「なーると、お口あーんして?」
今日はセックスのあとにもう1個、飴玉を貰った。口の中でモゴモゴしていると、カカシ先生が首筋にキスをして来た。あ、そっか。もう1回ヤルんだってば?
「ん…ふぁっ…ぁ」
ひと気のない書庫の中で、カカシ先生に抱え上げられたオレは、カカシ先生の肩口に顔を埋めていつも以上に必死に声を押し殺していた。だっていくら人が来ない場所でも、ここってばアカデミーの図書館だってばよ…。もし誰かに見つかってしまったらと思うと気が気ではなかった。だけど、吐精を終えたばかりだというのに、今日のカカシ先生はやけに元気で、激しい突き上げにびっくりしたオレは、つぅっと唾液と一緒に飴玉を落っことしちゃった。
「あ、や…っ」
「ん?どーしたのナルト?」
「あめっだまっ」
「あーらら。床に落ちちゃったの?あきらめなさい――――汚いでしょ?」
「ひぁ、ぁっ、だって…やぁ、やぁぁあっ」
「しーっ?ナルト、おっきな声出したら見つかっちゃうでしょ~?イルカ先生とかにさ~?」
「っ!!」
なぜか楽しそうなカカシ先生の声。「スリリングで興奮するね?」だって。信じられないってば。そのままカカシ先生の動きが早くなって、ガクガク揺すられる。自分の体重の分だけ、深く突き刺さる逃げ場のない体勢。歯を食いしばって、挿入の振動に耐えるけど、間接はあちこち軋んで、珍しく使ったローションも意味を成していない。緊張で冷や汗を垂らすオレの中にカカシ先生のがギチギチと音を立てて突き挿った。
「っ、っひぎぃっ」
「また声、漏れちゃってるよ?イルカ先生にバレちゃってもいいの?」
「…やっ」
「どうせなら見せ付けちゃおっか。イルカ先生びっくりするかな。ナルトがこーんなにエッチな子だって知ったら」
「やめ、それだけは…っ」
絶望的な声を上げて、いやいやとオレが首を振るとカカシ先生はニィっと笑って「冗談だよ…」と耳元で囁いた。オレの反応を見て、どこまで本気なのかわからない冗談をいうカカシ先生。それは、まるで捕まえた蝶の羽根を悪戯に捥いで遊ぶ子供のように無邪気だ。オレってばこのままカカシ先生にいたぶり殺されてしまうのだろうか。
オレたちの足元で飴玉が垂液と一緒に濡れてテラテラと光っていた。もう食べられないそれ。〝――汚いでしょ〟
どうしてだろう。カカシ先生の言葉はオレじゃなくて飴玉に向けられたものだったのに、まるで自分が汚いと言われたかのようで、胸がズキンと痛んだ。
「ナールト、どうしたの。元気、ないね?」
セックスを終えたあと、しゅんとしたオレがおかしかったのか、カカシ先生は、情交で乱れた衣服を正しながら尋ねてきた。オレはまだ床の飴玉を諦め切れなくて俯いたまま「なんでもねってば」と答えると、カカシ先生はふふふと笑って、オレのおでこにキスをしてくれた。
「え…?」
「飴の代わり。オレのキスって高いのよ~」
「……っ!」
こんなふうにカカシ先生にキスをして貰うのは初めてだった。
「か、しっせ、んせ…っ!」
オレってば嬉しくてそのままカカシ先生にきゅうって抱き付いちゃった。そうしたらカカシ先生は珍しく驚いた顔をして「おまえ、かわいいねぇ」ってぐりぐり頭を撫でてくれた。こういう関係になってからカカシ先生がオレを触る時はいやらしいことをするためだけだったからオレってばそれも凄く嬉しかった。
「あー、久しぶりに一楽でも行くか?」
「え、いいってば!?」
「いいよ。なに食べたいの?言ってみな?」
「味噌ラーメンの大盛りがいいってば!」
「そればっかだなぁ、おまえ。じゃ、行くか?」
「うん!!」
カカシ先生の足にじゃれついて、そんな会話をしながら廊下を出る。だけど神様っていじわるだってばよ。しあわせな時間はそう長く続かなくて。
「あら、カカシじゃない」
アカデミーを出たところで髪の長い女の人が立っていた。オレってば咄嗟にカカシ先生の後ろに隠れたけど、女の人にはばっちり見られちゃったみたいで怖い顔で睨まれた。
「カカシが昼間からこんなとこにいるなんて珍しいわね?」
「ん~?ちょっと資料室で仕事があってね。せっかくだからこの子に手伝ってもらってたんだ」
そうだってば。書かなきゃいけない書類があるから、一緒に来てなんて言われて、真面目に仕事をしている先生を待っていたら途中からあんなことになっちゃったんだってば。……オレの〝お手伝い〟ってソッチのほうのことだってばよ、お姉さん。
「カカシ、遊んで捨てた女に刺され掛ったんですってね?その子も災難だったわね」
「ま、自業自得デショ。それより、この間一緒に飲んだアゲハって子、今度紹介してよ」
「カカシ、相変わらず冷たい男ね。私も寂しかったのよ?」
「ふふ、そこがいいんでしょ?」
「もう、意地悪なんだから!」
オレの頭の上でカカシ先生が知らない大人の男の人の顔をして、知らない大人の女の人と喋っている。オレのことなんか忘れちゃったみたいに。
お酒と煙草とセックスの匂いのする二人の会話はまるで知らない世界の言葉のようで、オレにはよく聞き取れない。いつ、カカシ先生がこの女の人と同じ時間を共有して、同じ空気を吸って、体温を交じ合わしたかなんて、知りたくもないってばよ。小さく縮こまってカカシ先生の影で俯いていると、
「でも担任の先生も大変ねぇ、仕事とはいえこんな子の世話までしなきゃいけないなんて」
突然、会話の内容がクリアになったと思ったら女の人の視線がオレに落ちていた。〝こんな子〟だって。例の冷たい、オレを蔑んだ目。真っ赤な口紅が鬼の口のようで怖かった。お姉さんが何か酷いことをオレに向かって言おうとして口を開きかけたみたいだけど、カカシ先生がそれをやんわりといなして(それ以上は里の禁則事項だってばよ、お姉さん)また二人はお喋りを始めた。
「ねえ、カカシ。今から呑みに行かない?」
「んー…?」
「いいでしょう?そのあとにセックスしましょうよ、ねえ?」
カカシ先生の首に腕を絡めたお姉さんは、カカシ先生の耳元でクスクス笑っている。耳を塞げたらいいのに。目を瞑れたらいいのに。
いっそ鼓膜を破ってしまえば、楽になるのかな。嫌なものばかり映してしまう目を針で突いてしまおうか。でも、オレの腹の中には九尾がいるから、腹の中のアイツは己の生命を保持するため、寄生体であるオレの体をあっという間に回復してしまうのだろう。
「せんせ……」
震える手でカカシ先生の忍服の裾を引く。懇願するように、カカシ先生を見上げれば、ニコッとカカシ先生が瞳を弓なりに曲げて、笑った。
「ん?ああ、ナルトまだそこにいたの?」
あっさり言われた言葉。それはないってばよ、カカシ先生。震える声で、でも精一杯の笑顔で、オレはカカシ先生に訪ねた。
「せんせー、一楽は…?」
「あー、そうだったね。また今度でいーい?センセー、用事出来ちゃったんだよねぇ」
「うふふ、ごめんなさいねー坊や」
髪の長いお姉さんは勝ち誇った顔でふふんと鼻で笑って、カカシ先生にしなだれ掛っていて、香水の匂いが鼻を擽った。
「ナールト。一人で帰れるでしょ?」
「今日はもう先生とは会えない?」
「ま、そーなるかな。ごめーんね?」
泣いちゃ、だめだ。ウザイ奴って思われる。大丈夫、大丈夫、まだ。まるで呪文のように唱えてオレは一度だけこくんと頷いた。
「そう、いい子だね。気を付けて帰るんだよ?」
くしゃくしゃと頭を撫ぜられて、大好きなはずのカカシ先生の手だったのに。不思議だってば。さっきのぽかぽかした気分がウソみたいになくなっちゃった。
「もうカカシったら過保護なのね!すっかり〝せんせい〟って感じだわ」
「ふふふ、そうでしょ?それより、ねえ、今日の夜は…」
「きゃ、やぁだ。もうエッチなんだから!」
親密そうな会話を交わす2人はいつからの付き合いなのだろう。きっとオレが先生と出会うよりずっと前だってことだけは確かで。背の高いカカシ先生と、すらりとしたお姉さんが一緒に並んでいる姿はとてもお似合いで。とても自然な男女の形で。小さくて丈が足りなくてカカシ先生と腕を組んで歩くこともできない嫌われ者の男のオレなんかと大違いで、虚しくなった。
家に帰る途中。空はまるでオレの心情を表したかのように真っ暗になって、急いで走ろうとしたら石に蹴躓いて転んだ。起き上がった時、オレの内腿からカカシ先生の精液が伝って、地面に白濁した白い液が点々と染み込んだ。
「あ…ど、どうしよ…ってば」
地面、汚しちゃった。カカシせんせぇがたくさん出すから。だから、いやって言ったのに。あとからあとから、流れ出るそれを止める術はオレにはなくて、じわりと世界が滲んだ。
「ひっく…うぇ…も、やだぁ」
とうとう涙の粒が決壊した。泥だらけの自分が惨めで、哀しくて、そのまま座り込んでいると、
「あれ~、そこにいるのって子狐ちゃんじゃん」
嫌なことって続くものだってばよ。顔を上げると、数人の男たちに囲まれていた。絶望的な場面ってこんな時のことをいうのかな?