空気猫
空気猫
お父さん世代の過去話は連載で書きたいくらいだ。
「つい先日、あの演習所付近の地表に空から降ってきた大きな石が衝突しました。どうやら、その石が付近の磁場を乱したらしく、その関係で、死者が生き返ったのではないかと」
報告係の科学班の男がサクモとミナトを前にモゴモゴと説明をする。彼の背筋に緊張が走っているのは、無理もないことかもしれない。なにしろ、木の葉で「伝説」と呼ばれる人物たちを目の前にしているのだから。加えて…、同じく縁側に座るその人たちは息子たちも含めて美形揃いときた。
「ふぅ~ん。なるほど、じゃあしばらくの間は夏休みってことでこっちにのんびり出来るのかなぁ?」
一番最初に口を開いたのはミナトだった。うーんと身体を伸ばした黄色い閃光は、
「他の死者が生き返ったという報告は?」
「今のところまだありません」
「でも、その可能性も加味して、火影様に対策を立てておいたほうが良いとお伺いを立ててくれないか?」
腐っても元火影というべきか、表情を引き締めると凛々しい〝伝説の英雄〟の顔になる。ほう…と科学班の男から感嘆のため息が吐かれる。
「ん!そういうわけでオレたちは、もうしばらく息子たちのお世話になることにするよ!よろしくね~、二人とも!」
「ミナトくん。二人なら、とっくに家を出て行ったよ。たまにはデートに出してあげるのもよかろうと思ってね」
「~~~!?サクモさん、黙って見ているなんて酷いじゃないですか~~~!!」
今すぐにでも追いかけて行きそうな勢いのミナトにサクモが制止を掛ける。
「みだりに里内を歩かないよう火影様から伝達が来ていただろう。それに今、二人の邪魔をしに行ったらナルトさんが怒ると思うが…」
「!!?おのれ、カカシくんめぇ~~!!オレのナルくんがぁあぁ!!」
激高するミナトの横でのんびりとサクモが湯呑を啜る。そんなわけで、その日の午後は父親組がはたけ家に残ることになった。
空を陣取る太陽が天頂に昇る頃。その訪問者たちはやって来た。
「………っ。ミナト。本当に蘇えってやがるっ。おまえって奴は本当に…バカヤロウっ」
縁側でサクモとお茶を飲んでいたミナトは訪問者の顔を見て、緩やかに破顔した。
「やぁ、シカク。久しぶり。おまえ、随分と老けたなぁ…」
「当たり前だ!こちとら、おめぇがフェードアウトした後もきっちりかっちり地べた這いずってうん十年生きてるンだよ!!」
鼓膜を震わす耳慣れた怒号に、またミナトは笑った。シカクの背後には、言わずと知れた旧友たちの姿があった。秋道チョウザに、山中イノイチ。ミナトが記憶するより、年を積み重ねているものの、それは懐かしい顔ぶればかりで、思わず顔がほころぶ。
「本当にひょっこり帰って来やがって…オレたちがどれだけおまえがいなくなったあと…っ」
「うん。ごめ~んね。―――…ただいま」
ニコニコと笑う金髪蒼眼の男――その無邪気さと儚さは寸分と違わず、記憶の中の彼そのもので、眩暈を起こす。
まるで、あの日の災厄などなかったかのように。
雨に濡れ、血塗れになった亡骸をこの目で見たというのに。魂の抜けた腕を、何度も握ったというのに。
その全てが幻であったかのように、シカクたちの前に彼が居た。ずっとこの里でこうして笑っていたかのように。
眩しいものでも見るように、シカクが目を細め、そこでシカクはミナトの横に居る人物にも視線を向ける。
「サクモさん。お久し振りです…」
「シカクくんかぁ。懐かしいね。すっかり立派になって。私が覚えているのはまだ若い君だったから…。今は私と同じ歳くらいかね?」
「まぁ…。貴方よりは老け込んでますが…」
若干頬を引き攣らせながら、シカクが片頬を引っ掻く。
「おかげさまで、息子にも恵まれまして…。ぼちぼち平々凡々にやってますよ。悩みといやぁカミさんが恐いことくらいっすかねぇ」
「へぇ。あの君が今や妻子持ちなのかい。時代は、流れるものだねぇ」
「はい。まぁ、それと言うのもサクモさんが、面倒くせぇばっかり言ってたオレが任務でポカした時も見捨てず助けてくれたおかげです」
「そういうこともあったねぇ…」
遠い昔の思い出を振り返ってサクモが視線を細める。
「オレは、感謝しています。あの時サクモさんが上官じゃなきゃぁ、ひよっこな新米忍者なんて簡単に死んでた。カミさんと出会えたのも、息子の成長を見守れるまで生き残れたのも、結果的には全部サクモさんのおかげです」
だからっ、とシカクは眉間の皺を険しくして、縁側に座る男の前に立つ。
「こんなこと貴方に今更言うことじゃねぇってわかってます。蘇えった貴方相手にぐだぐだっつぅのは、アンフェアだと思います。だけど、一言だけ、どうしても伝えたいことがあります」
サクモの静かな視線が注がれる中、奈良シカクは怒号した。
「どうしてオレたちを、待っていてくれなかったんですか!!」
ビリリ、と上忍の怒りが長閑な空に浸透する。上空で里でよく見掛ける鳥の囀りが木霊した。
「オレたちをもう少し信用してくれても良かったんじゃないですか!せめて、オレたちが里の中枢に食い込むまで、待っていて欲しかった。貴方が糾弾されたことは間違っていたから、それをオレたちが正すまで!あんな時代だから、人の命が軽んじられていた。だけど、貴方がやったことは恥ずべきことですかっ?違う。誰もが、疲れ、疲弊し、正しい答えを見失っていた…。間違っていたのは貴方じゃない、里だった…」
「シカクは、貴方の死後に、里が下した判断は間違っていたと上層部に、〝木の葉の白い牙〟は裏切りものではなく英雄なのだと、貴方の行為の再評価に努めたんですよ」
「君が…?」
懐かしいなぁ、とミナトが笑って「もちろん、オレも協力したんですよ。サクモさん」と瞳を細める。
「あの時代、貴方に命を救われた忍は数えきれなかったでしょう。今、笑って飯食ってる奴の何人かは貴方に感謝をしなきゃいけない。
命が軽んじられてた時代に、忍として最前線で任務をこなすこと中、命を重さを忘れることがなかったのは、貴方の隊に参加出来たからです…」
シカクは口をへの字に結ぶと、ぽかんとしているサクモを真っ直ぐと射抜いて屹然と立つと、そのまま礼をした。
「失礼しました。どうしても、貴方に言っておきたくて。拙かった自分の力の無さが恥ずかしく、無念で悔しく、堪え切れませんでした。理不尽な八当りだと思って、忘れてくれて結構です」
「今、私は怒られたのかな…?」
「はい。怒りました」
「そうか…」
息子のそれより幾分か色素の薄い睫毛がゆっくりと伏せられる。薄い唇に薄らと浮かぶ微笑。
「ありがとう、シカクくん。私は、思っていたより部下に好かれていたんだな…」
そうですよ…とシカクがお辞儀の体勢のまま俯き、地面に向かって静かに嗚咽していた。
「だから、オレたちは貴方に一人で全てを背負って逝ってなど、欲しくなかったです」
小さく呟かれた言葉は、サクモに数十年を経て伝わった確かなメッセージだった。シカクの言葉に、チョウザとイノイチも力強く頷いている。
「すいません。本当に、蛇足でした」
「いや。いいよ…。凄く嬉しかったから…」
サクモは、小さな子供のように屈託なく微笑む。微笑むと目尻に笑い皺が出来て、それがより優しげな印象を人に与える。
「そういうのをストレートに言うのは、反則ですっ。隊長っ」
「はは。すまん…」
シカクは顔を真っ赤にさせ、恥ずかしさを誤魔化すように同じように笑っていたミナトにがなる。
「今日は宴会だ!忘れもしねぇ、19年前の飲み比べ対決は、てめぇが勝ち逃げだったからな。せっかく生き返ったんだ、今度こそ、負かしてやるぜ…!」
「ははは。シカク。よくそんなこと覚えているねぇ」
「オレの記憶力を舐めるんじゃあねぇぞ。ミナト!」
「今日は秋道家御用達の最高級の肉をたっぷり用意したからね」
「山中家の秘蔵酒も用意しましたよ。さぁ、飲みましょう」
宴の始まりを告げる高らかな笑い声が、はたけ家の庭に響いた。
「あ~。信じらンない。あいつら。本当に、よんじゅう過ぎてんのっ?うわばみもいいところだよねっ。もう、飲めな~い」
くくく、と四代目の嘆きに、サクモが肩を揺らして笑っている。
「なんですか?」
「いや。そう言いながら、ミナトくんが一番強いのも、昔と変わらないなぁと思ってね」
夜空に月が昇る縁側で、サクモがのんびりと酒の入ったお猪口を傾ける。ミナトは、寝転がったままの大勢でサクモを見上げた。
「そういうサクモさんだって、オレたちにいいだけ付き合っておいといてほとんど変わらないじゃないですか」
「私はね、きみたちと違って飲むペースを考えてそれを崩さないだけで、そんなに強いってわけじゃないんだよ?」
サクモの答えに、ミナトは面白くなさそうな顔をした。宴会場となった居間では、潰された猛者たちの高らかないびきが聞こえる。サクモは、ミナトの視線を感じながら、杯を傾けた。
「ねぇ、ところでミナトくん。今日は昼間にシカクくんにガツンと言われて、少し頬を叩かれた思いだったよ」
「はは。サクモさんが〝ガツン〟ですか?」
静寂の中に二人分の話し声だけが響く。月光が、影のない二人のシルエットを映し出す。
「私は…、自分の息子を見捨てた。あの子を置いて、自ら命を絶った。結果的に、弁明のしようもないほど、幼いあの子に酷いことをしたと思っているよ」
ミナトは寝転がっていた居住まいを正して、サクモの隣に腰掛ける。
「そんなこと言うなら、オレなんて実の息子にとんでもないものを押し付けて、おっ死んだ、酷い父親ですよ」
お互い様です、とミナトが苦笑する。
「あの時は、自分さえ死んでしまえば、全てが終わると思ったんだ。周囲に迷惑を掛けない一番良い方法だと思った。私さえいなくなればと…」
「………」
「それは間違いだったかもしれないね。逃げずに、立ち向かうべきだった…。いや、もっと周囲をよく見るべきだったかな…?」
もうすでに選んでしまった選択肢を変えることなど出来ないけれど、とサクモが微笑む。ミナトは、眉を寄せると月を振り仰いだ。
「ま、死んでしまえば、みんな棚に登って神様だって言うじゃありませんか。気楽に行きましょう。今、ここに居られるのもとんでもないオブザーバーみたいなものなんですから」
そして何を思い出したのか、彼はけたけたと笑い出した。
「まぁ、オレなんて、人のことをちっとも言えず再会した瞬間に殴られましたけどねぇ」
「きみは少し落ち込んだ方がいいんじゃないかね…?」
サクモの言葉に、ミナトはまた苦笑する。そして、その笑い顔のまま庭先を見詰めると、ぽつりと零した。
「我慢する、って言われちゃったんです」
あの時、息子の腹の中で、初めてきちんと親子として再会した時に。
「四代目の息子だから我慢するって…」
オレ、馬鹿親ですよねぇ…本当に。
「すっごい後悔しましたよ」
恨み事を言われた方が、まだ胸は傷まなかったかもしれない。ただ、我慢すると、俯かれた。たぶん、あの子はそう育った。度重なる環境からそういう子に成長したのだろう、と思い知らされた。
「だから、こうしてもう一度、息子に会えて話す機会が出来たことをオレは感謝していますよ。謝罪しきれない後悔は尽きませんが、それでもオレはこれを誰かが与えてくれたチャンスだと考えています」
月夜に呟かれた故人たちの会話は、そのまま彼等の息子たちに向けられた。
報告係の科学班の男がサクモとミナトを前にモゴモゴと説明をする。彼の背筋に緊張が走っているのは、無理もないことかもしれない。なにしろ、木の葉で「伝説」と呼ばれる人物たちを目の前にしているのだから。加えて…、同じく縁側に座るその人たちは息子たちも含めて美形揃いときた。
「ふぅ~ん。なるほど、じゃあしばらくの間は夏休みってことでこっちにのんびり出来るのかなぁ?」
一番最初に口を開いたのはミナトだった。うーんと身体を伸ばした黄色い閃光は、
「他の死者が生き返ったという報告は?」
「今のところまだありません」
「でも、その可能性も加味して、火影様に対策を立てておいたほうが良いとお伺いを立ててくれないか?」
腐っても元火影というべきか、表情を引き締めると凛々しい〝伝説の英雄〟の顔になる。ほう…と科学班の男から感嘆のため息が吐かれる。
「ん!そういうわけでオレたちは、もうしばらく息子たちのお世話になることにするよ!よろしくね~、二人とも!」
「ミナトくん。二人なら、とっくに家を出て行ったよ。たまにはデートに出してあげるのもよかろうと思ってね」
「~~~!?サクモさん、黙って見ているなんて酷いじゃないですか~~~!!」
今すぐにでも追いかけて行きそうな勢いのミナトにサクモが制止を掛ける。
「みだりに里内を歩かないよう火影様から伝達が来ていただろう。それに今、二人の邪魔をしに行ったらナルトさんが怒ると思うが…」
「!!?おのれ、カカシくんめぇ~~!!オレのナルくんがぁあぁ!!」
激高するミナトの横でのんびりとサクモが湯呑を啜る。そんなわけで、その日の午後は父親組がはたけ家に残ることになった。
空を陣取る太陽が天頂に昇る頃。その訪問者たちはやって来た。
「………っ。ミナト。本当に蘇えってやがるっ。おまえって奴は本当に…バカヤロウっ」
縁側でサクモとお茶を飲んでいたミナトは訪問者の顔を見て、緩やかに破顔した。
「やぁ、シカク。久しぶり。おまえ、随分と老けたなぁ…」
「当たり前だ!こちとら、おめぇがフェードアウトした後もきっちりかっちり地べた這いずってうん十年生きてるンだよ!!」
鼓膜を震わす耳慣れた怒号に、またミナトは笑った。シカクの背後には、言わずと知れた旧友たちの姿があった。秋道チョウザに、山中イノイチ。ミナトが記憶するより、年を積み重ねているものの、それは懐かしい顔ぶればかりで、思わず顔がほころぶ。
「本当にひょっこり帰って来やがって…オレたちがどれだけおまえがいなくなったあと…っ」
「うん。ごめ~んね。―――…ただいま」
ニコニコと笑う金髪蒼眼の男――その無邪気さと儚さは寸分と違わず、記憶の中の彼そのもので、眩暈を起こす。
まるで、あの日の災厄などなかったかのように。
雨に濡れ、血塗れになった亡骸をこの目で見たというのに。魂の抜けた腕を、何度も握ったというのに。
その全てが幻であったかのように、シカクたちの前に彼が居た。ずっとこの里でこうして笑っていたかのように。
眩しいものでも見るように、シカクが目を細め、そこでシカクはミナトの横に居る人物にも視線を向ける。
「サクモさん。お久し振りです…」
「シカクくんかぁ。懐かしいね。すっかり立派になって。私が覚えているのはまだ若い君だったから…。今は私と同じ歳くらいかね?」
「まぁ…。貴方よりは老け込んでますが…」
若干頬を引き攣らせながら、シカクが片頬を引っ掻く。
「おかげさまで、息子にも恵まれまして…。ぼちぼち平々凡々にやってますよ。悩みといやぁカミさんが恐いことくらいっすかねぇ」
「へぇ。あの君が今や妻子持ちなのかい。時代は、流れるものだねぇ」
「はい。まぁ、それと言うのもサクモさんが、面倒くせぇばっかり言ってたオレが任務でポカした時も見捨てず助けてくれたおかげです」
「そういうこともあったねぇ…」
遠い昔の思い出を振り返ってサクモが視線を細める。
「オレは、感謝しています。あの時サクモさんが上官じゃなきゃぁ、ひよっこな新米忍者なんて簡単に死んでた。カミさんと出会えたのも、息子の成長を見守れるまで生き残れたのも、結果的には全部サクモさんのおかげです」
だからっ、とシカクは眉間の皺を険しくして、縁側に座る男の前に立つ。
「こんなこと貴方に今更言うことじゃねぇってわかってます。蘇えった貴方相手にぐだぐだっつぅのは、アンフェアだと思います。だけど、一言だけ、どうしても伝えたいことがあります」
サクモの静かな視線が注がれる中、奈良シカクは怒号した。
「どうしてオレたちを、待っていてくれなかったんですか!!」
ビリリ、と上忍の怒りが長閑な空に浸透する。上空で里でよく見掛ける鳥の囀りが木霊した。
「オレたちをもう少し信用してくれても良かったんじゃないですか!せめて、オレたちが里の中枢に食い込むまで、待っていて欲しかった。貴方が糾弾されたことは間違っていたから、それをオレたちが正すまで!あんな時代だから、人の命が軽んじられていた。だけど、貴方がやったことは恥ずべきことですかっ?違う。誰もが、疲れ、疲弊し、正しい答えを見失っていた…。間違っていたのは貴方じゃない、里だった…」
「シカクは、貴方の死後に、里が下した判断は間違っていたと上層部に、〝木の葉の白い牙〟は裏切りものではなく英雄なのだと、貴方の行為の再評価に努めたんですよ」
「君が…?」
懐かしいなぁ、とミナトが笑って「もちろん、オレも協力したんですよ。サクモさん」と瞳を細める。
「あの時代、貴方に命を救われた忍は数えきれなかったでしょう。今、笑って飯食ってる奴の何人かは貴方に感謝をしなきゃいけない。
命が軽んじられてた時代に、忍として最前線で任務をこなすこと中、命を重さを忘れることがなかったのは、貴方の隊に参加出来たからです…」
シカクは口をへの字に結ぶと、ぽかんとしているサクモを真っ直ぐと射抜いて屹然と立つと、そのまま礼をした。
「失礼しました。どうしても、貴方に言っておきたくて。拙かった自分の力の無さが恥ずかしく、無念で悔しく、堪え切れませんでした。理不尽な八当りだと思って、忘れてくれて結構です」
「今、私は怒られたのかな…?」
「はい。怒りました」
「そうか…」
息子のそれより幾分か色素の薄い睫毛がゆっくりと伏せられる。薄い唇に薄らと浮かぶ微笑。
「ありがとう、シカクくん。私は、思っていたより部下に好かれていたんだな…」
そうですよ…とシカクがお辞儀の体勢のまま俯き、地面に向かって静かに嗚咽していた。
「だから、オレたちは貴方に一人で全てを背負って逝ってなど、欲しくなかったです」
小さく呟かれた言葉は、サクモに数十年を経て伝わった確かなメッセージだった。シカクの言葉に、チョウザとイノイチも力強く頷いている。
「すいません。本当に、蛇足でした」
「いや。いいよ…。凄く嬉しかったから…」
サクモは、小さな子供のように屈託なく微笑む。微笑むと目尻に笑い皺が出来て、それがより優しげな印象を人に与える。
「そういうのをストレートに言うのは、反則ですっ。隊長っ」
「はは。すまん…」
シカクは顔を真っ赤にさせ、恥ずかしさを誤魔化すように同じように笑っていたミナトにがなる。
「今日は宴会だ!忘れもしねぇ、19年前の飲み比べ対決は、てめぇが勝ち逃げだったからな。せっかく生き返ったんだ、今度こそ、負かしてやるぜ…!」
「ははは。シカク。よくそんなこと覚えているねぇ」
「オレの記憶力を舐めるんじゃあねぇぞ。ミナト!」
「今日は秋道家御用達の最高級の肉をたっぷり用意したからね」
「山中家の秘蔵酒も用意しましたよ。さぁ、飲みましょう」
宴の始まりを告げる高らかな笑い声が、はたけ家の庭に響いた。
「あ~。信じらンない。あいつら。本当に、よんじゅう過ぎてんのっ?うわばみもいいところだよねっ。もう、飲めな~い」
くくく、と四代目の嘆きに、サクモが肩を揺らして笑っている。
「なんですか?」
「いや。そう言いながら、ミナトくんが一番強いのも、昔と変わらないなぁと思ってね」
夜空に月が昇る縁側で、サクモがのんびりと酒の入ったお猪口を傾ける。ミナトは、寝転がったままの大勢でサクモを見上げた。
「そういうサクモさんだって、オレたちにいいだけ付き合っておいといてほとんど変わらないじゃないですか」
「私はね、きみたちと違って飲むペースを考えてそれを崩さないだけで、そんなに強いってわけじゃないんだよ?」
サクモの答えに、ミナトは面白くなさそうな顔をした。宴会場となった居間では、潰された猛者たちの高らかないびきが聞こえる。サクモは、ミナトの視線を感じながら、杯を傾けた。
「ねぇ、ところでミナトくん。今日は昼間にシカクくんにガツンと言われて、少し頬を叩かれた思いだったよ」
「はは。サクモさんが〝ガツン〟ですか?」
静寂の中に二人分の話し声だけが響く。月光が、影のない二人のシルエットを映し出す。
「私は…、自分の息子を見捨てた。あの子を置いて、自ら命を絶った。結果的に、弁明のしようもないほど、幼いあの子に酷いことをしたと思っているよ」
ミナトは寝転がっていた居住まいを正して、サクモの隣に腰掛ける。
「そんなこと言うなら、オレなんて実の息子にとんでもないものを押し付けて、おっ死んだ、酷い父親ですよ」
お互い様です、とミナトが苦笑する。
「あの時は、自分さえ死んでしまえば、全てが終わると思ったんだ。周囲に迷惑を掛けない一番良い方法だと思った。私さえいなくなればと…」
「………」
「それは間違いだったかもしれないね。逃げずに、立ち向かうべきだった…。いや、もっと周囲をよく見るべきだったかな…?」
もうすでに選んでしまった選択肢を変えることなど出来ないけれど、とサクモが微笑む。ミナトは、眉を寄せると月を振り仰いだ。
「ま、死んでしまえば、みんな棚に登って神様だって言うじゃありませんか。気楽に行きましょう。今、ここに居られるのもとんでもないオブザーバーみたいなものなんですから」
そして何を思い出したのか、彼はけたけたと笑い出した。
「まぁ、オレなんて、人のことをちっとも言えず再会した瞬間に殴られましたけどねぇ」
「きみは少し落ち込んだ方がいいんじゃないかね…?」
サクモの言葉に、ミナトはまた苦笑する。そして、その笑い顔のまま庭先を見詰めると、ぽつりと零した。
「我慢する、って言われちゃったんです」
あの時、息子の腹の中で、初めてきちんと親子として再会した時に。
「四代目の息子だから我慢するって…」
オレ、馬鹿親ですよねぇ…本当に。
「すっごい後悔しましたよ」
恨み事を言われた方が、まだ胸は傷まなかったかもしれない。ただ、我慢すると、俯かれた。たぶん、あの子はそう育った。度重なる環境からそういう子に成長したのだろう、と思い知らされた。
「だから、こうしてもう一度、息子に会えて話す機会が出来たことをオレは感謝していますよ。謝罪しきれない後悔は尽きませんが、それでもオレはこれを誰かが与えてくれたチャンスだと考えています」
月夜に呟かれた故人たちの会話は、そのまま彼等の息子たちに向けられた。
ハヤテさんが綱手さんの時代に生きていたりしますが、気にしないで下さい彼を出したかったんだ。ようはカカシ先生を筆頭に大人たちがナルナルを愛で尽くす話です。尚、この物語は、空気猫にもう一つあるカカカカナルとは別次元にあります。まったく意味のない注釈だったかもしれませんが一応。
緑のプルプルした液体を飲んでナルトが二人になってしまいました。
「んぎゃああっ」
ここは木の葉の里にある科学班の実験室。金髪碧眼のちみっこ下忍は、床にコロコロと転がったビーカーを前に頭を抱え驚愕した。
「おまえ、〝オレ〟だってば?」
「そ、そうだってばっ。おまえこそ、〝オレ〟だろっ?」
二人でお互いの顔を見つめ合ってぷるるんとした頬を突き合わせ、一拍の間のあと。
「ふぎゃああああ」
と、ドタバタ忍者の絶叫が、火影邸から木の葉の青空を駆け抜けた。
「ナルトくん。どうしたんですね、ごほっ」
お子様の悲鳴を聞き付けて、白衣を着用した月光ハヤテが新薬の研究室へと入ってくる。顔色が悪そうなこの男は、別に大病などを患っているわけではない。ただ咳が止まらない体質なだけなのである。
「ハヤテ兄ちゃん~、オレってば二人になっちゃったってば~」
「メロンソーダだと思ったのに、飲んだら変なことになっちゃったってばよ~」
うるうると瞳に涙を溜めた、小さな子供たち。髪の色はけぶるように眩しい金髪。瞳の色は空よりも綺麗な碧色。ミルク色の肌に、おまんじゅうみたいにふくふくしたほっぺ。
ハヤテは、一時目を見開いたあと、ごほ…っと咳き込んだ。大人の目元は、何故か僅かに赤くなっていた。
「これは大変ですね、ごほっ」
満更でもなさそうに視線を反らしつつハヤテが述べた。
「おまえ、影分身じゃないんだってば?」
「無、無理だってば。頑張っても元に戻れないってばよォ」
一人のナルトがもう一方のナルトを指差しつつ怒鳴り、叱られたもう一方のナルトは一生懸命力を込めて本体へと戻ろうと試みているようだが、ウンウン唸るばかりで上手くいかないらしい。
「どうしようってばぁあああ~っ」
見事なシンメトリーの悲鳴。お子様たちからすれば、阿鼻叫喚。地獄絵図(?)。
「しばらくこのままですね…」
ごほ…、と籠った咳をして、ハヤテが冷静に分析をする。
「ナルトくんのチャクラの量を考えると、…九尾のこともありますし、まったく未知数ですね」
「え!?今、なんか言ったってば。ハヤテの兄ちゃん?」
「なんでもないですね、ごほ…」
目の下にクマを作ったハヤテは、表情を険しくして愛らしいお子様たちを見詰める。びくんっとナルトたちが震えた。
「ハヤテの兄ちゃんっ。お、おれたちの命はいったいいつまで持つんだってば!!」
「オトコ、うずまきナルト。か、覚悟は出来てるってばよ!!」
ハヤテの表情にあらぬ妄想を膨らませた2体のナルトは、拳を握ってううう~と丸まったあと。
「さぁ、どーんっと教えてくれってば~~~!」
声を揃えてまったくトンチンカンなことを叫んだ。同チームの黒髪の少年が聞いたら、このウスラトンカチが…、と呟いたことだろう。
「はい…?」
まるで余命宣告を告げられる前のような子供の様子に、ハヤテはつつつと首を傾ける。夜道で出会ったなら思わず、ひぃ!っと悲鳴を上げてしまうような不吉な顔。それが月光ハヤテの素の表情なのではあったのだが、誠に残念な話である。
人生色々が騒がしいな、という印象はあった。馴染みのある黄色のチャクラが二つに分裂しているのも奇妙だな、と思った。しかし、同僚たちの膝の上で、頭を撫で繰りされつつ可愛がられているナルト(×2)を見た時、何故だかわからないが、はらわたが煮え繰り返った。
「あー…。ナルト…?」
内心の怒りを億尾も出さずに、カカシはのんびりとした様子で笑う。かまぼこ状になった上司の瞳に、二対の大きな碧玉は、目に見えてぴかぴかと輝き出した。
「カカシせんせぇーっ!」
ドタバタとしてカカシの腰に突進した衝撃はいつもの二倍。カカシは眠たそうな瞳を僅かに見開いて、部下の生徒を見降ろした。
「んー。おまえ、随分変なチャクラの発動の仕方をしてるねぇ?」
「これには壮大なわけがあるんだってばよ!」
「聞いてくれってばよ。カカシせんせぇ!」
左と右のスピーカーから最大音量で訴えられたカカシは、やれやれといった調子で、人生色々の床にへたり込む。そこに、子犬ヨロシク二人のナルトが膝の上に飛び乗った。
「へへへ。カカシせんせぇ!!」
「つーかまえったってばよ!!」
左右から満面の笑顔。まったく同じシンメトリー。
「ぎゅうう~~っ」
「ぎゅうう~~っ」
二体のナルトに懐かれたカカシは、はぁ…と疲れたようなため息を落とした。
「はい、はい。聞いてやるから、順番っ子に喋りな」とナルトの頭に手を置きながらカカシはカシカシともう一方の手で頭を引っ掻く。
「んでねー、緑のプルプルした液体を飲んじゃったら、オレたちってば分裂しちゃったんだってば!」
「しばらく戻れないみたいなんだってばよ!」
「はぁ。どうも、面倒なことになったみたいだねぇ」
カカシは、金髪のぽわぽわ頭を撫でくりながら、さてどうしたものか、と思案に暮れる。しかし、一上忍に適切な答えが見つかるわけもなく、ただ無為にぽわぽわ頭の撫でくりを繰り返すばかりである。
「こんなところにいたのかい、ナルト。随分と探したんだよ」
「あ、綱手のばぁちゃん!」
「どうしたんだってば!?」
そんな時、人生色々に颯爽と登場したのは里のセクシーダイナマイツ、綱手姫である。綱手は、カカシにぎゅうぎゅうと抱き付く二対のナルトを見降ろして、呆れたようにため息を吐いた。
「まったく。ハヤテからの報告で来てみれば、思っていたより楽しそうじゃないかい?しかし、――随分と厄介なことになったねぇ」
五代目火影は腕を組んで、分裂した二人の子供たちを観察する。難しい顔で上から下まで視線が行き来したところで、「仕方ないねぇ」と五代目火影は最も手っ取り早いであろう結論に達した。
「カカシ。しばらくナルトの面倒を見てやりな」
「は!?私がですか!?」
突然の里長の命令に、カカシは瞠目する。どうしてオレが!?と、物語る銀髪の上忍の顔を綱手は睨みつける。
(いいかい。カカシ。今、ナルトは自分のチャクラを使って、分身を作りだしている。そしてナルトの飲んだ新薬は、己の分身を固定するための強力な接着剤のようなものでねぇ)
(はぁ…?)
(ま、いわば不安定な影分身をより実践で使いやすくするために開発されていた代物でねぇ)
(なるほど。それで?)
頭上で読唇術で持って会話をする大人たちを、ナルトは糸目になりつつ見上げる。コテン、と首を傾げた仕草が可愛らしい。
(このままではナルトのチャクラを使い切った時、九尾のチャクラが漏れ出すかもしれないだろう。そうなれば、封印の印を結べるおまえがすぐ傍に居た方が好都合だろう)
(なるほど。しかしまぁ、監視だけなら忍犬に見張らせるだけでもいいんじゃないでしょうか。オレにだってプライベートがあるんですよ)
(カ ・ カ ・ シ)
カカシとて、生徒であるナルトが可愛くないわけではない。が、これは超過労働という奴ではないだろうか。抗議の声を上げとするカカシに、綱手姫は聞き分けのない子供の頭の天辺に拳を落とすが如く重低音を出した。
「いい機会じゃないかい、カカシ。少しは女遊びを控えな。ナルトが居ればおまえもそうそう下手なことはしないだろう?」
「そ、そんな綱手様。あんまりです!」
「ほほぉ?どうやら、おまえの花街での派手な噂は本当だったようだねぇ」
「うぐっ」
「カカシせんせぇ…?」
蒼褪めたカカシを、きょとんとしたナルトたちが見上げている。
「カカシ。いいかい、火影命令だ。これよりうずまきナルトの警護を命じる。もちろん、ナルトの新薬の効き目が切れるまで、だ。わかったな?」
五代目火影は鮮やかに言い放つと、くるりと背中を向けた。そりゃないですよ、火影様。と、銀髪の上忍が肩を落としたものの、この里の最高責任者にしてナイスなバディを持つ女性は発言を撤回をしてくれる気は毛頭ないらしい。
はぁ…とため息を吐けば、二人分のまなこがカカシを見上げる。「カカシせんせぇ、オンナアソビするんだってば?」じぃっと見詰める視線の熱さに、いきなり二児の父親になった気分になるのは、どうしてなのだろうか。
「なぁ。なぁ。カカシせんせぇの家にお世話になっていいって本当!?」
「オレってば、お風呂セット持って行っていい?お風呂に浮かべるアヒルちゃんと、カエルちゃんのスポンジなんだってばよ~!」
きゃーっと手を合わせて喜ぶナルト´Sに、カカシはハァと疲れたようにため息を吐く。このままでは、ため息で、胸が一杯になってしまうほどだろう。
「どうしてオレが、お子様の世話なんか…」
別に。上忍師となった時点で、ある程度の子供と関わることは覚悟はしていた。むしろ、子供たちの厄介事に巻き込まれてこそ、善き上忍師と言えるだろう。しかし、カカシとしては己の自宅まで過剰に生徒を介入させる気はないし、ましてや長期間共生活をするなど、未だかつて誰とも行ったことはないのだ。
それが、なぜ。いくら生徒の中でもわりと共にいて気楽な部類に入るナルト相手とはいえ、一緒に暮らさなくてはならないのだろうか。
「はぁ、災難」
カカシがガックリ肩を落とすと、二人のナルトがぷっくりと頬を膨らませた。
「むぅうっ。カカシ先生ってば、オレがお泊りしても嬉しくねェの?」
「そのロコツに嫌そ~うな顔はなんだってばよっ。シツレイだってば!」
「そりゃ、色気もへったくれもないがきんちょが家に来てもねぇ。はぁ」
再度のため息に、ナルトはむううっと頬を膨らませ、次いでしゅんと俯いた。
「オレってばカカシ先生家に行けると思ったら嬉しかったのに…」
ぽつりと呟かれた台詞にカカシはどきりと鼓動を鳴らす。
(可愛いところもあるじゃない…)
昼間の任務の時は小うるさいほど騒がしいくせに、二人きりになるとナルトは、なかなか可愛らしいことを言うことが多い。こうしていじましくもしゅんっとされると、普段が普段だけに、余計にそう思ってしまう。
「ナルト…」
視線を伏せていると、ナルトは酷く静かな子供だった。目の力強さが、あまりにも物事を語り過ぎる少年だから尚更だろう。意外に睫毛が長いのだな、と妙にどうでも良いことで感心しいると、
「イルカ先生だったら、すぐに〝いいぞぉ~。いつでも泊っていけ~〟って行ってくれるってば」
ぷいっと子供らしく反らされた真ん丸い頬に、なぁんだ、と思ったのが正直な感想。自分は所詮、子供にとって二番煎じであったのだ。何故だか酷くがっかりした己の気持ちに気付かずカカシは、身体の力を抜く。
「……おまえのイルカ先生と一緒にしないでよ」
げんなりとした様子で、カカシが言う。そして、もののついでに、もう一言続けた。
「そんなにイルカ先生が好きなら、イルカ先生のところに行けばいいでしょ?」
思っていたより素っ気ない声色になって焦ったが、別に己は間違ったことは言っていない、と自分自身に言い聞かせ、カカシはそっぽを向いた。大人げない態度を取っているとわかったが、何故かイライラとして、落ち着かなかった。自分のペースを崩されることを良しとしなかったはずなのに。
一方、ぷうっとムクれたナルトは、何を考えているのか、俯き気味に地面を睨んで酷く不満そうな顔である。
何故だか酷く切ないような狂おしい気分になって、カカシがぴょんぴょん跳ねている寝癖気味の髪の毛に手を伸ばしそうになった時だった、
「よぉ。ナルト。ハヤテから聞いたぜ。災難だったな。二人に分裂しちまったんだって?」
人生色々に現れたのは、オカンが被るようなほっかむりのような額当てを頭に巻いている不知火ゲンマだ。
「なぁ、オレの家に来いよ」
「へ?」
「カカシさんはお忙しい御身分のようだからな。おまえさえ、よければオレの家に来てもいいんだぞ?ちゃーんと二人まとめて、贔屓せずに面倒見てやるからよォ?」
聞くものが聞けばソレとわかるような単語をわざと使って、ゲンマは楊枝を咥えながらニヤっと片頬を上げる。この場合、牽制を掛けている相手は、子供というよりもはたけカカシだろう。
ビキッとカカシのこめかみに青筋が浮かぶ。
「ゲンマ。おまえねぇ―――」
「ナルトくん。探しましたよ」
カカシの言葉を遮って、咳き込みながら登場したのは、月光ハヤテだ。
「ハヤテ兄ちゃん!」
二人のナルトが声を揃える。
「ああ、見つかって良かった」
「どうしたんだってば、ハヤテ兄ちゃん?」
「どうしたんだってば、ハヤテ兄ちゃん?」
「ああ、ええと。ナルトくん。元はと言えば、私が新薬から目を離したのがいけなかったんですね。良ければ、ウチに来ませんか?ナルトくんなら、何人だろうと大歓迎です。ごほっ」
視線を反らしつつも、しっかり言いたいことは主張するのは、流石というべきか。何故かハヤテに睨まれた、カカシは頬を引き攣らせる。
「ゲンマ兄ちゃん、ハヤテ兄ちゃん…!」
一方ナルトたちと言えば、素直に感動を身体全体で表し、ふるふると小刻みに震えていた。
なんて親切な兄ちゃんたちだろう、と思っているのだろう。
「よぉ。うずまき。今、難儀なことになってるんだってなぁ。別に、オレの家に泊めてやってもいいんだぜ。大したもんはないけどな。…おまえが来たら毎晩、鍋パーティをするくらいだ」
「ナルト。コテツのバカはおかしなことを言ってるけど、もちろんオレも歓迎だよ?ちょうど、コテツとオレ、きみときみで人数も合ってるし、オレたちコンビが最適だと思うんだよねぇ」
鼻と顎のエリート中忍コンビが揃って、ニコニコと待機所に現れ、再び場が騒然となる。特別上忍や、上忍から発される渦巻く殺気にもなんのその、中忍‘Sは大胆不敵である。
ゲンマやハヤテに続き、中忍コンビまで、自分を心配してくれるとは。大人から可愛がられた経験の少ないナルトは、あまりのことに泣き出しそうになってしまった。
「兄ちゃんたちっ。オレってば感激だって―――――…っばぁ!?」
一斉に大人たちに飛びつこうとしたナルトは、首根っこを掴まれ釣り上げられた魚のように弧を描いて、すっぽりとカカシの腕の中に収まった。
「――ナルト。二人まとめて先生の家に来なさい?」
ナルトのあまりの人気っぷりに、カカシは何故かやたらと焦りを感じて子供たちを己の家に誘うことになった。
ナルトが二体もいるなんて幸せ過ぎて失神してしまいそうです。
日常編
―お散歩の時間1―
―お散歩の時間1―
「今日も今日とて、ご近所の平和を守る正義のヒーロー!」
ふん、ふん、ふん♪と、鼻歌を歌いながら木の葉の里を歩く金髪碧眼の狐の子。ふわふわの三角耳に、黄金色の尻尾。子供は迷子札を首に引っ提げた、はたけナルトだ。
「強いぞ。野菜にも負けないぞ、火の国戦隊、木の葉レンジャー!!」
ぶんぶんと手を振って、ナルトは木の葉の里を闊歩する。後に続くのは、上忍のはたけカカシだ。
「やる気だけはあるぞ~。だけど今日も哀しく空回り~~♪」
「………」
快晴の中。カカシは子供が前につんのめって転ばないように、くいくいっと時たま子供の胴に巻き付けた腰紐を引っ張りつつ空を見上げる。
「必殺技はらせ~んがん!しゅびび、今日もうっかり商店街を大破だ、木の葉レンジャー!!頑張れ、木の葉レンジャー!!ご近所のなんちゃってヒーロー!!」
「………」
元気良くヒーローソングを歌いながら、闊歩する仔狐と、朴訥とした飼い主。これが最近、木の葉の里で見掛けるペットの散歩風景だ。
「ちゃら、ちゃら~ん、次は二番!抜き足、差し足、忍び足~!今日も息子のピンチに駆け付ける~…」
んんんぅ、と息を溜めこんだナルトは、空に向かって大声で叫んだ。
「謎の黄色いヒーロー仮面!その名は波風ミ―ナート!!」
「直後に名乗ってるし…」
ぼそぼそと口布越しにツッコミを入れつつ、ぼんやりとした男は、自分の足の周りをとたとた走り回る子供を器用に避けながら、人生色々の前に辿り着く。
作詞者が錯乱薬を服毒したとしか思えない前代未聞の歌詞はさくっとスルーしておくとして。本日の散歩の目的地。里のメジャースポットにして一般人が恐れ戦く天下の上忍待機所だ。丁度、忍服を着た上忍が待機所から出て来る。
忍のくせに煙草を吹かした見知った男の姿に気付いたナルトは、ヒーローソングの二番を歌いながら突進した。
「息子のピンチに木の上から飛び降りた!公園の花壇に着地しちゃった!!困ったぞ、世間の目が痛い。ん!とりあえずらせ~んがん!!」
アスマの足に、〝らせんがん〟をぶつけて、ナルトはニシシと満足そうに笑った。
「………」
「らせ~んがん!!」
しかし、大人はナルトの攻撃を喰らっても動じない。
「ふぇ?」
「なんだ、カカシんとこのちみっ子か」
「らせ…ふぇ。あしゅま…」
鼻水を垂らして泣き出しそうになったお子様を見降ろして、猿飛アスマは旨そうに煙草を吹かす。
「らせ~んがんなのよ!!〝ばぁん〟なうしょ、おばかねあしゅまは~!!」
「ははぁ。差し詰めレンジャーごっこか…。そういや木の葉丸も夢中になってたなぁ、〝レンジャーごっこ〟」
「ら、らせ…ふぇ…あしゅまのば、ばかぁ」
ナルトがとうとう泣き出した時だった。カカシが〝ちょん〟と蹴りを入れると、アスマが床にのたうって苦しみ出した。
「カーカーシーーー!!」
「おまえは子供の夢を壊す気か…?」
「だからってナチュラルにチャクラ使って蹴り入れるんじゃねぇええっ。殺す気か!!」
背中一杯に脂汗を流しつつ、髭の友人は、常識を逸脱した飼い主とペットのコンビに戦々恐々とする。一方ナルトといえば、「やったぁ。くまになうとのらせんがんきいたのよ~。なうと、やっぱり強い子!」とぴょんぴょん跳ねて喜んでいる。ペットを甘やかしやがって、とアスマがぐぉぉ…と苦悶の表情で唸り声を上げた。
「らせ~んがん!!」
そんなアスマを余所にまたしてもナルトの渾身の一撃が、ぽすっとアスマの脛に当たる。そのあと、ペット馬鹿の飼い主がすかさず上忍の本気で蹴りを入れてきたため、アスマはもう一度悶絶することになる。今日も木の葉の里は平和だ。
クマはゴミぞうきんのように扱っても死なないけど、ナルトは泣いたら可哀想だもの。byカカシ。
R18指定。
「はい。サクモさん、父ちゃん、ご飯だってばよ~」
お茶碗をサクモに盛り付けたナルトは、次にミナトにも渡す。カカシは、ぼんやりとした眼で、割烹着姿の恋人を目で追って、食卓に視線を落とす。今日の晩御飯は秋刀魚の塩焼きに、茄子の味噌汁と地味にカカシの好きなものばかりだ。可愛い、可愛い、美人な恋人に愛を感じないわけではない。だが、だが、だが!
「ナルトさん。今日もこの味噌汁、丁度良い味付けだね」
「ナルト~。明日はパパとピクニックに行こうよ~。パパとも遊んでくれなきゃ、やだっ!」
最近やけに父とナルトが仲が良いことが気になるし、せっかく人目を忍んでイチャイチャしようと思っても、ミナトの目が光っている。両親と同居という状況では軽いスキンシップすらも困難な状況だ。
「はぁ、溜まる~」
夕食を終え風呂から上がった後も、カカシの呟く台詞といえばそれのみで、タオルを肩に引っかけたまま彼は廊下を歩く。禁欲生活もそろそろ限界だろう。
「ナルトがもう少し父さんたちに懐かなければ良かったんだけどなぁ」
カカシは自室へと戻ろうとした足を止めて、ふと襖から漏れる小さな明かりに目を細める。そこはこの広い屋敷の中でナルトに割り当てられた部屋。いわばナルトの寝室だ。僅かに開いた襖の隙間から中を覗くと、布団の中ですーすーと寝息を立てている金髪の青年の姿。
(あーあ。あんな暗いところで縫い物しちゃって…)
布団から伸びた手にきゅっと握り締められているのは、何かの端切れのようだ。無防備な寝顔に、カカシは我知らずため息を零す。
「ま。オレにしちゃよく我慢した方でしょ」
僅かに開いていた襖から部屋の中へ侵入すると、銀髪の上忍はこんもりと盛り上がっていた布団の中へ潜り込んだ。
「ナァルト」
ごそごそと布団の中に侵入してきた温もりに、ナルトは素っ頓狂な声を上げた。着物越しに這いまわる、二本の腕。身体中をまさぐる不埒な指に、ナルトは覚醒した。
「んやっ。カカシ先生っ!?」
うたた寝から目覚め、背後を振り返ろうとすれば、背中にぴったりとくっついているのは、己の恋人だ。宵も深いだろう、こんな時間にいったいこの大人は何をしにきたのだろうか。
「しぃー。父さんたちが起きちゃうでしょ?」
「ふむんんんっ」
手で口元を塞がれ、熱い下肢を押し付けられる。どうやら自分は繕いものをしている最中にうっかりそのまま寝てしまったらしいが…と反転した天井に驚きつつも、ぼんやりと思う。
「だ、だめだってばよ。父ちゃんたちが居るのに…んんっ」
口の中にぬるつく舌の侵入を許しつつ、ナルトはカカシを押しやる。どんどん、と胸を叩くと、大人は億劫そうに身体を起こした。
「何してるんだってばよ。カカシ先生。もう、真夜中近いってばよっ?」
「ん?ま!夜這い、かな?」
「何、さっくり言ってくれてるんだってばよーっ!」
ナルトが抗議の声を上げると、大人はにこっりと笑う。大人の完璧な笑みにナルトは訝しそうに警戒した。大体、大人がこういった表情をしている時は、嫌なことしか考えていないのだ。そして、そのナルトの予感は見事に的中する。
「だってねぇ、ナルト。オレのココ、熱くなっているの。わかる?」
「な…っ」
「どうも、一回出さないと収まらないみたいなんだよね。セックス出来ないなら、おまえがフェラして静めて?」
カカシは胡坐を掻いたまま己の中心部で隆々と主張するそれを指差した。ナルトは、カカシの寝まき代わりの浴衣越しにテントを張った大人のペニスを見て、顔を真っ赤にさせる。
「うぇっ?うそ、カカシせんせぇ…」
「ほ~んと。見てよ、これ。もう、ギンギンでしょ?」
「!?」
ふいに手を引っ張られると、カカシの幹の部分へと導かれる。熱い塊を握り込んでしまい、ナルトは思わず悶絶した。
「ねぇ。溜ってるの。おまえも同じ男ならわかるでしょ?処理のお手伝いをしてよ?」
「………っ」
にちゅ、にちゅ、とナルトの手を借りて、カカシが自慰を始める。
「やっ!?カカシせんせぇ、やめ…っ」
「どうして?オレのココ、おまえが欲しくてこんなに大きくなっちゃってンのよ?――んっ」
「やっ。やんんっ。だって、ここはサクモさん家なのに…っ」
それだけではない。同じ屋根の下で父たちが眠っている(彼等が睡眠を取るかは謎だが)というのに、快楽に耽っていいものか。ナルトとしては、酷く良心を苛まれてしまう。
「そうは言っても、おまえとセックス1週間なしの生活ってのは流石にそろそろきついんですが?」
「~~~っ」
「はぁ。んっ。オレはナルトのお口で可愛くご奉仕して欲しいな~って思うんだけど」
カカシのモノを咥えたことは一度や二度ではない。野外任務などでは、手っ取り早く性欲を処理するために、挿入などはせずに触り合いかフェラだけで済ませることも多い。同じ屋根の下に父親たちと同居して以来、確かに性行為に及び辛くカカシが欲求不満であることはナルトも気が付いていたが。
「ねぇ…」とカカシに熱い視線を注がれ、ナルトはぎゅっと目を瞑る。
「もう、我慢出来ないんだよ。父さんたちのことも大事だけど、オレのことも考えて?」
「………っ」
「ナルトはオレの家にお嫁さんに来てくれたんでしょ?だったら、たまには旦那様のことも労ってよ?」
こめかみの辺りを甘やかされるように、ちゅ、ちゅ、と啄ばまれ、「オレの可愛い奥さん…」と囁かれて、ナルトは体の力を抜いた。
「わかった。仕方ねぇってば。出したら、収まるんだろ?」
「ん。お願い…」
「ちょっと、待っててってば。先生…んっ」
耳で髪の毛を掻き上げナルトはカカシの勃ち上がるものを、自分の口に含みやすいよう持ち上げる。
勃起したカカシのペニスに、ごくん、と喉が鳴る。
「おっき…」
「そりゃ、我慢してましたから」
「……っ」
「色っぽいねぇ…」とため息交じりに囁かれ、まだ青年期に入ったとはいえ丸みを残す頬を紅潮させた。
「んうう。あむ…。んくっ」
はくん、とナルトがカカシのペニスを咥え、じゅぶぅ、と自分の倍はある雄を口の中に迎え入れる。
「はぅっん」
根元までカカシのモノを咥え込み、ちゅ、ちゅっとナルトは破裂音を立てる。
「ん、んく、ぐっ」
苦味のある液体が先端から溢れだしてきた。それを垂下し、ごくんっ、とナルトは喉を鳴らす。
「おまえ、咥えるの上達したねぇ。あ、ソコ凄く気持ち良い…」
先っぽの出っ張りの部分を舌でぐりぐりと押され、カカシは快感からため息を吐いた。そのままナルトの口の中を性器代わりに、カカシはペニスの切っ先を出し入れして、腰を震わせる。
「いいよ、そのまま口開けてて?」
「ん、ん、ん、じゅ、んっ」
「さいこーに気持ち良いよ、ナルトっ。――んっ」
カカシに頭を前後に揺すられつつ、ナルトはたまに喉奥でペニスに吸いついて、滲み出る精液を啜る。
「はぁ、んっ。いいよ、気持ち良い…。出ちゃいそっ」
ぐぐぐ…と喉奥深くに差し込むと、眼下の青年が苦しそうにえづいた。
「あ、むんぅっ」
ぎゅっと瞑られたまぶた。真っ赤になった目元。それに欲情して、カカシはナルトの頬を持ち上げた。
「ん!むぅっ!!あぅううっ」
何度かナルトの中でグラインドさせると、カカシはぶわわと精液を出した。
「ふぁ…」
粘り気のある液体が、ナルトの口の中を直撃する。つととと…、とナルトの唇から白濁とした液体が零れて、布団を汚した。ナルトは精液で濡れた唇で、カカシを見上げる。
「ナルト、可愛い。ん、ちゅっ。ナルト…」
「あ、あうぅ…」
ちゅ、ちゅ、とキスを落としながら、カカシはナルトを引き寄せる。そのまま、ナルトがぼんやりとしていると、
「あっ?ん?」
大人の手がさわさわと意味深にナルトの局部を触れた。
「んあっ!出したら、本番はしないって…」
「とは言ってないよね?こんな可愛いおまえを見せられて我慢なんて出来ないでしょ?」
「ひゃあんっ」
「それにほら。ナルトだって溜ってるでしょ?女の子じゃないんだから、出すもの出さないと辛いでしょ…?」
「んふぁあっ、つらくなんてっ」
「この状況で辛くないなんて、嘘でしょ?それともナルトは女の子なのかなぁ?先生、おまえのオトコノコの部分がどうなってるか、確かめてみてい~い?」
着物の裾から、カカシにペニスを掴まれて、ナルトはぎょっと身を竦ませる。
「な~んだ。ナルトのもちゃんと反応してるじゃない」
「ん…っ。あ、ふぅ」
「ふふ、興奮してる?ナルトのエッチ」
くちくちと濡れた水音が和室の中を満たす。大人に己のペニスの弱い部分を弄られたナルトは金糸を振って微弱な抵抗する。
「だ、だめだってばよ。これ…、カカシ先生のお母さんの着物だってば…。汚しちゃうってばっ」
布団から逃げようとする着物の青年を捕まえて、青年の己の主張するものを扱う。じゅ、と青年の幹から精液が溢れてくる。
「あ、だ、だめっ」
四つん這いになったナルトの帯に手を掛けると、カカシはにんまりと唇を吊り上げた。
カカシは、己の腰元に青年を引き寄せながら、震える青年の耳元にそっと呟く。
「じゃあ、汚れないようにちゃんと自分で裾を持ち上げてて…。出ないと、着物に精液ぶち撒けちゃうよ?」
カカシの命令にナルトは強い抵抗を見せる。
「ほら、さっさとしないと、もっと酷いことしちゃうんだから」
「……っ!」
カカシはナルトの頬をついと撫でた。ナルトは唇を引き結ぶと、恐る恐る着物の裾を捲る。太もものラインまで持ち上げ、尻まで晒した。
「んー。いい格好…」
カカシはナルトの尻を持ち直すと、ちゅうっとその蕾に口付ける。きゅんっ、とナルトのそこが締まった。
「あっ、はぁっ、そこ汚なぁ…っ。カカシせんせぇっ」
生温かく濡れた舌の感触に、ナルトは艶がかった声を出す。いやいや、と尻を振ったナルトだが、カカシは臀部から吸いついて離れない。
「んんん。何言ってるの。すごくおいしいよ、じゅ、なぁると」
「あ。いやぁっ。やん、んんんーーっ」
カカシに尻を揉まれると、ナルトはくにゃくにゃと身体の力を抜いてしまう。
次の瞬間、侵入してきた筋張った大人の指の感触に、ナルトは嬌声を上げた。
「あんんんんんっ」
「はぁ。あったか」
「だめっ。指、だめぇ…」
「嘘吐き。自分から着物捲り上げて善がってるくせに。本当は、こうやってせんせーに思いっきりずぼずぼされちゃいたいんでしょ?」
「ひ、ひぃっ。ちがうもっ。カカシせんせぇっんの、ばかぁっ、ん。あんんっ」
カカシは二本の指をナルトの中へ容赦なく突き入れる。巧みな技で内壁をスライドされ、ナルトはひんひんと啜り泣いた。無意識に振れる青年の腰に、大人はにんまりと口の端を吊り上げる。
「上のお口と違って、下のお口は正直みたいだけどねぇ?ほぉら、もう一本入るよ?」
「いやぁっあぁんっ」
指三本をもってたっぷり可愛がられ、ナルトは着物を捲ったまま、布団の上に突っ伏した。
「はぁ。柔らかい。もっと拡がるかなぁ?」
ぐにーっ、と内壁を拡げられ、ナルトは小さく呻く。己の指に吸い付いて裏返しになるナルトの内壁の感触にカカシは笑みを吊り上げた。
「ん?」
揉み合ったせいか、いつの間にか布団がくしゃくしゃになっていた。尻だけあげて布団に突っ伏していたはずのナルトが敷布団からはみだしている。
「こら。お布団から逃げないの。肌に痕ついちゃうよ?」
「だってぇっ。んやぁっ」
ナルトが畳の上で伏せる。カカシは腰を高く上げたまま、震えるナルトの帯を引き寄せる。
「先端まで真っ赤にしちゃって可愛いなぁ。ナルトのココは」
「……っ」
局部を慰撫され、ナルトは竦み上がる。
「あ、いやぁっ。だ、だめだってばっ」
カカシに、数回擦られただけでナルトの雄の部分は、精液を吐き出した。ぽたたた、と放出される射精の音にナルトは居たたまれない、といったように呻く。
「あ、もぅ…」
熱い吐息を漏らして、ナルトは腕で顔を隠す。乱された着物に、散らばった帯。仰向けに寝かされ、仄かな灯りの中にカカシの顔が浮かび上がる。
「畳の上でおまえを抱くのって初めてだよね?――ふふ、興奮するね?」
カカシの囁きにナルトは、ぱっと視線を合わせる。そして、己の上に伸し掛かり笑みを深くしている大人を発見して、
「変態ぃぃ…」
悔しそうに唇を引き結んで顔を伏せた。
「―――よいしょっと」
「あ。く、ぅん」
ぎゅっと目を瞑ると、ぐぷぷぷとカカシが侵入してくる音が聞こえる。
「だんだん、奥に入っていくよ」
「はぅっ、ん」
足を持ち上げられ、ナルトは挿入の異物感に耐える。薄らと瞼を開けると、次の瞬間、
「あ、ああーー…っ」
じゅんっと音と共にカカシのモノが全部ナルトの中に収まった。
「ナルト。気持ちいい?オレのながぁいの全部入っちゃったよ?」
「くぅっ…。ん っ」
ゆさ、と確かめられるように揺すられ、ナルトは子犬のように呻いた。
「ひ、ひでぇってばよ。カカシせんせぇ…」
「はは、ごめん。ごめん。――んっ」
「ん、ぁ…っ」
カカシがナルトの身体を持ち直して、揺さぶり始めた。ナルトの視界がブレる。
「あ、かかしせんせぇ、かかしせんせぇっ。あ!あ!あ!だめぇ、お、おくぅっ」
「はぁ。おまえのナカ、きもち、いっ」
カカシは腹筋を震わせて、何度もナルトに腰を打ち付ける。ぶるる、とカカシが身震いすると、ナルトは身体を硬くさせた。
「か、かかしせんせい…。ぬ、ぬいて…」
「だーーめ。そのお願いは受け付けられません」
ぐ、ぐ、ぐとペニスを内壁に押し付けられながら、ナルトは涙目になる。
「はぁ…」
「あっ、う、あ!あ!あ!」
カカシがため息を漏らし、すぐに律動を再開する。ば、ばか!と青年が罵ったが、旦那様の耳には届かなかったらしい。
「ねぇ、ナルト?手繋ぎながら動かしていい?」
「ひっ、あっ、ぅぅうっ」
カカシはナルトの手を握ると穿つスピードをあげる。ゆらゆら、と蝋燭の火に灯されて、二人の影が障子の上で蠢いた。
「はぁ。可愛い、オレのお嫁さん…。気持ちいい?」
「あっ、はぁっ、あ、あ、あ!」
ぐちゅん、ぐちゅん、と結合部が卑猥な音を立て始める。カカシの先走りとナルトの腸液のおかげで動きがスムーズになり、ナルトが受ける快感も大きくなる。
「あ、もぉ、変になるぅっ」
「いいよ。好きなだけ気持ち良くなっちゃいなさい?」
「あんんんっ」
一際強く突き上げられナルトは射精する。
「はぁ。はぁ…あんっ」
「う、キツ。締まるっ」
ナルトの強い締め付けにカカシは唸る。カカシは痙攣するナルトの内壁に何度かペニスを擦り付けた。
「あ、っぁっ!!」
達した余韻に浸ることもなく、始まった突き上げにナルトは嬌声をあげる。
「あっ?やぁ?かかしせんせぇ?」
「なると…」
「あっ!あっ!あっ!」
火照ったナルトの身体にカカシの手が落とされる。大人の手は、ナルトの中心部へと伸ばされた。
「んっ」
カカシが萎えた性器を何度か擦ると、再びナルトの熱が灯される。
「あ、あ、あ!カカシせんせい、カカシせんせいっ!」
「なる、なると。――んっ」
ナルトはカカシの律動に翻弄される。最早ナルトは声を抑えることを忘れていた。ただ、カカシが与える快楽に従順になり、丸い頬に唾液が伝う。やがて、きゅうきゅう締め付けるナルトの中へとカカシは射精した。
「く。出すぞ!」
「う、あ、あ、せんせいっ」
「なるとっ」
お互いの性器から、白濁とした液体を放たれる。カカシの腰にナルトの足がぎゅっと絡みつき、カカシはナルトの肩口に突っ伏した。
「あー、あ…かかしせんせぇ」
「ん。ナルト…」
どくどくと注がれる熱に、ナルトは小さく痙攣する。波打つ腹筋に手を添えると、そこは温かかった。胃液がせり上がりそうになって、だけど満たされた気分が気持ち良くて。
「好き…」
「うん…」
ふぅ、とカカシが息を吹きかけて蝋燭の火を消す。一度達したとはいえ、お互いまだ繋がりあったままだ。カカシの禁欲期間を考えると、二人の夜は長くなるだろう。暗くなった部屋の中で大人の手が重ねられて、宵闇に消えていった。
ぎゃぁああぁっ。と、この世の終わりのような悲鳴が、はたけ家に響いた。四代目火影は息子の布団に銀髪の男が潜り込んでいるのを発見してプルプルと打ち震える。
「う、うちの息子になんて汚いものをなすりつけてるんだい!はやく仕舞いなさーい!!」
ナルトを横抱きにして寝ていたカカシの頭を毬のように蹴り上げ、四代目火影は活火山を爆発させた。
「うわ。先生?」
壁に頭を打ち付けたカカシは、何が起こっているのかいまいち把握できないまま痛みに耐えつつ頭を掻いている。
「悪霊たいさーん!!」
流石は木の葉の黄色い閃光、という速さでミナトが攻撃を開始する。とても寝惚け眼のカカシが太刀打ち出来るものではなかった。まず初めにアパーカットが見事に決まり、カカシがノックアウトされたところで、ぐぎゅうっと変な音を立てて、大人の×××が踏み潰される。
「………っっ!!」
カカシ上忍が受けた想像を絶するダメージをお察し頂きたい。男の急所ともいえる場所を情け容赦なく(それも火影の実力で)踏みつけられたのだ。おそらく上忍でなければ、天に召されていたであろう衝撃だ。
「○△※☆×◇~っ!!」
股間を抑えて蹲る弟子に、師は怒りを納めようとさえしない。ふん、と満足そうに鼻息を荒くさせると、悶える弟子の前に仁王立ちする始末。
「つっ。せ…せ、せんせい、あんまりですよ…」
「何言ってるの!うちのナルトの身体に無礼を働いたものなんて、即去勢だよ!去勢!」
(オレにとってはまさに貴方が悪霊ですよ!!)
「ん!カカシくん。今、何か言ったかな!?」
「心読まないで下さいよ。気持ち悪い!」
「ふーふーふー。木の葉随一の天才とはオレのことだーよ!読心術なんて朝飯前なのさ!文字通りにね!」
そう言うと、波風ミナトは片手に螺旋丸を作り出す。
「師を馬鹿にする子はおしおきだよ!ん!らせ~んがん!!」
「げ…!?」
高密度に集められたチャクラの塊に、カカシは思わずのけぞった。しかしかな、時遅し。黄色い閃光の一撃は見事にクリーンヒットしたのである。
「ふわぁぁ。とうちゃ?カカシせんせぇ?」
昨晩の情事のせいで泥のような眠りに落ちていたナルトが、布団代わりの着物を羽織りながらようやく目覚めた時、自室の壁に大きな穴が開いていた。
朝「ナルくんとピクニック~♪」とスキップランランでやってきた四代目。
障子を開けて、息子の布団に100%無邪気を装いながら飛び込もうと思っていたら
息子の布団に既にでっかい大人が潜り込んでいた罠。四代目にとっては悪夢のような現実。
スレナル。こんな大人になっちゃダメ。
素晴ラシキカナ、駄目犬人生
「はぁ~。ナルトとイチャパラした~い」
「十分しているだろうがよぉ。まだシ足りねぇのか?」
「同僚に性犯罪者が居るだけでも我慢ならないのに、これ以上何かやらかしたら承知しないわよ。カカシ?」
ここは人生色々。上忍の寛ぎの空間でもあるここで、3人の上忍たちが並んで座っていた。右から、はたけカカシ、猿飛アスマ、夕日紅。三者とも里を代表する優秀な上忍ばかりである。
その中でも抜きんでた能力を持つのが、はたけカカシだ。しかし、彼は12歳の少年相手、それも己の生徒に不埒な懸想をしている教師としてあるまじき男である。
「だって、ナルトって全然隙がないんだもん。邪な気持ちを思って近付こうものなら、キスどこか指一本だって触れさせてくれないわけだし?」
「まぁ、あのドベっぷりは演技だからな。あの実力相手にそう簡単にはいかないだろう」
「こんなことがあると、うずまきも本当に必要があって力を尽けたって感じよね。うずまきが実力ある子で良かったわ。でなきゃ、簡単に変態の餌食になっていたかもしれないものね」
「変態って誰のこと!?誰がナルトの貞操を狙ってるの!?」と変態が鬼気迫る顔で、紅に詰め寄り「…あんたのことよ」と顔を押し退けられる。
「本当にどうしようもないわね」
紅が唇の端を引き攣らせると、カカシがめそめそと人生色々のソファーでのの字をかいている。
「この間のデートだって、オレがリードしようと思ったのにナルトったらどんどん一人で歩いて行っちゃうしぃ~」
荷物持ちと称して、ナルトの買い物に付き合い忍具屋や、上忍御用足しの薬屋を回ったカカシ。前を歩くナルトの小さく形の良い尻を追い掛けていたら、うるさい、とど突かれた。喋るな、との命令のため、一言も喋っていなかったにも、関わらずだ。
「手も繋がせて貰えなかった…。あぁ、ナルトのすべすべの手に思う存分、頬ずりしたい…」
「おまえ、本当に終わってるな」
流石のアスマも友人の世迷言に帆を尾を引き攣らせる。
「夜だってベッドの中の可愛いナルトの寝息を感じながら、オレは窓の外で簀巻きにされてお預けを喰らう毎日。そんなオレに許されるスキルといえば…」
「あやまる」
「お願いをする」
「命令を待つ」
のみ。上忍はナルトが捨てた紙コップを拾っては、はふはふしている日々である。
「おめぇは犬以下か!!おまえ、そりゃ男として情けなくねぇのか」
「だぁって、ナルト可愛いんだもん~。あの冷たい視線で射抜かれて、〝役に立たねぇ駄犬だな〟って罵られるだけでも言い知れぬ、快・感…」
「だめだ。こいつぁ、完全に変態だ…」
「うずまきもまだ若いのにこんな奴に目を付けられて可哀想に…」
エリート街道を歩いて来た天才上忍は、職場ではもちろんプライベートでも罵られることなど、皆無。怒られたことのなかった上忍が出会ったのが、里の犠牲となり九尾の器になった子供で。
最初は守ってあげようと思った。可愛くて稚い。だけどいつも一生懸命な姿を見て、胸がドキドキとした。
12歳という年齢に迷うこともあったが、それもすぐに関係ない、と感じるようになった。
カカシが好きになったのは、最高に真っ直ぐ愛らしく成長したお子様で。
下忍任務終了後。愛の告白をして、我慢できずぎゅうっと抱き締めたところでまさかの反撃を食らった。
いきなり飛んできた手裏剣。叩き伏せられた時の地面の感触。180度違う性格に、口の悪い喋り方。そのうえ、上忍のカカシが、身震いしてしまうほどの実力…。
カカシが好きになったのは、本当は、最高に強く気高くに成長した孤高のお子様で。
変態!死ね!と少年に罵られた時、確実に何かに目覚めてしまった。
だって、涙目になって真っ赤になった顔があんまりにも可愛かったから。
そんなに震えて、強がって、だけどそれ以上に怯えて怖がって。今まで、どれだけ我慢していたの?
きっと、オレなら、おまえの期待に応えられる。
もう、そんなに虚勢を張らなくてもいい。安心していいんだよ?
カカシは別の意味でこの子供を守ってあげたい、と思ったのだ。
「おい。カカシ」
噂をすれば本人の登場だ。この里で唯一狐の暗部面を付けた小柄な少年暗部。不機嫌全開の声であるが、これがナルトの本当の地声だ。カカシはすかさず、少年の足元に駆け付けるとふはふと尻尾を振った。
「やっぱりこんなところで油を売ってやがったか。下忍任務はともかくまさか暗部任務の時間、忘れたとは言わせねぇぞ遅刻魔上忍」
ナルトは自分の足に擦り寄って来た変態を蹴りあげてから、待機所内を見渡す。
「こいつが迷惑をかけた。貰って行くが、いいか?」
「いや、いつものことだ。気にするな」
「そうよ。あまりにも我慢できな嫌なことされたらすぐに言うのよ」
何故か協力的な発言を返され、ナルトはきょとんと首を捻る。元来、この子供は自分に対する好意に鈍感なのである。
「じゃぁな」
「おう。またな」
「さようなら」
大人たちに手を振られ、ナルトはぎこちなく手を振り返す。
「――あ、紅」
カカシの首根っこを掴んで大人の身体をずるずると引きずりながら、待機所の窓に再び手を掛けたナルトだったが、そこで何か思い出すことがあったのか、ふいっと背後を振り返った。
「この間の、菓子。んまかった。さんきゅ」
無口な少年から挨拶以外の言葉を掛けられて、首を捻っていた紅だが、その内容にすぐに合点したようだ。
「ああ、リキュール入りのチョコレートね。また、中心部に行く用事があったら買ってきてあげるわ」
紅が微笑むと、ナルトはカカシが今まで見たことないほど可愛い顔で頬を染めた。
「悪いからいいって…」
「いいのよ。自分の分のついでだから。美味しいわよね、あそこのチョコレイト。私も甘いものは苦手だけど、あの店のチョコだけはイケるのよねぇ」
ナルトは紅と話す時に、妙に照れているようだ。そう言えば、ナルトは母親という人に無縁だったせいか大人の女性や、女の子などに裏表関わらず優しい。
「!???」
地べたに這いずっていたカカシは、紅とナルトのやりとりに大きく目を見開いた。
「ナルト、紅と仲が良いの!?」
「はぁ?なんだよ、それ。フツーだ。フツー」
「そうよ、カカシ。普通でしょ?」
「オレも、ナルトの〝普通〟欲しい!!まだ貰ってない!!」
「そりゃ、てめぇは毎回、オレを怒らせることばかりするからな。普通に接してくる奴にはオレだって、いつも怒っては接しねぇよ」
「だっははは。自業自得って奴か、カカシ。残念だったな」
キョロキョロと視線をアスマとナルトの間で彷徨わせるカカシ。ナルトは、スパスパと煙草を吸うアスマにも「その通り」などとくつくつと笑みを零している。
「っ!?っ!?っ!?」
どうして!?
あの冷たくクールなナルトがオレ以外にとびきり可愛く笑っている!!
ていうか、クマも紅もいつの間にナルトと仲好くなったわけ~!?
「ナルトっ。こんな化粧濃い年増のどこがいいわけ!?オレの方が100倍ぴちぴちだっつーの!!」
「なんですってぇ、カカシィ!!」
カカシと紅から殺気が飛び合ったが「はぁ?馬鹿言ってないで、さっさと任務行くぞ」とナルトからの天使の一声で、カカシがナルトの懐に飛びつく。
「ナルト~、ナルト~」
きゅうぅん、と鳴く上忍。それを受け入れる少年。
「すまん。駄犬が、粗相したな」
己の身体にすりすりと頬づりするカカシの頭を撫でながら、「ほら、行くぞ」と上忍を引っ張って行く少年の後姿は、どこか満更でもなさそうだった。
「………」
「………」
飼い主と飼い犬の光景を目撃しながら、もしかしたら、あの男は酷く少年に愛されているのかもしれないと思ったアスマと紅であった。
とりあえずスレナル更新はここで一旦ストップ。楽しかったな。
空気猫取扱説明書概要
ここは二次創作小説置場です。無断転載は禁止。本物のカカシ先生とナルトくん、作者様とは一切関係がありません。苦手な人は逃げて下さい。
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管理人の生態
自己紹介
名前 空気猫、または猫
職業 ノラ
趣味 散歩・ゴミ箱漁り
餌 カカナル
夢 集団行動
唄 椎名林檎
性質 人間未満
日記 猫日和
ある日、カカナルという名のブラックホールに迷いこむ。困ったことに抜け出せそうにない。
職業 ノラ
趣味 散歩・ゴミ箱漁り
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ある日、カカナルという名のブラックホールに迷いこむ。困ったことに抜け出せそうにない。
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