「カァシ。カァシ。テレビの時間なーのよ!」
「その喋り方オレのマネ…?似合わないよ?」
「そんなことな~いのよ!なうとってば、カァシそっくりな~のよ!」
「オレ、仕事で疲れてるんだけど…ね?ナルト?」
バシバシバシバシ。と、まるで、猫じゃらしで床を叩くように、寝転がったカカシの胴を叩くナルトは、嬉々として飼い主を揺り動かした。
チャラリララ~…とエンドロールが流れる中、ナルトは強張っていた身体の力を抜く。
「はうううっ。今週の木の葉レンジャーも息も付けぬ展開!ってやつだったってばぁ~」
テレビの前で身を乗り出して、大好きな戦隊物を観賞し終えたナルトは、汗も掻いてないくせに興奮気味に額を拭うと、背後のカカシに寄り掛かった。
「カァシ。今日の木の葉レンジャーおもちろかった!まさか、あの人がお父さんだったなんて!すげぇ展開だったってば!!」
「そうかなぁ…。100回は使い古された展開だったと思うけど…」
「んなことねぇもんっ。すげぇ面白かった!」
「そう。はぁ……はい、はい」
「来週も楽しみだってば~」
「………」
「む。カァシ、なうとのおはなち聞いてうの!」
ナルトはぷうっと頬を膨らませると、可愛らしく首を傾げ、お決まりの一言を放った。
「はぁ。今週の銀狼もかっこよかったってば~」
「………」
ぱたぱたぱた…とナルトの尻尾がカカシの視界を行き来する。半分寝ながらも、お子様番組を見ていたカカシは無抵抗に黄金色の尻尾に叩かれた。
「影があるところが〝しゅてき〟なんだってばよぉ。しゅごい、好き~」
「正直、微妙…」
「なんでだってば。しゅごいかっこいいでしょ。カァシ。なんでねんねするの。まだなうとのおはなちの途中でしょ~!!」
めーよっ、めーでしょ!!とナルトは怒って、寝転がったカカシの脇腹をポカスカ叩いたが、寝入ったカカシを起こすのは至難の業。仕方がないのでナルトは、とっておきの方法で、カカシに対抗することにした。
「必殺、らせ~んがん!!」
ぽす、とナルトはカカシの懐に飛び込む。
「………」
「カァシ。らせ~んがん!!」
「………」
「ら、らせ…っ」
おかしい。この技を使うと、テレビの中では悪役の怪人たちは〝ばぁん〟となっていたはずなのに。カカシはやはり強い上忍だから、効かないのだろうか?
「カァシ。らせ~ん…」
「………」
「カァシ…?」
反応のないカカシに、ナルトはこんもりと目に涙を溜める。すかさず大人をゆさゆさと揺り動かして。だけどそれでも大人は無反応。
「ふぇ…?」
かぁし?ナルトは、不安気に尻尾を揺らした。いつまで経っても反応のないカカシに、ナルトの三角耳はぺたんと下がる。
「カァシ、やっ」
ナルトの脳裏に恐ろしい考えが思い浮かぶ。自分の放った螺旋丸。もしかしたら、かぁしはなうとの螺旋丸のせいで死んでしまったのかもしれない?
「カァシ、〝ばぁん〟して、めんしゃーい。めんしゃいっ」
「………」
「も、もう。なうと、らせんがんしないから。めんしゃーい。カァシ、めんしゃいっ。おきてぇっ」
ナルトはゆさゆさとカカシを揺り動かす。それでも、カカシはうんともすんともナルトの呼びかけに答えない。大人はナルトの呼びかけに答えなかっただけなのだが、いよいよナルトは震えあがった。
「カァシ、やーーーーっ」
ナルトはシクシクとカカシの上服に顔を埋めて泣き出す。どうしよう、自分のせいでカカシが死んでしまった。ナルトの真っ赤な頬から血の気が引く。
「カァシ。お願い。おめめあけて、なうととおはなちして?なう、ひとりにしないで…っ」
ぽたり、ぽたり、と涙が上忍の服を濡らす。
「やーっ。やーよ、追いてっちゃやーなのよぉっ?」
かぁしぃぃ、と仔狐が悲痛な悲鳴を上げた時だった。
「きゃう?」
ナルトがふるふると小刻みに震えていると、突然、脇に手を差し込まれ、小さな身体が宙に浮く。ちょこんと載せられたのは、大人の身体の上で、ナルトの三角耳がぴょんと跳ねる。
「カァシ、生き返ったのよ~!」
「おまえねぇ…」
「良かった、良かったってばぁ~!」
ぎゅううう、と狐っ子に抱き締められ、死んだふりをしていたカカシは小首を傾げつつ、ふわふわ金糸を何度か梳く。わんわん、きゃんきゃん泣く狐の子供に、カカシは視線を彷徨わせた挙句。
「はぁ。仕方ないねぇ。おまえは」
「う?」
「もうちょっと寝たら、コンビニ行こうか?」
「……!!」
「お菓子、買ってあげる。一個だけどね?」
木の葉の里には商店24時という、24時間営業の店がある。ナルトは何度かカカシに連れられて、その店の敷居を跨いだことがあるが、普段、カカシが自分から商店24時に行くと言い出すことは少ない。それなのに、今日はどうしたのだろう?何か、特別な日なのだろうか?
「ナルト。何、食べたい?」
「あいす!!!」
おでこにちゅっとキスをされたナルトは、カカシの胸にダイブして、精一杯喜びを表現した。
「なうね、しゅわしゅわしたあいすだいしゅきなの~!!」
「ん、じゃあ、アイスね?」
カカシはナルトの金糸を何度か梳くと、狐の子供を抱き締めたまま夕寝の体勢に入る。いつの間にか、テレビの電源は消されていた。