、オレの考えが読めたとか?
「どうして。ナルト?」
「変なカカシ先生。オレ、この里が好きだもん。そりゃ井の中の蛙かも知れねえけど、オレは木の葉で生きていたい。そんで火影になって見せるんだってば」
ありゃま。そう来るか。おまえの夢だもんねえ、火影を超えるだっけ。だけど、こんな里のどこがいいの。おまえに冷たいだけの世界じゃない。だって。だって、だってさ―――。
「また狐が叶いもしない夢を見ているよ」
「なんてバカな子供なんだろう」
〝火影になる〟というナルトの声が聞こえたのだろうか。クスクスと周囲から笑い声が起きた。ああ、ナルト。そんなに唇を噛んじゃ駄目だよ。血が出ちゃうでしょ。
「どうしてなんだろう」
「んー…?」
「どうして、オレが、火影になるって言うと、みんな笑うんだろう。〝ドべ〟のオレのは無理だってバカにするんだろう。どうして、やる前からダメだって決め付けるんだってば。挑戦することをなんで笑うんだってば、夢に向かって努力することは自由だろ…!」
「……ナルト」
おまえのその怒りに震える小さな身体を抱き締めたくなる。それくらい許されるかな。
弱いオレが強いおまえをきちんと抱き締めれるかな。
「オレはおまえの夢を笑わないよ」
「ありがとう…、カカシ先生」
握った手、強くする。オレのこの気持ちがおまえに伝わればいい。
「カカシ先生。オレってばゼッテー負けねえ。オレな、人が、オレの夢を笑うたびに〝あぁ、自分の夢は素晴らしいんだ〟って誇りに思うんだ。オレってば、素晴らしい夢ほど、人に言ったら笑われるもんだと思う。バカにしたい奴等はバカにすればいいんだ。オレは夢に向かって走るから」
おまえ、そのちっちゃい口でエラそうなこと言うねえ。
だけど、なんでだろう。とても眩しいよ。
「だからね、カカシ先生。オレはこれからここで、自分の夢が素晴らしいものだって証明してみせる。カカシ先生にはさ、オレが夢を叶えるのを傍で見ていて欲しいってば」
「オレに…?」
「そう。だって、オレってばカカシ先生の驚いた顔、いっぺんも見たことないんだもん。一回、その眠そうな目を見開かせて見せるってば」
おまえといると、オレまで百面相になった気分になるんだけどなぁ。まぁ、いいか。オレはナルトと手を繋いで、トゲトゲの視線でいっぱいの商店街を歩いた。
お散歩、お散歩。ナルトとお散歩。楽しいな。
この里がおまえにとって、メランコリーの国であっても、
今はまだ、おまえがここに居たいというなら、
つまりおまえがここで忍者したいっていうなら、
演習場から、おまえの家に続く道の間で、
お散歩、お散歩。ナルトとお散歩。楽しいな。 また明日。
「ふぎゃー、カカシ先生ってばセクハラーっ」
この子に近付く口実はたくさんある。寂しがり屋の強がり虫。そのうえ、誰かの体温には飢えているときた。オレの人肌で良ければ温めてあげたいんだけど、今のおまえに言ったら火影岩の向こう側まで逃げて行きそう。――ひとりぼっちの子は悪い大人に攫われても知らないよ? なんて、オレの願望です。
ナルトとふざけていると里人がざわめいた。いつの間にかひと気のある場所まで辿りついていたらしい。陰口、悪口、冷たい目。見えない無数の棘。痛いよね、心が。
途端にナルトの表情に影が差す。
「あのさ、カカシ先生。オレたち、ちょっと離れて歩こう?」
「なんで?」
「どうしても」
「えー……。それはいやだなあ」
別にこんな奴等、蹴散らしてもいいんだけど、おまえの精一杯の強がりがあんまりにも意地らしいから愚鈍な大人に甘んじてあげる。だけど手は離さないよ。我儘な大人でごめーんね?
「……カカシせんせぇ」
こら、こんなとこで舌っ足らずな可愛いお願いの仕方を使わないで。おねだりなら、もっと別の場面されてみたいもんでしょ。男なら。
「ナルトぉ」
思わず情けない声が出た。そして、「なんだってば」と小首をかしげてくれる、可愛い子。
「もしもの話なんだけど聞いてくれる?」
「?」
ナルトと手を繋ぎながら、茨道のような商店街を歩く。通行人がオレたちのこと、避けてくれるのは有り難いんだけど、ねえオレが手を繋いでるこの子は人間ですよ?それも格別可愛い子供なんです。なんて、オレがいくら騒いだところで、憎しみで心がいっぱいの聾唖者の集団には聞こえないのかな。
「先生、今考えたんだけど」
――ねぇ、ナルト。おまえの哀しい所作を見てしまうたびに、ナルトにとってのしあわせって何かなって先生、考えちゃうんだ。
「もし、おまえがどうしてもこの場所で我慢出来なくなったら、オレと一緒にしあわせな国に行こうか」
「っ?」
「世界は広いよ。木の葉以外にも大きな街や都市はたくさんある。そこでいつまでもいつまでもしあわせに暮らそう。毎日、甘いお菓子をいっぱい食べてさ」
ああ、菓子類を使って子供を釣るなんて、これでは本当に誘拐犯の台詞だ。そういえば、昔一回だけまだ赤ん坊だったナルトを連れて、里を抜けようとしたことがあったけ。
あの時は、火影さまの差し向けた暗部に捕まって、オレたちの逃避行は呆気なく終了したが、もしもあの時、あの逃走が成功していたらどうなっていただろう。ナルトは、理不尽な暴力も罵倒も浴びることなく、平和に暮らせていただろうか。オレは、オレの手で育てたナルトと一般人のように生活し、オレ以外の男を知らないナルトと恋人同士なんて関係になれていただろうか。毎日、一緒に寝起きして、おはようのちゅーとかしちゃったりしてさ。…はは、若い若い。苦い、苦い。
「カカシ先生」
夢想家なオレに呆れてか、ナルトは、ぽっかり口を開けてオレを見上げている。その意外性ナンバーワンの頭で何を考えてるの?
もし、オレが里を抜けるって言ったらおまえはついて来てくれるかな。ズルい大人が言葉巧みにお願いしたら優しいおまえはどうするかな。
「そんなこと考えちゃだめだってば」
あらら、怒られちゃった。真ん丸いほっぺがぷっくりと膨らんでいる。誰かに聞かれたら大騒ぎになってしまいそうなとんでもないことを。口に出したつもりはないけど、オレの考えが読めたとか?
「どうして。ナルト?」
「変なカカシ先生。オレ、この里が好きだもん。そりゃ井の中の蛙かも知れねえけど、オレは木の葉で生きていたい。そんで火影になって見せるんだってば」
ありゃま。そう来るか。おまえの夢だもんねえ、火影を超えるだっけ。だけど、こんな里のどこがいいの。おまえに冷たいだけの世界じゃない。だって。だって、だってさ―――。
「また狐が叶いもしない夢を見ているよ」
「なんてバカな子供なんだろう」
〝火影になる〟というナルトの声が聞こえたのだろうか。クスクスと周囲から笑い声が起きた。ああ、ナルト。そんなに唇を噛んじゃ駄目だよ。血が出ちゃうでしょ。
「どうしてなんだろう」
「んー…?」
「どうして、オレが、火影になるって言うと、みんな笑うんだろう。〝ドべ〟のオレのは無理だってバカにするんだろう。どうして、やる前からダメだって決め付けるんだってば。挑戦することをなんで笑うんだってば、夢に向かって努力することは自由だろ…!」
「……ナルト」
おまえのその怒りに震える小さな身体を抱き締めたくなる。それくらい許されるかな。
弱いオレが強いおまえをきちんと抱き締めれるかな。
「オレはおまえの夢を笑わないよ」
「ありがとう…、カカシ先生」
握った手、強くする。オレのこの気持ちがおまえに伝わればいい。
「カカシ先生。オレってばゼッテー負けねえ。オレな、人が、オレの夢を笑うたびに〝あぁ、自分の夢は素晴らしいんだ〟って誇りに思うんだ。オレってば、素晴らしい夢ほど、人に言ったら笑われるもんだと思う。バカにしたい奴等はバカにすればいいんだ。オレは夢に向かって走るから」
おまえ、そのちっちゃい口でエラそうなこと言うねえ。
だけど、なんでだろう。とても眩しいよ。
「だからね、カカシ先生。オレはこれからここで、自分の夢が素晴らしいものだって証明してみせる。カカシ先生にはさ、オレが夢を叶えるのを傍で見ていて欲しいってば」
「オレに…?」
「そう。だって、オレってばカカシ先生の驚いた顔、いっぺんも見たことないんだもん。一回、その眠そうな目を見開かせて見せるってば」
おまえといると、オレまで百面相になった気分になるんだけどなぁ。まぁ、いいか。オレはナルトと手を繋いで、トゲトゲの視線でいっぱいの商店街を歩いた。
お散歩、お散歩。ナルトとお散歩。楽しいな。
この里がおまえにとって、メランコリーの国であっても、
今はまだ、おまえがここに居たいというなら、
つまりおまえがここで忍者したいっていうなら、
演習場から、おまえの家に続く道の間で、
お散歩、お散歩。ナルトとお散歩。楽しいな。 また明日。
メランコリー=憂鬱
クレイジーガーデンさまお疲れさまでした☆
ー日常編ー
しつけの時間
しつけの時間
アスマが、カカシの家に行った時すでに、そこは酷い惨状だった。くすん、くすんと泣いている、狐っ子を前に、アスマはガシガシと後頭部を掻いた。
「あー…なんだ」
「カァシにはナイショ。いっちゃ、めーよ?あしゅま、め? め、わかるってば?」
ふっくらとした唇に人差し指をあてて、ナルトはお願いポーズをした。いったいどこでこういった仕草を覚えてくるのかアスマは眩暈を起こしそうになりつつ、カカシの部屋の隅っこにある四角い旧型テレビを恨めしげに睨んだ。
「あしゅま、なうとのお願いわかる…?」
しょんぼりと垂れた狐耳。うるうるに潤んだ碧い瞳。ましゅまろみたいな赤いほっぺ。ちんちくりんな顔のくせに、震える唇はさくらんぼのように赤かった。妙に愛らしい狐の子の足元には水たまり。
「なうと、悪い子したらカァシに怒られる。カァシ、怒ったら怖いにょ。めーってされるの。あしゅま、わかる?」
アスマは口から煙草を取り落としかける。ふらふらと手が伸びそうになって。おいおいおい。そりゃまずいって。とガキ相手にイケナイ気分に肝を冷やした。
「カァシ、なうとにぷんぷんしたらおっかいの…」
「あー……、ああ見えてカカシはスパルタだからな?」
細かいし潔癖症だしな、とアスマは、小さな大惨事を見下ろして煙草を吹かした。アスマはため息を一つ吐くと、ナルトの湿ったカボチャパンツを脱がしてやり、タンスから新しいのに変えて、まだ涙やら鼻水やらで大変なことになっている顔を拭いてやる。さすが甥っ子がいるだけあり手馴れたものである。
「あしゅま。さんきゅ。クマでも役に立つことがあるってば。カァシの言った通りだってば」
「おまえさんなー……」
風邪を寝込んで以来、ナルトはアスマの言うことを素直に利くようになった。絆が深まったわけではなく、どうやらカカシが、「自分がいない時はアスマが代わり」なのだと言い聞かせたらしい。それ以来、カカシが任務で出ている時、アスマが家にやって来てもナルトがアスマを追い出すことはなくなり、一応和解したのだ。
「しかしなぁ、いくらカカシが厳しいっつってもガキが小便漏らしたくらいで怒るかぁ?」
「だめっ。なうと、一人でおトイレ出来るんだも…。だからカァシにはナイショ!」
顔を真っ赤にさせて、ナルトが着替えたばかりの上服を引っ張る。まんまるい頬はリンゴのほっぺみたいに真っ赤になっている。
唇をぎゅっと噛んで俯いて…どうやら、怒られるのが怖いというより、トイレに失敗したことをカカシに知られたくないらしい。
(難しいお年頃って奴かぁ…?オレがこんくらいの時はどうだったけ)
思い出してみたが、どうもこうした面での繊細な感情とは掛け離れた少年だったと思う。それとも相手が実の両親ではなく、カカシであるということがこの狐の子にはネックなのかもしれない。何しろ子守りをしている最中にナルトがアスマに話すことと言ったら、カカシがいかにカッコイイかなのだ。ナルトの話の中のカカシはまるでスーパーヒーローかスーパースターのように聞こえる。確かにカカシは見目は小綺麗な顔をしているかもしれないが、友人としては、色々抜けている性格だと思う。
ただ、確かにここまで想われれば悪い気はしないかもしれない。この子供に対するカカシのいつにない溺愛っぷりもわかる気がした。
アスマはこの間、近所のスーパーの食玩コーナーで対象年齢三歳児以上と記載されているパッケージの箱と対峙しているカカシを目撃してしまった。里を代表する上忍が真剣な顔でいったい何をやってるのか、カカシの背後では暗部の後輩等が涙を流しつつ、その光景を見守っていた。そう言えば暗部の間では、カカシさんはスーパーなんかで買い物しないんだ!!という伝説が流れていたような気がする。それではカカシはトイレにも入らないのか…とアスマは無性にツッコミを入れてやりたくなった。いつから木の葉の里の暗部の頭は暢気になったのだろう。アスマは里の将来を憂いた。
「あしゅま、ナルのパンツ洗濯してってば…!」
「はぁ……?」
「はやくすうの。カァシ帰って来うでしょー!!」
必至だな…と思いつつも、アスマはナルトにぐいぐい腰を押され、洗面所に向かわされる。髭の大男と三角耳尻尾付きの子供が並ぶ姿は、まるで大熊とヒヨコのようだ。
「アースーマ??」
「やべ、カカシだ」
「ナルトを甘やかすなってあれほどいったデショー??」
玄関を見れば、ただいま帰宅したと思われるはたけカカシが、長ネギの飛び出したスーパーの袋を片手にブラ提げて、般若の顔で怒っていた。ああ、あのカカシが所帯染みて来てやがる、とアスマは全然関係ないことで感動しつつ、今日も木の葉の里に華麗な噂とは真逆のシュールな姿を晒す、友人を片手を上げて、〝おう〟と出迎えた。
「いや、これにはわけがあってな?」
「ナルト。おまえ、おねしょしたの……?」
「あう……」
ナルトはバツが悪そうに、壁際に背中をくっつけて、カカシとアスマの持っているぐるぐる巻きのシーツやら自分の下着やらに視線をやる。
「アスマもいい歳してこいつの隠蔽工作に加担するんじゃないよ」
「おま、だってそりゃ不可抗力ってもんだろうがよぉ。まだこいつはちっせぇことだしよ」
ナルトのおねしょの証拠隠滅をしていたアスマは、なぜか子供と一緒に叱られるはめになった。大体、ガキってーのは吐いたり漏らすものなのだと言ってやりたくなったが、三白眼を光らせたカカシに、ここにオカンがいる…とアスマは後ずさった。
「やぁああ。かぁしごめんしゃい、めんしゃいぃぃ。ぺんぺんはやーなのぉ」
「ダ・メ。ナルト、こっちに来なさい」
ぴしゃりと言い放ったカカシに、ナルトの狐耳が垂れて、涙の粒が決壊する。
「ひっく、ひっく。ごめ、ごめんなしゃい、ごめんなしゃい」
確かに、暗部の後輩でもカカシに睨まれればまったく情けないことなのだが、腰を抜かす若輩者がいるくらいだし、まだ小さなナルトにはカカシの怒り顔は相当怖いのかもしれない。
それでも、ナルトは耳と尻尾をぺたんと垂らしながらも、カカシから逃げようとしない。カカシが屈み込むとナルトの身体が頭の上の三角耳と一緒に震える。その様子にカカシは長いため息を吐いた。
「叩かないよ……?」
カカシの言葉にナルトは恐る恐ると言ったふうに視線を上げる。そこにいたのは、優しげな微笑を浮かべているカカシだった。
「カァシ……」
「オレは、おまえが、いけないことをしたら容赦なく叱るよ。だけど、理不尽な理由でおまえを打ったりはしない」
カカシは、ナルトのふくふくとした両手を自分の両手と重ねて尋ねた。
「ナルト、なんでオレが怒ったかわかる?」
「おねしょちたからだってば?」
「ちがーうよ。ナルトが嘘吐いたからなの。おまえ、オレにおねしょのこと隠そうとしたデショ?」
「あう……」
「嘘はいけないことなの。わかる?」
「…………いけな?」
「そ、失敗したことから逃げちゃだめなの。ナルトは一人前の立派な狐の男の子になるんでしょ?」
ふわん、とナルトの尻尾が膨らむ。立派な狐の男の子ってなんだそりゃ…とアスマが内心でツッコミを入れたが、当の二人、とくにナルトの顔は真剣そのものだった。
「ふぇ…ふぇええええ。もうちない。カァシごめんなしゃいいい」
「ん。よしよし。ナルト、お口あけてごらん?」
「うにゅ」
「いいから。ほら、あー」
「あー」
カカシはポケットから出した包み紙を剥がして口の中に放り込んでやる。
「あまあま」
「ちゃんとごめんなさい言えたからご褒美だよ」
「カァシー、うまうまぁー」
足にきゅうと抱きついて懐く子狐。
「……おまえなんか先生みてーだな」
一連の動作を見守っていたアスマが口を開く。すると、ナルトの青玉が見開かれる。
「せんせぇ?」
カカシを見上げながらナルトは不思議そうに首を傾げ、花が咲くように笑った。
「カシシせんせぇ」
「ありゃま」
「カシシせんせぇ、カシシせんせぇ!!」
「こら、ナルト。すぐ飛びつくんじゃない……」
「気に入ったみてぇだな」
「おまえね。オレ、教師なんかじゃないんだけど?」
「いいじゃねーか。似たようなもんだろ」
「カシシ先生!」
お隣のカカシさんシリーズ第2弾
スバラシキ世界
年末年始っておめでたい行事なはずなのに、どうして暗いニュースばかりが続くのだろう。普段、あまり観もしないテレビを暇を持て余して観てしまうせいなのか、それともおめでたい雰囲気に変な気分になってしまう輩が湧いてくるからなのか、オレには今いちわからねぇが、中古で買った時代遅れの四角い電子の箱から送られてくる映像を観ていると、世も末って感じがする。いや、21世紀が始まってまだ10年も経ってやしないんだけどさ。
近所のホームレスのおっさんがどこかの頭がトチ狂った奴に鉄バットで殴り殺されたり、元同級生が学校の窓ガラスを割って警察に捕まって翌朝の新聞に載ったり、バラエティ番組を賑わしていたタレントがクリスマスの夜に孤独死したり、幼女を殺したサイテー変態野郎とか、どっかの国の偉い人たちが戦争を始めて民間人の犠牲者が沢山でたり、近所の人と最近おかしな関係になってぎくしゃくしたり。なんだか世の中暗いことばかりで救われないけど、とりあえずオレは腹が減った。
「あー……、油断した」
冷蔵庫の中身を覗いて、オレは人生に絶望した。1LDKのマンションの5階。薄暗い部屋で、空っぽの箱に成り下がっている冷蔵庫の前にしゃがみ込んだオレは、年末年始の買い出しに行くか、それともこのまま寝倒して、食費を浮かせるかで迷っていた。2日くらいなら、省エネモードで、生活出来るかも知れない。
遮光カーテンを開けると、床に薄っすらと積もっていた埃が光線を反射する。積み重なった雑誌の山と雪崩を起こしているCD。掃除しなきゃな、と思いつつ、明日にしようかな、と怠惰を起こす。暇な休みを持て余すってこういうことかもしれない。
オレは朝日を部屋の中に入れるついでに、窓を開けてベランダに出た。
「あ。おはよう…、かな?」
「………」
昇って来る太陽に目を細めているとベランダ越しにカカシさんがいた。
「ナルト…?」
「あ。おはようってば」
お隣のカカシさんは、いつになく眠たそうな半眼だ。よく見れば着ているシャツも少しだけくたびれている。缶ビール片手の姿はどう見ても起き抜けのビールというよりは、仕事明けの一缶の雰囲気だ。
「カカシさん、まさかまた徹夜?」
「そう。うちの会社、年末ギリギリまであるの。プログラミングの作成で死にそう」
「はは、働き過ぎだってば。そのうち身体壊すってばよ」
「ナルトは?」
「オレってばただいま絶賛冬休み中」
「ああ、いいねぇ学生さんは」
「カカシさんは休みいつから?」
「明日からかな」
「それじゃあ今日が仕事納めだってば?」
「そうだねぇ」
「ニシシ。カカシさん、お疲れ様~」
今の自分はちゃんと笑えてるだろうか。ぎこちなくなっていないといい。オレとカカシさんは何度かセックスした仲というなかなか微妙な関係なんだ。付き合ってはいない。カカシさんは何も言わないし、オレもそのことにはなるべく触れないようにしてはぐらかしている。
だってオレたち男同士だし、セックスしても何も産まれない者同士だし、お互い気不味いだろ。だけど、カカシさんからCDとかを貸して貰っちゃったりとかして、そのまま惰性でレンタルビデオ屋で借りてきたっていう映画を二人で観て、晩飯とか一緒に食うようになって、たまにお互いの部屋の中でセックスとかして、あれ、オレたちって結構仲が良いかもしれない。
ちょっと昼間のワイドショーで観た未成年搾取のニュースが頭を過ったけど、なんだか自分の身に降り掛かるといまいちリアリティがないんだ。だって、オレはうずまきナルトであって被害者少年Aなんかじゃない。カカシさんだって被疑者Hなんかではないだろ。
「ナルト。今日の晩飯、まだ決めてない?」
「おう…」
「うち来る?」
「そっち行っていいってば?」
「一人で食うの寂しいからさ、暇なら一緒に食わない?」
「カカシさん、ゴチ!」
本当はこういうズルズルした関係ダメだってわかってる。だけど、カカシさんはオレを拒まないし、オレも問題なことに嫌じゃないから、今のところ餌を貰うための通い猫を止められない。
「うおー、炬燵に蜜柑。カカシさん、入っていいの、入っちゃうってばよ!?」
「入ってから言わないー…」
大鍋を両手に持ったカカシさんが呆れた顔でオレを見下ろしている。オレの視線はカカシさんの手元に注がれた。
「嫌味のような野菜のてんこ盛りじゃん。オレってば野菜はノーセンキュー!」
「文句を言わずに食べなさい」
「だって、野菜とか食うの面倒いんだもん。あ、でも肉団子はウェルカム」
「おまえのことだからそう言うと思ったよ。たっぷり野菜を摂れるように鍋料理にしてやったんだから、食いなさい」
「オレってば絶賛成長期。肉を食って背を伸ばしたいってば」
「野菜食って血を綺麗にしなさい。ほら、白菜と水菜。野菜食え、野菜」
「うへぇ…」
なんだかカカシさんって母ちゃんみたいだってば。いや、母ちゃんってよくわかんねぇけど、土曜日に炒飯作ってくれたり夏には冷蔵庫に麦茶とか入れてくれる生き物なんだろ。
「あ。こら、野菜と肉の比率は3:1にしておきなさい」
「ニシシ、カカシさん隙あり。肉ダッシュー!」
「おまえな、野菜食わないとマジで死ぬぞ」
そのあと、オレたちは今世間で結構人気のクイズ番組をダラダラ見て、カカシさんがこの子可愛いよなっていうタレントがちょっと天然気味のおバカで可愛いって感じの子で、もしカカシさんがロリコンとかショタコンの変態だとかだったら、オレが責任を持って、社会から抹殺しねぇといけねぇとか思っていた。いや、マジな話、変態とかいくねえと思う。社会悪だ。オレがテレビを観ているカカシさんの命を虎視眈々と狙っていると、この子おまえに似てるよねって微笑まれた。…そうかなぁ。
そのあとも、オレたちは適当にテレビを観て笑った。ついでにオレはお隣のよしみで買ったばかりのパソコンの初期設定という奴をカカシさんにして貰い(カカシさんはコンピューター関係の仕事の人なんだ)、その間カカシさんの部屋にあった小難しい本を読んで三分で飽きたりしていた。あったかい部屋で、オレが蜜柑に手を伸ばす横でカカシさんが、お茶を啜っている。うーん、爺むさい。
「なに」
「いーえなんにも」
オレは、顎をテーブルの上に乗っけてもそもそと炬燵の中に潜り込んだ。この温かさは抜け出し難いものがあるってば。あー、ヤバい。なんだか眠たくなって来たってば。
『×××軍による×××地区への攻撃で死亡者は8000人、負傷者は12000人以上。そのうち子供の占める人数は…。×××軍側は人道に配慮している攻撃とPRしているが…』
ブラウン管から、また暗いニュースが流れる。
「ナルトー…」
『あのバラエティタレントの×××さんが電撃入籍。お相手はIТ企業の――……』
「ううんー…」
オレはカカシさんの呼びかけに応えるように頭だけで寝返りを打った。
その瞬間、ちゅっとキスをされる。
「………」
カカシさん、人の寝込みを襲うのはいくないと思う。
「どうしたの。おまえ、今日は何だか元気ないね」
ちゅ、ちゅ、ちゅ、って続けざまにキスを落とされる。なんだろう、この甘々の空気は。
「あー…、うん。んとぉ、ちょっとへコんだこと思い出してた」
「何?」
「や。本当に、くだらないことなんだから」
「そう?」
おう、って言おうとしたのに、なぜかカカシさんがパソコンから目を離して話を聞く体勢になっていた。
オレが元気ないって傍目だけで気付く人は滅多にいない。父ちゃんと母ちゃん以外では初めてかもしれなかった。それが、カカシさんだなんて、なんだかくすぐったくて気恥ずかしい。
「ええと」
「ん。なに」
「あー……」
オレは迷った挙句、頬杖を着いてこっち見てるカカシさんに口を開いた。
「近所でホームレスのおっさん殺されただろ。六時のニュースになってたの、知ってる?」
「ああ。確か回覧板が回ってきたな」
「そう、それ。オレ、そのおっさんのこと知ってたんだ」
どうして、オレ、キバとかにも話したことないこと、ここでカカシさんに喋ってるんだろ。キバとかとバカして騒ぐの面白いけど、なぜかカカシさんの部屋に来るとすげー落ち着くのと関係しているのかもしれない。
「オレさそのおっさんと仲良しだったとか、そういうわけじゃねえんだ。だけど、学校帰りとかたまにおっさんのいる公園通ってたの。今日もおっさん新聞紙巻いて寝てるなーとか、知り合いじゃねえけど、顔見知りっつーの」
「あー、いるねえ。妙に記憶に引っ掛かる人間って」
なぜか、カカシさんはオレの髪の毛を弄りながら答えた。
「それでさ」
「うん」
甘く相槌を打たれて、オレは促されるように話しを続ける。
「別にオレ、あのホームレスのおっさんとはなーんも関係ないんだけど、殺されたんだって知るとなんか哀しいよな。ブラウン管越しに、ナニ偉そうなこと言うなって感じだけど、おっさんただ公園で寝てたってだけで殺されるとかないよな」
どっかの遠い国の何千人の命とおっさんの命が失われるの、天秤に賭けるつもりはないけど、哀しい。
オレは顎をテーブルの上に乗っけたまま、カカシさんの部屋にあるキャラクターもののミニチュアフィギュア(忍犬八匹とかいう奴。)をなんでこんなものがこの部屋に…と思いながら、意外とゲーセンとか行ったりするんだろうかと眺めていた。
―――。
―――――。
――――――――ううん?
「ナルト……」
まどろんでいると鼓膜に直接響くみたいにカカシさんの声が聞こえた。ああ、ヤバい。なんで?いつからだろう?カカシさんが欲情した目をしてる。熱い視線。もしかして、オレってば、この部屋に招かれた時から、まんまと罠に嵌められてしまったのだろうか。
「んんん……っ」
迫って来るカカシさんを前に、オレの視界はシャットアウト。カカシさんってキス上手いのな。オレってば流されちゃうじゃん。ぎゅうぎゅうって胸を揉まれて「あっ、痛い」って言ったら「ごめん」って謝られた。いつの間にか、オレの服が胸元まで捲り上げられていた。カカシさんがオレの乳首に吸いついてくる。別に女の子みたいに膨らんでいるわけでもないのに、何がそんなに楽しいのかな。でも自分の胸元に一生懸命顔を埋めているカカシさんを見ていたら、どうでもいいやと思った。なんだかカカシさんって赤ちゃん見てぇ。オレよりずっと年上なのにさ、愛しい。男にも母性本能って芽生えるのかな。
カカシさんの張り詰めたもの、オレの太腿に当たった。うわ、カカシさん興奮してる…。オレもちょっとしてる、だって男だもんな。結局、オレってばそのまま、カカシさんに美味しく頂かれてしまいました。
男の事後ってなんでこんなにけだるいんだろ。出すもんを出したあとは、もぉどうでもいいんですかぁー…。「うう、また愛のないセックスをしてしまった…」大体どうしてホームレスのおっさんの話をしてたら、エッチに崩れ込むんだよ。もしかして微妙に落ち込んでたのを慰めてくれたとか、いやただ欲情されただけなのか、そうだとしたらどの点に欲情したのか、オレはちょっと大人の性癖というものを問いたくなった。だって、オレの身体好き勝手したくせに、カカシさんはポーカーフェイスなのだ。ぶすムクれてたら、気不味い感じで視線を逸らされた。うおおお、なんて無責任な男なんだ。だけど、カカシさんの背中って優しいんだよな。
「なー、カカシさん。オレのパソコン使えるようになった?」
「使えるというか…。おまえ、このパソコンってウィルス対策ソフト入れてる?」
「オレってばノーボーダーの男!」
「はぁ…。入れておいてあげる」
「えー、別にいってばよ。だってオレの個人情報なんて漏れても別に困らないもん。人に言えない恥ずかしいことも別にねぇし、映画観たり音楽聴くのに使いたいだけだから、ぱぱっと使えるようにしちゃってくれってば」
「はいはい、口だけは達者なんだから。おまえねぇ変なところからウィルス貰っても知らないよ」
カカシさんは、すっぽんぽんの状態でオレのパソコンを弄っている。もうちょっと格好とかを考えよう。顔はいい男だからって全裸は油断し過ぎだ。
そういうオレもパンツ一丁も履いてない状態なんだけどな。それに、カカシさんになんだか人には言えない恥ずかしいことされたあとなので、起き上がれない。
「なぁー、なぁー、前から思ってたんだけど、ウィルスってなんなの。パソコンが風邪引くようなもんなの。教えて、カカシセンセー!」
「はぁ…」
「む。その、バカを見るような目付きはなんだってば」
「今度、オレの会社のロビーで天然記念物の名札付けて飾ってやるよ。おまえは本当に現代っ子か」
今の子ってパソコンの必修授業あるよね?と本当に虫けらを見るような視線で見られて、オレは詰まった。
「ええと、友達のシノが頼んだら、ぱぱぱ~…とやってくれたというか。なんだか凄い速さでデータ作成してくれたっていうか。あはは。おかげでオレってば情報の授業はA評価だってばよ。習ったことは綺麗さっぱり忘れたけどな!」
「自慢にならん」
頭に拳を落とされてオレは悶絶した。
「いってぇ」
「おまえねぇ、国の教育政策をなんだと思ってるの。勉学を甘く見るとあとで泣きっ面を掻くよ」
うわ、マジでカカシさんって先生みたいだ。学校にこんな先生がいたら変態臭いけど、いやだって生徒に手を出したわけだから、あんなとこに突っ込んでお互いに気持ち良くなっちゃうわけだから、でもなんかカカシさんって先生っぽい。
「よし。オレってば、今決めた」
「……なに」
「オレ、今日からカカシさんのことカカシ先生って呼ぶってばよ」
「は?」
「カカシ先生。な、いいだろ。オレにパソコンの使い方教えてってば」
「はぁ…?そんなにせがまなくても、こんなことくらい説明書さえ読めばある程度自分で出来るでしょ」
「それはコンピューターがカカシさ…あ、間違ったカカシ先生の得意分野だからだろ。オレは機械関係お手上げだもん。なー、いいだろ。今度からカカシ先生の部屋にパソコン持って来るから使い方教えて」
「え。オレの部屋で?」
「おう。だめだってば?」
迷惑だったかな?と思いながら、カカシ先生を覗き込むと今までにないくらいそわそわとした表情のカカシ先生がいた。
「いや、別にいいよ…うん」
何故か、カカシ先生の雰囲気がいつもと違う気がする。気のせいだろうか。
「平日も残業がある日以外は空いてるから、暇な時に来なさい」
「え、マジで!?」
「ああ、いいよ。もちろん休日も」
「うわー、カカシ先生って優しいのな!」
「………」
「?」
「おまえ、単純だねぇ…」
また、何故か、カカシ先生が蕩けたような笑顔でオレのことを笑った。
「カカシ先生。今度、インターネットから音楽のダウンロードする仕方教えてってば」
「いや、それ凄く簡単だからね…?」
「え。どうやってやるの」
「ここをこうやって…、こう」
「おお…」
オレは蒲団から這い出して、カカシ先生の脇から顔を出して、画面を覗いた。ふと視線を感じれば、カカシ先生が真っ赤な顔になってオレから視線を逸らした。自分がマッパのくせに、オレの裸は駄目なんだろうか。なんだか、理不尽だ。嫌がらせにカカシ先生の方にぐいぐい擦り寄って、パソコンの画面を眺めていると、カカシ先生のあんまり日に焼けてない肌が真っ赤に染まった。んー?んんー……?
「なー、カカシ先生」
「な、なに…」
「………」
不自然な沈黙が部屋に落ちた。オレが見詰めると、カカシ先生がやっぱり真っ赤な顔になる。この反応はなんだろう。不思議に思ったオレは、顔を逸らしているカカシ先生の顔を覗き込んだ。だって、このカカシ先生の反応はまるで…
「カカシ先生ってオレのこと好きなの?」
「は?」
カカシ先生は驚いた顔でオレを見詰め返した。なんだろう、オレ変なこと言っただろうか。
「好きに決まってるでしょ」
「……へ?」
「好きだからセックスしてるでしょ…?」
カカシ先生の言葉にオレってば固まってしまった。パソコン用語で言うとフリーズ?
「…オレとカカシ先生って付き合ってたの?」
「は…?」
じゃあ、なんでおまえオレの家に来てるの、と逆に真面目な顔でカカシ先生に質問された。え、だって飯食わしてくれるっていうし…ラッキーかなとか思って。カカシ先生、優しいし。
「オレ、カカシ先生に好きだって言われたっけ」
「……言ってなかった?」
「言われてねぇっ!」
「そうだっけ?」
「そうだってばよ!」
オレが言うと、カカシ先生はカシカシと後頭部を掻いた。
「す…好きだよ、ナルト」
なんだこのぐたぐたな告白は。ロマンチックさもなければムードもない。しかし、よく見ればカカシ先生の顔はかなり真っ赤だった。
「そうなんだ。オレ、カカシ先生のセフレじゃなかったんだ…」
「セフレ…って。おまえ、そんなこと思いながらオレと一緒にいたの」
カカシ先生が険しい顔をしたけど仕方ねえと思う。だってさ、今って酒の勢いとか成り行きでそういうこと結構あるし、ただの性欲処理だと思ってた。男同士ってその点面倒がないし、それにしてはカカシ先生は優しいとは感じてたけど、それはガキの穴に突っ込んでるから、良心の呵責とかからかと思ってた。うわ、これは秘密にしておこう。カカシ先生に知れたらなんだか酷い目に合いそうだ。
「ナルトーー」
「うわ、ごめん」
非難の声を上げ、カカシ先生がオレに迫って来た。
「…そっか、カカシ先生ってオレのこと好きだったんだ。オレってば、これってどういう関係なんだろってずっと不思議だったんだよな。すっきりしたってば」
「………」
オレはカカシ先生の気持ちがわかって妙に晴れ晴れとした気分になった。
「ナルト。ごめん…」
「へ?なんで?」
なぜかカカシ先生がオレのことをぎゅうぎゅう抱き締めながら謝ってきた。変なの。
「きちんと、言葉にして、最初に言ってやるべきだったな。変なところ、臆病になって、オレのほうこそはぐらかしていた。ごめん」
「ニシシ。別に良いってばよ」
オレがあっさり笑うとカカシ先生は泣きそうな顔をして尚更抱きついてきた。変なの。
「カカシ先生。あのさ、カカシ先生ってオレのこといつから好きだったの」
オレは気になっていたことを聞いてみた。初めて、押し倒された時からからかな。それともそのあとから?オレの好奇心旺盛な態度に、何故か、カカシ先生のため息が落ちた。
「おまえねぇ、オレのことをどれだけ非人間扱いしてたの」
「えー?」
「最初から好きだったよ。おまえがここに引っ越してきた時から。廊下ですれ違った時に一目惚れしたんだ」
カカシ先生の答えにオレってばびっくりして目を見開いてしまった。
「…オレのこと、嫌いになったか?下心ありでおまえに親切にしてたんだよ」
「………」
「…軽蔑したか?」
「へ、なんで?」
「だっておまえ…」
「オレってば、カカシ先生が好きだって言ってくれてほっとした。それってカカシ先生がオレのこと好きで嬉しいってことだってばよ」
「……本当に、ナルト?」
「本当も何も、マジで嫌な奴だったらこうやって何度もノコノコ抱かれに来ると思うってば?」
その時、オレはその日、一番いい笑顔になったカカシ先生の顔を見た。嬉しい顔の代名詞見てぇな顔で、なんだかカカシ先生にはちっとも似合ってなかった。
世の中、暗いニュースばっかだけど、毎日たくさん人が死んでるけど、今日も誰かが不幸になってるけど、今部屋の中にいるオレたちは結構幸せかもしれない。こうした世間からは隠れた幸せがたくさんできるといいよな。
つまりは、世の中、暗いニュースばっかだけど、毎日たくさん人が死んでるけど、今日も誰かが不幸になってるけど、オレはカカシ先生に後頭部を引き寄せられて、キスをされた。
カカシ先生の指が何度もオレの髪の毛を弄ぶ。あ……。なんだろ、これ。愛されてるのだろうか。
カカシ先生なんて、大嫌いだってば。涙を滲ませながら、ナルトは木の葉の里を駆けていた。びゅんびゅん風景が前から後ろに過ぎて行って、見知った場所まで来たところで、ナルトは思わぬ人物に激突した。
「うわっ」
「お。お姫さんじゃないか。おまえ、どうした……――泣いてるじゃねぇか」
「アスマ先生……」
ぶつかったのは、アスマのベストで、ナルトは潤んだ涙を拭って、アスマを見上げた。
「う……おいおい、どうしたんだっ?」
たっぷりと水分を含んだナルトの瞳に、その当時心に決めている女性があった彼だが、思わずグラついてしまった。
「おい、あれがうずまきじゃねぇか」
アスマに続いて人生色々から出て来た上忍たちが、先程の話題の人物を顎で癪る。この里で金髪碧眼はやはり目立つのだ。アスマはガリガリと頭を掻きながら、ナルトに向き直る。
「なんだ、カカシにまた泣かされたのか。ん?」
「なんでもねぇ…」
切ない表情を押し隠して、ナルトはニシシと笑った。ナルトの何かを耐えるような表情に、アスマの背後で、口さがない言葉を聞いていた上忍たちが、ごくんと唾を飲んだ。ナルトは彼等に気が付くと、眉の根を寄せる。
「んぁ……」
男たちの視線に何かを勘違いしたナルトは、気不味そうに、ちょっと怒ったような顔で視線を逸らしたが、今度は男たちが慌てたように弁解した。
「い、いやオレたちは別にだな、おまえに嫌な感情があって見ていたわけではなく…」
「そ、そう。おまえうずまきだよな。おまえの武勇伝はよーく聴いているぞ」
「うんうん、オレたちはおまえの活躍ぶりに感心しててだなぁ……?」
「え、あ…ありがとう」
ナルトは相手に悪意がないのだとわかると、和らいだ笑みを見せた。その笑顔に上忍二名の心臓が跳ねる。また心酔者が出したことも知らずに、ナルトは視線を男たちから外すと、アスマに向き直った。
「あのさ…カカシ先生に会ってもオレを見たって言わないで」
「なんだ、やっぱり喧嘩中か」
「いや、その…。オレが悪いんだってば。オレがつい癇癪起こしちゃっていっつもカカシ先生のこと困らせちゃうんだ。カカシ先生は大人だから、オレ相手じゃあんまり怒らないんだってば」
誰が大人?と大変失礼な物言いではあるが、金髪の少年を除きその場で意見が一致しかけたのだが、ナルトが気付くはずもない。
「う、うずまき、元気を出せ」
「そうだ、カカシの変人っぷりは今に始まったことぢゃないだろ」
「オレたちはおまえの味方だぞ」
しょぼんとしたナルトを励まそうと、男たちが何故かナルトに群がった。
「おまえら、ナルトのこと見掛けなかった?ここらへんでナルトの匂いがするんだけど…」
その数分後。追尾型忍者の習性なのか、ナチュラルに変態なのか、微妙な台詞を呟いてカカシが現れた。
「カカシ、おまえって奴はなんて悪い男なんだ」
「そうだ、あんな健気な子を泣かして、おまえには人の人情ってものがないのか。ヒトデナシ!」
「おまえって奴は、おまえって奴は…男としてサイテーだ!」
カカシが到着した頃には、上忍等はすっかりナルトの味方になっていた。
「は。おまえら、さっきナルトを捨ててオレに浮気しろとか言ってなかったか……?」
人生色々の前で忍に囲まれたカカシは一体彼等に何があったのかと目を丸くする。よく見れば、先程人生色々で、話していた同僚だった。
「浮気!?」
「カカシ浮気をしたのか!?」
「いや、スルわけないでしょ…それはさっきおまえらが……」
「おまえって奴はなんて不誠実な男なんだ」
「見損なったぞ、カカシィ!」
「いや、おまえらが浮気をしろって言っただろ…」
困ったように後頭部を掻きながらカカシが呟く。
「ああ、オレがあの子の恋人になって慰めてあげたい」
「うずまき…。カカシなんてやめてオレにすればいいのに」
「は!?」
何名かの男たちがうんうんと頷き合う。焦ったのはカカシだ。
「ナルトは渡さないぞー!?」
「うわっ」
「お。お姫さんじゃないか。おまえ、どうした……――泣いてるじゃねぇか」
「アスマ先生……」
ぶつかったのは、アスマのベストで、ナルトは潤んだ涙を拭って、アスマを見上げた。
「う……おいおい、どうしたんだっ?」
たっぷりと水分を含んだナルトの瞳に、その当時心に決めている女性があった彼だが、思わずグラついてしまった。
「おい、あれがうずまきじゃねぇか」
アスマに続いて人生色々から出て来た上忍たちが、先程の話題の人物を顎で癪る。この里で金髪碧眼はやはり目立つのだ。アスマはガリガリと頭を掻きながら、ナルトに向き直る。
「なんだ、カカシにまた泣かされたのか。ん?」
「なんでもねぇ…」
切ない表情を押し隠して、ナルトはニシシと笑った。ナルトの何かを耐えるような表情に、アスマの背後で、口さがない言葉を聞いていた上忍たちが、ごくんと唾を飲んだ。ナルトは彼等に気が付くと、眉の根を寄せる。
「んぁ……」
男たちの視線に何かを勘違いしたナルトは、気不味そうに、ちょっと怒ったような顔で視線を逸らしたが、今度は男たちが慌てたように弁解した。
「い、いやオレたちは別にだな、おまえに嫌な感情があって見ていたわけではなく…」
「そ、そう。おまえうずまきだよな。おまえの武勇伝はよーく聴いているぞ」
「うんうん、オレたちはおまえの活躍ぶりに感心しててだなぁ……?」
「え、あ…ありがとう」
ナルトは相手に悪意がないのだとわかると、和らいだ笑みを見せた。その笑顔に上忍二名の心臓が跳ねる。また心酔者が出したことも知らずに、ナルトは視線を男たちから外すと、アスマに向き直った。
「あのさ…カカシ先生に会ってもオレを見たって言わないで」
「なんだ、やっぱり喧嘩中か」
「いや、その…。オレが悪いんだってば。オレがつい癇癪起こしちゃっていっつもカカシ先生のこと困らせちゃうんだ。カカシ先生は大人だから、オレ相手じゃあんまり怒らないんだってば」
誰が大人?と大変失礼な物言いではあるが、金髪の少年を除きその場で意見が一致しかけたのだが、ナルトが気付くはずもない。
「う、うずまき、元気を出せ」
「そうだ、カカシの変人っぷりは今に始まったことぢゃないだろ」
「オレたちはおまえの味方だぞ」
しょぼんとしたナルトを励まそうと、男たちが何故かナルトに群がった。
「おまえら、ナルトのこと見掛けなかった?ここらへんでナルトの匂いがするんだけど…」
その数分後。追尾型忍者の習性なのか、ナチュラルに変態なのか、微妙な台詞を呟いてカカシが現れた。
「カカシ、おまえって奴はなんて悪い男なんだ」
「そうだ、あんな健気な子を泣かして、おまえには人の人情ってものがないのか。ヒトデナシ!」
「おまえって奴は、おまえって奴は…男としてサイテーだ!」
カカシが到着した頃には、上忍等はすっかりナルトの味方になっていた。
「は。おまえら、さっきナルトを捨ててオレに浮気しろとか言ってなかったか……?」
人生色々の前で忍に囲まれたカカシは一体彼等に何があったのかと目を丸くする。よく見れば、先程人生色々で、話していた同僚だった。
「浮気!?」
「カカシ浮気をしたのか!?」
「いや、スルわけないでしょ…それはさっきおまえらが……」
「おまえって奴はなんて不誠実な男なんだ」
「見損なったぞ、カカシィ!」
「いや、おまえらが浮気をしろって言っただろ…」
困ったように後頭部を掻きながらカカシが呟く。
「ああ、オレがあの子の恋人になって慰めてあげたい」
「うずまき…。カカシなんてやめてオレにすればいいのに」
「は!?」
何名かの男たちがうんうんと頷き合う。焦ったのはカカシだ。
「ナルトは渡さないぞー!?」
くそ。またライバルが増えた。カカシは恋人の困った才能に背筋を震わした。
ナルト、おまえ。オレがいない間にまた何をしたんだよー……。後日、銀色の箒頭が寂しく揺れていたと、その場にいた同僚等は語ったという。
人生色々のソファーに体育座りをしてナルトは絶賛家出中という奴だった。膝を抱えて蹲ったナルトを見て、アスマは、ナルトに人生色々名物のインスタントコーヒーを渡した。カカシの『一等大事なモン』を泣かしたとあっては、言いわけを述べる前に八つ裂きにされ兼ねない。
「………苦げぇ」
インスタントコーヒーを口に含んでナルトが盛大に顔を顰める。
「だいぶ薄めたんだがな。これでも飲めねぇのか…」
おそらくブラックコーヒーは飲めないだろうと見当を付けて、ミルクを二杯、砂糖を一袋入れたにも関わらず、ナルトの漏らした感想はそんな酷評だった。
「おかしいってば。オレってばカカシ先生の淹れたコーヒーはちゃんと飲めたのに」
その言葉にアスマは辟易した。
「そりゃーオレの淹れたコーヒーは、カカシがおまえのために手間暇掛けたコーヒーとは違うだろうがよ」
「…………」
おそらくカカシの淹れたコーヒーはナルト好みに砂糖もミルクもたっぷり入ったものなのだろう。金色の睫毛に縁取られた瞳にみるみる涙の粒が溜まっていくのを見て、アスマは、はぁとため息を吐いた。
「たく。暇のついでだ、悩みを聞いてやるよ。随分と取り乱していたようだがカカシと何かあったのか?」
ナルトはマグカップに視線を落としながら、口を引き結んだ。アスマは煙草を吹かしながら、金髪の頭をわしわしと掻き回す。
「……カカシ先生の元彼女がオレの家に来たんだってば」
ナルト、おまえ。オレがいない間にまた何をしたんだよー……。後日、銀色の箒頭が寂しく揺れていたと、その場にいた同僚等は語ったという。
人生色々のソファーに体育座りをしてナルトは絶賛家出中という奴だった。膝を抱えて蹲ったナルトを見て、アスマは、ナルトに人生色々名物のインスタントコーヒーを渡した。カカシの『一等大事なモン』を泣かしたとあっては、言いわけを述べる前に八つ裂きにされ兼ねない。
「………苦げぇ」
インスタントコーヒーを口に含んでナルトが盛大に顔を顰める。
「だいぶ薄めたんだがな。これでも飲めねぇのか…」
おそらくブラックコーヒーは飲めないだろうと見当を付けて、ミルクを二杯、砂糖を一袋入れたにも関わらず、ナルトの漏らした感想はそんな酷評だった。
「おかしいってば。オレってばカカシ先生の淹れたコーヒーはちゃんと飲めたのに」
その言葉にアスマは辟易した。
「そりゃーオレの淹れたコーヒーは、カカシがおまえのために手間暇掛けたコーヒーとは違うだろうがよ」
「…………」
おそらくカカシの淹れたコーヒーはナルト好みに砂糖もミルクもたっぷり入ったものなのだろう。金色の睫毛に縁取られた瞳にみるみる涙の粒が溜まっていくのを見て、アスマは、はぁとため息を吐いた。
「たく。暇のついでだ、悩みを聞いてやるよ。随分と取り乱していたようだがカカシと何かあったのか?」
ナルトはマグカップに視線を落としながら、口を引き結んだ。アスマは煙草を吹かしながら、金髪の頭をわしわしと掻き回す。
「……カカシ先生の元彼女がオレの家に来たんだってば」
「あー…なるほどな」
アスマはガシガシと後頭部を掻いた。
「オレってば、その女の人にめちゃくちゃ嫉妬しちゃったんだってば」
「……ほう?」
「女の人、撃退したあと、オレってばすっげー汚い感情でいっぱいになって、なんだかオレじゃねぇみたいだったんだってば」
ナルトは、過去にあの女とカカシが関係を持ったという事実に嫉妬していた。
もしかしたら、カカシはベッドの中で自分の耳元で囁くようにあの女にも愛の言葉を囁いていたかもしれない。そんな陳腐な想像が膨らむほどに。
「オレ、サイアクだってば。一人で大騒ぎしてカカシ先生に八つ当たりして…カカシ先生にいっぱい酷いこと言った」
ナルトは、自分の身の内に起こった感情を持て余していた。
「…………」
「オレってば汚い…」
「…いや、うずまき。嫉妬は何歳になってもするもんだぞ。オレもするし、もちろんカカシだってする」
「へ?」
「何もおまえ一人がそんな気持ちになっているわけじゃないぞ。安心しな」
むしろカカシの嫉妬はすでにバイオハザードだ…という台詞をアスマは、いたいけな少年を前に控えた。
「アスマ先生もするの……?」
「するぞぉ。情けないくれぇにな。むしろ、嫉妬しない綺麗な恋愛なんてな、本気で人を好きになってねぇんじゃねぇかと思うぜ。嫉妬っつーのはめんどくせぇ生き物だが、オレはする人間の方が人間臭くて好きだな」
「……アスマ先生はそう思う?」
「当たり前だ。なぁ、うずまき。カカシだって、おまえが嫉妬してるって知ってどうだった?」
「喜んでた。満面の笑みで」
「まぁ、あいつはかなり反応がズレてるが……」
ナルトの悩んでいることは、アスマからみれば、誰しもが躓く道であり、多くの小説や映画で使い古された題材でもあった。
「だが、な。勘違いするなようずまき。カカシは確かにズレてるかもしれねぇ、だけど本気でおまえのことを愛してるんだぞ」
「………それは、なんとなくわかるってば。時々すっげー不安になるけど」
ナルトは考え込んでしまった。いつも、カカシとナルトの間に横たわる時間という壁。その隔たりを超えることは難しい。普段は、あのへらへらとした暢気な顔でカカシが、大人の壁の向こう側からやって来て、ナルトの「側」に合わせてくれるのだ。
「カカシ先生が好きだって言ってくれるのは…。うん、たぶんわかるんだってば。オレもカカシ先生が好きだし。だけどなんでだろうなぁ」
ナルトは、カカシの膝の上に乗ってじゃれていた頃を思い出していた。あの頃は、ただ無邪気にカカシを好きだと精一杯全身で表現していれば良かった。そうすれば、カカシも幸せだし、ナルトも幸せであった。
では、なぜ、3年経っただけで全て上手くいかなくなったのだろう。自分たちの何が変わってしまったのだろうか。
「なんでいろんなことが急に難しくなっちゃったんだろ。オレが16歳になって、カカシ先生がもっとオッサンになって…」
「ぶはは…っ」
「へへへ、冗談だってばよ? カカシ先生は前と変わってないよな。変わったのは……」
アスマはガシガシと後頭部を掻いた。
「オレってば、その女の人にめちゃくちゃ嫉妬しちゃったんだってば」
「……ほう?」
「女の人、撃退したあと、オレってばすっげー汚い感情でいっぱいになって、なんだかオレじゃねぇみたいだったんだってば」
ナルトは、過去にあの女とカカシが関係を持ったという事実に嫉妬していた。
もしかしたら、カカシはベッドの中で自分の耳元で囁くようにあの女にも愛の言葉を囁いていたかもしれない。そんな陳腐な想像が膨らむほどに。
「オレ、サイアクだってば。一人で大騒ぎしてカカシ先生に八つ当たりして…カカシ先生にいっぱい酷いこと言った」
ナルトは、自分の身の内に起こった感情を持て余していた。
「…………」
「オレってば汚い…」
「…いや、うずまき。嫉妬は何歳になってもするもんだぞ。オレもするし、もちろんカカシだってする」
「へ?」
「何もおまえ一人がそんな気持ちになっているわけじゃないぞ。安心しな」
むしろカカシの嫉妬はすでにバイオハザードだ…という台詞をアスマは、いたいけな少年を前に控えた。
「アスマ先生もするの……?」
「するぞぉ。情けないくれぇにな。むしろ、嫉妬しない綺麗な恋愛なんてな、本気で人を好きになってねぇんじゃねぇかと思うぜ。嫉妬っつーのはめんどくせぇ生き物だが、オレはする人間の方が人間臭くて好きだな」
「……アスマ先生はそう思う?」
「当たり前だ。なぁ、うずまき。カカシだって、おまえが嫉妬してるって知ってどうだった?」
「喜んでた。満面の笑みで」
「まぁ、あいつはかなり反応がズレてるが……」
ナルトの悩んでいることは、アスマからみれば、誰しもが躓く道であり、多くの小説や映画で使い古された題材でもあった。
「だが、な。勘違いするなようずまき。カカシは確かにズレてるかもしれねぇ、だけど本気でおまえのことを愛してるんだぞ」
「………それは、なんとなくわかるってば。時々すっげー不安になるけど」
ナルトは考え込んでしまった。いつも、カカシとナルトの間に横たわる時間という壁。その隔たりを超えることは難しい。普段は、あのへらへらとした暢気な顔でカカシが、大人の壁の向こう側からやって来て、ナルトの「側」に合わせてくれるのだ。
「カカシ先生が好きだって言ってくれるのは…。うん、たぶんわかるんだってば。オレもカカシ先生が好きだし。だけどなんでだろうなぁ」
ナルトは、カカシの膝の上に乗ってじゃれていた頃を思い出していた。あの頃は、ただ無邪気にカカシを好きだと精一杯全身で表現していれば良かった。そうすれば、カカシも幸せだし、ナルトも幸せであった。
では、なぜ、3年経っただけで全て上手くいかなくなったのだろう。自分たちの何が変わってしまったのだろうか。
「なんでいろんなことが急に難しくなっちゃったんだろ。オレが16歳になって、カカシ先生がもっとオッサンになって…」
「ぶはは…っ」
「へへへ、冗談だってばよ? カカシ先生は前と変わってないよな。変わったのは……」
変化したのはナルトだ。その証拠に、カカシは今もナルトが何を言おうと幸せそうではないか。二人の関係がズレている、と思うようになったのはナルトだけなのだ。それがナルトを憂鬱にさせる。
「変わったのはきっとオレの方なんだ…」
カカシとの関係に満足していないと言うのではない。ただいつも年上のカカシはナルトを甘やかす。下忍の頃こそ、いつも受け取る側であったナルトだが、いつまでもそうではないのだと、…あの大人に知って欲しかった。カカシ先生、オレってば成長してる。きちんとカカシと自分から「恋人」をしようと思えるようになったのだ。
「オレ…カカシ先生に謝らないと」
ナルトは立ち上がった。
「あ、ご帰還か?」
「おう」
「なんだか急にすっきりしたみたいだな」
「うん、なんで自分がこんなにイライラしてたかわかった」
「っ流石、男前だな」
「へ?」
「褒めたんだよ、青少年~~……」
「うわ、いきなりなんだよアスマ先生。髪の毛ぐちゃぐちゃにすんなってば!」
「ははは……」
アスマに金糸を掻き混ざられたナルトは、よっと椅子から立ち上がる。
「変わったのはきっとオレの方なんだ…」
カカシとの関係に満足していないと言うのではない。ただいつも年上のカカシはナルトを甘やかす。下忍の頃こそ、いつも受け取る側であったナルトだが、いつまでもそうではないのだと、…あの大人に知って欲しかった。カカシ先生、オレってば成長してる。きちんとカカシと自分から「恋人」をしようと思えるようになったのだ。
「オレ…カカシ先生に謝らないと」
ナルトは立ち上がった。
「あ、ご帰還か?」
「おう」
「なんだか急にすっきりしたみたいだな」
「うん、なんで自分がこんなにイライラしてたかわかった」
「っ流石、男前だな」
「へ?」
「褒めたんだよ、青少年~~……」
「うわ、いきなりなんだよアスマ先生。髪の毛ぐちゃぐちゃにすんなってば!」
「ははは……」
アスマに金糸を掻き混ざられたナルトは、よっと椅子から立ち上がる。
「あーぁ、でもさー」
「あぁっ、なんだぁ?」
「なんかガキと付き合うのって、めんどくせぇよな。…カカシ先生もよく持つってばよ」
成長途中の葛藤とか、反発とか、そういうのって大人のスマートな恋愛には付随しないものではないだろうか。
「がははは」
「んだよ、アスマ先生」
「カカシは、そこらへんは重々承知で付き合ってるだろ。おまえが気にするこったぁねぇよ」
「あぁっ、なんだぁ?」
「なんかガキと付き合うのって、めんどくせぇよな。…カカシ先生もよく持つってばよ」
成長途中の葛藤とか、反発とか、そういうのって大人のスマートな恋愛には付随しないものではないだろうか。
「がははは」
「んだよ、アスマ先生」
「カカシは、そこらへんは重々承知で付き合ってるだろ。おまえが気にするこったぁねぇよ」
アスマの言葉にナルトは苦笑した。
去っていくナルトの背中に、ああ、だがな、とアスマは声を掛ける。
「言っておくけど、大人になっても恋愛はめんどくせぇぞ!」
「本当に?」
道ですれ違うカップルは何もかも上手く言っている気がするのに。
そうした葛藤を誰しも抱えているのだろうか。
「おお、オレもよく花を買ってご機嫌取りに伺うぜ」
「アスマ先生が?似合わねーっ」
ニシシと笑って、ナルトは人生色々を後にした。
「あれぇ、カカシ先生。何やってんの?」
人生色々の前で、地面に腹這いになっているカカシを見下ろして、ナルトは不思議そうに首を捻った。
「ああ、ナルトー……」
「カカシ先生、なんでボロボロなんだってば」
「探したんだよ。なんだか外の奴らにどつかれるし、おまえの気配はないし、やっと見つけたと思ったら髭熊の気配と一緒だし……。ナルト~、熊に犯されなかった?」
「カカシせんせぇ……」
アスマが聞いていたら、ツッコミを入れられそうな頭の螺子の弛んだことを宣いつつ、カカシは太陽を背にしてキラキラと金糸を煌めかせている愛しい少年に手を伸ばした。
「すまん、ナルト。オレ、おまえの気持ちも考えずに無神経なこと言ったよな。オレはけしておまえのことを馬鹿にしたり、ふざけていたわけじゃないんだ…ごめん」
カカシは駆け寄って来たナルトを抱き締める。ナルトは重力の法則に従って、地面に膝を着くとカカシの肩に頬を寄せた。
「泣きそうな顔しないで欲しいな…」
「ふぇ…」
「泣かないで、ナルト?」
「…オレの方こそ、ごめん。オレなカカシ先生の言ってることなんとなくわかった気がしたってばよ…。オレの身体だけ好きなのとか言ってカカシ先生を困らせてごめんなさい」
頬を撫でるカカシの手に、ナルトの肩の力がゆるゆると抜けて行く。
「帰って晩ご飯の続きをしよう…?」
「………」
「ナァールト」
「………」
「おまえと一緒に食べないと、なんにも美味しくないんだよ」
「………」
「ほら、〝仕方ないカカシ先生〟って言ってくれるんでしょ?」
「………オレの台詞、とるなってば」
「ん、すまん」
「カカシ先生はいつも謝ってばっか…」
「そうだね、しょうがない大人でごめんね」
「食器洗いを手伝ってくれるんなら、一緒に帰ってあげなくもないってば」
「いいよ。それじゃー、オレのこと地面から起こして下さい」
「ほんと…仕方ないカカシ先生」
こうして、ナルトの二度に渡る家出は幕を閉じたのであった。木の葉の里でのある日の午後の出来事であった。
去っていくナルトの背中に、ああ、だがな、とアスマは声を掛ける。
「言っておくけど、大人になっても恋愛はめんどくせぇぞ!」
「本当に?」
道ですれ違うカップルは何もかも上手く言っている気がするのに。
そうした葛藤を誰しも抱えているのだろうか。
「おお、オレもよく花を買ってご機嫌取りに伺うぜ」
「アスマ先生が?似合わねーっ」
ニシシと笑って、ナルトは人生色々を後にした。
「あれぇ、カカシ先生。何やってんの?」
人生色々の前で、地面に腹這いになっているカカシを見下ろして、ナルトは不思議そうに首を捻った。
「ああ、ナルトー……」
「カカシ先生、なんでボロボロなんだってば」
「探したんだよ。なんだか外の奴らにどつかれるし、おまえの気配はないし、やっと見つけたと思ったら髭熊の気配と一緒だし……。ナルト~、熊に犯されなかった?」
「カカシせんせぇ……」
アスマが聞いていたら、ツッコミを入れられそうな頭の螺子の弛んだことを宣いつつ、カカシは太陽を背にしてキラキラと金糸を煌めかせている愛しい少年に手を伸ばした。
「すまん、ナルト。オレ、おまえの気持ちも考えずに無神経なこと言ったよな。オレはけしておまえのことを馬鹿にしたり、ふざけていたわけじゃないんだ…ごめん」
カカシは駆け寄って来たナルトを抱き締める。ナルトは重力の法則に従って、地面に膝を着くとカカシの肩に頬を寄せた。
「泣きそうな顔しないで欲しいな…」
「ふぇ…」
「泣かないで、ナルト?」
「…オレの方こそ、ごめん。オレなカカシ先生の言ってることなんとなくわかった気がしたってばよ…。オレの身体だけ好きなのとか言ってカカシ先生を困らせてごめんなさい」
頬を撫でるカカシの手に、ナルトの肩の力がゆるゆると抜けて行く。
「帰って晩ご飯の続きをしよう…?」
「………」
「ナァールト」
「………」
「おまえと一緒に食べないと、なんにも美味しくないんだよ」
「………」
「ほら、〝仕方ないカカシ先生〟って言ってくれるんでしょ?」
「………オレの台詞、とるなってば」
「ん、すまん」
「カカシ先生はいつも謝ってばっか…」
「そうだね、しょうがない大人でごめんね」
「食器洗いを手伝ってくれるんなら、一緒に帰ってあげなくもないってば」
「いいよ。それじゃー、オレのこと地面から起こして下さい」
「ほんと…仕方ないカカシ先生」
こうして、ナルトの二度に渡る家出は幕を閉じたのであった。木の葉の里でのある日の午後の出来事であった。
End
その後。カカシと共に家に帰宅したナルトは、真っ黒焦げの目玉焼きとキッチンの惨状に、〝ここで忍界大戦があったんだってば……?〟と呟きを洩らした。
空気猫取扱説明書概要
ここは二次創作小説置場です。無断転載は禁止。本物のカカシ先生とナルトくん、作者様とは一切関係がありません。苦手な人は逃げて下さい。
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管理人の生態
自己紹介
名前 空気猫、または猫
職業 ノラ
趣味 散歩・ゴミ箱漁り
餌 カカナル
夢 集団行動
唄 椎名林檎
性質 人間未満
日記 猫日和
ある日、カカナルという名のブラックホールに迷いこむ。困ったことに抜け出せそうにない。
職業 ノラ
趣味 散歩・ゴミ箱漁り
餌 カカナル
夢 集団行動
唄 椎名林檎
性質 人間未満
日記 猫日和
ある日、カカナルという名のブラックホールに迷いこむ。困ったことに抜け出せそうにない。
足跡