空気猫
空気猫
日常編
―正義の味方の時間―
―正義の味方の時間―
はたけカカシが木の葉の里を出て、火の国の首都へと出立したのは、とある黄金ウィークと呼ばれる、連休のことであった。大方の人間が休みとなる祝日とはいっても、売れっ子の上忍兼暗部であるカカシに休みなどない。本日とて、木の葉の大名に機密文書を届けるため、〝流石はカカシ先輩〟と後輩暗部が居たなら感嘆のため息を吐くほどのスピードで雑木林の中を疾走していた。
だが、しかし。そんなふうに颯爽と任務に従事する彼のリュックサックから、黄金色の三角耳がぴょこんと飛び出す。
「カァシ。はやい、はやい~」
彼の遠征用リュックサックの中には、何故か黄色い三角耳を持った狐の子がくるんと丸まって入っていた。木の葉一の技師、はたけカカシのリュックサックから三角耳と顔だけをちょこん出し、お花を振りまいている狐の子供――はたけナルトは、右から左へと変わっていく風景に興奮気味だ。
ちなみにナルトの声援に、カカシは表情をまったく変えない。プロ意識の高い天才上忍は、
例え、今運んでいるのが、木の葉の命運や、自身の命に関わるような機密文書ではないとしても、一瞬足りとも気を抜くことなどないのだ。その証拠に、今回初めて狐の子供を携帯して任務を遂行している上忍は、けして口布の下の表情を弛めなかった。
つまり、傍目には鬱蒼とした森の中を、お花を振りまいている仔狐を背負った忍が疾走する姿が目撃されたに違いないのである。
ここは、火の国の中心部に位置する首都。その目抜き通りにある木の葉デパート。今回の任務後に、カカシはしばしの休暇を与えられた。だからこそ、ナルトを連れて来たのである。
数日前、彼の家に投げ込まれていたチラシを見た、彼の愛玩ペットは、チラシを紙飛行機代わりにして遊ぼうと目論んでいたが、チラシの写真を見た途端、歓喜の悲鳴を上げた。
玄関から、居間の長椅子で寝転んでいたカカシの傍まで一目散に駆けると仔狐は、〝木の葉レンジャーショー〟の広告を何度も指差し、尻尾をはためかせた。
子供の好きなものどころか世間の流行にはまったく疎いカカシであったが、さすがに買い物に行くたびにせがまれた食玩のヒーローのことは頭の隅っこに引っ掛かっていたらしく、「あぁ~」とか「うーん」とか反応の薄い生返事をした後、長椅子に寝転がったまましばらく頭を悩ませていた。
「まぁ。よかろう」
以外にも、火影の許可は簡単に出た。本来であればカカシランクの上忍が請け負うはずのない安易な任務をわざわざ受付で調べて選んできた上忍を訝しく思った火影は、「定刻までには戻るので空いた時間を私用に使わせて欲しい」という彼の不可解な頼み事の理由を訊ねた後、至極あっさりと頷いた。
それどころか、数十年任務一筋で、無趣味な男の珍しい頼み事に好々爺の上司は片眉を興味深そうに跳ね上げ、またその原因が一匹の仔狐だということに笑みを零し、
「本当に半日だけでいいのかのぅ?もっとゆっくりとしてきて良いのじゃぞ?」
とまで、言ったくらいだ。カカシはしばし考えたあと、「あくまで私事での我儘ですので」ときっちり夕刻までには帰里する旨を伝えた。依頼人の方としても格安で木の葉随一の上忍を雇えるということで、快く頷いた。
そんなわけで、はたけカカシは期日よりかなり早く巻物を依頼人の元へと届け、(何故か依頼人にレンジャーショーの無料招待券までプレゼントされ)その足で首都の中心部へと向かったのだ。
「カァシ。人がたくさんだってばよ~」
「そうだねぇ」
豪奢な建物が並んで建つ目抜き通り。銀髪の忍者の姿は目立ったが、三角耳の子供の姿もまた同じくらいに人目を引いた。忍者が堂々と街なかを歩くだけでも、忍里ではないこの街にして見ればざわめくというのに、カカシの風貌は際立って目立つうえ、オプションは金髪碧眼の狐っ子。
美男か、醜男かと言われれば、カカシは断然前者の部類である。そんないい男が至極当たり前の顔で抱き抱えている狐の子供の存在が道行く人々を混乱させる。
わけがわからない。誘拐犯? 変な人?
カカシの堂々とした態度のせいで、おかしな破壊力が増す。木の葉デパートに入った時も、人々の反応は大体同じで、カカシは至極真面目な顔のまま、エレベーターに乗り最上階のボタンを押した。
レンジャーショーの内容はさしてカカシの興味も関心も引くものではなかったが、膝の上の狐の子供がきゃあきゃあと嬉しそうに尻尾をはためかせているので、カカシは大いに満足していた。
「しゅごいってばよ~。びゅーんでばーんなんだってばよ~」
「………」
カカシがすりすりと鼻先をナルトの金糸に埋め込んでいると、
「カァシ。カァシ。銀狼、格好良かったってばよ。やっぱさー、やっぱ。あいつはいい奴なんだってばよ」
〝皆が悪者だって言っても、オレにはわかるんだってばよ〟ぱたぱたと尻尾を左右に振りながら、カカシの方を振り返った狐の子供が興奮気味に言う。
「なうとってば違いのわかるキツネー!」
どこか威張ったように、身体を反らして、狐の子供はカカシの膝の上でぽんぽん跳ねていた。
「………」
その時、館内アナウンスが流れた。
『今から良い子のみんなと木の葉レンジャーの握手会があります。係りのお兄さんのところに並んでね』
「ふぁ。あっ、あっ、カァシ。なうと、木の葉レンジャーと“あくし”したい」
『今回は特別ゲストで銀狼役の×××さんもいらっしゃってまーす』
遠目に、とは言ってもカカシの視力を持ってすれば、なんということはないことなのだが、
灰銀色の役者が舞台の袖に立っている。木の葉レンジャーの中身は、アルバイトのスタントマンだということは、想像が付いていたので、おそらく彼だけが本物の銀狼役の役者だろう。
なるほど、カカシにはいまいちどこがいいかわからないが、どこか伊達な雰囲気がある。その証拠に、腕の中のナルトは本当に嬉しそうに、はしゃいでいる。三角耳の裏側まで薄桃色に染めるほどに。普段から彼の〝ファン〟であると、豪語しているナルトのことだ。嬉しそうなこの反応は当たり前のことなのだが。だが。ちっとも面白くない。
「………」
「“あくし”したい。カァシ、カァシ。おてて離してってば」
「………」
「カァシィー…?」
不機嫌なカカシの様子に、ナルトの催促の声も尻すぼみになる。ぺたんと三角耳を寝かせたナルトは、不安そうに銀髪の人間を見上げる。どうして、カカシが不機嫌なのか、わからないが、大好きなカカシが怒っているだけで、気持ちが沈んでしまう。
結局ナルトは、レンジャーショーが終わるまでお膝抱っこから解放してもらえなかった。
「………」
「カァシのばぁか」
「………」
ご機嫌取りとばかりに連れて来て貰ったレストラン。〝ぱふぇ〟なるものを前にナルトはご立腹だった。そのうえ、ナルトがむぅむぅとむくれているというのに、お構いなしに押し付けられる生クリームの載ったスプーンのせいで、ほっぺがべちょべちょだ。どうやらカカシが先ほどのことを謝っているらしい。そんなカカシの様子に、ナルトは、しゅんとしてしまった。
「なぅとは。カァシのこと、しゅきよ」
「う、ん…?」
「だから、そんな哀しい顔しないで欲しいってば」
カカシは驚いたように、目を見開く。今にも泣きそうな顔をしているのは、ナルトの方ではないか、とも思う。だけど…。
「カァシが痛い痛いのお顔していると、なぅとまで哀しくなっちゃうんだってば」
そう言うと、三角耳の子供はカカシが差し出していた柄の長いスプーンから、甘ったるそうな生クリ―ムをぱくんと口に含んだ。
ナルトの着物はくすんだ橙色のような奴で、模様は紅葉。
足元は白足袋。帯は着物と同系色のきゅっ!て奴です。
今回はそれに割烹着で。
想像OKですか?よし、はたけ家にこっそりknock、knockお願いします。
足元は白足袋。帯は着物と同系色のきゅっ!て奴です。
今回はそれに割烹着で。
想像OKですか?よし、はたけ家にこっそりknock、knockお願いします。
「あの。お義父さん。ご飯です…」
「ああ。すまないねぇ…。ナルトさんも、もうおあがりなさい」
しゃもじを持ったままナルトは、ほぅ…とため息を吐く。碧い眼に視線を注がれ、サクモは味噌汁の椀を持った手を止める。
「どうかしたのかね?」
「あ、すいませんってば」
「いや、私の方こそ、給仕ばかりさせて、すまないね。もしかして、私はナルトさんを緊張をさせてしまっているのだろうか…?」
「そっ、そんなことないですってばよ!」
「しかし…。どうしてナルトさんの顔はそんなに赤く…」
「料理も掃除も、オレが好きでっ、やっていることですからっ!お、お義父さ…っ」
またしても、花びらが舞ったような背景に二人が包まれたところで、ドタタタという廊下を駆けずるような物音。
「ただいま戻りました…っ!」
およそ、忍らしくない物音を立てて、ドタバタと帰宅したのは、はたけカカシだ。サクモはそんな息子の様子に目を見開きつつも、
「あ。おかえりなさいってばよ。カカシ先生」
「おかえり。カカシ」
はんなりと出迎えた。ナルトもそれに続いて、僅かに身体を浮かす。
「カカシ先生。任務お疲れさまだってば。もうご飯の支度出来てるってばよ。それともお風呂、先に入るってば?」
ナルトが割烹着の裾を直しながら、小首を傾げる。
19歳の恋人に微笑み掛けられ、カカシは、うっと息を詰まらせた。
「カカシ先生。いきなり何、泣いてるんだってばよ!!」
「ごめん。なんだか物凄い勢いで、都合の良い夢を見ているようで…覚めてしまうのが怖い。なら、いっそここで死んでしまうしかないのかという葛藤を…」
「カカシ先生。しっかりするってばよ。ていうか、寝言は寝てから言えっ!!何、馬鹿なこと言ってんだってば!!」
がっくん、がっくん、とナルトがカカシを揺さぶると、カカシの首は仕掛け時計の振り子のようによく揺れた。
「ははは。ナルトさんの方がしっかりしているみたいだねぇ」
「……あ」
思わず、カカシから身体を離して、ずべしゃとカカシが床に突っ伏すのにも気にせずナルトが顔を赤くさせる。
「なんだかんだ言って、カカシもまだまだ若輩ものだねぇ」
サクモの、のんびりした呟きに、カカシ先生が若輩もの…??ナルトが首を傾げるも、サクモから見れば、カカシとてひよっこのような存在なのかも知れない、と思い直す。
「あの、父さん。オレはもう30過ぎなんですが…」
「私からみたら、いつまで経ってもおまえは息子だよ」
ははは…と笑いながら、茶を啜られ、カカシはガックリと肩を落とした。
「はぁ…言っておきますが、父さん。息子のオレにその攻撃は効きませんからね?」
「何がだい…?」
サクモが本当に不思議そうに目を瞬かせたので、カカシはハァとまた肩を落とし、丸テーブルに腰を落とした。ナルトから椀を渡されて、もそもそと食べ始めるも…、どうも目の前で繰り広げられている光景が気になった。
「お味噌汁の味、濃くないですか?」
「大丈夫。丁度良いよ」
サクモが笑うと、それだけでナルトは自分のご飯茶碗を持ったままぽーとしている。
「あの~。ナルト。オレのこと、忘れてなぁい?」
おまえ、オレの時は味噌汁の味なんて気にしたことないよね!?と思いつつ、
(うん…。やっと薄口を覚えてくれたのは嬉しいんだけど…だけどさぁ~)
だけど、しかし。うん、しかし。とカカシは大変難しい葛藤をする。テーブルには和食を中心とした薄口な料理の数々がずらり。
(そのきっかけがうちの父さんっていうのが気に食わないんだけどぉ~?)
「ナルトって!父さんに対する接し方と、オレに対する接し方がまったく違わない!?」
「そんなことないってばよ?カカシ先生の気のせいじゃないの?」
サクモの給仕を甲斐甲斐しくしながら、ナルトが首を捻って少し怒ったように言う。
違う!絶対に、180度違うぞ!!とカカシは歯をきりきりとさせた。しかし、そんな息子の様子を見たサクモでさえ、
「…カカシ。あんまりナルトさんを困らせてはいけないよ?」
事情をまったく察することが出来ず困ったように眉を潜める始末。
「っ。理・不・尽・だ…!」
カカシがふるふると震えている間にも、舅と嫁(?)の二人は仲が良い。
「サクモさんって、身長何センチぐらいなんですかってば?凄く長身ですよね?」
「ああ、背はカカシより父さんの方が高いからなぁ…」
「父さんがデカ過ぎなんだよ!オレは里の中でも身長あるほうよ!」
「はは…。すまんなぁ、背は勝手に伸びてしまうものだから仕方ないなぁ」
「~~~っ」
銀髪二人の会話を聞いて、ナルトがしょぼんと項垂れる。
「オレってば男なのに、もっと小さいってば…」
カップラーメンばかり食べていたせいか、ナルトの身長は華奢な方だ。そんなナルトを180センチ組が見降ろす。
「ナルトさんはこれくらいのほうが可愛いよ」
(オ…、オレの台詞をとっていきやがった)
「あ、あの。ありがとうございますってばよ」
(悪気がないのがタチが悪い…)
ふっと笑ったサクモの顔を見惚れたようにナルトが見上げている。大変面白くない、という顔でカカシがギリギリとしていると、
「サクモさんを見ていると、カカシ先生の十年後が見れてるみてぇですげぇ幸せな気分になるってばよ」
「え…?」
ほう…とナルトが独り言めいたため息を吐く。カカシが目を見開く。今聞いた言葉の意味を確かめようと、ふんわり笑うナルトに声を掛けようとするが…。ばたばた、と廊下を掛ける足音。忍者らしくない、そのドタバタ具合。そのくせ、やけに身のこなしの良い軽快なリズム。
「何…?」
「なんだってば?」
「………」
三者三様の反応を見せ、閉じられた障子の向こう側に視線をやる。そして、そこに現れたツンツン頭のシルエット。
「サクモさ~ん。オレも、生き返ってきちゃいました~!」
てへっ、と他の中年がやったら寒くて仕方がない仕草を素でやり、且つ似合うような唯一の、男。可愛い系ナンバーワンの父はオレだよ~!と登場したのは、木の葉の里、伝説の英雄。四代目火影、波風ミナトであった。
「そっ、そんなことないですってばよ!」
「しかし…。どうしてナルトさんの顔はそんなに赤く…」
「料理も掃除も、オレが好きでっ、やっていることですからっ!お、お義父さ…っ」
またしても、花びらが舞ったような背景に二人が包まれたところで、ドタタタという廊下を駆けずるような物音。
「ただいま戻りました…っ!」
およそ、忍らしくない物音を立てて、ドタバタと帰宅したのは、はたけカカシだ。サクモはそんな息子の様子に目を見開きつつも、
「あ。おかえりなさいってばよ。カカシ先生」
「おかえり。カカシ」
はんなりと出迎えた。ナルトもそれに続いて、僅かに身体を浮かす。
「カカシ先生。任務お疲れさまだってば。もうご飯の支度出来てるってばよ。それともお風呂、先に入るってば?」
ナルトが割烹着の裾を直しながら、小首を傾げる。
19歳の恋人に微笑み掛けられ、カカシは、うっと息を詰まらせた。
「カカシ先生。いきなり何、泣いてるんだってばよ!!」
「ごめん。なんだか物凄い勢いで、都合の良い夢を見ているようで…覚めてしまうのが怖い。なら、いっそここで死んでしまうしかないのかという葛藤を…」
「カカシ先生。しっかりするってばよ。ていうか、寝言は寝てから言えっ!!何、馬鹿なこと言ってんだってば!!」
がっくん、がっくん、とナルトがカカシを揺さぶると、カカシの首は仕掛け時計の振り子のようによく揺れた。
「ははは。ナルトさんの方がしっかりしているみたいだねぇ」
「……あ」
思わず、カカシから身体を離して、ずべしゃとカカシが床に突っ伏すのにも気にせずナルトが顔を赤くさせる。
「なんだかんだ言って、カカシもまだまだ若輩ものだねぇ」
サクモの、のんびりした呟きに、カカシ先生が若輩もの…??ナルトが首を傾げるも、サクモから見れば、カカシとてひよっこのような存在なのかも知れない、と思い直す。
「あの、父さん。オレはもう30過ぎなんですが…」
「私からみたら、いつまで経ってもおまえは息子だよ」
ははは…と笑いながら、茶を啜られ、カカシはガックリと肩を落とした。
「はぁ…言っておきますが、父さん。息子のオレにその攻撃は効きませんからね?」
「何がだい…?」
サクモが本当に不思議そうに目を瞬かせたので、カカシはハァとまた肩を落とし、丸テーブルに腰を落とした。ナルトから椀を渡されて、もそもそと食べ始めるも…、どうも目の前で繰り広げられている光景が気になった。
「お味噌汁の味、濃くないですか?」
「大丈夫。丁度良いよ」
サクモが笑うと、それだけでナルトは自分のご飯茶碗を持ったままぽーとしている。
「あの~。ナルト。オレのこと、忘れてなぁい?」
おまえ、オレの時は味噌汁の味なんて気にしたことないよね!?と思いつつ、
(うん…。やっと薄口を覚えてくれたのは嬉しいんだけど…だけどさぁ~)
だけど、しかし。うん、しかし。とカカシは大変難しい葛藤をする。テーブルには和食を中心とした薄口な料理の数々がずらり。
(そのきっかけがうちの父さんっていうのが気に食わないんだけどぉ~?)
「ナルトって!父さんに対する接し方と、オレに対する接し方がまったく違わない!?」
「そんなことないってばよ?カカシ先生の気のせいじゃないの?」
サクモの給仕を甲斐甲斐しくしながら、ナルトが首を捻って少し怒ったように言う。
違う!絶対に、180度違うぞ!!とカカシは歯をきりきりとさせた。しかし、そんな息子の様子を見たサクモでさえ、
「…カカシ。あんまりナルトさんを困らせてはいけないよ?」
事情をまったく察することが出来ず困ったように眉を潜める始末。
「っ。理・不・尽・だ…!」
カカシがふるふると震えている間にも、舅と嫁(?)の二人は仲が良い。
「サクモさんって、身長何センチぐらいなんですかってば?凄く長身ですよね?」
「ああ、背はカカシより父さんの方が高いからなぁ…」
「父さんがデカ過ぎなんだよ!オレは里の中でも身長あるほうよ!」
「はは…。すまんなぁ、背は勝手に伸びてしまうものだから仕方ないなぁ」
「~~~っ」
銀髪二人の会話を聞いて、ナルトがしょぼんと項垂れる。
「オレってば男なのに、もっと小さいってば…」
カップラーメンばかり食べていたせいか、ナルトの身長は華奢な方だ。そんなナルトを180センチ組が見降ろす。
「ナルトさんはこれくらいのほうが可愛いよ」
(オ…、オレの台詞をとっていきやがった)
「あ、あの。ありがとうございますってばよ」
(悪気がないのがタチが悪い…)
ふっと笑ったサクモの顔を見惚れたようにナルトが見上げている。大変面白くない、という顔でカカシがギリギリとしていると、
「サクモさんを見ていると、カカシ先生の十年後が見れてるみてぇですげぇ幸せな気分になるってばよ」
「え…?」
ほう…とナルトが独り言めいたため息を吐く。カカシが目を見開く。今聞いた言葉の意味を確かめようと、ふんわり笑うナルトに声を掛けようとするが…。ばたばた、と廊下を掛ける足音。忍者らしくない、そのドタバタ具合。そのくせ、やけに身のこなしの良い軽快なリズム。
「何…?」
「なんだってば?」
「………」
三者三様の反応を見せ、閉じられた障子の向こう側に視線をやる。そして、そこに現れたツンツン頭のシルエット。
「サクモさ~ん。オレも、生き返ってきちゃいました~!」
てへっ、と他の中年がやったら寒くて仕方がない仕草を素でやり、且つ似合うような唯一の、男。可愛い系ナンバーワンの父はオレだよ~!と登場したのは、木の葉の里、伝説の英雄。四代目火影、波風ミナトであった。
肝試しの時に「登場するかと思った」と言われたナンバーワン厄介な人の登場。
あとナルトさん、ナイスミドルに撃沈。
つまりは和服姿のナルトさんが縁側でサクモさんのことを「お義父さん」とか言ってお茶出したら、床に転がっちゃうだろ~~~~~~っ。っていう連載。
肝試しの夜。突然、生き返ってしまったカカシの父、はたけサクモ。いったいどういった仕組みで、彼が常世に再び現れてしまったか、火影すらもわからず、科学班の調査を持っている状態だ。結局、急場凌ぎとして、彼は昔暮らしていた一戸建て木造りの平屋の屋敷でカカシとナルトと共に生活することになった。死人が生き返ったとなれば、里人の混乱を招き兼ねない。そこで、カカシとナルトがサクモの警護とサポートに抜擢されたというわけだ。
「二人に迷惑を掛けてしまって、すまないねぇ…」
息子とそっくりの仕草で背中を丸めて、本当に申し訳なさそうにサクモが微笑む。だが、脆く壊れてしまいそうな儚さが、彼にはあった。
「まぁ。オレも父さんにまた会えて嬉しいから、気にすることないよ」
「そうだってば。オレもカカシ先生が生まれた家に住めて嬉しいし…」
カカシは自分の隣に並ぶナルトを驚いたように見降ろす。サクモもまたそんな息子の様子と、カカシの頭一つ分小さいナルトに目を向けて、瞳を細めた。
「ナルトさんは、何歳なのかな?」
「あ、今年で二十歳になります!」
「そうかい。ということは今は19歳かな?忍としてもまだまだ成長盛りの年齢だね。私もどういう形であれ、息子の恋人に会えて嬉しいよ」
サクモに微笑まれ、ナルトはビックリしたように俯いてしまう。
「あの、その…っ。オレ、男なのに、カカシ、さんと、あの、ごめんなさ…っ」
「素敵なお嫁さんがうちに来てくれて、嬉しいよ。よければ、私のことも気兼ねなくお義父さんと呼んでくれて構わないからね?」
「………っ!!!」
にっこりとサクモに微笑み掛けられ、ナルトが電撃を受けたように固まってしまい、「あれ、ナルト。どうしたの、おーい」カカシは恋人の異変に、目を丸くした。
「父さん…。オレとナルトは結婚したわけじゃなんだから。流石に気が早すぎるよ…」
「そうかい?しかし、こういうことは早めにきちんと言っておいた方がナルトさんも安心するだろう?」
カカシがまたナルトの顔を覗き込めば、ナルトは、またなぜか顔を真っ赤にさせている。そして「恰好良いってば…」と呟かれた一言を、カカシは聞き逃さなかった。
(もしかして、もしかしなくても…)
己の父親を見て、ぽー…となっているナルトの姿。ナルトを、愛娘を見るような目付きで見詰め、ニコニコと笑う父。二人の間に漂う妙~な空気。
(ナルトってジジ専…!?)
幼少期、三代目に育てられたナルトは、他の若者と感性が斜めうん十度ズレているところが元々あった。それに加え、普通なら同じ年くらいの子を可愛いだとかで、好きになりそうなところを、心惹かれるのはシルバーグレイのオッサンという感性調教を下忍時代からされていることも大きい。そう、ナルトの好みは、カカシ寄りに調整されている。
だから、インプリンティングをした当の張本人が冷や汗だらだらで焦ってしまう。う、うそでしょ。父さんがライバルーーー!?これはかなり部が悪い。父親なのだから、自分に似ているのは当然だ。そうなれば、自ずとナルトの好みのラインにもかなり引っ掛かるということになり、ジジ専であるナルトからすれば、自分より父の年齢の方がヒットラインになるのではないだろうか。昔から父はモテたと思う。自分もそれはモテたが、モテの質が違った気がしないでもない。言うなれば、(ど天然で色気を振り撒くんだよ…うちの父さんは…)そんな人間相手にまったく勝てる気がしないカカシであった。
一戸建ての優しい雰囲気が漂う家屋。古き良き、年月の重みを感じさせる木造に、風通しの良い縁側付き。そこに佇むは、着流しの着物を着た、壮年の男。灰銀色の髪を一纏めにして肩に垂らし、存在は儚いほど薄い。彼は、縁側に座りながら、日向に視線を落としては、時折瞳を細めていた。
「格好良いってば…」
給仕をする手を止めてナルトは、ほう…と感嘆のため息を吐いた。そうして、サクモと、にこ…と目が合った瞬間に、かぁあああっと頬が火照らした。
「妻の着物が、蔵に残っていて良かったよ。若いナルトさんには少し地味な柄かもしれないけど、よく似合ってる」
「そんな…っ。オレ、サクモさんにそう言ってもらえて嬉しいです。でも、オレがそんな大事な着物を着て良かったんですかっ?」
和装のナルトは、おぼんを持ったまま、恥ずかしさのあまり顔を隠してしまう。そんな恥じらうナルトに目を細めて、サクモはふっと笑う。
「ナルトさんにこうしてもう一度袖を通して貰って、妻も喜んでいるだろう。よく似合う…。まるで、死んだ妻が帰って来たかのようだ」
「……~~っ」
サクモの一言にナルトは静かに悶絶をかます。またおぼんの向こうに隠れてしまいそうになった青年を、サクモはほっそりとした手が手繰り寄せる。
「あ…、サクモさん…っ」
「ナルトくん。そろそろお義父さん、と呼んでくれても構わないんだよ?」
「え、あ…お、お義父…さっ」
きゅうきゅう、とサクモにふれられた掌が熱い。ただ視線を注がれているだけなのに、それなのに。お、おれってばどうなっちゃうんだってばよ~~っ!!とナルトが瞳を瞑った時だった。
「ドベ…。いったいなんのコントをしてやがるんだ…」
「さ、さっすけ~~」
助かった、とばかりに謎の呪縛から逃れたナルトが、頬を桜色に染めて、パタパタとサクモの元から立ち上がる。そして、仏頂面の幼馴染の元に着くが早い、着物姿のままタックルをかまし声を潜める。
「もう耐えらんねぇ。あ、あれは天然のお色気の術だってばよ~!!!」
ぐぇ、とサスケから嫌な異音が発されるがお構いなしでナルトは、大仰にのたまった。男のままでも出来るんだ!!と、元悪戯っ子の青年はゼーハ―ゼーハーとと肩で息をする。
「カカシ先生とはまた違った落ち着いた雰囲気があるっていうか、あの笑顔で、はんなり微笑まれたら、なんだか身も世もなくふにゃふにゃになってしまうんだってばよ!ある意味、カカシ先生の百倍タチが悪いってば~~」
ナルトの訴えに、サスケは面白くなさそうに顔を顰める。彼は元々、サクモが常世に突然出現したことに、疑心暗鬼なのだ。
「ああ、そこに居るのはカカシの弟子の、サスケくんかい?そんなところに居たら、冷えるだろう。うちに上がってお茶でも飲んで行きなさい?」
二人の青年のそれぞれの思惑を気にすることもなくサクモは、確か、綱手さんから頂いた茶菓子があったと思うのだが…とのんびりと縁側から立ち上がる。緩慢な動作だが、一流の忍として長年培われてきたであろう如才の無さがそこには身に付いていた。サスケはそれに目を細めつつ。
「確かに。カカシには出せない余裕だな…。あの野郎は間違ってもオレを家の中で持て成さなかった…」
「サスケの見分けの判断はそこの点だってば?」
ナルトが不思議そうにサスケの顔を覗き込み、「おまえってカカシ先生にそんなに嫌われたっけ?」と、〝家にあげたくなかった〟原因になった本人がどこまでも鈍いことを言う。サスケはナルトのそんな様子にため息を吐きつつ、
「サクモ…、さん。すいません。オレはこれから私用がありますので、また今度お邪魔させて頂きます」
暗に任務だと、匂わせサスケは、僅かに礼をする。この青年にしては礼儀正しい方であろう。
「そうかい。いつでもいらっしゃい。息子の弟子は、いつでも歓迎するよ」
「だ、れが、あんにゃろの、でっ……!!そんなこと一度だって……!!」
「ん?」
「………っ!!!」
なんだか、邪気のない顔で微笑まれ、流石のサスケも絶句する。斜め横からの視線を感じつつも、サスケはバツが悪そうに、出掛かった罵倒の嵐を引っ込め、
「な、なんでもねぇ…」
と呟くに留めた。じぃ、と和装のナルトが窺うように、こちらを見ている視線を感じる。サスケは赤くなった目元を隠すように、ぶつぶつと呟いた。
「確かに…。あれは恐ろしい色気だ…。本当に40歳過ぎなのか…?」
「おう。サクモさんの時代って戸籍がちゃんとしてなくて、細かい年齢はわからないらしいんだけど、今のカカシ先生より10以上年上なのは確かだってば」
「恐ろしいな」
「ほんと、恐ろしいってば…」
ナルトは、はふっとため息を吐いたものの、満更そうでなさそうな様子で。どうやらこの生活を楽しんでいるらしかった。
恐ろしきhatake家。ちなみにサクモさんの現役時代の二つ名は「ノンケ落としのサクモさん」
モテたってレベルじゃありません。
火の国戦隊・木の葉レンジャー
―登場人物紹介―
木の葉イエロー うずまきナルト
木の葉ブルー うちはサスケ
木の葉ピンク 春野サクラ
木の葉グリーン 奈良シカマル
木の葉カレー 秋道チョウジ
木の葉ブラック うちはイタチ
悪の秘密結社のボス はたけカカシ
補佐官 ヤマト
イ―!の人たち カカシ先輩に憧れています☆木の葉暗部の皆さん
猫さんの本気を思い知るがいいそして恰好良いカカシ先生は本日で崩壊しました。つまりは木の葉レンジャーのリクエストを頂いてこんなことになった。OKですか?突然始まり突然終わる設定?シリアス?ネット界で元々なかったと噂の猫さんの地位?なにそれおいしいの?それでは振り落とされないようお気を付け下さい。
―登場人物紹介―
木の葉イエロー うずまきナルト
木の葉ブルー うちはサスケ
木の葉ピンク 春野サクラ
木の葉グリーン 奈良シカマル
木の葉カレー 秋道チョウジ
木の葉ブラック うちはイタチ
悪の秘密結社のボス はたけカカシ
補佐官 ヤマト
イ―!の人たち カカシ先輩に憧れています☆木の葉暗部の皆さん
猫さんの本気を思い知るがいいそして恰好良いカカシ先生は本日で崩壊しました。つまりは木の葉レンジャーのリクエストを頂いてこんなことになった。OKですか?突然始まり突然終わる設定?シリアス?ネット界で元々なかったと噂の猫さんの地位?なにそれおいしいの?それでは振り落とされないようお気を付け下さい。
「悪の秘密結社って、退屈~」
豪奢な赤張の椅子に座って、片肘で頬杖を付いた銀髪隻眼の男が、くぁああとあくびを噛み殺した。彼こそ悪の秘密結社のボス、銀狼。はたけカカシである。
「とりあえず雰囲気を出すために、ワイングラスを毎日揺らして見たけど、オレって日本酒の方が好きだし~、賃貸アパートを借りるにしても〝悪の秘密結社を経営しています〟なんて引かれるっていうか、いまどきダサくなぁい?」
「先輩。そんな身も蓋もないことをペラペラと…」
カカシの脇に控えたヤマトが、頬を引き攣らせて困っている。そんな壇上の二人のやりとりを動物面を被った集団が固唾を飲んで見守っていた。
「魔王だなんて言われてるけど、結局は体よ~く代表に祭り上げられちゃったって感じ?オレ?」
「はい、はい。いったい誰に向かって説明してるんですか。カカシ先輩」
一応2カメさんに基本設定の説明を、とカカシは椅子の背後に首を向けたまままたあくびを噛み殺し、自分を取り囲む集団を再び見回す。
「はぁ。生活にさぁ、もっとこう潤いが欲しいわけよ~。ここ、男ばっかだし?オレだって2万飛んで30歳なわけで~、もうそろそろ身も固めたいっていうかぁ、可愛いお嫁さんが欲しいんだよねぇ。ねぇ、ヤマト。ちょっと可愛い子紹介してよ?」
「先輩。ボクが連れて来た子は、なんだかんだ文句言ってこっぴどく捨てるじゃないですか。いやですよ。もうボクが紹介できる女の子なんていません。先輩のせいでボクの評判はガタ落ちなんですよ!」
ただでさえ、男子高出身で紹介するツテもないのに…、とヤマトがさめざめと啜り泣く。
「あー、暇。ねぇ、人って暇で死ねないって言うけど、オレはそろそろ死ねる気がしてきたね。なんか楽しいことないかな~」
2万年間。これといって興味のあることもなく、日々を淡々と生き、淡々と過ごし、あくびの数も人の2万倍なわけで。退屈で、退屈で、とくに目標もないけど、退屈凌ぎに周りに引き立てられるまま世界征服なんてものをやってみる。これが今のはたけカカシの生活だ。
「あぁ、暇。ねぇ、テンゾウ。ちょっとそこでコードレスバンジーしてみてよ、今すぐ」
「殺す気ですか!」
独裁者の気まぐれな発言にヤマトがいつもの通り冷や汗を流していると、観音開きの扉がばばんと開く。一斉に当てられる無数のスポットライト。
「オレってば、待ってるだけじゃない男っ。意外性ナンバーワンヒーローは、自ら悪の秘密結社に乗り込むのだぁああっ!!」
颯爽と登場して、ビシッとポーズを決める。この少年こそ、物語の主人公うずまきナルト、16歳である。普段は学校とアルバイトに忙しい一見普通の男子高校生だが、ひとたび黄色い閃光の血が騒ぐと華麗に木の葉レンジャーに変身するスーパー高校生なのだ。ちなみに正義の味方の衣装はご近所の商店街で購入した市販のジャージだ。黄色い生地に流れるように走る三本線のデザインが目に眩し過ぎるだろう。
「やい、やい、銀狼カカシ。うずまきナルト様と勝負しろーーー!!!」
はたけカカシは色違いの眼をこれ以上ないほど大きく見開いて、突然の訪問者を凝視する。ダサさMaxの恰好はともかく、金髪のきらきらした元気っ子。大きな碧い瞳はまるで百カラットの宝石のよう。キューテクル。ビューティフル。ワンダフル!?
と…っ、
ととととと……っ
とっても可愛い子きたーーーーーーーっ。
もろオレの好み、ドストライク。何、あの可愛い生物!
「本命には一途な男。2万飛んで30歳のはたけカカシです。趣味は読書。世界征服も少々嗜んでいます。うずまきナルトくんだっけ?結婚を前提にオレと真剣なお付き合いしない?」
「ふ、ふぇ?」
「今、何歳?」
「じゅ、じゅうろくさい…」
「十~分!よく育ったねぇ。お兄さんが優しくしてあげるからねぇ。何も怖がることなんてないよ~?」
「っ?何がっ?オレってば正義のヒーローで、あ、あの、手、手、離して…」
秘密結社のボスに両手をがっちりと掴まれて、正義のヒーローは半泣きである。
「ウスラトンカチ。勝手に敵方に乗り込むんじゃねぇ!!」
「ナルトォオ、しゃーんなろ!!まったく世話が焼けるわね、ピンクが助けに来たわよ!!」
ほぼ床に押し倒されて、あとは美味しく頂かれるだけだったイエローの元にバタバタと仲間たちが駆け付ける。
「サスケェ~、サクラちゃ~んっ。オレってばなんだかわからないけど超ピンチな気がするってば~~」
ちょっとクールな性格が女子に大人気のブルーに、誰よりも頼りになるヒロインピンクの登場である。
「ちっ。めんどうくせぇ奴に捕まってやがる」
「ま、しょうがないよ。ナルトだもん」
あとに続いてやって来たのは木の葉レンジャーのブレイン、頭脳派の奈良シカマルに、カレーを食べるために居る秋道チョウジである。皆それぞれ色取り取りのジャージを着込んでいる。ただし、女子のサクラだけは普通の学生服の下にスパッツを着用した姿だ。
「ナルト。終わったら一楽でラーメンな!」
シカマルが一声掛けると、イエローの瞳がみるみると輝き出す。
「オレってば、急に元気になったってば。みんなのために頑張る!」
ナルトはガッツをすると、カカシの腕の中から抜け出して暗部に向かって突っ込む。
「くらえ、すぺしゃるらせーんが…!!」
「可愛い~~♡♡」
「自ら攻撃を受けに来るなってばよ!あんた、頭おかしいんじゃねぇの!?」
「ちっとも、おかしくなーいよ。はぁ、どこから見てもすごく可愛い…。おまえ、美人さんだねぇ~?」
「ぎやぁああー、来るな、触るな、近付くな!!」
助けて~~!!とナルトは再びピンチに陥る。迫り来る怪しい影に、地面に転がったナルトは、わたわたと後ずさる。主人公の大ピンチ、次回に続く!だなんて、テレビ的な展開になるわけでもなく、あわや正義のヒーロー貞操の危機となったその時である。
「うちのイエローに、何して腐る。盛るな、こんの変態怪人ーーーっ!!」
木の葉レンジャー紅一点、座右の銘は〝一生愛の人生よ!〟な春野サクラが、しゃーんなろ!!と男性陣顔負けの怪力を披露して床を叩き割る。「サ、サクラちゃん、恰好良いってば~!!」流石、オレの惚れた女!とちゃっかりカカシに抱っこされたナルトから黄色い歓声が上がる。
「せっかく、綺麗に使っていたのに…」
暗部等がワラワラと散らばる中、転居だ…とヤマトは、視線を遠くにやったという。木の葉町、波止場付近。大家さんが厳しい月極貸倉庫のことであった。
木の葉商店街、午後2時。長閑な昼下がりを乱す不吉な影。
「やい、やい、やい。商店街のみんなの憩いの場、木の葉喫茶を占拠するとはなんたる、悪!なんたる、テロ!ご近所の平和はオレたち木の葉レンジャーが守るんだってば!」
ビシッ!とお決まりの決めポーズを取って、ナルトが木の葉喫茶の前に立つ。せっかくヒーローらしく決め台詞を放っているのに、恰好がダサいジャージ姿なのはご愛敬だろう。
「…たくっ。面倒くせぇ。世界征服するのは、せめてバイトのない日にしてくれよ」
「ナルト~。通行人の人たちの邪魔になるから、もうちょっと道路脇に寄った方がいいよ~」
恰好良く登場したイエローの後ろで、グリーンが欠伸を噛み殺しつつ、カレーを食べるために居るチョウジが、カレーチップスを頬張っている。
「あ、ごめんなさいっ。ごめんなさいってばっ!」
はたっと我に返ったナルトが右に左にとペコペコと通行人にお辞儀をして謝り回る。そして、今度は騒ぎ過ぎない程度の声で「今から、オレがやっつけてやるんだってば~!待ってろ、魔王カカシ~!」と宣言すると、ナルトは暗部たちが見守る中、扉を恭しく開けられ、店内へ足を踏み入れたのだった。
「ナールト。席、取って置いたからね。1日限定20食のあんみつパフェ、好きでしょ?」
「また、そんな理由だってば…!?」
喫茶店の中に入ると、いそいそとした様子でテーブルクロスを引くカカシの姿があり、そのうえ、「ちゃんと時間通り来れていい子だね~」と頭まで撫でられる始末で、ナルトは戸惑いを隠すことが出来ない。
「オレ…、甘いモンが好きなんて一言も言ってなかったってばよ?」
「うん。でも、好きな子のことはなんでも知っておきたいでしょ?だから、調べたの♪」
「わざわざ?」
「だって、ナルトの喜ぶ顔がみたかったからね。うわぁ、言っちゃったぁ~!」
〝きゃ!〟と頬を染めたカカシに、ナルトは呆れ返ってしまった。ちなみに店外では〝ナルトとオレの二人っきりの時間を邪魔したら私刑だ~よ〟と底の知れない笑顔で釘を刺されたヤマトが黄昏れたふうに佇んでいる。手には今後の悪事の計画を書いた手帳ではなく、今度のカカシとナルトの〝デート〟で使う予定の映画のチケットが握り締められていた。
「ヤマトさんでしたっけ。人使いの荒い上司持つと苦労しますね」
「ボクたち子供が言うのもなんだけどさぁ、いやならいやって言った方が身体にいいと思うよ~」
少年等に同情されたヤマトが、あれが銀色の狼のように美しく恐ろしいと言われた、あのカカシ先輩だろうか?と過去を走馬灯のように思い出す中、ダン!と喫茶店の中で椅子が転がる音がした。
「オ、オレは食べもんなんかにつられるヒーローじゃないってば。オレってば、世界を救う男!表に出て、木の葉商店街の平和を賭けて、いざじんじょーに勝負だってばー!」
「え~。せっかくナルトとイチャイチャデートが出来ると思ったのに~」
「だめだってば!オレはあんたと勝負したいの!」
敵の手を引っ張りながら、ナルトが喫茶店の中から出て来る。やる気のないカカシにナルトは烈火のように怒り、向かい合って立つ。
「ナルトがお嫁さんになってくれるなら、世界征服をやめてあげるよ~」
「そんな不埒な要求を飲むはずがないってばっ。オレは実力でアンタに勝つ!」
「はぁ。惚れ直しちゃうよ。今すぐこの場でめちゃくちゃに犯しちゃいたいくらいおっとこ前だね、おまえ」
誰がっ!とナルトが激高した時だった。
「うわぁっ」
あまりにも意気込み過ぎたのか、ドジなナルトは前のめりになって、すっ転んでしまう。
「―――っ」
かなり嫌な衝突音がして、ナルトの顔が地面にくっつく。シーンと、一時辺りが静かになって、あちゃーとシカマルがデコに手を当てる。部活、美容院とそれぞれの理由で遅れてきたサスケとサクラが、倒れているナルトに駆け寄ろうとするが――…。
「いやだぁ~。何、あの子。汚~い。汗臭~い」
「いまどき、正義のヒーローって。だっさっ。流行らねぇよ」
通行人たちが、ある者はクスクスと口に手を当てて、ある者は吹き出して通り過ぎて行く。ナルトは大の字になったまま起き上がらない。
「あいつら…っ!」
サスケが殺気を出し、サクラがグローブを嵌め直した時だった。ダン…ッ、と炸裂音が木の葉商店街に響く。
「―――あのさぁ、おまえたち」
聞こえてきたのは地底の底から響くような低い声で、不機嫌な殺気を撒き散らしている主は先程までへらへらと笑っていた魔王その人だった。
「いったい何の権利があって、この子を笑ったわけ?一生懸命な奴を見てそんなにおかしい?そんなふうに思うアンタたちこそ、頭付け替えてきたら?」
誰もふれてもいないのにぽっかりとクレーターのような穴が開いたのは、商店街の壁。途端に、ワンワンと犬たちが吠え出して、商店街中が騒がしくなった。
「き…っ」
きゃぁああ…と女の悲鳴があがり、少年の悪口を言った通行人がそさくさと逃げて行く。あとに残ったのは、カカシと木の葉レンジャーの面々とカカシの部下たちばかり。
「………」
カカシはつまらなそうに誰も居なくなった周囲を見渡すと、倒れている少年へと視線を移す。
「ナールト。大丈~夫?」
のんびりとした動作でナルトに駆け寄ると、しゃがみ込む。先ほどの殺気は微塵も感じさせない変わりようだ。
「うっ、うっ、うっ」
「ん?どうしたの?頑張り過ぎて、鼻を打っちゃったねぇ?痛い?」
「~~っっ、~~~っっ!」
悶絶したように、ナルトが顔を真っ赤にさせた後、ボトボトと大粒の涙が頬を伝った。「あらら」とカカシが眠たそうな瞳を瞬かせる。
「オレがぁ、世界を救うんだってばぁっ。死んだ父ちゃんと約束したんだってばぁっ。だから、頑張らないといけないんだってばぁっ」
「うーん。そうだねぇ。ナルトならきっと出来るよ」
「あんたが言うなぁ~~」
カカシにぽんぽんと肩を叩かれて、ナルトは大泣きする。
「それなのに、肝心の怪人はまったくやる気がねぇし…。オレの存在って何!?むしろ怪人に助けられるオレって…!?」
「うん、うん。オレって昔から、超器用だし、はっきり言ってなんでも出来るし、たぶんオレが本気出したら人類なんてけちょんけちょんだし~?」
「……!??」
ナルトが鼻水を垂らしたまま、見事に固まる。本当だろうか?と疑ってみたが、どうも男が嘘を吐いている節はない。
「……オレが、怖い?」
「ヒ、ヒーローは、悪の組織の親分なんて怖がんないモンだってば…!」
馬鹿にすんな!とナルトが睨むと、にこっとカカシが微笑んだ。
「ん~。合~格♡」
ちゅ、と小鳥が啄ばんだような破裂音。ナルトは、いったい何が起こったのかわからず、間抜けな顔のまま固まってしまう。
「ん、ななな…、なにするんだってば!」
「ん?キスだけど?」
「あ、あたりまえみたいに言うなってば!」
ん、ごめーんね?とカカシがへにゃりと笑う。その顔があまりに綺麗だから、ナルトは思わず見惚れてしまった。
「ナルトは世界を救うヒーローになるんだもんねぇ」
「ど、どうせ。あんただって、オレの夢、馬鹿にしてンだろ…っ?」
「ん?どうして?立派な目標だと思うよ?オレなんて朝起きるたびに、生きる意味が見つからないのに、ナルトは夢に向かってキラキラしててさ。いつも一生懸命なナルトを見ているとそれだけで救われた気分になる」
カカシの言葉に、ナルトはかぁあああっと赤くなる。そんなこと、言ってくれた人、初めてだった。
「なんでも出来るからってそれが何?人より少し多く魔力があるからってそれで幸せになれるのかな?〝銀狼〟なんて呼ばれているのも、結局は人間とは思われないほど、恐れられた結果だし、だからオレはいつも自分のこの力を憎んできたよ。でも今は、オレが人より優れているのも、長生きだったのも、全部おまえと出会って助けるために与えられた力なんだって、思えるんだ」
「銀狼…」
「ナルトの言うとおり世界が平和になって、ナルトのお仕事がなくなったらオレが養ってあげるからねー。大~丈夫。貯金ならたくさんあるから♡」
両手を握られて、ナルトはきょとんとカカシを見る。可愛い…、とカカシが感動したように呟いた。
「だから…、オレのお嫁さんになって下さい」
跪いて、少年を見上げると、カカシはニッコリと笑った。
「言っておくけど、今のおまえじゃ一生オレに敵いやしな~いよ。大人しくオレのお嫁さんになった方がいいと思うけど?」
「……っ!?」
「だから、ナルト。ここは世界の平和のためだと思って、オレを引き取ってよ?」
傍若無人な悪の親玉の、世界を盾に取った強迫行為のような告白。うー、うー、うー、とありったけの頭を使って考えたナルトは、困り切った顔で、ニコニコと笑う男を見降ろす。
「やっぱりオレは実力でアンタを倒してみせる!そーいうのはいくないと思うから!」
ナルトが出した結論に、魔王は笑みを崩さなかった。むしろ、いっそう微笑みを深くしたくらいだった。
「でもなぁ。オレは、ナルトのことが好きなんだよなぁ。好きな子とは戦いたくないなぁ」
「そ、そ、そんなこと言われても。オレ、困るってば!」
「それなら、オレはナルトの夢のお手伝いするってことでどうかな?」
「へ?」
「今日から、悪の組織は廃業します。その代わり、ナルトの夢を邪魔する奴はオレが全員殺してあげる」
「ばっ。△○☆※×~!?」
悶絶する少年に、カカシはまた〝ちゅう〟とキスをする。
「そんなわけで、世界征服はやーめた」
カカシは事の成り行きを見守っていた呆然とする部下を振り返る。
「だってつまんないんだもん」
にこ、とカカシは笑う。
「はたけカカシの第二の人生は愛のために生きていくことにしたよ」
正義の味方をぎゅうぎゅう抱き締めて、はたけカカシは幸せそうに笑った。
突然の魔王廃業宣言。この人は……!!呆気に取られる、木の葉レンジャー等を後目に、ヤマト率いる暗部全員の心の声が見事に揃った瞬間であった。
↓ちなみに次の敵↓
ピカッゴロゴロ…ッと稲妻が真っ黒な空を裂いて走る。そんないかにもなシュチエ―ションを背景に悪の親玉が住んでいそうな古城が崖の上に建っていた。
「古傷がぁ~、古傷が痛むのよ~!!あいつに言われた心の傷がぁああっ」
「はい、はい。大蛇丸様~。あんまり騒ぐと腰に響きますからね~」
天蓋付きベッドに横たわる、年齢不詳の両性類なこの城の主。そして、その部下である丸眼鏡の男。この城の主は慢性的な腰痛を患っていた。きっと若かりし頃にお痛な遊びをし過ぎた反動であろう。
「己、黄色の閃光。あの日の受けた雪辱、必ずや晴らして見せるわ~~」
「今はその息子が名前を襲名したらしいですがね。大蛇丸様。もう若くないんですから、あんまり興奮しないで下さいよ。はい、患部に針を刺しますよ~~」
「うっ、いぎゃあああああっ」
古城に響く恐ろしい悲鳴。悪の軍団、蛇。その毒牙が今、木の葉レンジャーに襲い掛かろうとしていた。はたして木の葉レンジャーは、木の葉商店街の平和を無事に守ることが出来るだろうか!
さらにおまけ
次週の木の葉レンジャーは!先代イエローの「ちょっと大蛇丸さんは化粧が濃いよねぇ」の心なきド天然な一言で深い傷を負い木の葉レンジャーを脱隊した大蛇丸は、持病の癪と戦いながらも黄色い一族に雪辱を誓った。そしてミナトの意思を引き継ぎ木の葉レンジャーになった息子もまた「えっと兄ちゃんなのに、姉ちゃんなのか?」と禁断の質問をしてしまう。「己、黄色の閃光の息子め~」親子二代に渡る因縁をナルトは断ち切ることが出来るのか!?それとも!?
そして木の葉商店街にも不況という魔の手が襲い掛かる。「サスケ!大蛇丸のところなんかに行くなってばよ!」オカマバーでアルバイトを始めると言うサスケを涙ながらに止めるナルト。一方まったくブラックの出番がないことに悩むサスケ兄は、ホスト軍団暁からの勧誘に心を揺らす。「木の葉町の天下を取ってみないか?」ナンバーワンホストたちの誘いにイタチはのってしまうのか?そして木の葉商店街は歓楽街になってしまうのか?今、町内会のオヤジーズが治安維持活動に立ち上がる!謎の転校生、心のないアンドロイドだった青年サイを救うナルトは、死んだはずだった父との再会。「まさか、おまえが父ちゃんだったなんて…」驚愕の事実に戸惑うナルト。そしてそんなレンジャー設定とはまったく関係なく「ナルト。ご飯が炊けましたよ~…」主夫業に目覚めた悪の秘密結社の(元)ボス。木の葉レンジャーの明日はどっち!?続く!
(続かないので安心してください)
そして木の葉商店街にも不況という魔の手が襲い掛かる。「サスケ!大蛇丸のところなんかに行くなってばよ!」オカマバーでアルバイトを始めると言うサスケを涙ながらに止めるナルト。一方まったくブラックの出番がないことに悩むサスケ兄は、ホスト軍団暁からの勧誘に心を揺らす。「木の葉町の天下を取ってみないか?」ナンバーワンホストたちの誘いにイタチはのってしまうのか?そして木の葉商店街は歓楽街になってしまうのか?今、町内会のオヤジーズが治安維持活動に立ち上がる!謎の転校生、心のないアンドロイドだった青年サイを救うナルトは、死んだはずだった父との再会。「まさか、おまえが父ちゃんだったなんて…」驚愕の事実に戸惑うナルト。そしてそんなレンジャー設定とはまったく関係なく「ナルト。ご飯が炊けましたよ~…」主夫業に目覚めた悪の秘密結社の(元)ボス。木の葉レンジャーの明日はどっち!?続く!
(続かないので安心してください)
「いやー。ご迷惑をおかけしました」
呆気なく、それこそ、バラバラになっていたパズルのピースが瞬く間に完成するように、オレの記憶は戻った。それも、ナルトとのキスで。笑い話になりそうな理由ではあるが、まるで、長い長い夢から覚めたように、はたけカカシは帰還したのだ。
「まったく。相変わらず傍迷惑な男だね。結局、ナルトがきっかけかい」
「いやー、これもオレとナルトの愛の深さの賜物ですね。何しろオレとナルトが結ばれることはあいつが生まれた時から――……」
「その口、二度と開かないように医療処置を施してやろうか?」
「はは…。五代目、そのギャグは三代目の時より笑えませんよ」
「猿飛様も苦労をなされたものだな。おまえ、記憶を失くしていたほうがある意味、頭の螺子は締まってしたんじゃないかい?」
「そりゃ、手酷い…」
くくく…、とオレは背中を丸めて笑う。
「しかしまぁ。遅かれ早かれ、オレはこんなふうになっていたと思いますよ」
「?」
「あの子がいる限り、オレは何度でも、このはたけカカシになるはずです」
「なんだい、惚気かい。他でやってくれ」
「はは。まぁ、ナルトにベッドの中でたっぷりと囁いてやることにしますかねぇ」
「―――なんだと、カカシィっ!!!」
直後、室内に活火山さながらの怒号が響き渡るが、その時すでにオレは華麗に火影室から退散したあとだった。
火影室を辞して、廊下を歩いていると、鳥面の暗部が壁に背を預けて凭れかかっていた。オレと目が合うとサスケは、ふんと鼻を鳴らした。
「あと少し遅けりゃ、オレが奪ってやったのに、残念だったな」
「言ってくれるねぇ…。まだまだ、おまえなんかにナルトは渡しやしなーいよ?」
オレがのろのろとした動作で、後頭部を掻くと、サスケが唇の端を上げて、シニカルに笑う。
「てめぇとの任務でしくじった反九尾の勢力はほぼ殲滅に追い込んでいる。今夜中にでも全てが片付くだろう」
「そうか。問題がないようで何よりだ。任務には応援にオレも行くよ」
「…ったく。この間といい一人で敵方に突っ込みやがって、ドベに知られる前に片付けたかったからと言って無茶をやり過ぎた」
オレは、五代目火影から秘密裏に受けた反九尾勢力の殲滅任務で、土砂災害に巻き込まれ、記憶を失くした。土砂に巻き込まれる直前で写輪眼を使って、脱出したものの、打ち所が悪かったらしい。
「ははは。それは、反省しているよ。サスケ、迷惑をかけたな」
「それはオレよりもドベに言ってやれ」
サスケにもっともなことを言われて、オレは頭を引っ掻く。しばらくこの件に関しては部が悪いかもしれない。
「あと、それとは別に、2、3日前に一般の里人に被害が出ているのだが…。銀色の鬼が出たというふれだったが…、何か知らないか?」
「さぁ?なんのことやら?」
わざとらしくとぼけると、サスケもそれ以上追及してこなかった。
「それにしても、サスケ。おまえ、オレが記憶を失くした時にあることないこと、随分とオレを煽ることを言ってくれたじゃない?」
「オレがナルトを特別に思っていることは嘘じゃなかっただろ」
「久し振りにオレの愛の鞭が必要みたいだねぇ~」
「はっ。ど変態が。もう、てめぇなんかに簡単にやられる年齢でもねぇよ。あんまり頑張ると、ギックリ腰にでもなるぜ?」
「おまえね。男は三十代からな~のよ。尻の青いガキにはまだまだ負けるわけがないでしょーよ」
「はん。その気の抜けた顔、地面に這い蹲らせてやろうか?」
水面下で互いに牽制し合っていると、黄色いチャクラがこちらに向かってくる。「てめぇな…」それだけであっさりと身を引いたオレに、サスケが呆れたような視線を送った。
「ま、おまえへのお礼は次の任務の時にでも取って置きましょーか」
傍目にもわかるくらいうきうきとした様子で窓に足を掛けたオレに、黒髪の青年は舌打ちをしたようだった。
「よ!ナールト」
苦もなく金髪頭を発見して、建物の上から地面に降り立つと、ナルトはかなり驚いた顔をしてから笑った。
「今、カカシ先生のところに行こうと思ってたところだったってばよ」
「うん。おまえの匂いがしたから、先に来ちゃった」
「先生。なんかそれ、本当に犬っぽい…」
「ま。オレは追尾型の忍者だからねぇ~。って、それより、ナルト~~。まぁたイルカ先生とラーメン食べてきたでしょ?」
「え?わかるってば?」
「ぷんぷん、オレ以外の匂いがするからねぇ。ナルトさぁ。どーして、昔からイルカ先生とばっか一楽に行っちゃうわけ?」
「だって、カカシ先生は、ばぁちゃんに報告があったじゃん…っ?」
ナルトがたじろいでいるようだが、オレはこんなことじゃ引き下がらないよ。
まったく油断も隙もあったもんじゃない。オレはナルトを抱きしめる。
ナルトには自覚がなさすぎるんだよ。
「大体さぁ。ナルト、どうしてオレの記憶が失くなっている時、すぐにオレの恋人だって言ってくれなかったわけ?」
確かに、色々とタイミングが悪かったことは認めるが、ナルトは〝馬鹿じゃねぇの。オレがカカシ先生の恋人なんだってばよ!〟とふんぞり返っていても文句は言われなかったはずだ。
「ううう…」
「それに、嘘も吐いたでしょ」
「へ?え?う、うそだってば?」
オレってば吐いてないってばよ?とナルトがきょとんとする。
「吐いたでしょ?悪い夢を見た時の対処法」
「!!!」
ナルトがビクンと震えて、オレから逃げようとする。しかし哀しきかな、リーチの差でナルトは易々とオレの腕の中に収まってしまった。
「懐かしいなぁ。オレが色々試してもナルトはまったくだめだったもんねぇ。で、一番効いたのはなんといっても…」
「わわわわわ」
ナルトが泡を食っている。オレは、桜貝のような耳に唇を寄せ、囁く。
「オレがこうしてやること」
「~~~~っ!!」
「ナルトが悪夢で飛び起きた時は、オレが人肌で抱き締めてあげたもんねぇ?」
「うあああああああっ。声に出していうなってばよ!!!」
「あの頃のナルトは可愛かったなぁ。すんすん泣きながらオレの乳首に吸い付いてきちゃったりしてさぁ」
「んなことまでしてねぇし!!!!」
「してました~。〝カカシせんせぇ〟っていいながらちゅうちゅう吸うもんだから、先生困っちゃったなぁ」
「~~~~~~~っ」
よほど思い出したくないことだったのだろう。ナルトはオレの腕から逃れると、苦虫を百匹くらい噛み潰した顔で、そさくさと逃げて行こうとする。そうはいかなーいよ?
「カカシ先生!買い出し行く約束だろ!先に行ってるからな!!」
「ははは。待ってよ、ナルト。そんなに急がなくても商店街は逃げやしな~いよ?」
「ううううるせぇの!」
ナルトがオレを睨みつけている。そんなところは、昔からちっとも変わらない。
「ナルト…」
ナルトは後頭部まで赤くさせている。そんな青年の背中に、オレはぽつりと呟いた。
ナルトには聞こえなかったかもしれない。
だが、それでいい。
「大好きだよ。オレを好きでいてくれて、ありがとう」
今回、記憶を失くしてわかったこと。それは、オレはナルトに何回も恋をするということ。はたけカカシというちっぽけな人間は、うずまきナルトという存在に惹かれずにはいられないということだ。
これから何があったとしても、はたけカカシという男は何度でもうずまきナルトという愛おしい存在に恋をするだろう。
呆気なく、それこそ、バラバラになっていたパズルのピースが瞬く間に完成するように、オレの記憶は戻った。それも、ナルトとのキスで。笑い話になりそうな理由ではあるが、まるで、長い長い夢から覚めたように、はたけカカシは帰還したのだ。
「まったく。相変わらず傍迷惑な男だね。結局、ナルトがきっかけかい」
「いやー、これもオレとナルトの愛の深さの賜物ですね。何しろオレとナルトが結ばれることはあいつが生まれた時から――……」
「その口、二度と開かないように医療処置を施してやろうか?」
「はは…。五代目、そのギャグは三代目の時より笑えませんよ」
「猿飛様も苦労をなされたものだな。おまえ、記憶を失くしていたほうがある意味、頭の螺子は締まってしたんじゃないかい?」
「そりゃ、手酷い…」
くくく…、とオレは背中を丸めて笑う。
「しかしまぁ。遅かれ早かれ、オレはこんなふうになっていたと思いますよ」
「?」
「あの子がいる限り、オレは何度でも、このはたけカカシになるはずです」
「なんだい、惚気かい。他でやってくれ」
「はは。まぁ、ナルトにベッドの中でたっぷりと囁いてやることにしますかねぇ」
「―――なんだと、カカシィっ!!!」
直後、室内に活火山さながらの怒号が響き渡るが、その時すでにオレは華麗に火影室から退散したあとだった。
火影室を辞して、廊下を歩いていると、鳥面の暗部が壁に背を預けて凭れかかっていた。オレと目が合うとサスケは、ふんと鼻を鳴らした。
「あと少し遅けりゃ、オレが奪ってやったのに、残念だったな」
「言ってくれるねぇ…。まだまだ、おまえなんかにナルトは渡しやしなーいよ?」
オレがのろのろとした動作で、後頭部を掻くと、サスケが唇の端を上げて、シニカルに笑う。
「てめぇとの任務でしくじった反九尾の勢力はほぼ殲滅に追い込んでいる。今夜中にでも全てが片付くだろう」
「そうか。問題がないようで何よりだ。任務には応援にオレも行くよ」
「…ったく。この間といい一人で敵方に突っ込みやがって、ドベに知られる前に片付けたかったからと言って無茶をやり過ぎた」
オレは、五代目火影から秘密裏に受けた反九尾勢力の殲滅任務で、土砂災害に巻き込まれ、記憶を失くした。土砂に巻き込まれる直前で写輪眼を使って、脱出したものの、打ち所が悪かったらしい。
「ははは。それは、反省しているよ。サスケ、迷惑をかけたな」
「それはオレよりもドベに言ってやれ」
サスケにもっともなことを言われて、オレは頭を引っ掻く。しばらくこの件に関しては部が悪いかもしれない。
「あと、それとは別に、2、3日前に一般の里人に被害が出ているのだが…。銀色の鬼が出たというふれだったが…、何か知らないか?」
「さぁ?なんのことやら?」
わざとらしくとぼけると、サスケもそれ以上追及してこなかった。
「それにしても、サスケ。おまえ、オレが記憶を失くした時にあることないこと、随分とオレを煽ることを言ってくれたじゃない?」
「オレがナルトを特別に思っていることは嘘じゃなかっただろ」
「久し振りにオレの愛の鞭が必要みたいだねぇ~」
「はっ。ど変態が。もう、てめぇなんかに簡単にやられる年齢でもねぇよ。あんまり頑張ると、ギックリ腰にでもなるぜ?」
「おまえね。男は三十代からな~のよ。尻の青いガキにはまだまだ負けるわけがないでしょーよ」
「はん。その気の抜けた顔、地面に這い蹲らせてやろうか?」
水面下で互いに牽制し合っていると、黄色いチャクラがこちらに向かってくる。「てめぇな…」それだけであっさりと身を引いたオレに、サスケが呆れたような視線を送った。
「ま、おまえへのお礼は次の任務の時にでも取って置きましょーか」
傍目にもわかるくらいうきうきとした様子で窓に足を掛けたオレに、黒髪の青年は舌打ちをしたようだった。
「よ!ナールト」
苦もなく金髪頭を発見して、建物の上から地面に降り立つと、ナルトはかなり驚いた顔をしてから笑った。
「今、カカシ先生のところに行こうと思ってたところだったってばよ」
「うん。おまえの匂いがしたから、先に来ちゃった」
「先生。なんかそれ、本当に犬っぽい…」
「ま。オレは追尾型の忍者だからねぇ~。って、それより、ナルト~~。まぁたイルカ先生とラーメン食べてきたでしょ?」
「え?わかるってば?」
「ぷんぷん、オレ以外の匂いがするからねぇ。ナルトさぁ。どーして、昔からイルカ先生とばっか一楽に行っちゃうわけ?」
「だって、カカシ先生は、ばぁちゃんに報告があったじゃん…っ?」
ナルトがたじろいでいるようだが、オレはこんなことじゃ引き下がらないよ。
まったく油断も隙もあったもんじゃない。オレはナルトを抱きしめる。
ナルトには自覚がなさすぎるんだよ。
「大体さぁ。ナルト、どうしてオレの記憶が失くなっている時、すぐにオレの恋人だって言ってくれなかったわけ?」
確かに、色々とタイミングが悪かったことは認めるが、ナルトは〝馬鹿じゃねぇの。オレがカカシ先生の恋人なんだってばよ!〟とふんぞり返っていても文句は言われなかったはずだ。
「ううう…」
「それに、嘘も吐いたでしょ」
「へ?え?う、うそだってば?」
オレってば吐いてないってばよ?とナルトがきょとんとする。
「吐いたでしょ?悪い夢を見た時の対処法」
「!!!」
ナルトがビクンと震えて、オレから逃げようとする。しかし哀しきかな、リーチの差でナルトは易々とオレの腕の中に収まってしまった。
「懐かしいなぁ。オレが色々試してもナルトはまったくだめだったもんねぇ。で、一番効いたのはなんといっても…」
「わわわわわ」
ナルトが泡を食っている。オレは、桜貝のような耳に唇を寄せ、囁く。
「オレがこうしてやること」
「~~~~っ!!」
「ナルトが悪夢で飛び起きた時は、オレが人肌で抱き締めてあげたもんねぇ?」
「うあああああああっ。声に出していうなってばよ!!!」
「あの頃のナルトは可愛かったなぁ。すんすん泣きながらオレの乳首に吸い付いてきちゃったりしてさぁ」
「んなことまでしてねぇし!!!!」
「してました~。〝カカシせんせぇ〟っていいながらちゅうちゅう吸うもんだから、先生困っちゃったなぁ」
「~~~~~~~っ」
よほど思い出したくないことだったのだろう。ナルトはオレの腕から逃れると、苦虫を百匹くらい噛み潰した顔で、そさくさと逃げて行こうとする。そうはいかなーいよ?
「カカシ先生!買い出し行く約束だろ!先に行ってるからな!!」
「ははは。待ってよ、ナルト。そんなに急がなくても商店街は逃げやしな~いよ?」
「ううううるせぇの!」
ナルトがオレを睨みつけている。そんなところは、昔からちっとも変わらない。
「ナルト…」
ナルトは後頭部まで赤くさせている。そんな青年の背中に、オレはぽつりと呟いた。
ナルトには聞こえなかったかもしれない。
だが、それでいい。
「大好きだよ。オレを好きでいてくれて、ありがとう」
今回、記憶を失くしてわかったこと。それは、オレはナルトに何回も恋をするということ。はたけカカシというちっぽけな人間は、うずまきナルトという存在に惹かれずにはいられないということだ。
これから何があったとしても、はたけカカシという男は何度でもうずまきナルトという愛おしい存在に恋をするだろう。
終わり。
空気猫取扱説明書概要
ここは二次創作小説置場です。無断転載は禁止。本物のカカシ先生とナルトくん、作者様とは一切関係がありません。苦手な人は逃げて下さい。
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管理人の生態
自己紹介
名前 空気猫、または猫
職業 ノラ
趣味 散歩・ゴミ箱漁り
餌 カカナル
夢 集団行動
唄 椎名林檎
性質 人間未満
日記 猫日和
ある日、カカナルという名のブラックホールに迷いこむ。困ったことに抜け出せそうにない。
職業 ノラ
趣味 散歩・ゴミ箱漁り
餌 カカナル
夢 集団行動
唄 椎名林檎
性質 人間未満
日記 猫日和
ある日、カカナルという名のブラックホールに迷いこむ。困ったことに抜け出せそうにない。
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