空気猫
空気猫
お隣のカカシさんシリーズ第1弾
夜明けの珈琲は如何ですか?
夜、年に数回オレはこんな電話で目覚める。
「もしもし~。オレだけど、オレ」
「あー、てめぇ誰だってばよ」
蒲団から這い出した手で携帯をやっと掴み、寝惚け半分で出ると、電話の向こうの相手は知らない男で、(いや、知ってるかもしれないが、オレの記憶からはデリートされてる奴、たぶん)
「なんでわかんないの、オレだよー」
そいつはそんなことをへらへらした声で言ってくるのだ。
「1回、関係持ったじゃん。わかる?」
その時点で、オレのムカつきはハイパーマックスだった。時刻を見ればもうすぐ夜と朝の境目の非日常的な時間で、どこの引き籠りの電話だよ、とか非常に差別的なことを思って、それでも惰性で電話に耳を傾ける。
「オレだって、オレ。あ、もしかしてヤリ過ぎててわからないとか~」
余計なお世話だってば。
「オレ、男なんだけど」
「えー…。男かよぉ。マジで~!?」
どうやら知り合いでないことは間違いないらしい。ちょっとほっとした。(いくらなんでも友人にこんな最悪な悪戯をする奴がいるとは思いたくない)
「全然わかんなかった。ま、いいや。きみ、声可愛いな。なーなー、オレとテレフォンセックスしない?」
「しねぇ…」
「えー、いいじゃん。この際、男同士ってことは忘れてさー。ね、ちょっとさぁ色っぽい声出して見てよ。アンアンとか、あっ、イッちゃうとかなんでもいいからさ。部屋にあるエロビデオのマネしてさ。な、いいだろ。そのうちきみも、気持ち良くなっちゃうって」
ブチ。青筋が切れたと同時に、オレは携帯電話のスィッチも切った。ま、変態の電話の定番として、すぐにまた電話が掛って来る。
「ちょ、可愛いね。もしかして怯えちゃってるとか。ぎゃはははは」
ブチ。ツーツーツー。
「………」
ベッドサイドの薄っぺらなカーテンを捲ると、ああ青白い時間だ、とちょっとだけ思う。夜とも言えず朝とも言えず、なんとも微妙な時間帯。道路から人影と車が途絶えて、一番一日で街が寂しい隙間の時間。あのどこかの変態さんは、もしかしたら孤独を抱え過ぎて?空虚な気持ちに(オレが言うとやたら腹が空く単語に聞こえるが、ちょっと太宰治とか思い出して欲しい)なっていたのかもしれない。
でも、それにしても下品な電話だったよな、と先程の番号を着信拒否リストに加えようと携帯をノロノロ弄っていると、お気に入りのアーティストのシングルのカップリング曲という非常にマイナーな着信メロディがまた鳴った。
「あーっ、ウザいってば。オレってばアンタに構ってやるほど暇じゃねーの!」
「――すまん、迷惑だったか」
携帯の向こうから聞こえたのは、へらへらしたイラつく声でなく、落ち着いたトーンの大人の声だった。
「ふぇ…」
「すまん、こんな時間に非常識だったよな」
「あっ、あっ、あっ、カカシさん!?」
オレは思わず、ベッドの上で正座をしてしまった。いや、誰も見ていないのだから、そんなことをしても無意味なのだが、姿が見えなくても居住いを正したくなる雰囲気の人っているよな。オレにとってはカカシさんはまさにそんな感じの人だった。
「ごめん、カカシさん。あのさ、全然迷惑じゃねぇの。ちょっとびっくりしたっつぅか。タイミングが絶妙に悪かったつぅか」
「今、電話平気?」
「おう」
カカシさんはどこかの会社のエリートサラリーマンとかいう奴らしく、オレ的に宇宙人だった。まぁ、カカシさんはネクタイを締める人種の人のくせに、ちょっとくたびれた感じがあるというか、気が抜けた感じが大半を占めているので、すぐに打ち解けることが出来たので、電話番号なんてものを交換していたのだが、このマンションに引っ越して来てから、お隣同士ということもあり、カカシさんにはかなり親切にして貰っている。一見、冷たそうなくせに世話好きなのか、オレがインスタントラーメン漬けの食生活をしていることに気付くと野菜を届けてくれたりして、ちょくちょく声を掛けてくれるのだ。本当、いい人だよな。野菜は好きくねぇけど。
「今、残業で徹夜した帰りなんだ」
「そうなんですか。お疲れ様ですってば」
「ちょっと部屋の外に出て来てごらんよ?」
電話の向こうでカカシさんが言った。オレってば犬か何か見てぇだけど、カカシさんの声につられてノコノコと玄関のドアを開けてしまった。
「あ、どうも」
「どうも。おはよう…、かな?」
朝日を見ながらカカシさんはそんなことを言った。オレと言えばスウェット姿のまま、うおー夜明けに見てもいい男、とかカカシさんに対してそんなことを思って、扉から顔だけ半分出して、カカシさんを観察した。
「なに、それ。新しい遊び?」
「違います。これはカカシさんとオレの心の距離なんです」
オレが言うとカカシさんは背中を丸めて笑い出した。やった。ウケた。と、しょうもないことを心の中でガッツして、携帯片手のカカシさんを凝視する。すると、「そんなに見詰めないでよ」と苦笑された。そんなに、見詰めてしまっていただろうか。恥ずかしいじゃないか。しかし、そこで、はっとした。いやいやいや、待て。オレってばカカシさんに言われて家から出て来たんだってばよ。
カカシさん、こんな時間にオレに何の用だろう。だってさ、普通の人間なら絶対に眠っている時間帯だ。
「あの…」
オレが口を開きかけたのと同時に、カカシさんの携帯が鳴った。
「あ、ごめん。会社の同僚だ。くそっ、またトチッたな」
カカシさんはコンピューターの会社の人だって言ったかな。どうやらプログラミングのミスがまた発覚したらしい。いや、そんなことはオレにはあんまり関係ないんだけど…。
「オレと同じ着メロ…」
「え、そうなの」
「よくそんなマイナーなバンドの、売れもしなかったマイナーな曲よく知ってるってばよ」
オレは思わず笑ってしまった。たぶんこの着メロを設定している人間なんて相当珍しい。大体、同年代の奴らの着信なんて、流行りのヒットチャートの着ウタか、季節に合わせたものをシーズンごとに返るのが主流で、今のご時世にこんな時代遅れの古びた曲を愛聴しているのは自分だけだと思っていた。
短い電話を終えたカカシさんと向かい合って、オレはこの大人に今までにない親しみを感じてしまった。オレって、結構単純な人間なのかもしれない。
「カカシさん、そのバンド好きなの?」
「んー。まぁまぁってとこかな」
「ふーん。…オレも、まぁまぁってとこだってばよ」
「これ、古い映画のサントラに使われてただろ。それでなんとなくかな」
「え。そうなんだってば?」
「あー、きみらの年代は知らないかもねぇ。今度、ビデオ貸してあげるよ」
カカシさんってやっぱり親切だよな。お隣さんってだけなのにオレにこんなに優しくしてくれるんだもん。
そういえば、映画で思い出したが、前に見た面白くない映画(途中半分寝た)で、こんなことを言っていた。深夜2時とか4時に気兼ねなく電話を掛けれる相手は誰だろうって話。そんなもの、その相手が朝早く仕事に行く人とかだったら幾ら親しくても気遣って電話など出来ないものだろうとか思うが、でも深夜2時とか4時に、突然声を聞きたくなる相手ってどんな相手だろう。オレはちょっと考えてみた。シカマル、キバ、チョウジ?サスケはぜってぇないな。だけど確かに上記3名にはふざけ半分で電話を掛けた覚えがある。言わばテンションの産物だ。女の子なら失恋とかした時に掛けたくなるものかも知れないが、男のオレにはあんまりない経験だ。
オレってば落ち込むことはあっても深く考えない性質だし、悩んでも仕方ないし、つーか用件があるなら昼間に直接会って話せって感じだし、仕事をしているわけでもないオレらの年齢で早急に話さなきゃいけないことって、あんまりない。いや、オレらはオレらで非常に大事な悩みとか、すぐ誰かに伝えたいことはあるけどな、たぶん!
でも、前にサクラちゃんが言ってたな。恋をしたら、夜中に好きな人の声を突然聞きたくなるって。たぶんオレが真夜中にサクラちゃんに電話したら、次の日に殴られそうだけど、好きな相手だと違ってくるのだろうか。
真夜中の2時とか4時とかに突然声が聞きたくなる相手ってどんな人だろう。
カカシさんはどうしてオレに電話なんて掛けたんだろ。
暇そうに見えたから? ちょっとした気まぐれ? やっぱ暇つぶし?
それとも、なぁどうしてかな。
オレがそんなことをごちゃごちゃと考えてると、カカシさんが真四角の箱を目の前にぶら提げていた。もしやサラリーマンのおっちゃんがぶら提げて帰ってくるという伝説のおみや?
しかし、流石ははたけカカシ。おそらくほぼ徹夜勤務明けだというのに、さわやかな笑顔でオレのぐっとくるようなことを言ってくれたのだ。
「ケーキ、買って来たんだけど部屋に入って珈琲と一緒どうかな?」
よく見ればそのお洒落且つシンプルなデザインの箱、きらびやかな金字で綴られた横文字の店名は、駅前で行列が出来るケーキ屋の箱ではないか。オレってば思わず目がキラキラ輝いてしまった。天国の父ちゃん、母ちゃん。ゲンキンな息子でごめんなさい。オレってば食べ物にだけはどぉしても弱いんだってばよ!
「意外だってば。カカシさんって甘いもの好きなの!?」
「んー…。そうでもないんだけど、会社の子たちがここのケーキ美味しいって話してたから、もしかしたらナルトくんも好きなかなぁって思ってね」
「好き、好き、大好き!!」
「おお、好きの大安売りだねぇ」
「ニシシ。ご馳走になっていいってば?」
カカシさんはダッサイ犬のキャラクターが付いたキーホルダーを開けながら、にっこり笑った。オレもつられて笑う。こういうちょっとした間の取り方の相性って大事だよな。
「なーんだ、ケーキ食べる相手が欲しかっただけかよ。突然、携帯に電話してきたからびっくりしちゃったじゃん。なんか切羽詰まった用があるのかなぁって!」
「いや…、まぁそれはナルトくんの声が聞きたくなったからなんだけどね」
「へ?」
「結構、切羽詰まってたかも」
カカシさんに色違いの瞳で微笑まれた。うーんそろそろビルの隙間から昇って来た朝日が眩しい。
「ケーキ買ってきて貰って正解だな。まさかナルトくんと先に夜明けの珈琲だけ飲むことになるとは」
カカシさんがまた変なことを言った。徹夜明けだからかな?
「カカシさんって古いよな」
意味を半分も理解せず脊髄反射で会話を返すと、カカシさんは目に見えて落ち込んだようだ。猫背が酷くなってるってばよ!こーいうとこ、けっこう好き。なんか、大人なのに情けないとこが可愛いんだよなぁ。
ニシシって笑うと、カカシさんとまた目が合った。なんか目元が赤い気がする。
「…ナルトくんって何歳だっけ」
「オレってば今度、17歳!」
「16歳か…」
「なんだってば?」
「いや、未成年に手を出すのは犯罪かなぁという大人の葛藤を…」
「うわーーー、カカシさん家ってオレの部屋より広いのな!」
そのあとオレってばケーキを美味しく頂いている最中に、カカシさんにキスなんてものをされてしまい、その場で押し倒されたんだけど、別にいやではなかったのが不思議だよな。
だってさ、オレってば目覚めは最悪なのに、夜明けに聞いたカカシさんの声だけはいやじゃなかったんだ。
なんだか気にかかるお隣の少年とケーキを食べようと女子社員にケーキを頼んだはいいけど突然残業が入って予定丸潰れで、でも声だけ聞きたくて電話して声を聞いたら我慢できなくなったカカシ先生とか。実際にあったらなおさら我慢できなくなったとか。あとナルトは夜明けのホットミルク貰ったと思います。
おまえの泣き声はいつも聞こえない。
No Call, No Cry
例えば、依頼人が九尾の被害にあった人間の遺族であったなんてよくあることで、いくら自分が名立たる上忍とはいえ一忍である以上任務は選べるはずもなく、それでも裏で手を回してそういう依頼人に当たらないようにとか、人が聞いたら呆れるような姑息な工作をしていたのだが、世の中そうも上手くことが運ばなくて、結局あの子の心にまた傷が付いた。
今日の任務は犬の散歩。依頼人は木の葉の里でも指折りの旧家の奥方で、上品に着物を着こなした婦人の顔は、ナルトの姿を見た瞬間に醜く歪んだ。
九尾に対する一般人の憎しみはカカシとて重々と承知したことであったが、それでもそれが、どれほど酷いものであるのかというついての認識を、カカシはまだ甘く見ていて、依頼主の憎しみの視線に気付いていながら対処を怠った、それがはたけカカシの最大の失点であった。
例えば、依頼人が九尾の被害にあった人間の遺族であったなんてよくあることで、いくら自分が名立たる上忍とはいえ一忍である以上任務は選べるはずもなく、それでも裏で手を回してそういう依頼人に当たらないようにとか、人が聞いたら呆れるような姑息な工作をしていたのだが、世の中そうも上手くことが運ばなくて、結局あの子の心にまた傷が付いた。
今日の任務は犬の散歩。依頼人は木の葉の里でも指折りの旧家の奥方で、上品に着物を着こなした婦人の顔は、ナルトの姿を見た瞬間に醜く歪んだ。
九尾に対する一般人の憎しみはカカシとて重々と承知したことであったが、それでもそれが、どれほど酷いものであるのかというついての認識を、カカシはまだ甘く見ていて、依頼主の憎しみの視線に気付いていながら対処を怠った、それがはたけカカシの最大の失点であった。
事件が起こったのは、カカシが他の子供たちに指示を出すために依頼主から離れたほんの僅かな時間。その場に残ったのはなんの因果かナルトと婦人で、彼女はナルトに犬を仕向けた。
よく訓練された犬たちは主人の命に従って、ナルトの腕に噛み付いて、絹の切り裂くような声を聞いてカカシが駆けつけた時には、数頭の大型犬が子供に群がっているというかなりひやりとする光景が目に飛び込んだ。
「……っナルト!!」
犬を容赦なく蹴飛ばしてナルトを抱き起こし、そんなカカシを、ナルトは朦朧とした顔で見上げた。
「痛かっただろう。今すぐ手当てをしてやるからな」
ナルトの額を掻き上げながら医療用のポーチに手を伸ばしたカカシに、ナルトは瞳を何度か瞬かせ、ただ一言漏らした。
「なんで助けてくれたんだってば?」
心底不思議そうに首を傾げた子供に、カカシはただ呆然とするしかなく、噛み傷だらけの子供を支える手が冷たく凍り付いた。
「オレが、おまえを助けるのは当たり前でしょっ」
「そーなの?」
「おまえ、オレをなんだと思って……」
そこで、カカシは言葉を切る。ナルトの顔に〝ニシャリ〟と笑顔が浮かんだからである。
「へへ。カカシ先生、ありがとう。もう、大丈夫」
ナルトは、カカシの腕から抜け出すとぴょこんと立ち上がり、何事もなかったようにオレンジの衣服に付いた砂埃を払い始めた。けろりとした子供のジャッケットの裾を引っ張って、カカシは子供を引き止める。
「ナルト、手を出しなさい。怪我してるじゃない」
「別にいいってば。オレってばノーセンキューっ」
「いいから大人しく言うことを訊きなさい!」
幸い、遠くに居たサスケたちにはこの騒ぎは聞きつけられずに済んで、それだけが救いだというこの救いようのない状況。傷の手当をしようとして断られ、苛立って、少しきつく叱咤して無理矢理近くの石に座らせて包帯を巻けば、また何かを勘違いした子供の顔がいびつに歪んだ。違う。おまえのことを憎くて怒ったんじゃない。オレは、おまえの味方なんだ。そう伝えたくても、言葉は喉に張り付いて出て来ることなく、普段は無駄に回る口がこんな時に限って役立たずで嫌になる。
どうして自分に助けを求めてくれなかったのとか、もっと頼ってよとか、言いたい事は沢山ある。心の中で言葉は洪水のように溢れるが、何を言っても今この場で身も心も傷付いてズタボロの子供を前にして無効になる気がして、つまり、オレはおまえの担当教官なんだからとかなんて、あとから取って付けたような言い訳しか思い浮かばず、カカシはただ小さな身体を抱き締めた。
「カカシ先生、どうしたんだってば?」
「………」
「どうして抱き締めてくれるの?」
ビクりと強張った身体を無視して、閉じ込めるように、強く掻き抱く。もっとこの子は他者に助けを求めるべきだと思う。だけどそこまで考えて、今までこの子に手を差し伸べてやる大人がいったい何人いたのだろうかと、胸が苦しくなりそうな事実に気付いて、愕然とする。
よくよく思い返せばマダムしじみのようにナルトを毛嫌いすることなく、何度も任務を頼んでくる依頼人は稀少なのだ。彼女は、ナルトが一番にペットのトラを捕らえた時は、すすんで熱烈な抱擁をするような人で、女性との接触が極端に少ないナルトが、ギャーギャー騒ぎながらも彼女とのスキンシップを嬉しく思っていることをカカシは知っている。彼女はたしかに見た目は派手だし、お喋りで姦しいが、一度としてナルトのことを差別的な目で見たことはなかった。カカシはそんな彼女を密かに尊敬している。
「ここも、ここも、おまえ傷だらけでしょーよ」
自分の手を持ち上げながら傷口を指摘する担当上忍を見下ろして、ナルトは居心地が悪そうに、地面の土を蹴る。
「せんせぇ…。くすぐったいってば」
「んー…」
「手。はなせってば…」
やんわりと胸を押されて、カカシはナルトの傷口を辿る行為を中断した。そして、今、この瞬間は独り占めに出来ていると思ったナルトの視線が自分ではない場所に注がれていることに気付いて、カカシは胡乱気に、顔を上げる。
ナルトの視線の先にいたのは着物を着た貴婦人だった。まさか担当上忍が子供を助けに駆け付けるとは思わなかったのか、家屋の中に引っ込んで、こそこそとこちらを伺っている依頼人をカカシは射抜くように一睨みする。あとでどうしてくれようかと腸が煮えくり返って、カカシの眉間に寄る皺が深くなる。
「カカシせんせ……?」
「あ、すまん。なーんでもないよ?」
カカシはへらりといつもの笑い顔を造る。子供が安心出来る、気の抜けた顔だ。
「あのさ、オレ。サクラちゃんたちのとこに行って任務の続きするってば」
「だーめ。おまえの傷が治るまで抱っこしててあげる」
依頼人の視線を気にしているのか、ナルトは落ち着きなく、カカシから離れようとする。カカシはナルトを抱き上げると、自分の膝の上に乗せた。
「センセー……はなし」
「離しません」
顎をナルトの後頭部に乗っけて子供を拘束して、細い腹部に腕を回す。そして目の前でふわふわと揺れているひよこ頭に鼻先を埋めた。
「センセー…」
困り切ったナルトの声。むずがる身体。忍の世界で、甘いことばかり言ってられないことはよくわかっているが、教師の立場を放り捨て、どろどろに甘やかしてやりたくなる衝動が沸きあがる。
カカシとて、激動と言われる時代を生き残って来た忍だ。仲間をフォローすることは忍としてのスキルではあるが、過度な甘やかしが相手にとって毒になることも知っている。
カカシの手で完全に守ってやったとしたら、いつかカカシの保護区から飛び出したナルトがどうなるかなんて目に見えて解るだろう。カカシのエゴとお節介は、ナルトの忍としての生命と可能性を脅かすものでしかなく、だけどいとけないナルトを見ていると蜂蜜に包むようにして、蕩けるように甘やかしたいという衝動を抑えることができなくなる。だが、カカシの手の内に閉じ込めることによって碧い瞳が曇ってしまうことは本意ではないから、自分だけのものにしたいという甘美な誘惑を振り払うのだ。
「なぁーーると?」
特別甘く呼んでやれば、眉を顰めてナルトが振り向いた。腕の中のナルトは、怯えていた。カカシが、敵か味方か判断できないという顔だ。甘そうな唇に吸いつきたくなるのを、堪えてカカシはへらっと笑った。
「次、勝手に怪我したらちゅーしちゃうから」
「へ!?」
「いーい、仕方なく怪我をしちゃったんなら許すよ。だけど、自分の身体を粗末にして怪我したら、センセーは怪我した傷口にどんどんちゅーしちゃうからね。わかった?」
「ななななななな……っ、何言っちゃってんのカカシセンセー!」
「今、決めました。はい、決定♪」
「ぎゃーーーー、へ、ヘンタイだってば。オレってばそんな約束ぜってーしねぇからな!」
「ははは、なんとでもいいなさーい」
「いやだーっ。離せってばー!」
「嫌だったら、怪我する前にオレに助けを求めなさい」
「!」
「今日のこと、オレは凄く怒ってるんだよ。ナルトが、自分を大切にしなかったから」
泣きそうな顔で見上げられたので、「今はもう怒ってないよ…?」とふっくらとした頬を撫ぜる。途端、ふにゃ、と表情を崩して、小刻みに震えて、自分のベストにしがみ付く子供のさまが可愛い。だが、犬に噛み付かれる前に、カカシに助けを求めることも、この子になら出来たはずなのだ。それを怠ることを、カカシは次から許しはしない。
「ま、おまえがオレにキスされたいっていうなら怪我しなさい。ちなみにセンセーの希望は口の辺りかなぁ」
「ぎゃーー、サクラちゃーーん助けてってばーーー!!!」
「おい、ナルト。それはズルいぞ」
四肢をバタつかせるナルトをカカシはそっと抱き込む。じっとりと汗ばんだ背中が、ああ、まだこの子は自分に緊張しているのだということを教えてくれた。
そして子供の首筋に視線を落とせば、薄っすらと残る傷痕。九尾の力は、この子と生かすだろうが、ただそれだけだ。傷付けられた、という事実はいつまでも残る。
これからこの子が忍として里人に関わる以上、こういうことはまた多々起きるのだろう。この子の選んだ道はそういうことなのだ。
ナルトが傷付くことを止めることはできないし、カカシの見えないとこでも傷は増えていくのだろう。自分は助けてあげられない。なんて無力、なんて役立たず。
「あぅ―――……」
首筋に口付けると、ひくんとナルトの身体が跳ねた。いやだとも、離してとも言わないが、ナルトの、日に当たっても焼けることのない、白い肌は朱に染まっていて、それに苦笑して、カカシは視線を上げる。
カカシに遅れてサスケとサクラが騒ぎに駆け付けて来たらしい。もしくはいつまでも現れない担当上忍とチームメイトの不在が心配になったのか。――いい班だ。そう思う。自分の合格判定は間違っていなかったに違いないとも思う。
きっと今に里の自慢となる班になるだろう。カカシは嫌がるナルトを抱き上げると、二人と合流するべく立ち上がる。バタバタとナルトの手足が動いたが、アカデミー生に毛が生えた程度のナルトの抵抗など、カカシには赤ん坊がむずがる程度の抵抗でしかない。
「きゃ。カカシ先生。何してるんですか。セクハラですよ!」
「ウスラトンカチども何やってんだ」
「サクラちゃん、サスケェ助けてってば!!」
「おまえたち、ちょっと酷くなぁい?」
二人っきりの時は、あんなに静かだったくせに、駆け付けたサスケとサクラを前にナルトがカカシの腕の中で盛大に騒ぎ始める。
「こーら」だなんて言って窘めていると、子犬のような歯にカプッと齧りつかれる。本人も弾みでカカシの指に齧りついてしまったらしく、驚いたように目が見開かれて、頬が薔薇色に染まる。その顔、凄くいい。そそる。
欲望とかをありったけの理性で押し留めて、カカシは今はまだ教師の顔で笑った。
「……っナルト!!」
犬を容赦なく蹴飛ばしてナルトを抱き起こし、そんなカカシを、ナルトは朦朧とした顔で見上げた。
「痛かっただろう。今すぐ手当てをしてやるからな」
ナルトの額を掻き上げながら医療用のポーチに手を伸ばしたカカシに、ナルトは瞳を何度か瞬かせ、ただ一言漏らした。
「なんで助けてくれたんだってば?」
心底不思議そうに首を傾げた子供に、カカシはただ呆然とするしかなく、噛み傷だらけの子供を支える手が冷たく凍り付いた。
「オレが、おまえを助けるのは当たり前でしょっ」
「そーなの?」
「おまえ、オレをなんだと思って……」
そこで、カカシは言葉を切る。ナルトの顔に〝ニシャリ〟と笑顔が浮かんだからである。
「へへ。カカシ先生、ありがとう。もう、大丈夫」
ナルトは、カカシの腕から抜け出すとぴょこんと立ち上がり、何事もなかったようにオレンジの衣服に付いた砂埃を払い始めた。けろりとした子供のジャッケットの裾を引っ張って、カカシは子供を引き止める。
「ナルト、手を出しなさい。怪我してるじゃない」
「別にいいってば。オレってばノーセンキューっ」
「いいから大人しく言うことを訊きなさい!」
幸い、遠くに居たサスケたちにはこの騒ぎは聞きつけられずに済んで、それだけが救いだというこの救いようのない状況。傷の手当をしようとして断られ、苛立って、少しきつく叱咤して無理矢理近くの石に座らせて包帯を巻けば、また何かを勘違いした子供の顔がいびつに歪んだ。違う。おまえのことを憎くて怒ったんじゃない。オレは、おまえの味方なんだ。そう伝えたくても、言葉は喉に張り付いて出て来ることなく、普段は無駄に回る口がこんな時に限って役立たずで嫌になる。
どうして自分に助けを求めてくれなかったのとか、もっと頼ってよとか、言いたい事は沢山ある。心の中で言葉は洪水のように溢れるが、何を言っても今この場で身も心も傷付いてズタボロの子供を前にして無効になる気がして、つまり、オレはおまえの担当教官なんだからとかなんて、あとから取って付けたような言い訳しか思い浮かばず、カカシはただ小さな身体を抱き締めた。
「カカシ先生、どうしたんだってば?」
「………」
「どうして抱き締めてくれるの?」
ビクりと強張った身体を無視して、閉じ込めるように、強く掻き抱く。もっとこの子は他者に助けを求めるべきだと思う。だけどそこまで考えて、今までこの子に手を差し伸べてやる大人がいったい何人いたのだろうかと、胸が苦しくなりそうな事実に気付いて、愕然とする。
よくよく思い返せばマダムしじみのようにナルトを毛嫌いすることなく、何度も任務を頼んでくる依頼人は稀少なのだ。彼女は、ナルトが一番にペットのトラを捕らえた時は、すすんで熱烈な抱擁をするような人で、女性との接触が極端に少ないナルトが、ギャーギャー騒ぎながらも彼女とのスキンシップを嬉しく思っていることをカカシは知っている。彼女はたしかに見た目は派手だし、お喋りで姦しいが、一度としてナルトのことを差別的な目で見たことはなかった。カカシはそんな彼女を密かに尊敬している。
「ここも、ここも、おまえ傷だらけでしょーよ」
自分の手を持ち上げながら傷口を指摘する担当上忍を見下ろして、ナルトは居心地が悪そうに、地面の土を蹴る。
「せんせぇ…。くすぐったいってば」
「んー…」
「手。はなせってば…」
やんわりと胸を押されて、カカシはナルトの傷口を辿る行為を中断した。そして、今、この瞬間は独り占めに出来ていると思ったナルトの視線が自分ではない場所に注がれていることに気付いて、カカシは胡乱気に、顔を上げる。
ナルトの視線の先にいたのは着物を着た貴婦人だった。まさか担当上忍が子供を助けに駆け付けるとは思わなかったのか、家屋の中に引っ込んで、こそこそとこちらを伺っている依頼人をカカシは射抜くように一睨みする。あとでどうしてくれようかと腸が煮えくり返って、カカシの眉間に寄る皺が深くなる。
「カカシせんせ……?」
「あ、すまん。なーんでもないよ?」
カカシはへらりといつもの笑い顔を造る。子供が安心出来る、気の抜けた顔だ。
「あのさ、オレ。サクラちゃんたちのとこに行って任務の続きするってば」
「だーめ。おまえの傷が治るまで抱っこしててあげる」
依頼人の視線を気にしているのか、ナルトは落ち着きなく、カカシから離れようとする。カカシはナルトを抱き上げると、自分の膝の上に乗せた。
「センセー……はなし」
「離しません」
顎をナルトの後頭部に乗っけて子供を拘束して、細い腹部に腕を回す。そして目の前でふわふわと揺れているひよこ頭に鼻先を埋めた。
「センセー…」
困り切ったナルトの声。むずがる身体。忍の世界で、甘いことばかり言ってられないことはよくわかっているが、教師の立場を放り捨て、どろどろに甘やかしてやりたくなる衝動が沸きあがる。
カカシとて、激動と言われる時代を生き残って来た忍だ。仲間をフォローすることは忍としてのスキルではあるが、過度な甘やかしが相手にとって毒になることも知っている。
カカシの手で完全に守ってやったとしたら、いつかカカシの保護区から飛び出したナルトがどうなるかなんて目に見えて解るだろう。カカシのエゴとお節介は、ナルトの忍としての生命と可能性を脅かすものでしかなく、だけどいとけないナルトを見ていると蜂蜜に包むようにして、蕩けるように甘やかしたいという衝動を抑えることができなくなる。だが、カカシの手の内に閉じ込めることによって碧い瞳が曇ってしまうことは本意ではないから、自分だけのものにしたいという甘美な誘惑を振り払うのだ。
「なぁーーると?」
特別甘く呼んでやれば、眉を顰めてナルトが振り向いた。腕の中のナルトは、怯えていた。カカシが、敵か味方か判断できないという顔だ。甘そうな唇に吸いつきたくなるのを、堪えてカカシはへらっと笑った。
「次、勝手に怪我したらちゅーしちゃうから」
「へ!?」
「いーい、仕方なく怪我をしちゃったんなら許すよ。だけど、自分の身体を粗末にして怪我したら、センセーは怪我した傷口にどんどんちゅーしちゃうからね。わかった?」
「ななななななな……っ、何言っちゃってんのカカシセンセー!」
「今、決めました。はい、決定♪」
「ぎゃーーーー、へ、ヘンタイだってば。オレってばそんな約束ぜってーしねぇからな!」
「ははは、なんとでもいいなさーい」
「いやだーっ。離せってばー!」
「嫌だったら、怪我する前にオレに助けを求めなさい」
「!」
「今日のこと、オレは凄く怒ってるんだよ。ナルトが、自分を大切にしなかったから」
泣きそうな顔で見上げられたので、「今はもう怒ってないよ…?」とふっくらとした頬を撫ぜる。途端、ふにゃ、と表情を崩して、小刻みに震えて、自分のベストにしがみ付く子供のさまが可愛い。だが、犬に噛み付かれる前に、カカシに助けを求めることも、この子になら出来たはずなのだ。それを怠ることを、カカシは次から許しはしない。
「ま、おまえがオレにキスされたいっていうなら怪我しなさい。ちなみにセンセーの希望は口の辺りかなぁ」
「ぎゃーー、サクラちゃーーん助けてってばーーー!!!」
「おい、ナルト。それはズルいぞ」
四肢をバタつかせるナルトをカカシはそっと抱き込む。じっとりと汗ばんだ背中が、ああ、まだこの子は自分に緊張しているのだということを教えてくれた。
そして子供の首筋に視線を落とせば、薄っすらと残る傷痕。九尾の力は、この子と生かすだろうが、ただそれだけだ。傷付けられた、という事実はいつまでも残る。
これからこの子が忍として里人に関わる以上、こういうことはまた多々起きるのだろう。この子の選んだ道はそういうことなのだ。
ナルトが傷付くことを止めることはできないし、カカシの見えないとこでも傷は増えていくのだろう。自分は助けてあげられない。なんて無力、なんて役立たず。
「あぅ―――……」
首筋に口付けると、ひくんとナルトの身体が跳ねた。いやだとも、離してとも言わないが、ナルトの、日に当たっても焼けることのない、白い肌は朱に染まっていて、それに苦笑して、カカシは視線を上げる。
カカシに遅れてサスケとサクラが騒ぎに駆け付けて来たらしい。もしくはいつまでも現れない担当上忍とチームメイトの不在が心配になったのか。――いい班だ。そう思う。自分の合格判定は間違っていなかったに違いないとも思う。
きっと今に里の自慢となる班になるだろう。カカシは嫌がるナルトを抱き上げると、二人と合流するべく立ち上がる。バタバタとナルトの手足が動いたが、アカデミー生に毛が生えた程度のナルトの抵抗など、カカシには赤ん坊がむずがる程度の抵抗でしかない。
「きゃ。カカシ先生。何してるんですか。セクハラですよ!」
「ウスラトンカチども何やってんだ」
「サクラちゃん、サスケェ助けてってば!!」
「おまえたち、ちょっと酷くなぁい?」
二人っきりの時は、あんなに静かだったくせに、駆け付けたサスケとサクラを前にナルトがカカシの腕の中で盛大に騒ぎ始める。
「こーら」だなんて言って窘めていると、子犬のような歯にカプッと齧りつかれる。本人も弾みでカカシの指に齧りついてしまったらしく、驚いたように目が見開かれて、頬が薔薇色に染まる。その顔、凄くいい。そそる。
欲望とかをありったけの理性で押し留めて、カカシは今はまだ教師の顔で笑った。
カカシサイド。人生色々にて。
「悪いな、カカシ。手間を取らせちまって」
「あー…。いや、いいよ」
アスマは煙草を吹かしながら、書類不備の出た任務報告書をカカシから受け取る。カカシは、どうやら楽しい休日を過ごしていたらしく、この男にしては珍しく上機嫌で、いつも丸い猫背をいっそう丸めていそいそと上忍待機所を去ろうとしていた。
「カカシ。もう帰るのか」
ポケットに手を突っ込みながら鼻歌混じりに銀髪の上忍の背中に、同僚の一人が声を掛けた。
「家で、恋人を待たせているんだ」
「なるほど、そりゃ邪魔しちまって悪かったな」
アスマが、全てを合点した顔で煙草の煙を吐いたが、同僚の男はそうは思わなかったらしい。彼は、納得できない、という表情で片眉を跳ね上げた。
「おいおい、まだ5時だぜ。子供だって遊んでる時間だろ。ちょっと飲んで帰るくらい良いじゃないか。カカシ。おまえ、最近付き合い悪いぜ」
「ごめーんね」
へらり、と笑ってカカシが謝る。
「今日はナルトが晩御飯を作ってくれるんだ。あの子は、ちょっとそそっかしいところがあるから、鍋のお湯を吹き零したりして火傷しないか、近くで見ていてあげなきいけないんだ。それにあの子はああ見えて寂しがり屋だから一人で泣いていたら、慰めてあげないといけないデショ?」
家にいるナルトのことを思い出したのか、カカシの表情は目に見えて緩む。
「カカシ。うずまきは忍者だよな?」
「そうだよ。なに、おまえボケでも始まってるんじゃないの?」
念を押した同僚にカカシが真顔で返した。人生色々が静寂に包まれる。
「カカシ……」
同僚の男がショックを受けたように固まり、この〝由々しき事態〟に思い切ったように口を開いた。
「おまえは、なんて情けない男になっちまったんだ…」
「んん~…?」
「オレは、おまえのことを、ちょっとズレた奴だが、一人の忍としても男としても、格好の良い奴だと尊敬していたんだぞ。それなのに、今のおまえはなんだ。まるで、腑抜けじゃないか。オレは哀しいぞ」
同僚の男のこの言葉を受けて、日頃から何か思うところがあったのだろう、「そうだ、そうだ」と数名の上忍が立ちあがる。男たちは同志が居たとばかりに顔を見合せると、カカシと向き合った。
「おまえ。恋人を甘やかし過ぎてるぞ。男はちょっと冷たいくらいが、丁度いいんだ。それが男の威厳ってもんだろう。今のおまえにはまるでそれがない」
「その通りだ。そりゃうずまきは男のオレたちの目から見ても別嬪だろうがよ。だけど、おまえがそれだけ尽くす価値があるのか。相手は所詮、男だろ。カカシ。おまえ、少しぐらい遊んだって、罪はないぞ」
「うずまきだって年頃なんだ。おまえに隠れてちょっとくらいお痛な遊びを覚えている年齢だぜ?」
「そうだ。うずまきだって、きっと影では女と遊んでみたいと思っているかもしれないぞ」
「どうしておまえたち、そんな酷いことを言うんだ?」
「おまえのためだ!」
「よくわからないよ?」
ナルトと出会う前。カカシは、実に忍らしい男であった。程良く女と遊び、仕事とプライベートの区切りを分け、他人の事には口を出さない。少々冷めていたかもしれないが、銀色の髪の毛を持つ上忍には、そうした孤立的な生き方が似合っていた。
それほど遊びを心得た気持ちの良い男だったのに、しかし今はどうだ。あのストイックでエリート忍者だったカカシが14歳も年下の少年に首ったけだというのだ。そんな姿が、はたけカカシであって良いはずがない。男たちは俄然、カカシを真っ当な男に戻そうと使命感に燃えてしまっていた。
彼等は、ナルトに対する嫌悪感はとくに持っていない。むしろうずまきナルトのことは、九尾のことがあったのに、よくぞあそこまで真っ直ぐに育ったものだと、拍手喝采をしてやりたいくらいだ。
だが、少年忍者に対する称賛と、同僚の恋人としての評価は別なのである。
さらに、カカシを糾弾している男たちの中の一人は、この間、目を覆うような信じられない光景を見てしまった。
先日の日曜日。彼は、おそらく商店街で買い物をしている途中だっただろう二人に出くわした。銀色と金色の対は酷く目立つ。自然と目に留めてしまっていると、スーパーから出てきた二人が何か口論を始めたのだ。
そして、あろうことか金色の少年は、道端で銀色の大人を怒鳴りつけたかと思うと、ぽかんと上忍の頭を叩いて叱りつけ始めたのだ。
恋人とはいえ仮にも上官に対する態度ではない、と男はあまりの事態に唖然としてしまった。しかし、当のカカシと言えば、少年に殴られたというのに、咎めるどころか始終笑顔で、少年の頬が怒りのために紅潮すればするほど、嬉しそうに頬を緩ませていた。
こんな関係は間違っている。狂っている。男はその時、この間違いをいつか正してやろうと決心したのだった。当人たちの幸せが…殊にカカシの幸せがどこにあってもだ。
「オレは、おまえのあの姿を見て目頭が熱くなったぞ。同じ上忍として、いや男としてなんて情けない」
「おまえがそんな態度だからうずまきがつけ上がるんだ」
「おまえは他の女を知るべきだよ」
「女の身体はいいぞぉ、肉は柔らかいし、何より男には出来ない気遣いってものが出来る。おまえはもう一度、女の良さを再確認するべきだ」
男たちは、年端も行かぬ少年の尻に敷かれているカカシに立腹して、そう言った。きっとカカシはあの少年に夢中になり過ぎているか、もしくは〝病気〟なのだと思った。それならば、悪い夢から覚まさせてやるのは、仲間である自分たちの役割なのではないか。彼等は、カカシをまっとうな道に戻してやろうという使命感に燃えていた。
「夕食ぐらいなんだ。ほったらかしてやればいいだろう。男としての威厳を取り戻せ」
「一度くらい浮気をしてどっちが上か、わからせてやっても罰は当たらないぜ」
「あの子の代わりくらいいくらでもいるだろう」
ブチ。何かが切れる音が、どこからか聞こえた。
「…………おまえら。それ以上言ったら殺すからな」
それまで黙って男たちの話を聞いていたカカシの声のトーンがあからさまに低くなった。カカシの額にはわかりやすいほど大きな青筋が浮かんでいる。おいおい、とアスマを始めカカシの内情に精通している同僚等は殺気立った友人に肝を冷やして見守った。
「は?」
「へ?」
カカシの様子に男たちが鳩が豆鉄砲を喰らったような表情で固まった。
「ナルトが簡単に手に入るみたいな言い方をするな。オレは、真剣にナルトを愛してるんだ。オレは、あの子に本気なんだ。付き纏っているのも、束縛しているのも、我儘を言って困らせて怒らせて泣かせるのも、全部オレなんだ。オレはナルトがいないと息も出来ないんだよ」
カカシの唯一晒された右の瞳には驚くべきことに薄っすら涙の膜さえ張っていた。
オレはあの子に恋をしているんだ、とカカシは真剣に告白した。もちろん、アスマと事情をよぉく知る上忍等はすでに、胃凭れを起こしそうな顔で…窓の外を見ていた。
「おまえたちはナルトの良さをまったくわかっていない。あの子の愛くるしさをまるで理解していない。あの子は、オレがどんなに駄目な大人なのか全て知っていていつも微笑んでくれるんだ。オレの駄目なところもそれでいいって許してくれるんだ。オレは、オレは……」
カカシは頭を抱え始める。そのまま「オレは…」と同じ単語を繰り返していたカカシは、
「ナルトを愛してるんだ…」
噛み締めるように呟かれた言葉に、今度こそ人生色々の面々の大半があさっての方向を見ていた。
「それにナルトはあれでなかなか怒ったら怖いんだ。オレが浮気したなんて知ったら……捨てられる」
カカシは恐ろしい未来を想像したのだろう、ぶるぶると震え始めた。
「一晩限りの女相手にあの子を手放すだってっ?とんでもない。そんなことになったらオレはその女を殺してしまうよ」
ゾッとするような結論を脳内で下したカカシの思考回路に、人生色々が一瞬静まった。おそらくそこにいたのは、カカシに女を薦めた男たちが望んでいたかつでのはたけカカシの姿だっただろう。イビツに歪んで、人を寄せ付けないはたけカカシ。カカシの尋常ならぬ様子に、
「そりゃ、うん。おまえのうずまきは可愛いよ」
「そうだよ、オレたちだってうずまきが好きだぜ」
「ハキハキして竹を割ったような性格で話していて気持ちいいよな」
長椅子に座っていた、カカシと馴染みの古株の上忍等が気を使って「うんうん」と頷き始めたが、それすらもカカシの癇に障ったようである。
「ちょっとそれどういうこと、ワサビ、ネギ、アクビ。おまえらナルトのことをいやらしい視線で見てるわけじゃないだろうな。見るな、触るな、近付くな、減る!!」
危ない雰囲気は引っ込めたもののカカシは途端に、目くじらを立てて子供のように怒り出した。
「とくに、アクビ。おまえ、ナルトと話したのか。オレに隠れてナルトにちょっかい出したらただじゃおかないぞ」
「……おめーは嫁さんを褒められてもけなされても同じような反応しか出来んのか」
「へ」
「おまえのとこのお姫さんだよ。おまえの、嫁さんだろ?」
「お嫁さんだって…。誰が、ナルトが…?」
仕方なく割って入ったアスマの鶴の一声ならぬ、熊の一声に、カカシの瞳が見開かれる。途端にカカシの周囲に、幼稚園児の落書きのような花が咲き乱れる。まったくこれほどゲンキンな男もいまい。
「ナルトがオレのお嫁さん……」
カカシは噛み締めるように、呟きを落とした。
「ったく。てめぇのぶっ飛んだ思考回路には付いて行けやしねえぜ…」
アスマは、かつてカカシがナルトへの恋心を自覚したばかりの頃を思い出していた。
あれは数年前、まだ春の麗らかな日だった。その日、いつものようにぼんやりとした顔で人生色々に入って来たカカシは、いつものように長椅子に座り、いつものように任務報告書を作成し始めた。
そこまでは良かった。いつも通りのカカシだ。しかし、その日のはたけカカシはいつも通りペンを握り書面にインクを走らせようとした瞬間、突然立ち上がったかと思うと、床を踏み鳴らし始めたのだ。
ナルト、可愛い…。唇を噛みしめ、小さく呟かれた単語はおそらく部下の名前だ。どうやらカカシはその日の任務で活躍した小さな部下を思い出しているらしかった。顔を半分以上隠しているはずの覆面忍者が明らかに怪しい雰囲気を醸し出しぐふぐふ笑いながら任務報告書を書いている。
その後もカカシは何度も、ナルト、可愛い…と呟き続け、あまりの出来事に、人生色々に居た同僚等は反応に困り凍り付いた。とうとう、写輪眼のカカシの頭がおかしくなったと思う者も居たほどだ。
あの時は本当に怖かった…と遠い日の思い出に、アスマは薄ら寒い笑いを漏らした。何しろ12歳のガキ相手になんだかイケナイ想像をしている同僚の隣に座らなければいけなかったのは何を隠そうアスマ本人だった。
そして今現在。うずまきナルトと恋人になって早数年。「お嫁さん」発言に、カカシは感動のためにしゃがみ込んでしまい、同僚と友人一同はそんな彼を恐ろしい生き物を見るように見詰めていた。
「ああ。オレは帰らなくてはいけない。オレの奥さんが帰宅を待ってるんだ!」
「ああ、お願いだから早く帰ってくれ」
馬鹿に付ける薬なし、とばかりにアスマは短くなった煙草を揉み消した。
その後。まぁ、要約すると家に帰ったカカシは、ナルトにフライパン返しを床に投げ付けられ、かくして家出をしたナルトの大捜索に乗り出すこととなったのだ。
「それじゃあナルトはオレの愛も疑ってなかったんだよね?」
「おう」
「オレがナルトと付き合う前のオンナが全部アソビだってことも理解している」
「おう」
「それじゃあ、なんで家出なんて……」
まだ冷たい部屋の中で、カカシはナルトを後ろ抱きにして、シーツに包まっていた。ナルトの瞳は潤んでいた。カカシが無体なセックスをしたためだ。嫌だと抵抗するナルトに、カカシは無理矢理自身の熱を押し当てた。
おかげでナルトの身体は、もう今日何度目になるかわからない情交にぐったりと弛緩しきっている。カカシは、裸体のナルトを抱き込みながら旋毛にキスを落とした。
「や、…だっ。しばらくカカシ先生にはさわられたくない」
ぺしん、と手で煩わしいものをどけるように、ナルトはカカシのことを振り払った。ナルトの冷たい態度に、カカシは沈痛な面持ちで眉を顰める。
カカシは、情事の最中に、ナルトからすっかり不機嫌のわけは聞き出していた。どうやら自分の昔の女がナルトの家に押し掛け、ナルトにいちゃもんを付けて帰って行ったらしい。まったくまだそんな愚かな女が残っていたのかと、カカシはナルトの身体中にキスの雨を落として、ご機嫌を取ったが、それでナルトの曲がった機嫌が直るわけもなく、セックスを強要したカカシに、ナルトのご機嫌棒線グラフの数値は右に下降するばかりだった。
「カカシ先生。もう、離せってば」
ナルトは、カカシの腕の拘束から抜け出すと、ふらつく身体で上着を着込み始める。
「ナルト、まだ怒ってるの。無理にセックスしたことなら謝…」
脹れっ面の碧い瞳に睨まれて、カカシは言い掛けた台詞をごくんと飲み込んだ。
「カカシ先生はそればっか……」
「え」
「オレとのセックスにしか興味ない?」
「……ナ、ナルト。そんなことはないよ。おまえは誤解しているようだけど、オレは本当に身も心もおまえのことを愛して…っ!」
慌ててカカシが弁解しようと、ベットから起き上がると、来るなってば!と上服が投げ付けられる。
「カカシ先生が身体ばっかなのは、今に始まったことじゃねぇじゃん。オレ、知ってるもん」
誤解だ、とカカシは声を大にして言いたかった。しかし、自分の今までの行動を振り返ると、冷や汗を掻いしてしまうような記憶しか思い当たらない。その上、大変不味い事に、カカシは思う存分ナルトを抱いた後なのだ。説得力のないことこの上ない。そんなカカシを睨み付けて、ナルトは涙を堪えるように、顔を歪める。
「ナル……ご、ごめ」
「バカー!」
「っ!!」
びくん、とカカシの身体が強張る。オロオロとして、どうしたら良いかわからないといった風体のカカシに、ナルトは「それに、それに…」と拳を震わして俯いた。
「もう一つオレが怒ってることは、カカシ先生があんな趣味の悪りぃ女と付き合っていたからだってば!」
地団太を踏んでナルトが叫んだ。ナルトの剣幕に、カカシが呆気に取られて固まる。
「えぇっ。ナ、ナルトっ?」
「誰でも良かったって言ったって少しは相手を選べってば。カカシ先生、よくあんな人と、寝れたってばね。信じられねぇ。カカシ先生の下半身には〝品位〟ってものがないのかよ。節操無し!」
「せ、節操無し…って。おまえ、それ男が女に使う台詞…」
「うるさい、うるさい。セックス大魔神、駄犬、エロ上忍~!!」
「セッ、だっ、エロ…。ナ、ナルトォ…」
そんなことを言われても、カカシには女がどこの誰であるかすら、名前を聞いても思い出せないのである。たぶん、星の数ほどいた過去の女の一人なのだろう。記憶にも残っていない、ナルトと引き合いに出しても仕様がない、そんな程度の女なのだ。
むしろ、カカシはその自称カカシの元オンナだという名前も顔も知らないどこかの誰かさんに殺意がむくむくと湧いてきていた。こんな、こんがらかった事態になったのはそのどこかの誰かのせいではないか。その女さえいなければ、カカシは今頃ナルトと夕食にありつけていたし、合意でセックスに及んでいたはずだ。そもそもの原因は過去の自分の乱れた性関係だったのだが、カカシは都合良くそこら辺を火影岩の彼方にうっちゃらって、女のことを恨んでいた。おそらく、次その女がカカシの前に名乗り出て現れたら、ナルトが、カカシのことを止めない限り、カカシは女のことを許さないに違いない。
「ナルト、愛してるんだ。本当だよ、おまえだけを愛しているんだ。身体だけじゃない。おまえの心もすべて愛してるんだ」
仕方なくカカシが取った行動と言えば、安っぽい三流ドラマのような使い古された台詞を並べることだけだった。
「他の女なんてどうでもいいよ。おまえだけ、おまえだけが好きなんだ」
カカシは、ナルトの背中にキスをしたり、擦ったりしながら愛撫を始めた。今度こそ、ナルトの目尻に涙の粒が浮き上がる。
「大体、ナルトは料理も掃除も出来るじゃない。立派なオレの恋人だよ?」
「対抗してもしょうがねぇじゃん……」
ナルトはカカシに抱き締められながら唇を噛んだ。
「別に、オレはカカシ先生のポイントを稼ぎたくて、料理を作ったり掃除をしたり洗濯をしてたわけじゃないってばよ。それがあのバカ女にはわからないんだってば」
「バカ女っておまえ……」
「バカ女はバカ女なんだってば、うわーん!」
ナルトが本格的に大声で泣き始めたので、カカシは慌ててナルトをシーツで包んだ。しゃっくりを上げて泣いているナルトの肩を抱いて、ああ冷たくなった身体を温めてあげなければ、と思ってしまう。
だって、仕方ないではないか。愛しいから抱きたい。さわりたい。キスしたい。より密着していたい。ベッドの中で触れ合いたい。愛を確かめたい。好きだと囁いて、身体が冷たくなっていたら温めて慰めて、涙を優しく拭ってあげたい。カカシにとっては、ナルトを好きになって以来ごく自然な衝動なのだ。
「ナルト、好きだよ」
カカシはナルトの後頭部に口付ける。すると金髪がふるりと揺れた。
「オレ…男のくせに、ちまちま掃除したり料理作ったりして、カカシ先生が美味しいねって御飯を食べてくれたら嬉しいし、男なのに、カカシ先生に可愛いって言われると嬉しくてもっと可愛くなりてぇかもとか思っちゃうし、家でカカシ先生が寛いでくれると嬉しい。なんかそう言うのってカカシ先生に媚び売ってるみたいじゃん。それってオレはあの女の人と同じってこと?オレはそうじゃないって思うけどよくわかんねぇ。そう思ったら虚しくなって、気分が悪くなった」
ナルトの髪の毛を弄っていたカカシの指が止まったことに気付かず、ナルトは尚も言い募る。
「あの女の人がカカシ先生の話をするたびに嫌な気持ちになった」
「うん」
「オレの知らないカカシ先生の話なんてあんな女の人の口から聞きたくない」
「うん」
「こんなオレ…全然好きくないのに、カカシ先生といるとどんどんいやな自分になっちゃってる気がする」
ナルトの大分少年らしくなった頬から、涙が一滴零れ落ちた。
「ねぇ、ナルト。仲直りのキスをしようか?」
「いやだってば。カカシ先生、オレってば…」
「しー…。愛してるよ、ナルト」
やだ…、と小さくしたナルトの抵抗は、カカシの口の中に飲み込まれた。そのまま押し倒され、シーツから二人分の衣擦れの音が聞こえ始める。
「あ…っ。カカシせんせぇ……っ」
「ナルト…」
カカシの肩にナルトの足が掛かる。そのまま結合部が丸見えな体勢でナルトはゆさゆさと揺すられた。
「あ、あんっ。ふぇえ……」
「あー…。いや、いいよ」
アスマは煙草を吹かしながら、書類不備の出た任務報告書をカカシから受け取る。カカシは、どうやら楽しい休日を過ごしていたらしく、この男にしては珍しく上機嫌で、いつも丸い猫背をいっそう丸めていそいそと上忍待機所を去ろうとしていた。
「カカシ。もう帰るのか」
ポケットに手を突っ込みながら鼻歌混じりに銀髪の上忍の背中に、同僚の一人が声を掛けた。
「家で、恋人を待たせているんだ」
「なるほど、そりゃ邪魔しちまって悪かったな」
アスマが、全てを合点した顔で煙草の煙を吐いたが、同僚の男はそうは思わなかったらしい。彼は、納得できない、という表情で片眉を跳ね上げた。
「おいおい、まだ5時だぜ。子供だって遊んでる時間だろ。ちょっと飲んで帰るくらい良いじゃないか。カカシ。おまえ、最近付き合い悪いぜ」
「ごめーんね」
へらり、と笑ってカカシが謝る。
「今日はナルトが晩御飯を作ってくれるんだ。あの子は、ちょっとそそっかしいところがあるから、鍋のお湯を吹き零したりして火傷しないか、近くで見ていてあげなきいけないんだ。それにあの子はああ見えて寂しがり屋だから一人で泣いていたら、慰めてあげないといけないデショ?」
家にいるナルトのことを思い出したのか、カカシの表情は目に見えて緩む。
「カカシ。うずまきは忍者だよな?」
「そうだよ。なに、おまえボケでも始まってるんじゃないの?」
念を押した同僚にカカシが真顔で返した。人生色々が静寂に包まれる。
「カカシ……」
同僚の男がショックを受けたように固まり、この〝由々しき事態〟に思い切ったように口を開いた。
「おまえは、なんて情けない男になっちまったんだ…」
「んん~…?」
「オレは、おまえのことを、ちょっとズレた奴だが、一人の忍としても男としても、格好の良い奴だと尊敬していたんだぞ。それなのに、今のおまえはなんだ。まるで、腑抜けじゃないか。オレは哀しいぞ」
同僚の男のこの言葉を受けて、日頃から何か思うところがあったのだろう、「そうだ、そうだ」と数名の上忍が立ちあがる。男たちは同志が居たとばかりに顔を見合せると、カカシと向き合った。
「おまえ。恋人を甘やかし過ぎてるぞ。男はちょっと冷たいくらいが、丁度いいんだ。それが男の威厳ってもんだろう。今のおまえにはまるでそれがない」
「その通りだ。そりゃうずまきは男のオレたちの目から見ても別嬪だろうがよ。だけど、おまえがそれだけ尽くす価値があるのか。相手は所詮、男だろ。カカシ。おまえ、少しぐらい遊んだって、罪はないぞ」
「うずまきだって年頃なんだ。おまえに隠れてちょっとくらいお痛な遊びを覚えている年齢だぜ?」
「そうだ。うずまきだって、きっと影では女と遊んでみたいと思っているかもしれないぞ」
「どうしておまえたち、そんな酷いことを言うんだ?」
「おまえのためだ!」
「よくわからないよ?」
ナルトと出会う前。カカシは、実に忍らしい男であった。程良く女と遊び、仕事とプライベートの区切りを分け、他人の事には口を出さない。少々冷めていたかもしれないが、銀色の髪の毛を持つ上忍には、そうした孤立的な生き方が似合っていた。
それほど遊びを心得た気持ちの良い男だったのに、しかし今はどうだ。あのストイックでエリート忍者だったカカシが14歳も年下の少年に首ったけだというのだ。そんな姿が、はたけカカシであって良いはずがない。男たちは俄然、カカシを真っ当な男に戻そうと使命感に燃えてしまっていた。
彼等は、ナルトに対する嫌悪感はとくに持っていない。むしろうずまきナルトのことは、九尾のことがあったのに、よくぞあそこまで真っ直ぐに育ったものだと、拍手喝采をしてやりたいくらいだ。
だが、少年忍者に対する称賛と、同僚の恋人としての評価は別なのである。
さらに、カカシを糾弾している男たちの中の一人は、この間、目を覆うような信じられない光景を見てしまった。
先日の日曜日。彼は、おそらく商店街で買い物をしている途中だっただろう二人に出くわした。銀色と金色の対は酷く目立つ。自然と目に留めてしまっていると、スーパーから出てきた二人が何か口論を始めたのだ。
そして、あろうことか金色の少年は、道端で銀色の大人を怒鳴りつけたかと思うと、ぽかんと上忍の頭を叩いて叱りつけ始めたのだ。
恋人とはいえ仮にも上官に対する態度ではない、と男はあまりの事態に唖然としてしまった。しかし、当のカカシと言えば、少年に殴られたというのに、咎めるどころか始終笑顔で、少年の頬が怒りのために紅潮すればするほど、嬉しそうに頬を緩ませていた。
こんな関係は間違っている。狂っている。男はその時、この間違いをいつか正してやろうと決心したのだった。当人たちの幸せが…殊にカカシの幸せがどこにあってもだ。
「オレは、おまえのあの姿を見て目頭が熱くなったぞ。同じ上忍として、いや男としてなんて情けない」
「おまえがそんな態度だからうずまきがつけ上がるんだ」
「おまえは他の女を知るべきだよ」
「女の身体はいいぞぉ、肉は柔らかいし、何より男には出来ない気遣いってものが出来る。おまえはもう一度、女の良さを再確認するべきだ」
男たちは、年端も行かぬ少年の尻に敷かれているカカシに立腹して、そう言った。きっとカカシはあの少年に夢中になり過ぎているか、もしくは〝病気〟なのだと思った。それならば、悪い夢から覚まさせてやるのは、仲間である自分たちの役割なのではないか。彼等は、カカシをまっとうな道に戻してやろうという使命感に燃えていた。
「夕食ぐらいなんだ。ほったらかしてやればいいだろう。男としての威厳を取り戻せ」
「一度くらい浮気をしてどっちが上か、わからせてやっても罰は当たらないぜ」
「あの子の代わりくらいいくらでもいるだろう」
ブチ。何かが切れる音が、どこからか聞こえた。
「…………おまえら。それ以上言ったら殺すからな」
それまで黙って男たちの話を聞いていたカカシの声のトーンがあからさまに低くなった。カカシの額にはわかりやすいほど大きな青筋が浮かんでいる。おいおい、とアスマを始めカカシの内情に精通している同僚等は殺気立った友人に肝を冷やして見守った。
「は?」
「へ?」
カカシの様子に男たちが鳩が豆鉄砲を喰らったような表情で固まった。
「ナルトが簡単に手に入るみたいな言い方をするな。オレは、真剣にナルトを愛してるんだ。オレは、あの子に本気なんだ。付き纏っているのも、束縛しているのも、我儘を言って困らせて怒らせて泣かせるのも、全部オレなんだ。オレはナルトがいないと息も出来ないんだよ」
カカシの唯一晒された右の瞳には驚くべきことに薄っすら涙の膜さえ張っていた。
オレはあの子に恋をしているんだ、とカカシは真剣に告白した。もちろん、アスマと事情をよぉく知る上忍等はすでに、胃凭れを起こしそうな顔で…窓の外を見ていた。
「おまえたちはナルトの良さをまったくわかっていない。あの子の愛くるしさをまるで理解していない。あの子は、オレがどんなに駄目な大人なのか全て知っていていつも微笑んでくれるんだ。オレの駄目なところもそれでいいって許してくれるんだ。オレは、オレは……」
カカシは頭を抱え始める。そのまま「オレは…」と同じ単語を繰り返していたカカシは、
「ナルトを愛してるんだ…」
噛み締めるように呟かれた言葉に、今度こそ人生色々の面々の大半があさっての方向を見ていた。
「それにナルトはあれでなかなか怒ったら怖いんだ。オレが浮気したなんて知ったら……捨てられる」
カカシは恐ろしい未来を想像したのだろう、ぶるぶると震え始めた。
「一晩限りの女相手にあの子を手放すだってっ?とんでもない。そんなことになったらオレはその女を殺してしまうよ」
ゾッとするような結論を脳内で下したカカシの思考回路に、人生色々が一瞬静まった。おそらくそこにいたのは、カカシに女を薦めた男たちが望んでいたかつでのはたけカカシの姿だっただろう。イビツに歪んで、人を寄せ付けないはたけカカシ。カカシの尋常ならぬ様子に、
「そりゃ、うん。おまえのうずまきは可愛いよ」
「そうだよ、オレたちだってうずまきが好きだぜ」
「ハキハキして竹を割ったような性格で話していて気持ちいいよな」
長椅子に座っていた、カカシと馴染みの古株の上忍等が気を使って「うんうん」と頷き始めたが、それすらもカカシの癇に障ったようである。
「ちょっとそれどういうこと、ワサビ、ネギ、アクビ。おまえらナルトのことをいやらしい視線で見てるわけじゃないだろうな。見るな、触るな、近付くな、減る!!」
危ない雰囲気は引っ込めたもののカカシは途端に、目くじらを立てて子供のように怒り出した。
「とくに、アクビ。おまえ、ナルトと話したのか。オレに隠れてナルトにちょっかい出したらただじゃおかないぞ」
「……おめーは嫁さんを褒められてもけなされても同じような反応しか出来んのか」
「へ」
「おまえのとこのお姫さんだよ。おまえの、嫁さんだろ?」
「お嫁さんだって…。誰が、ナルトが…?」
仕方なく割って入ったアスマの鶴の一声ならぬ、熊の一声に、カカシの瞳が見開かれる。途端にカカシの周囲に、幼稚園児の落書きのような花が咲き乱れる。まったくこれほどゲンキンな男もいまい。
「ナルトがオレのお嫁さん……」
カカシは噛み締めるように、呟きを落とした。
「ったく。てめぇのぶっ飛んだ思考回路には付いて行けやしねえぜ…」
アスマは、かつてカカシがナルトへの恋心を自覚したばかりの頃を思い出していた。
あれは数年前、まだ春の麗らかな日だった。その日、いつものようにぼんやりとした顔で人生色々に入って来たカカシは、いつものように長椅子に座り、いつものように任務報告書を作成し始めた。
そこまでは良かった。いつも通りのカカシだ。しかし、その日のはたけカカシはいつも通りペンを握り書面にインクを走らせようとした瞬間、突然立ち上がったかと思うと、床を踏み鳴らし始めたのだ。
ナルト、可愛い…。唇を噛みしめ、小さく呟かれた単語はおそらく部下の名前だ。どうやらカカシはその日の任務で活躍した小さな部下を思い出しているらしかった。顔を半分以上隠しているはずの覆面忍者が明らかに怪しい雰囲気を醸し出しぐふぐふ笑いながら任務報告書を書いている。
その後もカカシは何度も、ナルト、可愛い…と呟き続け、あまりの出来事に、人生色々に居た同僚等は反応に困り凍り付いた。とうとう、写輪眼のカカシの頭がおかしくなったと思う者も居たほどだ。
あの時は本当に怖かった…と遠い日の思い出に、アスマは薄ら寒い笑いを漏らした。何しろ12歳のガキ相手になんだかイケナイ想像をしている同僚の隣に座らなければいけなかったのは何を隠そうアスマ本人だった。
そして今現在。うずまきナルトと恋人になって早数年。「お嫁さん」発言に、カカシは感動のためにしゃがみ込んでしまい、同僚と友人一同はそんな彼を恐ろしい生き物を見るように見詰めていた。
「ああ。オレは帰らなくてはいけない。オレの奥さんが帰宅を待ってるんだ!」
「ああ、お願いだから早く帰ってくれ」
馬鹿に付ける薬なし、とばかりにアスマは短くなった煙草を揉み消した。
その後。まぁ、要約すると家に帰ったカカシは、ナルトにフライパン返しを床に投げ付けられ、かくして家出をしたナルトの大捜索に乗り出すこととなったのだ。
「それじゃあナルトはオレの愛も疑ってなかったんだよね?」
「おう」
「オレがナルトと付き合う前のオンナが全部アソビだってことも理解している」
「おう」
「それじゃあ、なんで家出なんて……」
まだ冷たい部屋の中で、カカシはナルトを後ろ抱きにして、シーツに包まっていた。ナルトの瞳は潤んでいた。カカシが無体なセックスをしたためだ。嫌だと抵抗するナルトに、カカシは無理矢理自身の熱を押し当てた。
おかげでナルトの身体は、もう今日何度目になるかわからない情交にぐったりと弛緩しきっている。カカシは、裸体のナルトを抱き込みながら旋毛にキスを落とした。
「や、…だっ。しばらくカカシ先生にはさわられたくない」
ぺしん、と手で煩わしいものをどけるように、ナルトはカカシのことを振り払った。ナルトの冷たい態度に、カカシは沈痛な面持ちで眉を顰める。
カカシは、情事の最中に、ナルトからすっかり不機嫌のわけは聞き出していた。どうやら自分の昔の女がナルトの家に押し掛け、ナルトにいちゃもんを付けて帰って行ったらしい。まったくまだそんな愚かな女が残っていたのかと、カカシはナルトの身体中にキスの雨を落として、ご機嫌を取ったが、それでナルトの曲がった機嫌が直るわけもなく、セックスを強要したカカシに、ナルトのご機嫌棒線グラフの数値は右に下降するばかりだった。
「カカシ先生。もう、離せってば」
ナルトは、カカシの腕の拘束から抜け出すと、ふらつく身体で上着を着込み始める。
「ナルト、まだ怒ってるの。無理にセックスしたことなら謝…」
脹れっ面の碧い瞳に睨まれて、カカシは言い掛けた台詞をごくんと飲み込んだ。
「カカシ先生はそればっか……」
「え」
「オレとのセックスにしか興味ない?」
「……ナ、ナルト。そんなことはないよ。おまえは誤解しているようだけど、オレは本当に身も心もおまえのことを愛して…っ!」
慌ててカカシが弁解しようと、ベットから起き上がると、来るなってば!と上服が投げ付けられる。
「カカシ先生が身体ばっかなのは、今に始まったことじゃねぇじゃん。オレ、知ってるもん」
誤解だ、とカカシは声を大にして言いたかった。しかし、自分の今までの行動を振り返ると、冷や汗を掻いしてしまうような記憶しか思い当たらない。その上、大変不味い事に、カカシは思う存分ナルトを抱いた後なのだ。説得力のないことこの上ない。そんなカカシを睨み付けて、ナルトは涙を堪えるように、顔を歪める。
「ナル……ご、ごめ」
「バカー!」
「っ!!」
びくん、とカカシの身体が強張る。オロオロとして、どうしたら良いかわからないといった風体のカカシに、ナルトは「それに、それに…」と拳を震わして俯いた。
「もう一つオレが怒ってることは、カカシ先生があんな趣味の悪りぃ女と付き合っていたからだってば!」
地団太を踏んでナルトが叫んだ。ナルトの剣幕に、カカシが呆気に取られて固まる。
「えぇっ。ナ、ナルトっ?」
「誰でも良かったって言ったって少しは相手を選べってば。カカシ先生、よくあんな人と、寝れたってばね。信じられねぇ。カカシ先生の下半身には〝品位〟ってものがないのかよ。節操無し!」
「せ、節操無し…って。おまえ、それ男が女に使う台詞…」
「うるさい、うるさい。セックス大魔神、駄犬、エロ上忍~!!」
「セッ、だっ、エロ…。ナ、ナルトォ…」
そんなことを言われても、カカシには女がどこの誰であるかすら、名前を聞いても思い出せないのである。たぶん、星の数ほどいた過去の女の一人なのだろう。記憶にも残っていない、ナルトと引き合いに出しても仕様がない、そんな程度の女なのだ。
むしろ、カカシはその自称カカシの元オンナだという名前も顔も知らないどこかの誰かさんに殺意がむくむくと湧いてきていた。こんな、こんがらかった事態になったのはそのどこかの誰かのせいではないか。その女さえいなければ、カカシは今頃ナルトと夕食にありつけていたし、合意でセックスに及んでいたはずだ。そもそもの原因は過去の自分の乱れた性関係だったのだが、カカシは都合良くそこら辺を火影岩の彼方にうっちゃらって、女のことを恨んでいた。おそらく、次その女がカカシの前に名乗り出て現れたら、ナルトが、カカシのことを止めない限り、カカシは女のことを許さないに違いない。
「ナルト、愛してるんだ。本当だよ、おまえだけを愛しているんだ。身体だけじゃない。おまえの心もすべて愛してるんだ」
仕方なくカカシが取った行動と言えば、安っぽい三流ドラマのような使い古された台詞を並べることだけだった。
「他の女なんてどうでもいいよ。おまえだけ、おまえだけが好きなんだ」
カカシは、ナルトの背中にキスをしたり、擦ったりしながら愛撫を始めた。今度こそ、ナルトの目尻に涙の粒が浮き上がる。
「大体、ナルトは料理も掃除も出来るじゃない。立派なオレの恋人だよ?」
「対抗してもしょうがねぇじゃん……」
ナルトはカカシに抱き締められながら唇を噛んだ。
「別に、オレはカカシ先生のポイントを稼ぎたくて、料理を作ったり掃除をしたり洗濯をしてたわけじゃないってばよ。それがあのバカ女にはわからないんだってば」
「バカ女っておまえ……」
「バカ女はバカ女なんだってば、うわーん!」
ナルトが本格的に大声で泣き始めたので、カカシは慌ててナルトをシーツで包んだ。しゃっくりを上げて泣いているナルトの肩を抱いて、ああ冷たくなった身体を温めてあげなければ、と思ってしまう。
だって、仕方ないではないか。愛しいから抱きたい。さわりたい。キスしたい。より密着していたい。ベッドの中で触れ合いたい。愛を確かめたい。好きだと囁いて、身体が冷たくなっていたら温めて慰めて、涙を優しく拭ってあげたい。カカシにとっては、ナルトを好きになって以来ごく自然な衝動なのだ。
「ナルト、好きだよ」
カカシはナルトの後頭部に口付ける。すると金髪がふるりと揺れた。
「オレ…男のくせに、ちまちま掃除したり料理作ったりして、カカシ先生が美味しいねって御飯を食べてくれたら嬉しいし、男なのに、カカシ先生に可愛いって言われると嬉しくてもっと可愛くなりてぇかもとか思っちゃうし、家でカカシ先生が寛いでくれると嬉しい。なんかそう言うのってカカシ先生に媚び売ってるみたいじゃん。それってオレはあの女の人と同じってこと?オレはそうじゃないって思うけどよくわかんねぇ。そう思ったら虚しくなって、気分が悪くなった」
ナルトの髪の毛を弄っていたカカシの指が止まったことに気付かず、ナルトは尚も言い募る。
「あの女の人がカカシ先生の話をするたびに嫌な気持ちになった」
「うん」
「オレの知らないカカシ先生の話なんてあんな女の人の口から聞きたくない」
「うん」
「こんなオレ…全然好きくないのに、カカシ先生といるとどんどんいやな自分になっちゃってる気がする」
ナルトの大分少年らしくなった頬から、涙が一滴零れ落ちた。
「ねぇ、ナルト。仲直りのキスをしようか?」
「いやだってば。カカシ先生、オレってば…」
「しー…。愛してるよ、ナルト」
やだ…、と小さくしたナルトの抵抗は、カカシの口の中に飲み込まれた。そのまま押し倒され、シーツから二人分の衣擦れの音が聞こえ始める。
「あ…っ。カカシせんせぇ……っ」
「ナルト…」
カカシの肩にナルトの足が掛かる。そのまま結合部が丸見えな体勢でナルトはゆさゆさと揺すられた。
「あ、あんっ。ふぇえ……」
涙を零しながら、快感に震えるナルトを、カカシはとても優しく抱く。そして――。
「…ああ、ナルトが焼き餅を妬いてくれるなんて」一拍の間を置いてから、ナルトを犯す大人が、感嘆のため息を漏らし感動し始めた。ナルトは、ふるふると小刻みに拳を握り締め、セックスの快感に歯を食い縛った。
わかってる。この大人が、重度の変人で、自分にバカであることもよくわかっているのだ。ナルトの、この非常に繊細な気持ちなど、まったく全然わかってくれないに違いないのだ。
「可愛い…。焼き餅妬いちゃったの、ナルト。怒ってるの」
「焼き餅なんか妬いてねぇってばっ」
「かわいいーーーー」
条件反射でナルトが声を荒げると、殊更嬉しそうにカカシはナルトを抱き締めた。ずぐんと、内部でカカシのものが深く刺さる。
「ひぅ…」
悲鳴のようなナルトの声。そのまま、ゆるゆると横抱きにされ、内部にペニスを埋め込んだまま、ハートを乱舞させられる。
もう、だめだ。話にならない。カカシは昔からそうだ。ナルトが、カカシと話している女に嫉妬して頬を膨らませるたびに、「可愛い」だの「嬉しい」だの、頭の螺子が緩んだことを同じくらい緩んだ顔で言ってくるのだ。ナルトが怒れば、怒るほど、嫉妬すれば、嫉妬するほど、カカシは喜んでしまうのだ。馬鹿、馬鹿、馬鹿。カカシ先生なんて、大嫌いだってば。
「可愛い。ナルト。おまえの怒って可愛い顔、見せて?んっ」
「カカシ先生の馬鹿――――!!」
ナルトは、カカシの横っ面を叩いて、自分の上に乗っているカカシを蹴る。ずるん、と自分の内側を犯していた杭が抜ける嫌な感触に顔を顰めつつ、立ち上がると、ナルトはおなざりに服を羽織り再び…今度はカカシの家から家出をしてしまったのであった。
ナルト。怒り、ぶり返し。
日常編
―お注射の時間―
―お注射の時間―
「カァシ、カァシ。いやだってばよっ。離してっ。痛いのヤーっなの」
「だーめ。いい子だからじっとしてなさい。痛いのは最初だけだから」
「やん、やん、やん―――っ!!」
「こら。暴れたら入れ辛いでしょ?ちょっとチクッとするだけだからね?力抜きなさい、ナルト?」
いやだってばよーーっという哀れな叫び声が人間に連れられた犬猫で溢れている待合室まで響いた。
その数十分前。はたけカカシは悩んでいた。彼の前には「木の葉小児科」と「木の葉ペットクリニック」がそびえ立っている。小脇に抱えた狐っ子を見下ろすと、碧い瞳がニカッと笑った。
「カァシとお出掛けだってば?」
「うううーーん」
ナルトの尻尾がぱたぱた揺れる。これから何をされるか知らないお子様は無邪気なもの。彼は迷いに迷ったうえで、「木の葉ペットクリニック」を選択した。結果として、犬猫病院の診察室から哀れな仔狐の悲鳴が響くこととなったのである。
「忍犬の時もお願いします。では」
「は、はい。お、お大事に」
受付の女性は、謎の耳付き尻尾付きの生物を連れて来た〝顔のいい上忍のはたけカカシさん〟に引き攣った笑みを浮かべた。
「ね、チクッとしただけで痛くなかったでしょ」
カカシの足元に今にも泣きそうな顔でふるふると震えている狐っ子に視線を落とす。
「うぇ、ひっく。うぇぇ…」
「ナールト…?」
「なうと、えらい…?泣かないで我慢でできたんだってばよ」
「ん――、いい子」
「ひっく。ひっく。うぇええ。カァシイィ」
ボロボロとナルトが涙を零す。カカシは、そんなナルトの垂れた狐耳に苦笑して、駆け寄って来た子供を抱き締める。
衝突してきた小さな隕石を抱きとめ、忍服のポケットで包装紙がかさつく音がして、そういえば…とカカシはポケットの中を探った。
「カァシ?」
「ナルト、お口開けてごらん?」
「ふぇ?」
普段カカシはほとんど甘いものを食さない。たまに疲れた時に、機械的にビターチョコレイトを口に含むくらいだが、それでも好んでは食べなかった。
「ほら、口開けてみな。あーん?」
「あー…?」
先程の任務中、同僚のくの一から放られたもの。
「あまっ。うまうまだってば」
ドロップを口の中に放り込んでやれば、途端に満面の笑みが返って来た。
「泣かなかったからご褒美だよ」
「カァシ、あまあま。もっと!」
「あんまり食べたら虫歯になっちゃうでしょ。バランスよくご飯食べないと大きくなれないよ? ナルトは木の葉レンジャーみたいに強い子になるんでしょ」
「木の葉れんじゃー…」
カカシの言葉をナルトは呆然としたように反芻する。
説明しよう。忍戦隊木の葉レンジャーとはナウい人気子供番組なのだ。実をいうと診察室でも最終的にはこの手で暴れるナルトを宥めた。
最近のナルトは見るもの触れるものをどんどん吸収していって、興味の対象は飛躍的に広がっている。とは言っても一人で外に出たがらないナルトは、カカシの部屋にある四角い箱がお気に入りで、カカシが任務で出ている間中観ていたせいか今ではすっかりテレビっ子だった。ナルトが好んで観ているのは子供番組やバラエティ。その中でも夕方にやっている戦隊ものにハマっているらしい。
ナルトがテレビ番組に釘付けになっている間は、カカシも家事や仕事に集中できるため、部屋で埃を被っていた四角い箱を重宝している。
そんなわけで四六時中部屋で流れている子供番組の内容をカカシはしっかり把握していたのである。
「な、なうと、イエローがいいっ。一番かっけーのっ。かげぶんしんの術――!!」
「はいはい、それじゃー晩御飯の買い物して帰ろうね」
「カァシ。なうと、晩御飯はカァシのラーメンがいい」
「えー…またラーメン?」
「なうとのご飯、らーめん、らーめん、らーめん!!」
「あれはお湯をいれるだけで出来上がりだよ。おまえ、本当にお手軽だねぇ?やっぱり栄養バランスのことを考えると秋刀魚とかでしょ」
「なうと、魚よりラーメンがいいってば。だってさ、魚って骨がいっぱいで食べ辛いってば。あと野菜もきあーい」
「野菜食べないと死ぬぞ~。栄養も偏るし、背もちっさいままだぞ?」
「なうと、牛乳飲んでるもん」
ぷくう、と片頬を膨らませて、ぼそぼそとナルトが言い訳をする。そうはいうもののやはり後ろめたいのか、耳と尻尾を下向きにぱたぱたさせている。
ナルトは口の中でドロップを転がしつつ、じぃっとカカシの手を見たあとその手の平に自分の手の平を重ね背の高い大人を見上げた。
「ならさ、ならさ、魚でもいーから、スーパーに行ったら木の葉レンジャーグミ買っていい?」
「またあのおまけがやたらと豪華な食玩のお菓子? おまえもうイエローもブルーのもピンクのも持ってるでしょ」
「あと一個欲しいんだってば。悪の大魔王の銀狼!なんかさーなんかあいつってかっこいいし、ぜってー本当はいい奴なの」
「悪役が好きなの?かっこいい?……別に普通の役者だと思うけど。なんだかぼーっとしてるし冴えない感じじゃない…?まぁ、顔はいいのかな?子供に不人気そうだけど……、おまえ、案外めんくいなんだね」
「うー……そんなことねぇも」
だって銀狼ってカァシにそっくりなんだってば…。もじもじと手遊びをしてナルトは買って貰ったばかりのサンダルに視線を落とす。こっそりと思ったことは告げずに、ナルトはカカシと繋いだ手をぶんっと振り回した。
「カァシ。なうとがいい子にしてたらご褒美くれる?」
「んー…。ちゃんとお片付け出来て一人でお着替え出来て、好き嫌いしなかったらたくさんドロップあげるよー?」
「カァシ、だいすき!」
飛び付いた三角耳の子供の頭を撫でた。その日以来、上忍はたけカカシの忍服のベストには彼に不似合いなドロップ缶が追加されることになる。人にそれはなんだと訊ねられれば、彼は意味ありげな顔で笑うだけで、彼の家にいるペットの存在を知ってるものだけがその意味を知っている。
悩殺ジャンキー☆
はたけカカシの頭の中の98%は恋人のうずまきナルトのことで占められている。まるで健康に悪い甘味ジュースのような数値である。
朝。カカシはカーテンの隙間から漏れる朝日の眩しさで起床した。時刻は午前6時。傍らにはすぴすぴと寝息を立てているナルトがいた。昨夜の疲れのためか、ぐっすり眠っている。2週間の長期任務から帰ってきたカカシは、帰宅してすぐにナルトの家に押し掛けた。カカシは帰宅の挨拶もそこそこに、ナルトを押し倒すとその場で少年の身体を求めた。任務明けのナルトの身体は我慢した分だけ一層柔らかく人肌は温かった。1回や2回抱いただけで、離してやれるはずもなく、少々無理をさせてしまったのかもしれない。結局、深夜過ぎまで情事に耽ってしまい就寝時間がかなり遅れてしまったのだ。
目元を赤くさせたナルトの様子から察すると、もしかしたら泣くまで責めてしまったのかもしれないが、カカシはナルトから発露する快楽を追うことに必死でよく覚えていなかった。
カカシは、記憶に残らないほど愛してしまったことを、後悔した。なぜなら、ナルトに関する記憶は全て覚えていたいと思っているからである。
ナルトの起床までまだ時間がある。カカシはシーツを引き寄せるとナルトを自分の腕の中にしっかり抱き込んで再び眠りの中に落ちた。
「カカシ先生、起きろってばよ!」
「ううん……」
「起きろ、起きろ~!」
「………ナールトもうちょっと寝かせてよ」
「もうお昼だってばよ。トースト焼いたからさっさと食えってば!」
「オレ、パンじゃなくてご飯がいいな~」
「我侭言うなってば。もうもうもう。布団干したいんだからどけろってば」
「ああ、任務明けに消化の悪いものを…。センセーせめて柔らかいお粥が食べたかったなぁ」
「………」
カカシの言葉にナルトがぐっと詰まる。任務明けで疲れている人間はあんなに激しく恋人に欲情しない、というツッコミが入りそうだが、ナルトはカカシの自称繊細な胃に同情してしまい、「わかったってば」とエプロンを付けてキッチンに向かおうとした。ん、エプロン……?
「ナ、ナルト。ちょっと待ちなさい。その格好はなあに?」
「この間の誕生日にサクラちゃんに貰ったんだってば」
「へぇ~、サクラも随分と気が利くようになったじゃない」
ナルトはシンプルなデザインのエプロンを見下ろして、首を傾げる。
「カカシ先生。ただのエプロンで大袈裟だってば」
「それも十分に似合うけど、男の浪漫的には、もっとこうふりふりとした夢のある奴もいいよねぇ~」
「ロリコン……」
ナルトは、汚いものでも見るようにカカシをばっさり切って捨てた。最近、ナルトが少年特有の潔癖な視線でカカシを見るようになった気がしないでもない。やだねぇ、これだから思春期は…とは思うものの、カカシ自身の10代の頃を思うと、唇を尖らせて半眼になっただけのナルトなど可愛いものかもしれない。
カカシのベッドの傍らで、顎を蒲団の上に乗っけてこちらを睨んで、手にはお玉。ここからでは見えないがキッチンにはきっと手作りの朝食が用意されているのだろう。なんだか新妻を貰ったようではないか。
「しあわせ……」
にゅーっと布団の中から伸びてきた腕に抱き込まれ、オンボロアパートにナルトの悲鳴が轟いたのはその3秒後。
「もー、もー、もーー離せー!」
「牛?」
「ちげぇっ。カカシ先生。本当に、そろそろ離せってばよ。ご飯作り直すから!」
「んー…オレはもうちょっとおまえとこのままでいたいんだけど?」
「ぶー。だめーっ。シカマルたちと遊ぶ約束してるんだってばよ。早く仕度しないと遅れちゃうだろ」
「え」
夢見心地幸せ気分だったカカシはナルトの意外な言葉に思わず冷水を浴びせられたように目を丸くした。
「今日は一日中オレとベタベタコースでしょ」
「何言ってるんだってば。カカシ先生ってば予定より二日も早く帰って来ただろ。今日の予定はもう入れちゃったの。オレ、これから遊びに行くから」
カカシはシーツを手繰り寄せると「酷い。浮気者!」と女々しくも嘘泣きを始めた。
シクシクと枕を濡らす恋人に、ナルトがため息を吐いたのは言うまでもない。
「そんなわけでナルトが浮気しないように見張りに来ました」
「カカシ先生が付いてきちゃったってば。ごめん、シカマル」
ナルトの後ろに控えている上忍の姿を見て、シカマルは顔をヒク付かせた。
「おい、おまえの先生ってちょっと異常じゃないか?」
「…いつものことだってばよ」
ナルトは身体の右側に棒線を引いて黄昏ている。それからキバやチョウジと合流しても、カカシは例の大ベストセラーの本を片手にナルトたちの後を付いて回った。
「ナルト。カカシさんはあのままでいいのか…?」
「ん?いいんだってばよ、カカシ先生がオレたちに勝手に付いて来てるだけじゃん」
「いや…でもよ、一応お前らデキてるんだろ。気ぃ使わなくていいのか」
「んー。んー。カカシせんせぇー。どこか行きたいとこある?」
「なーい」
「いや、そういうことじゃねぇよ。あー…、めんどくせぇ」
シカマルは天を仰いで、お決まりの文句を言った。結局、その日はナルトとチョウジの提案で甘味屋巡り(カカシ付き)、途中忍具屋に立ち寄り(カカシ付き)、演習場で全員で軽く手合わせ(カカシ付き)をして解散となった。
もちろん、はたけカカシはどの項目にも居たものの、参加は一切していない。大体は、甘味を食さず渋茶を啜っていたり(それはシカマルも一緒だったが)、店の外で居眠りをしていたり、木に背を預けていたりしていた。
この上忍は何が面白くて休日を過ごしているのであろう。そして、カカシが黙って付いて来ることを、ナルトは何とも思っていないようなのである。
「カカシ先生、アイス食う?」
「食べない。おまえが全部食えばいいでしょ」
「だって、オレおまけで付けて貰った抹茶味好きくねぇ…」
「オレはダストボックスじゃないぞ」
「うぇえ、お願いだってばよ。先生、抹茶味なら食えるだろ」
「ナルトー。何やってるんだよ置いて行くぞ」
「ワンワン!」
「おう。今行くってばよキバ。それじゃー、カカシ先生一口だけ。はい、あーん」
キバとチョウジと別れ、あとにシカマルとナルトだけが残った。最後に向かった先は近所のスーパーだった。シカマルが母親のヨシノから簡単な使いを頼まれていたので、ナルトも夕飯の買出しをするためにカカシと共に付いて行くことにしたのだが…。
「む。先生、塩ってまだあったっけ?」
「あー、かなり減っていたと思う」
「牛乳は?」
「はい、いつものやつ」
「サンキュ」
勇ましい牛のパッケージの牛乳パックを手渡され、ナルトは阿吽の呼吸でそれを受け取る。
「おまえらは夫婦か……」
「へ?なにが」
呆れたシカマルの呟きにナルトはきょとんと首を傾げた。カカシはナルトの傍らで、ちゃっかり自分の好物の秋刀魚とナス、それにたっぷりの緑黄色野菜をカートに入れていた。
「あっ。カカシ先生ってば勝手に野菜入れるなってばよ」
「おまえこそカップラーメン買い過ぎ」
「これはオレの必需品―!」
カップラーメンを抱き締めて、ナルトが高らかに宣言する。ナルトに好意的な里人なのだろうか、何人かのおじさんとお姉さんが、クスクスと笑いながらスーパー内を通り過ぎた。
「そんなに食ったら背ぇ伸びなくなるよ」
「へっへーん。オレってば絶賛成長期。そのうちカカシ先生も抜かしちゃうんだってばよ」
「どうだか。油断してるとちっちゃいままだよ」
「そんなことねぇもん!」
カカシが挑発すると、ナルトは簡単にムキになる。それが、面白くてカカシもわざとナルトが癪にさわる言い方をしているのだろう。ナルトに食って掛かられている上忍はこの上なく幸せそうだった。
「まぁ、まぁ、カカシさん。こいつの好き嫌いは今に始まったことじゃねぇんだし、それくらいで勘弁してやったらどうです?」
騒ぎ出した銀色と金色にシカマルがやんわりと割って入ると、「シカマルゥ…」ナルトが感動したように瞳を潤ませた。
シカマルが口出ししたのは、何もナルトを思いやってのことではない。やたらと目立つ外見の二人に人が集まり出したためだ。そうでなければ誰が犬も食わない類の喧嘩に口を挟むか、というところだったのだが、次にナルトが発した台詞で事件は勃発した。
「シカマル。おまえってばやっぱオレの大事な親友だってば。好きー!!」
「え、ナルトっ?」
「うわ、抱きつくなってナルト。いや、カカシさんこれはその……」
「…………」
「カカシさんっ?」
「……ナルトが浮気した」
「はい?」
「へ?」
「オレの前でナルトが浮気した」
ぐしゃっと、カカシの持っていたトマトが握り潰される。嫌な、勘違いをしている大人が一人。
「カカシ先生……?」
ナルトは驚いて、カカシの足元に視線を落とした。台無しになったトマトのせいで床はまるで殺人現場のようだった。
「何やってるんだってばよ先生。あーあ、これ買い取りじゃん」
「浮気なんて許さないからね!」
「は?」
今にも、泣きそうな表情でカカシがナルトの腕を引っ張った。
「別れてもやらないから!」
「な、何言ってるんだってばよカカシ先生」
「ナルトがシカマルを好きでも、オレの方が何倍もおまえのこと愛してるからね。ナルトを悦ばせてあげられるのも、満足させてあげれるのもオレだけだからね!」
「!?」
「大体ベッドの中でオレ以上にナルトを愛してあげれる男なんて――……」
「本当に何言ってるんだってばよーーー!!!」
カカシの言葉の意味を汲み取ったナルトは顔を真っ赤にさせて激怒した。
「カカシ先生。外でバカなこと言って騒ぐなってオレ、言ったよね。これで何度目っ?」
店内でこれ以上騒がれては堪らないとナルトはカカシの首根っこを引っ掴むとスーパーの外に引っ張り出した。
「1213回目です」
「相変わらず憎らしくなるほど素晴らしい記憶力だってば…」
数分後。腰に手を当てて激怒する16歳くらいの少年の足元で、正座する銀髪の男の姿があった。
「どうして頭は良いのに常識は身に付けてくれないんだってば?」
「…………」
「カカシ先生―っ?」
「謝らないよ。オレは悪くないもん」
「何が〝もん〟だってば。可愛い子ぶりっこしてもだめだってばよ!」
ちっとも可愛くないとナルトが言い捨てると、カカシが驚いたように目を見開いた。
「そんなに目を大きくしてもダメだってば!」
ナルトの言葉にカカシはしょぼんと項垂れる。
「カカシ先生に反省の色がないなら一ヶ月間、オレにさわるの禁止だから」
最終手段とばかりにナルトはカカシに重罰刑を与えた。どうだとばかりに腕を組んで、カカシを見下ろすと、カカシが見るも無残に蒼褪めている。
「そ、そんな一ヶ月もナルトにさわらなかったら死んじゃうよ。ナルトは、オレが死んでもいいの?」
ナルトの足下にカカシが縋り付いた。
「哀れっぽい声を出してもだめ。子犬みたいな目ぇしてもだめ。オレってば綱手ばぁちゃんにカカシ先生を甘やかさないように言われてるの」
「綱手様までオレの恋路を邪魔するのかっ。最近長期任務がやたらと多いと思ったらそういうこと?皆でオレのことを苛めて楽しいの!?」
「だーかーらー…。気色悪いこと、言うなってばよ!!」
酷い、大人の純情を弄ばれた、と騒ぎ出した上忍に周囲の注目が集まり出す。
「シカマル。オレってばとりあえず家で〝これ〟とカタをつけるから、ここで帰っていい?」
「ああ…。それは構わねぇけど………ナ、ナルト。早まるなよ?」
「大丈夫。カカシ先生って体力ねぇけどゴキブリ並みの生命力なの」
ぷんすか怒ったナルトを見て自分の分が悪いと気付いたカカシは途端にめそめそと泣き始めた。ナルトは、「ナルト~、ナルト~。ごめんねぇ」と両手で顔を覆ってる上忍と荷物を引きずって、ナルトは自分のアパートに辿り着く。
「あのさーカカシ先生、いつまで嘘泣きしてるつもり?」
「ナルトが許してくれるまで」
「そう。それじゃあ泣いてる限りオレってば怒ったままだから」
玄関の鍵を尻ポケットから取り出しながらナルトが言うと、「うっ、うっ、うっ」と震えていたカカシの肩がピタリと制止した。
「もう泣きマネは終わりだってば?」
「うん」
右目だけ晒した上忍がこちらを見上げていた。本当に優秀な涙腺だ。ついでに言えば要領も良くて頭が痛くなる。未だ正座をしているカカシをナルトは呆れた顔でカカシを見下ろしていたが、やがてくつりと喉の奥で笑った。
「カカシせんせぇ、上向いて?」
「?」
カカシが首を傾げた瞬間、ふっくらとした感触の熱が唇に押し当てられた。
「えっ。ナルト、キスしてくれるの?」
カカシはキスが嫌いではない。例えナルトがしたくなくても、してしまうほど好きだ。しかし、まさかこのタイミングでナルトからキスが貰えるとは思わずカカシは驚いてしまった。
「シカマルに嫉妬なんてして。バカな先生」
カカシの口布を人差し指で引き下ろし、ナルトはカカシの唇を啄む。かっこいい顔のくせに、どうしようもないへたれで、だけどそれに絆されてしまう自分は、結局カカシに弱いのだ。
「オレが、浮気するはずないだろ。そんなにオレって信用ない?」
「だって、ナルトは誰にでも好きって言うでしょ」
「そりゃ、皆好きだもん」
「ほら、やっぱり…」
ナルトの言葉にカカシはまたしょぼくれる。
「おまえは誰にでも懐くし、オレは心配だよ」
「…。確かにオレってばシカマルもキバもチョウジもサクラちゃんも好きだってば。もちろんサスケもそう。イルカ先生や綱手のバァちゃんも里のみんなが大好き」
カカシが悔しそうに、震え出す。しかし、先程のことを反省して賢明に何かを堪えているようだ。
「でも……」
ナルトはカカシの手を引っ張ると自宅の玄関の中に引き入れる。忍服の膝の部分を握り締めて取り乱すまいと耐えているカカシが愛しかったからだ。
「オレが愛しちゃってるのはカカシ先生だけだってば」
「!!」
「知らなかったの、カカシ先生?」
耳元で囁かれてカカシは首を振る。
「ナルト。おまえの気持ちをもっと言って。毎日、ちょーだい。でないとオレはおかしくなっちゃうんだよ」
「カカシ先生ってオレのこと好きだよな…?」
ナルトが上目遣い気味に大人の頬を撫ぜると、カカシが破顔した。
「キスして、ナルト。オレがシテもいいけど、おまえからちょうだい?」
カカシが訊ねるとナルトは薄っすらと頬を染めてカカシの首に腕を回した。
「カカシ先生って本当にしょうがない大人」
「ナルト中毒なんだよ。お願いだからオレから離れないでね」
まだ少しだけ泣きそうな声で告げられて、ナルトはしょうがねぇなぁとまた呟きながら、服を脱ぐのも煩わしいという仕草で、玄関先で自分を押し倒してくる銀髪の大人に身を委ねた。
はたけカカシの頭の中の98%は恋人のうずまきナルトのことで占められている。まるで健康に悪い甘味ジュースのような数値である。
朝。カカシはカーテンの隙間から漏れる朝日の眩しさで起床した。時刻は午前6時。傍らにはすぴすぴと寝息を立てているナルトがいた。昨夜の疲れのためか、ぐっすり眠っている。2週間の長期任務から帰ってきたカカシは、帰宅してすぐにナルトの家に押し掛けた。カカシは帰宅の挨拶もそこそこに、ナルトを押し倒すとその場で少年の身体を求めた。任務明けのナルトの身体は我慢した分だけ一層柔らかく人肌は温かった。1回や2回抱いただけで、離してやれるはずもなく、少々無理をさせてしまったのかもしれない。結局、深夜過ぎまで情事に耽ってしまい就寝時間がかなり遅れてしまったのだ。
目元を赤くさせたナルトの様子から察すると、もしかしたら泣くまで責めてしまったのかもしれないが、カカシはナルトから発露する快楽を追うことに必死でよく覚えていなかった。
カカシは、記憶に残らないほど愛してしまったことを、後悔した。なぜなら、ナルトに関する記憶は全て覚えていたいと思っているからである。
ナルトの起床までまだ時間がある。カカシはシーツを引き寄せるとナルトを自分の腕の中にしっかり抱き込んで再び眠りの中に落ちた。
「カカシ先生、起きろってばよ!」
「ううん……」
「起きろ、起きろ~!」
「………ナールトもうちょっと寝かせてよ」
「もうお昼だってばよ。トースト焼いたからさっさと食えってば!」
「オレ、パンじゃなくてご飯がいいな~」
「我侭言うなってば。もうもうもう。布団干したいんだからどけろってば」
「ああ、任務明けに消化の悪いものを…。センセーせめて柔らかいお粥が食べたかったなぁ」
「………」
カカシの言葉にナルトがぐっと詰まる。任務明けで疲れている人間はあんなに激しく恋人に欲情しない、というツッコミが入りそうだが、ナルトはカカシの自称繊細な胃に同情してしまい、「わかったってば」とエプロンを付けてキッチンに向かおうとした。ん、エプロン……?
「ナ、ナルト。ちょっと待ちなさい。その格好はなあに?」
「この間の誕生日にサクラちゃんに貰ったんだってば」
「へぇ~、サクラも随分と気が利くようになったじゃない」
ナルトはシンプルなデザインのエプロンを見下ろして、首を傾げる。
「カカシ先生。ただのエプロンで大袈裟だってば」
「それも十分に似合うけど、男の浪漫的には、もっとこうふりふりとした夢のある奴もいいよねぇ~」
「ロリコン……」
ナルトは、汚いものでも見るようにカカシをばっさり切って捨てた。最近、ナルトが少年特有の潔癖な視線でカカシを見るようになった気がしないでもない。やだねぇ、これだから思春期は…とは思うものの、カカシ自身の10代の頃を思うと、唇を尖らせて半眼になっただけのナルトなど可愛いものかもしれない。
カカシのベッドの傍らで、顎を蒲団の上に乗っけてこちらを睨んで、手にはお玉。ここからでは見えないがキッチンにはきっと手作りの朝食が用意されているのだろう。なんだか新妻を貰ったようではないか。
「しあわせ……」
にゅーっと布団の中から伸びてきた腕に抱き込まれ、オンボロアパートにナルトの悲鳴が轟いたのはその3秒後。
「もー、もー、もーー離せー!」
「牛?」
「ちげぇっ。カカシ先生。本当に、そろそろ離せってばよ。ご飯作り直すから!」
「んー…オレはもうちょっとおまえとこのままでいたいんだけど?」
「ぶー。だめーっ。シカマルたちと遊ぶ約束してるんだってばよ。早く仕度しないと遅れちゃうだろ」
「え」
夢見心地幸せ気分だったカカシはナルトの意外な言葉に思わず冷水を浴びせられたように目を丸くした。
「今日は一日中オレとベタベタコースでしょ」
「何言ってるんだってば。カカシ先生ってば予定より二日も早く帰って来ただろ。今日の予定はもう入れちゃったの。オレ、これから遊びに行くから」
カカシはシーツを手繰り寄せると「酷い。浮気者!」と女々しくも嘘泣きを始めた。
シクシクと枕を濡らす恋人に、ナルトがため息を吐いたのは言うまでもない。
「そんなわけでナルトが浮気しないように見張りに来ました」
「カカシ先生が付いてきちゃったってば。ごめん、シカマル」
ナルトの後ろに控えている上忍の姿を見て、シカマルは顔をヒク付かせた。
「おい、おまえの先生ってちょっと異常じゃないか?」
「…いつものことだってばよ」
ナルトは身体の右側に棒線を引いて黄昏ている。それからキバやチョウジと合流しても、カカシは例の大ベストセラーの本を片手にナルトたちの後を付いて回った。
「ナルト。カカシさんはあのままでいいのか…?」
「ん?いいんだってばよ、カカシ先生がオレたちに勝手に付いて来てるだけじゃん」
「いや…でもよ、一応お前らデキてるんだろ。気ぃ使わなくていいのか」
「んー。んー。カカシせんせぇー。どこか行きたいとこある?」
「なーい」
「いや、そういうことじゃねぇよ。あー…、めんどくせぇ」
シカマルは天を仰いで、お決まりの文句を言った。結局、その日はナルトとチョウジの提案で甘味屋巡り(カカシ付き)、途中忍具屋に立ち寄り(カカシ付き)、演習場で全員で軽く手合わせ(カカシ付き)をして解散となった。
もちろん、はたけカカシはどの項目にも居たものの、参加は一切していない。大体は、甘味を食さず渋茶を啜っていたり(それはシカマルも一緒だったが)、店の外で居眠りをしていたり、木に背を預けていたりしていた。
この上忍は何が面白くて休日を過ごしているのであろう。そして、カカシが黙って付いて来ることを、ナルトは何とも思っていないようなのである。
「カカシ先生、アイス食う?」
「食べない。おまえが全部食えばいいでしょ」
「だって、オレおまけで付けて貰った抹茶味好きくねぇ…」
「オレはダストボックスじゃないぞ」
「うぇえ、お願いだってばよ。先生、抹茶味なら食えるだろ」
「ナルトー。何やってるんだよ置いて行くぞ」
「ワンワン!」
「おう。今行くってばよキバ。それじゃー、カカシ先生一口だけ。はい、あーん」
キバとチョウジと別れ、あとにシカマルとナルトだけが残った。最後に向かった先は近所のスーパーだった。シカマルが母親のヨシノから簡単な使いを頼まれていたので、ナルトも夕飯の買出しをするためにカカシと共に付いて行くことにしたのだが…。
「む。先生、塩ってまだあったっけ?」
「あー、かなり減っていたと思う」
「牛乳は?」
「はい、いつものやつ」
「サンキュ」
勇ましい牛のパッケージの牛乳パックを手渡され、ナルトは阿吽の呼吸でそれを受け取る。
「おまえらは夫婦か……」
「へ?なにが」
呆れたシカマルの呟きにナルトはきょとんと首を傾げた。カカシはナルトの傍らで、ちゃっかり自分の好物の秋刀魚とナス、それにたっぷりの緑黄色野菜をカートに入れていた。
「あっ。カカシ先生ってば勝手に野菜入れるなってばよ」
「おまえこそカップラーメン買い過ぎ」
「これはオレの必需品―!」
カップラーメンを抱き締めて、ナルトが高らかに宣言する。ナルトに好意的な里人なのだろうか、何人かのおじさんとお姉さんが、クスクスと笑いながらスーパー内を通り過ぎた。
「そんなに食ったら背ぇ伸びなくなるよ」
「へっへーん。オレってば絶賛成長期。そのうちカカシ先生も抜かしちゃうんだってばよ」
「どうだか。油断してるとちっちゃいままだよ」
「そんなことねぇもん!」
カカシが挑発すると、ナルトは簡単にムキになる。それが、面白くてカカシもわざとナルトが癪にさわる言い方をしているのだろう。ナルトに食って掛かられている上忍はこの上なく幸せそうだった。
「まぁ、まぁ、カカシさん。こいつの好き嫌いは今に始まったことじゃねぇんだし、それくらいで勘弁してやったらどうです?」
騒ぎ出した銀色と金色にシカマルがやんわりと割って入ると、「シカマルゥ…」ナルトが感動したように瞳を潤ませた。
シカマルが口出ししたのは、何もナルトを思いやってのことではない。やたらと目立つ外見の二人に人が集まり出したためだ。そうでなければ誰が犬も食わない類の喧嘩に口を挟むか、というところだったのだが、次にナルトが発した台詞で事件は勃発した。
「シカマル。おまえってばやっぱオレの大事な親友だってば。好きー!!」
「え、ナルトっ?」
「うわ、抱きつくなってナルト。いや、カカシさんこれはその……」
「…………」
「カカシさんっ?」
「……ナルトが浮気した」
「はい?」
「へ?」
「オレの前でナルトが浮気した」
ぐしゃっと、カカシの持っていたトマトが握り潰される。嫌な、勘違いをしている大人が一人。
「カカシ先生……?」
ナルトは驚いて、カカシの足元に視線を落とした。台無しになったトマトのせいで床はまるで殺人現場のようだった。
「何やってるんだってばよ先生。あーあ、これ買い取りじゃん」
「浮気なんて許さないからね!」
「は?」
今にも、泣きそうな表情でカカシがナルトの腕を引っ張った。
「別れてもやらないから!」
「な、何言ってるんだってばよカカシ先生」
「ナルトがシカマルを好きでも、オレの方が何倍もおまえのこと愛してるからね。ナルトを悦ばせてあげられるのも、満足させてあげれるのもオレだけだからね!」
「!?」
「大体ベッドの中でオレ以上にナルトを愛してあげれる男なんて――……」
「本当に何言ってるんだってばよーーー!!!」
カカシの言葉の意味を汲み取ったナルトは顔を真っ赤にさせて激怒した。
「カカシ先生。外でバカなこと言って騒ぐなってオレ、言ったよね。これで何度目っ?」
店内でこれ以上騒がれては堪らないとナルトはカカシの首根っこを引っ掴むとスーパーの外に引っ張り出した。
「1213回目です」
「相変わらず憎らしくなるほど素晴らしい記憶力だってば…」
数分後。腰に手を当てて激怒する16歳くらいの少年の足元で、正座する銀髪の男の姿があった。
「どうして頭は良いのに常識は身に付けてくれないんだってば?」
「…………」
「カカシ先生―っ?」
「謝らないよ。オレは悪くないもん」
「何が〝もん〟だってば。可愛い子ぶりっこしてもだめだってばよ!」
ちっとも可愛くないとナルトが言い捨てると、カカシが驚いたように目を見開いた。
「そんなに目を大きくしてもダメだってば!」
ナルトの言葉にカカシはしょぼんと項垂れる。
「カカシ先生に反省の色がないなら一ヶ月間、オレにさわるの禁止だから」
最終手段とばかりにナルトはカカシに重罰刑を与えた。どうだとばかりに腕を組んで、カカシを見下ろすと、カカシが見るも無残に蒼褪めている。
「そ、そんな一ヶ月もナルトにさわらなかったら死んじゃうよ。ナルトは、オレが死んでもいいの?」
ナルトの足下にカカシが縋り付いた。
「哀れっぽい声を出してもだめ。子犬みたいな目ぇしてもだめ。オレってば綱手ばぁちゃんにカカシ先生を甘やかさないように言われてるの」
「綱手様までオレの恋路を邪魔するのかっ。最近長期任務がやたらと多いと思ったらそういうこと?皆でオレのことを苛めて楽しいの!?」
「だーかーらー…。気色悪いこと、言うなってばよ!!」
酷い、大人の純情を弄ばれた、と騒ぎ出した上忍に周囲の注目が集まり出す。
「シカマル。オレってばとりあえず家で〝これ〟とカタをつけるから、ここで帰っていい?」
「ああ…。それは構わねぇけど………ナ、ナルト。早まるなよ?」
「大丈夫。カカシ先生って体力ねぇけどゴキブリ並みの生命力なの」
ぷんすか怒ったナルトを見て自分の分が悪いと気付いたカカシは途端にめそめそと泣き始めた。ナルトは、「ナルト~、ナルト~。ごめんねぇ」と両手で顔を覆ってる上忍と荷物を引きずって、ナルトは自分のアパートに辿り着く。
「あのさーカカシ先生、いつまで嘘泣きしてるつもり?」
「ナルトが許してくれるまで」
「そう。それじゃあ泣いてる限りオレってば怒ったままだから」
玄関の鍵を尻ポケットから取り出しながらナルトが言うと、「うっ、うっ、うっ」と震えていたカカシの肩がピタリと制止した。
「もう泣きマネは終わりだってば?」
「うん」
右目だけ晒した上忍がこちらを見上げていた。本当に優秀な涙腺だ。ついでに言えば要領も良くて頭が痛くなる。未だ正座をしているカカシをナルトは呆れた顔でカカシを見下ろしていたが、やがてくつりと喉の奥で笑った。
「カカシせんせぇ、上向いて?」
「?」
カカシが首を傾げた瞬間、ふっくらとした感触の熱が唇に押し当てられた。
「えっ。ナルト、キスしてくれるの?」
カカシはキスが嫌いではない。例えナルトがしたくなくても、してしまうほど好きだ。しかし、まさかこのタイミングでナルトからキスが貰えるとは思わずカカシは驚いてしまった。
「シカマルに嫉妬なんてして。バカな先生」
カカシの口布を人差し指で引き下ろし、ナルトはカカシの唇を啄む。かっこいい顔のくせに、どうしようもないへたれで、だけどそれに絆されてしまう自分は、結局カカシに弱いのだ。
「オレが、浮気するはずないだろ。そんなにオレって信用ない?」
「だって、ナルトは誰にでも好きって言うでしょ」
「そりゃ、皆好きだもん」
「ほら、やっぱり…」
ナルトの言葉にカカシはまたしょぼくれる。
「おまえは誰にでも懐くし、オレは心配だよ」
「…。確かにオレってばシカマルもキバもチョウジもサクラちゃんも好きだってば。もちろんサスケもそう。イルカ先生や綱手のバァちゃんも里のみんなが大好き」
カカシが悔しそうに、震え出す。しかし、先程のことを反省して賢明に何かを堪えているようだ。
「でも……」
ナルトはカカシの手を引っ張ると自宅の玄関の中に引き入れる。忍服の膝の部分を握り締めて取り乱すまいと耐えているカカシが愛しかったからだ。
「オレが愛しちゃってるのはカカシ先生だけだってば」
「!!」
「知らなかったの、カカシ先生?」
耳元で囁かれてカカシは首を振る。
「ナルト。おまえの気持ちをもっと言って。毎日、ちょーだい。でないとオレはおかしくなっちゃうんだよ」
「カカシ先生ってオレのこと好きだよな…?」
ナルトが上目遣い気味に大人の頬を撫ぜると、カカシが破顔した。
「キスして、ナルト。オレがシテもいいけど、おまえからちょうだい?」
カカシが訊ねるとナルトは薄っすらと頬を染めてカカシの首に腕を回した。
「カカシ先生って本当にしょうがない大人」
「ナルト中毒なんだよ。お願いだからオレから離れないでね」
まだ少しだけ泣きそうな声で告げられて、ナルトはしょうがねぇなぁとまた呟きながら、服を脱ぐのも煩わしいという仕草で、玄関先で自分を押し倒してくる銀髪の大人に身を委ねた。
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管理人の生態
自己紹介
名前 空気猫、または猫
職業 ノラ
趣味 散歩・ゴミ箱漁り
餌 カカナル
夢 集団行動
唄 椎名林檎
性質 人間未満
日記 猫日和
ある日、カカナルという名のブラックホールに迷いこむ。困ったことに抜け出せそうにない。
職業 ノラ
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