空気猫
空気猫
そんなわけで仔狐を飼うことになりました編1
はたけカカシが、路地裏で泥だらけになって死に掛けている子供を見つけたのは、二ヶ月に渡る潜入任務の帰り道だった。己に信頼を寄せていた村人を任務のためとはいえ裏切り皆殺しにした、人食い月の美しい夜だった。
はたけカカシのペットライフ
―始まりの日―
カカシが潜入したのは、特殊な血継限界を持つ人々が暮らす村だった。稀人は厭われる。彼等の力を恐れた大名が木の葉に、村人の殲滅と秘術の回収を命じたのは、胸糞が悪くなるがよくあることだった。
カカシは道に迷った旅人のふりをして、ある未亡人の家に身を寄せた。任務の都合上、未亡人と恋仲のような関係になり、その家の子供は自分によく懐いた。隣の家の住民は偏屈だったが気風の良い老人だった。「最近の若いもんはひょろくていかん」と怒りながらもザル一杯の干し柿を、その干し柿と同じくらい顔を皺くちゃにさせて分けてくれた。
お喋り好きな近所の中年女性はカカシが村を歩いているとどこからか駆けつけて来て、聞きもしないのに村の情報を喋り出したり、同居している女性との仲の進展について質問攻めにしてなかなか離してくれなかった。
農作業から帰ってきた男たちには「兄ちゃんはぼーっとしていて人が良さそうだから恰好のカモだなぁ」と笑われた。最初の方こそ、怪しい余所者だとカカシに突っ掛って来た青年は一度信頼を得ると、兄を慕うようにカカシに懐いた。素朴で人懐っこい村人たち。祖先こそ畏怖たる対象の戦闘集団であったかもしれないが、今は平和に暮らす一般人と変わらなかった。
胡散臭そうにカカシを遠巻きに見ていた彼等が、自分に心を許していく課程を、カカシは一歩離れた忍の視線で観察していた。
まず、老人の寝首を掻いた。家に火を点け逃げ惑う村人たちを斬り殺した。その中に、あのお喋り好きな女性がいたかも知れないがわからない。
未亡人は、暗殺者がカカシだと知ると、驚愕して目を見開くも、気丈に子供を庇って死んだ。カカシは動かなくなった母親を見下ろして、泣いた子供にとどめを刺した。
燃えさかる家屋。炎の中を血に濡れた姿で歩いていると、――人でなし。自分を兄と慕ってくれた青年に罵倒された。
カカシは躊躇うことなく忍刀を振り下ろした。忍とはそうした職業だ。わかってはいるが、血に濡れた自分の手を見下ろし、嫌悪感を拭うことが出来なかった。
村一つ分の村人の血を浴びてカカシは木の葉の里に帰還した。そして、カカシのアパートからそれほど離れていない路地裏で、その子供は死に掛けていた。一目見て、それが普通の人間の子供ではないことがわかった。頭部に存在する三角耳。ぼろ布から覗いている尻尾。頬にはご丁寧に三本髭の痣まである。獣人…。そんな言葉がカカシの頭の中に思い浮かんだ。
カカシが思案する間にも、不衛生で湿ったコンクリが子供の体温を奪っていた。朝まで命が持つかどうかというところだろう。
子供は、厨房の裏玄関から漏れる僅かな温もりに触れようとして、身を擦り寄せ丸くなっていた。霜やけなのだろうか。ボロボロになっている指先が、逃げていく地面の温かさを追うように、扉に向かって伸ばされている。
「――おい」
本当に、小さく痩せた子供だった。手足はガリガリで、痣と打撲の痕が思わず顔を背けてしまいたくなるほど酷かった。地面に突っ伏している頬にも誰かに打たれた痕があってそれがいっそう痛々しく、この子供が、か弱い生き物であることを、カカシに教えた。
「おい。聞こえていたら、返事をしろ」
カカシが問い掛けても子供はくぐもった不透明な返事をするだけだった。ピクピクと毛羽立った三角耳が痙攣している。
「あううぅ…」
白痴か、ただの阿呆なのか、カカシには判断できなかったが、汚い身なりのガキのくせにカカシを見上げた瞳だけは、綺麗な碧色をしていた。
ただ、残念なことにボサボサの髪の毛で顔のほとんどが隠されている。子供の口があくあくと動いて何事か呟いた。子供は定まらない視線でカカシに向かって手を伸ばしたところで気を失った。
「…………」
気まぐれだった。あえて言うなら、小さな手を伸ばしバカみたいに生にしがみつく姿がカカシの胸を打ったのかもしれない。自分はけして血の通わない化け物ではないのだと神に贖罪するように、カカシは子供を拾って帰った。
現代パラレルシリーズ番外編2
キバ→ナルト
「もし足の不自由な人が階段をのぼろうとしていたら貴方はどうしますか?」
小学校の道徳の時間に、無個性に並ぶ黒山の教室の中で、小学校教師が投げた質問に子供たちはヒヨコが水鉄砲をくらった時のようにがぽかんと口を開けたが、しかしすぐに正解だと思われる答えを弾き出した。
「大丈夫ですかと声を掛けてあげます」
「手を貸してあげます」
「その人を助けてあげます」
良い子の学級新聞に載せたくなるような模範的な解答に彼女は己の生徒たちを満足げに眺めた。手を挙げてハキハキと答えた生徒の中には、飼育小屋のウサギに爆竹を仕掛けたりする男の子たちや、徒党を組んで派閥を作ったり、友人同士で悪口を言ったりしている女の子たちもいたが、そんな事は道徳の時間に関係ないのである。
「ばっかじゃねーの?」
「犬塚くん」
小学校の先生は「まぁ」と口に手を当てて白いジャンバーを被った少年を見つめた。
彼女の絶対統制下にある小さな王国で反抗する子供が一人。
「それじゃあ、犬塚くんはどうするのかしら?」
ヒクついた笑みを浮かべつつも彼女は柔和な声色で少年に尋ねた。
「オレは絶対助けねぇな」
机の上に足を乗っけたお行儀の悪い格好のまま、キバが答えた。小学校の先生がまた「まぁ」と口に手を当てて恐ろしい生物を発見したように受け持ちの生徒を見つめた。
犬塚キバといえば素行の悪い生徒で有名で、教室の中にまで飼い犬を連れて来ては何度も校長室に呼び出しをくらっていたので、教師たちの間でも心象が良くなかった。
彼女は自分のクラスから問題児が出ることを恐れていたので、これからはとくに注意をして少年を見張っていなければいけないわね、と心のメモ帳にしっかりと刻み込んだ。
もっとも自分が担任を受け持っている時にさえ問題を起こさなければ、それでいいのだけど。
「まぁまぁ」と大袈裟な仕草で口に手を当てた教師を、キバはつまらなさそうに眺めつつ、大口を開けてのたまった。
「オレは何もしねぇ。それで手ぇ貸して階段のぼってもそいつは嬉しくねぇと思うから。大丈夫ですかっつーのはそいつを助けることじゃねぇよ。だってもし助けたらその瞬間にああそいつは1人で階段上がれねぇなって決めつけてるじゃん。オレはんなことしねぇ」
しんと静まった教室の中で、教師は、その答えに貼り付いたように固まってしまった。
まぁこれらのことの発端は、彼女がその日の朝礼の時間で「今日から波風ナルトくんはご家庭の事情でうずまきナルトくんになります。今、ナルトくんは大変傷付いています。優しくしてあげましょう。みなさん変らず仲良くしてあげましょうね」と彼女がもっともらしく言った台詞のせいかもしれない。
キバはそれまでナルトとそれなりに仲が良かった。学校が終われば普通に遊んだし、軽口も叩きあったし、喧嘩もした。
それなのに、今日ナルトは教師の言葉によって「特別」になってしまった。昨日のナルトと何も変わらないはずのに、なんでナルトは腫れ物のように扱われなくてはいけないのだろう。子供心にも偽善的な教師の言葉が何か気に食わなかった。
キバは「まぁまぁ」が口癖のひっつめ頭の教師が苦手だったが、何も同情する事が悪いことだと思っているわけではない。同情はとても優しい気持ちだと思う。だけど、軽薄な好奇心とは別物だろう。
女の子たちは普段はナルトのことを気にかけてもいなかったくせに、ナルトを取り囲んでいた。彼女たちは心からナルトを同情しているということを身体全体で表現していた。それは一種の伝染病や流行病にも似ていて、可哀想な子だとナルトに労わりの言葉をかけ、さも気を使うように世話を焼いて、そんな優しい自分自身に酔っていた。
彼女たちの大袈裟な一挙一動は、ナルトを心配しているというよりは、親切な自分を周囲にアピールしていることが見え見えで、ある意味、女子ってホラーだとキバは思った。
「おい、ナルト!」
放課後、キバはわざと教師の前でナルトに声を掛けた。だって仕方ない。ナルトがひっつめ頭に掴まっていたからだ。「困ったことがあったらなんでも先生に相談してね」ひっつめ頭の台詞にナルトは困ったように頷いていた。
「ナルト!」
キバは自分より幾分か小さいナルトの手を握る。
「名前が違くなるとか、ちょーカッケーじゃん。オレも名前変えてーっ。つーかナルトばっか目立ってズルくね!?」
「いいいい、犬塚くん!!」
慌てたような小学校教師に、キバは舌を出して、ナルトを引っ張り出した。
肩を遠慮なく叩かれたナルトはぽかんと口を開けた。
「ナルトー、サッカーしに行くぞ!負けたほうが駄菓子屋で奢りなっ」
「それ、オレもノった」
「ボクも」
後ろから一つ縛りの少年と、お菓子を手に抱えた小太りの少年が続く。
「キバ…シカマル、チョウジ」
ぷっくりとした頬が赤く染まる。
一拍置いて、ナルトが弾けたように笑った。
「おう!キバなんかに負けねってばよ?」
「ナ、ナルトくん!?」
ニシシと笑い声を残し、転がるように子供たちが駆け出す。あとに残されたのはひっつめ頭の女教師で、やっぱり子供っていうのは無神経なのね、と小学校教師はただ呆然と子供たちを見送った。
昼休みの終了を告げるチャイムと共に犬塚キバはゆっくりとまぶたを開けた。見上げれば青い空と、―――キラキラ光る太陽。思わず眩しくて目を細めていると空の上にいるはずの太陽が、姦しく喋り出した。
「キバ。早くしねぇとイルカ先生の授業が始まっちまうってばよ」
しゃがみ込んでキバを見下ろしていたのはうずまきナルトだった。「置いてくぞ、めんどくせぇ」「キバ。寝すぎだよ」とちょっと遠いところでシカマルとチョウジの声もする。
ナルト、シカマル、キバ、チョウジの四人は同小、同中、同高だ。キバはあの時からナルトとは対等な立場でいてやるんだと心に決めていた。可哀想だとか、遠慮だとかは絶対してやるもんかとナルトと付き合ってきた。
「ナルト、オレ様を見下ろすんじゃねーぞ」
ナルトのくせに生意気だぞ、とキバはナルトのシャツの袖を引っ張ると、「うわ」とナルトがバランスを崩してキバに覆い被さる。
スローモーションのように、金色が視界いっぱいに広がって、蛙を押し潰したような声がキバから上がった。いくら平均より軽いナルトとはいえ男一人分の体重に内臓圧迫されたのだ、仕方あるまい。
「いてて。―――ごめん、キバ」
つんつん頭を振りながら、ナルトの声が耳の近くで聞こえた。洗い立てのシャツのいい匂いがした。ナルトは一人暮らしだから自分で洗濯しているのだろう。同じ男のくせに、清潔感のあるナルトにキバは戸惑ってしまう。こういうところはガサツだと思っていたのに。
「………キバ?」
四つん這いになってキバを見上げる同じ年のダチ。こいつこんなに睫毛長かったっけ…と男にしてはきめ細かい肌と、喉仏の目立たないほっそりとした首筋に魅入られる。
よくよく見れば造作の整った顔立ち。金色の睫毛といい、シャープな輪郭といいすべてが繊細な造りをしていた。
―――って、なに見惚れているんだっ。相手はナルトだぞ!?ナルトとは小中学校の頃からずっとダチで、イタズラ仲間で…
だけどやたら大きな碧い瞳や、半開きの唇から目が離せない。最近、ナルトが変わった。キバの知らない表情をするようになったのだ。元々中性的であった顔立ちをからかいの種にしたこともあった。だけど、キバはなんでナルトが色っぽく見えるようになったかそのわけを知らない。まさか男の彼氏ができたなんて、キバは思いつきもしないだろう。
ナルトの唇はリップクリームも塗ってないくせに、クラスの女子よりつやつやとしていて、キバの心臓が早鐘のように速くなったところでナルトの身体がキバから離れた。
「シカマル、あのさ授業終わったら相談してぇことあるんだけどいい?」
シカマルに懐いていった金髪の友人のあとをキバが追い駆ける。
「……またか」
「シカマル~~!!」
「わかったつーのめんどくせぇ」
シカマルに懐いていった金髪の少年のあとをキバが追い駆ける。
「おい、ナルト。シカマルに相談ってなんだよ」
「!?」
瞬間ナルトの瞳が落っこちるのではないかというくらい大きくなる。
ボボボボッとナルトの顔が赤くなって、「いやあのっ」と恥じらったように慌てる小学校の頃から見慣れてるはずのダチの顔。
「バーカ。ぼさっとしてねぇでさっさと教室に行くぞ」
「うわっ。シカマル」
シカマルにウチワ代わりの下敷きで頭を叩かれてナルトは逃走気味に階段を下っていく。
「んだよ、あの顔」
自分だって同じくらい赤い顔になっていることに気付かずキバはそっと呟いた。
オレは、ヒナタを好きなはずなのに。なんでナルトにドキドキしてるんだよ。それは不規則な旋律を奏でる心音のノイズミュージック。
ちなみにキバくんが言っていた言葉はバンプオブチキンのボーカルの人が言ってたことです。
現代パラレルシリーズ番外編1
あるコンビニ店員さんの一日
携帯電話の電子音と共にうずまきナルトは薄っすらと目を開けた。適度に薄暗い部屋。ケロケロケロと間の抜けた目覚まし用の着メロの発信源を止めるべく、布団の中から手が伸びて彷徨う。そして、ここかそこかとぽふぽふ手が空手を掴んで、やっと探し当てた携帯のボタンをぺこっと押した。
「バイト…。お昼から……」
お目覚めの第一声である。金髪のひよこ頭がぴょこんと起き上がる。
「遮光カーテン、買って正解だってばよー」
くあああと大きく伸びをして、ナルトはカーテンを開ける。水色のそれはあの大人と一緒に選んだものだったりする。
「ナールト。たくさんあるけど、どれにする?」
「んー、メールと電話さえ出来ればどれでもいいってばよ」
「おまえ、現代っ子のくせにアバウトだね。最新機種とかでなくていいの?」
「えー、だってさ高いだけじゃん。テレビ機能とかいらねぇし、携帯に何万も使うくらいならカーテン欲しいってば」
「カーテン…?」
「朝日がすげぇ眩しいんだってば、オレの部屋。毎日、目がシパシパするんだってばよ」
「ふうん?」
カカシとナルトが携帯電話の機種変更に携帯ショップに行ったのは先週の日曜日のことだ。以前、居酒屋で〝つい、うっかり〟ナルトの携帯を壊してしまったカカシは、激怒するナルトに新しい携帯を買ってあげるよと反省しているんだかしていないんだか、へらり顔で約束したのだ。大人はその約束をしっかり覚えていたようで「で、いつ携帯買いに行こうか」と訊ねられたのは数日前のこと。
そんなわけで二人はナルトのバイトがない休日を選び待ち合わせ、デートも兼ねての外出することになったのだ。デートだなんて言われると未だナルトは赤面してしまうのだが。
「じゃあさ、これにしない?オレと一緒の携帯。これならナルトに使い方とか教えてやれるし、便利だよ?」
ナルトが目元を薄っすら染めると、カカシが満面の笑みで頷いた。
「よし、決定だね」
「……なんで機嫌いいんだよ。カカシ先生?」
首を傾けて自分を見上げたナルトの頭をくしゃくしゃと撫でると、「だからくしゃくしゃすんなって」とお決まりの台詞が笑顔と共に返って来る。
「ナルト、オレのアドレスも入れてよ?」
「えっ。うん」
「オレも電話するから、おまえもいつでも電話して?」
そんなわけでナルトの新しい携帯の登録№000を、はたけカカシは図らずも手に入れたのだった。
「そうそうここのボタンでアドレス帳開いて?」
「うーん新しいメアドは何にしよっかなぁ」
店を出て新しい携帯の使い方を教えてもらいながら、ぴゅんぴゅん車の行き来が激しい通りを並んで歩いて他愛もないお喋りをしていた。
「ニシシシ」
「おまえなに笑ってんの」
「なーんでもねって」
「?」
「いいから、いいから。カカシ先生ってばちゃんと前を向いて歩けってば!」
カカシとナルトの身長差はカカシの肩にナルト頭が並ぶ程度。ショーウィンドウに映る大人と自分を見比べて、周囲には自分たちはどういう関係に見えるのだろうかと、笑いが込み上げてくる。
二人は友だちでも兄弟でもない。列記とした恋人同士だ。と言ってもまだキス止まりの関係で、性的な繋がりは一切ない。だけど、目を合わせればどちらからともなく笑い合える今の状態が、堪らなく幸せだった。
「何、じゃあおまえの部屋カーテンないの?」
カカシは自分の横を歩く少年を見下ろして、呆れた声を上げた。
「うーん、だって別になかったらないで困らなかったし」
「不用心でしょ。外から丸見えなんだよ?」
「つっても、オレってば男だし裸見られたからって―――」
ジトっとカカシに睨まれてナルトは思わず口を噤む。結局ついでにと立ち寄ったインテリアショップで料金はな何故か半分カカシ持ちで、カーテンを買うことになった。
「彼氏としての必要経費だって。おっかしいの」
言いながらもナルトはくすぐったそうに笑いカーテンを開けて、空を見上げる。広がるのは自分の瞳と同じ色。紺碧の空。
「ん、今日もいい天気だってばよ!」
ナルトはよっしゃと空に向かって両手を上げた。
歯を磨いて、ちょっと遅めの朝食権昼食を食べる。
「ヤベ、遅れる」
洗いざらしのTシャツとジーンズという出立ちナルトは食パンに齧り付いた立ち上がる。スニーカーに足を滑り込ませ玄関の鍵を掛けた所で、メールの受信音が鳴った。
「―――あっ」
携帯の画面を見てナルトは笑みを零す。あとで返信しようと画面を閉じて尻ポケットに携帯を突っ込んで、ナルトはアパートの階段を駆け下りた。
「――――キバ。店に赤丸連れてくるなって言っただろ」
「んだよ、カタいこというなって」
「常識だってばよ」
レジを挟んでナルトは半眼、キバはジャンバーに手を突っ込んだままニヤリと片頬だけ上げて笑う。キバの懐から「キャン!」と糸目の白犬が顔を出して吠えた。
「んじゃ、アレはいいのかよ、おい」
「ガマばぁちゃんはしょうがないんだってば」
コンビニに緑茶を買いに来た近所のおばぁちゃんが散歩綱を付けた飼い犬に引っ張られ、店内をぐるぐる回る光景をズビシ!と指差し、キバが言う。「ナルトちゃんごめんねぇ、あらあらあらあらあら」と笑顔をレジのナルトに向けたままぐいぐい引き摺られるおばぁちゃんは、いいだけ店内を駈けずり回されたあとレジに立ち、「ナルトちゃん佃煮つくってきたからたんと食いんさい。腕によりをかけて作ったけんね」と、プラスチック容器をナルトに渡し、飼い犬に引っ張られながら去って行った。
「すっげ…」
キバは口笛を吹いて、「ガムひとつな」とミント味のチューインガムをレジに出す。
「おまえ、相変わらず人気者だな」
「……へへへ」
力なく肩を落としカラ笑いを漏らしたナルトは、テープだけ貼ってキバにガムを渡した。犬の散歩の途中にキバはよくコンビニに立ち寄る。日曜日といっても高校生の彼等に遠出をする財布の中身はなく、せいぜい近所をぶらぶらしては、暇潰しの種がないか探すか、ナルトのようにバイトをしているくらいだ。
「おまえさー、今日、花火大会いかねぇ。どーせ暇してるんだろ」
だからキバがナルトを遊びに誘ったのは、ごく自然な流れだった。ノリのいいナルトはいつも二つ返事でキバの誘いにノッていたからだ。しかし―――、
「あー…。ごめん!キバ、オレってば今日はムリ」
「はぁ?なんでだよ」
「いや、他に約束があるっつぅか…」
へへへと視線をあさっての方向に逸らしつつ、ナルトが頬を掻く。瞳を瞬かせたナルトの表情が、柔らかくなり、照れ臭そうにはにかむ。キバは呆気に取られたように、金髪の友人を凝視して、ぽかんと口を開けた。
「んだよ、はっきりしねぇな…。は。まさかおまえカノジョか、カノジョなのか抜け駆けかてめぇ―――!?」
「ちちちがうってばよ落ち着けってキバ」
レジ越しに物凄い剣幕で迫ってきたキバに、ナルトはカノジョじゃねーし!と顔を真っ赤にさせて手を前後左右に振って慌てる。
カカシ先生ってば立派なオトコだし、カノジョじゃねぇし!!とナルトは言いたかったのだが、キバは一拍間を置いたあと「そうだよなー」と、レジに乗っけていた片足を床に下ろす。
「大体オレが居ねぇのに、ナルトにカノジョが出来るわけねぇよな。あー安心した」
「はぁ!?なんだとぉ」
「そのまんまの意味だっつーの。ひゃははは」
大笑いしたキバは片手を上げると「邪魔したな」と去って行く。ナルトはキバの背中に「ワリィ、また今度埋め合わせすっから!」と声を掛けたが、それが犬連れの友人に聞こえたかは定かではない。
ナルトのバイトが終わったのはそれから三時間後。履き潰したスニーカーがアスファルトの地面を蹴る。
ナルトの花火大会の先約の主は勿論あの銀髪の大人だ。携帯の待ち受け画面と睨めっこしていたナルトは、夕暮れの空を振り仰ぎつつ、モクモクと煙が立ち昇る工場地帯へと視線を向けた。
待ち合わせの時間まではまだ少しだけ時間がある。
「……久し振りに寄ってくかな」
花火大会のある河原を通り過ぎ、住宅街へとナルトは歩き、迷うことなく目的の場所へと辿り着いた。
身体が覚えていた記憶なのだろうか。それは家路までの道のり。今はもう、そこにナルトが「帰る」ことは正確にはないが。
「こんなに小さい家だったけ」
よく売却もされずに残っていたものだと思う。水色の屋根の平屋。ナルトは思い出より幾分古びた波風の表札の文字を確かめるように撫でる。
ガラにもなく感傷的な気分になった己に苦笑して、もう部外者となってしまった家屋に、足を踏み入れる。
もっと手酷く荒れてるかと思った庭は、短い草がちらほら生えているだけで、思い出の中のままだった。いや、ナルトが小さかった頃は花壇に花やハーブがたくさん植えられていただろうか。
自分が生まれた家。柔らかい土の感触に、懐かしさが込み上げて来て、ナルトは庭の隅っこにある物置きに立った時、まるで自分がほんの小さな子供に戻ったような錯覚に囚われた。
そしてふと思い出す。
「えーと鍵、鍵っと。確かここらへんだったような…。おー、あったあった」
物置の脇にある大木のウロにナルトが手を入れ、中を探る。出て来たのは物置の鍵。己の古びた記憶を辿り、それが一致するたびに説明出来ない喜びが込み上げて来る。例えるなら、ちょっと泣きそうな、だけど嬉しくて面映いような。
「うわ、くしゃみでそうだってば」
ナルトは錆びた鍵を差し込み扉を引き、埃っぽい内部に足を踏み入れた。手で顔を覆いながらも目的のものを探すために、ナルトはきょろきょろと埃の舞う室内を見回して、「おおおっ!」と歓声を上げる。
端から見ていたら15歳の少年が、幼子のように独り言を言って、はしゃいでる光景は相当珍妙に映ったことだろうが、ナルトは目的のものを見つけた高揚感でそれどころではない。
シシシと笑いながら、「宝箱!」とクレヨンで殴り書きされたダンボール箱を頭上に高々と持ち上げる。
「我ながら堂々とした字だってば、将来大物になる器だってばよ!」
物置から出て庭にしゃがみ込み、ナルトは段ボール箱の中身を早速出して見る。中に入ってたのは、おそらくは当時のナルトにとっては宝物だったと思われるガラクタたち。折れた空色のクレヨン、つるつるとした手触りの石ころ、落書きが描かれている画用紙、ひび割れた水鉄砲、炭酸水に入ってるビー玉。
後から後から、なんでこんなもの入れてるのだろうと苦笑が込み上げてくる宝物たちばかりが飛び出して来て当時の自分の思考回路に苦笑する。
しかしダンボール箱の中を漁っていたナルトの手がある一冊の本を手に取った瞬間固まる。ボロボロのページが薄っすら黄ばんだ古ぼけた絵本。
ナルトは何かに吸い寄せられるように、冊子を手に取る。
「灰色ねずみは…、オレの魔法使い?」
それは、子供の頃お気に入りだった絵本のタイトルだ。何度も両親に頼んで読み聞かせてもらったことを今でも覚えていた。ぱらぱらとページを捲っていくと、最後のページでくしゃくしゃの、それも血のついた紙切れがはらりと落ちる。
それを受け取った時のナルトの手が血だらけだったからなのだが、ナルトの記憶には残っていない。
「なんだってばこれ……」
血の付着した紙切れなんて薄気味悪いだけなのだが、不思議と嫌悪感はなかった。ナルトは一度丸められたと思われるシワの伸ばされた紙切れに走り書きされている文字を辿り、小さく息を呑む。
「灰色ねずみの兄ちゃん?」
自分がひとりぼっちだったあの時期。僅かな期間だけどオレの傍にはフードを被った誰かがいた気がした。今の今までナルトはすっかり彼のことを忘れていた。
どうして、今まで忘れていたのだろう、幼いナルトに影法師ように寄り添ってくれた青年の存在。猫背気味の背格好。幼いナルトはよく長い腕に抱き締めてもらった。
顔は…、オボロケで覚えていない。
小さかったナルトには太陽を背にして覗き込む青年の顔が影掛かってよく見えなかったのだ。とくに青年はフードで頭をすっぽり覆っていたので、尚更だった。
「今思えば怪しい兄ちゃんだったってばよ―…」
だけど優しかった。それだけは覚えている。
「……ん、誰かに似ているような?」
若干のいやかなり激しいデジャブを感じたものの、ナルトは目を細めてかくんと首を傾けただけで終わった。
散らかしたダンボール箱の中身をまた元の場所に戻し、ナルトが立ち上がったところで携帯電話のメール受信音が鳴り響いた。
『バイトお疲れさま。今からそっちに向かうよ』
「うわ、戻らなきゃ」
ナルトは血の付いた紙切れを急いでポケットに突っ込む。ポケットの中に入っているガマグチの財布が指の先に掠る。
ナルトは足早に、来た道を戻りながらも、ガマちゃんの中に入っているこれまたクシャクシャの紙切れと、ダンボール箱から出てきた紙切れ見比べて顔が曇らせる。
あの頃はあの青年が自分に何を渡したのかわからなかったが、今のナルトにはそこに書かれている文字がどこに続いているものなのかはっきりとわかっていた。
「……んで」
なんで、とナルトの唇から掠れた音が落とされる。
「なんでだってば灰色ねずみ…。おまえ何者だったんだってばよ」
呟きつつも、ナルトは前方で、電信柱に凭れ掛かっている大人を発見して、表情を明るくさせた。
「ごめんってばカカシ先生、待った?オレってばちょっと寄り道しててさ」
「んー、今来たとこだからいいよ」
おでこを掻き揚げられてキスを落とされ、くすぐったさからナルトはクスクスと笑う。カカシと旧知の人間なら遅刻癖の彼が少々遅れたとはいえ時間通り待ち合わせ場所に現れたことに驚きだっただろう。
「さ、行こうか。花火大会始まっちゃうよ」
「カカシ先生、メールありがとってば。返事なかなか返せなくてごめんなー」
片手を差し出され、ナルトは、目を細めてからカカシの手に指を絡める。男性としては細い方なのだろうが、ゴツゴツとして大きなカカシの指は同性だが、まだナルトにはないもので、骨格が華奢なことを密かに気にしているナルトは憧れてしまう。
「オレもカカシ先生みてぇになれるかなぁ」
「ん?」
「へへへ。オレってばまだまだ成長期で伸び盛り。カッコ良くて立派な大人の男になりたいなぁって思ったんだってば」
「ナルト。おまえ、オレを褒めてもなんも出ないぞ?」
カカシが照れていることが面白かったのか、イタズラっぽくニマニマと笑った少年に苦笑してカカシは身体を反転させた。次の瞬間にはナルトの背中が塀にくっついていた。
「カカシ先生」
「ナルト、ちょっとだけここでキスしていーい?」
カカシはナルトと五指を絡めたまま、口の端を吊り上げる。
「顔、傾けて?」
「わ、でも」
「オレが隠して上げるから大丈夫だよ」
ひと気のあるところではイチャつけないから、ナルトはカカシに隙を見てはよくキスを強請られていた。人で賑わう花火大会ではキスがシヅライことはわかっていたが、ナルトが躊躇っていると、
「はい。時間切れ」
「んっ」
カカシの端正な顔が近付いて来て、ナルトはぎゅっと目を瞑る。
「ん、ん、ん…」
「ナールト、力抜いて楽にしなさいよ?」
何度、唇を重ねてもナルトは一向にキスに慣れない。この先のステップに進むのはいつになることやらと緊張からか肩を上げて身体を強張らせるナルトを見下ろして、可愛いなぁなんて思いつつカカシは角度を変えて何度もナルトの口内を頂く。
とうとう観念したナルトも、カカシの首に腕を絡める。大人がふっと柔らかく笑ったような気がしたが、爪先立ちになって、より深く自分の口の中で蠢くカカシの舌に、外にいることも忘れて翻弄される。ナルトは無意識にカカシの服を握って、甘い吐息を漏らした。
まだキスの合い間の息継ぎになれないナルトは大人の巧みなキスにすぐに酸欠状態になってしまい、逃げうつように下を向くと、いつの間にか、両頬を持たれて、掬い上げられるようにキスされた。眉を顰め薄っすらと瞳を開けると色違いの瞳に情熱的な視線を注がれていた。
この人の恋人になったんだよなぁと実感する瞬間。信じられないことに、自分は十四歳も年上の大人の欲を受け取る存在になのだ。
それもリードされるほう…。年の差や経験値から言ってもカカシがナルトをリードすることは当然の成り行きかもしれないが、戸惑いを隠すことは出来ない。
それを選択したのはナルト自身だが、幼稚園児の恋愛ではないから、キスの延長線上にある行為のことも知っている。カカシから求められたら、受け入れる覚悟は出来ていた。カカシが自分とそういう関係になることを望んでいることも、わかっている。以前に一度だけ冗談のように仄めかされたことがあったから。
だけどそれが、カカシの本音であると、気が付かないほどナルトも子供ではない。
大人のカカシと付き合うことは、肉体的な関係を含んでくるということをナルトは、覚悟していた。
「ん、ちゅ……」
「ナァルト…、可愛い」
「はぁ…ん」
もう子供ではない。わかっている。
カカシの腕がきつく背中に回される。
「―――っ」
壁に押し付けられ、ちゅ、ちゅ、と舌を吸われる。いつの間にか口の端にはどちらのものとも知らない唾液が伝っていた。頭の角度を変えられた瞬間、ナルトのポケットの中でかさりと皺くちゃの古びた紙切れが音を立てた。
魔法使いの住処だよと言って渡された紙切れ。
オレの……、灰色ねずみ。
そう幼いナルトの絶対的な味方であった存在。彼から貰った紙切れには、ナルトを育ててくれた老人が今わの際で渡してくれた紙切れと同じ文字が並んでいた。
ナルトが今住んでいるアパートから駅二つほど距離のそこは、おとぎばなし風に言ってみれば、魔法使いの住処。
ナルトは無意識に、今自分に口付けているカカシの銀髪を愛おしそうに撫でる。カカシと一緒にいると気分が落ち着いた。それがいつ頃から刷り込まれた感情であるか、ナルトはまだ気付かない。
ナルトの絶対的な味方であった灰色ねずみは、今は、はたけカカシと本当の名前を名乗って傍にいる。
くちゅりと濡れた水音が耳に響いて、ナルトは瞳を細めた。
今のオレなら、逢いに行けるかな。
カカシと出会ってナルトの中に起きた心境の変化。
―――……うちゃん。
ああ、また避け続けていた一歩を踏み出す時が来たのかもしれない。
携帯電話の電子音と共にうずまきナルトは薄っすらと目を開けた。適度に薄暗い部屋。ケロケロケロと間の抜けた目覚まし用の着メロの発信源を止めるべく、布団の中から手が伸びて彷徨う。そして、ここかそこかとぽふぽふ手が空手を掴んで、やっと探し当てた携帯のボタンをぺこっと押した。
「バイト…。お昼から……」
お目覚めの第一声である。金髪のひよこ頭がぴょこんと起き上がる。
「遮光カーテン、買って正解だってばよー」
くあああと大きく伸びをして、ナルトはカーテンを開ける。水色のそれはあの大人と一緒に選んだものだったりする。
「ナールト。たくさんあるけど、どれにする?」
「んー、メールと電話さえ出来ればどれでもいいってばよ」
「おまえ、現代っ子のくせにアバウトだね。最新機種とかでなくていいの?」
「えー、だってさ高いだけじゃん。テレビ機能とかいらねぇし、携帯に何万も使うくらいならカーテン欲しいってば」
「カーテン…?」
「朝日がすげぇ眩しいんだってば、オレの部屋。毎日、目がシパシパするんだってばよ」
「ふうん?」
カカシとナルトが携帯電話の機種変更に携帯ショップに行ったのは先週の日曜日のことだ。以前、居酒屋で〝つい、うっかり〟ナルトの携帯を壊してしまったカカシは、激怒するナルトに新しい携帯を買ってあげるよと反省しているんだかしていないんだか、へらり顔で約束したのだ。大人はその約束をしっかり覚えていたようで「で、いつ携帯買いに行こうか」と訊ねられたのは数日前のこと。
そんなわけで二人はナルトのバイトがない休日を選び待ち合わせ、デートも兼ねての外出することになったのだ。デートだなんて言われると未だナルトは赤面してしまうのだが。
「じゃあさ、これにしない?オレと一緒の携帯。これならナルトに使い方とか教えてやれるし、便利だよ?」
ナルトが目元を薄っすら染めると、カカシが満面の笑みで頷いた。
「よし、決定だね」
「……なんで機嫌いいんだよ。カカシ先生?」
首を傾けて自分を見上げたナルトの頭をくしゃくしゃと撫でると、「だからくしゃくしゃすんなって」とお決まりの台詞が笑顔と共に返って来る。
「ナルト、オレのアドレスも入れてよ?」
「えっ。うん」
「オレも電話するから、おまえもいつでも電話して?」
そんなわけでナルトの新しい携帯の登録№000を、はたけカカシは図らずも手に入れたのだった。
「そうそうここのボタンでアドレス帳開いて?」
「うーん新しいメアドは何にしよっかなぁ」
店を出て新しい携帯の使い方を教えてもらいながら、ぴゅんぴゅん車の行き来が激しい通りを並んで歩いて他愛もないお喋りをしていた。
「ニシシシ」
「おまえなに笑ってんの」
「なーんでもねって」
「?」
「いいから、いいから。カカシ先生ってばちゃんと前を向いて歩けってば!」
カカシとナルトの身長差はカカシの肩にナルト頭が並ぶ程度。ショーウィンドウに映る大人と自分を見比べて、周囲には自分たちはどういう関係に見えるのだろうかと、笑いが込み上げてくる。
二人は友だちでも兄弟でもない。列記とした恋人同士だ。と言ってもまだキス止まりの関係で、性的な繋がりは一切ない。だけど、目を合わせればどちらからともなく笑い合える今の状態が、堪らなく幸せだった。
「何、じゃあおまえの部屋カーテンないの?」
カカシは自分の横を歩く少年を見下ろして、呆れた声を上げた。
「うーん、だって別になかったらないで困らなかったし」
「不用心でしょ。外から丸見えなんだよ?」
「つっても、オレってば男だし裸見られたからって―――」
ジトっとカカシに睨まれてナルトは思わず口を噤む。結局ついでにと立ち寄ったインテリアショップで料金はな何故か半分カカシ持ちで、カーテンを買うことになった。
「彼氏としての必要経費だって。おっかしいの」
言いながらもナルトはくすぐったそうに笑いカーテンを開けて、空を見上げる。広がるのは自分の瞳と同じ色。紺碧の空。
「ん、今日もいい天気だってばよ!」
ナルトはよっしゃと空に向かって両手を上げた。
歯を磨いて、ちょっと遅めの朝食権昼食を食べる。
「ヤベ、遅れる」
洗いざらしのTシャツとジーンズという出立ちナルトは食パンに齧り付いた立ち上がる。スニーカーに足を滑り込ませ玄関の鍵を掛けた所で、メールの受信音が鳴った。
「―――あっ」
携帯の画面を見てナルトは笑みを零す。あとで返信しようと画面を閉じて尻ポケットに携帯を突っ込んで、ナルトはアパートの階段を駆け下りた。
「――――キバ。店に赤丸連れてくるなって言っただろ」
「んだよ、カタいこというなって」
「常識だってばよ」
レジを挟んでナルトは半眼、キバはジャンバーに手を突っ込んだままニヤリと片頬だけ上げて笑う。キバの懐から「キャン!」と糸目の白犬が顔を出して吠えた。
「んじゃ、アレはいいのかよ、おい」
「ガマばぁちゃんはしょうがないんだってば」
コンビニに緑茶を買いに来た近所のおばぁちゃんが散歩綱を付けた飼い犬に引っ張られ、店内をぐるぐる回る光景をズビシ!と指差し、キバが言う。「ナルトちゃんごめんねぇ、あらあらあらあらあら」と笑顔をレジのナルトに向けたままぐいぐい引き摺られるおばぁちゃんは、いいだけ店内を駈けずり回されたあとレジに立ち、「ナルトちゃん佃煮つくってきたからたんと食いんさい。腕によりをかけて作ったけんね」と、プラスチック容器をナルトに渡し、飼い犬に引っ張られながら去って行った。
「すっげ…」
キバは口笛を吹いて、「ガムひとつな」とミント味のチューインガムをレジに出す。
「おまえ、相変わらず人気者だな」
「……へへへ」
力なく肩を落としカラ笑いを漏らしたナルトは、テープだけ貼ってキバにガムを渡した。犬の散歩の途中にキバはよくコンビニに立ち寄る。日曜日といっても高校生の彼等に遠出をする財布の中身はなく、せいぜい近所をぶらぶらしては、暇潰しの種がないか探すか、ナルトのようにバイトをしているくらいだ。
「おまえさー、今日、花火大会いかねぇ。どーせ暇してるんだろ」
だからキバがナルトを遊びに誘ったのは、ごく自然な流れだった。ノリのいいナルトはいつも二つ返事でキバの誘いにノッていたからだ。しかし―――、
「あー…。ごめん!キバ、オレってば今日はムリ」
「はぁ?なんでだよ」
「いや、他に約束があるっつぅか…」
へへへと視線をあさっての方向に逸らしつつ、ナルトが頬を掻く。瞳を瞬かせたナルトの表情が、柔らかくなり、照れ臭そうにはにかむ。キバは呆気に取られたように、金髪の友人を凝視して、ぽかんと口を開けた。
「んだよ、はっきりしねぇな…。は。まさかおまえカノジョか、カノジョなのか抜け駆けかてめぇ―――!?」
「ちちちがうってばよ落ち着けってキバ」
レジ越しに物凄い剣幕で迫ってきたキバに、ナルトはカノジョじゃねーし!と顔を真っ赤にさせて手を前後左右に振って慌てる。
カカシ先生ってば立派なオトコだし、カノジョじゃねぇし!!とナルトは言いたかったのだが、キバは一拍間を置いたあと「そうだよなー」と、レジに乗っけていた片足を床に下ろす。
「大体オレが居ねぇのに、ナルトにカノジョが出来るわけねぇよな。あー安心した」
「はぁ!?なんだとぉ」
「そのまんまの意味だっつーの。ひゃははは」
大笑いしたキバは片手を上げると「邪魔したな」と去って行く。ナルトはキバの背中に「ワリィ、また今度埋め合わせすっから!」と声を掛けたが、それが犬連れの友人に聞こえたかは定かではない。
ナルトのバイトが終わったのはそれから三時間後。履き潰したスニーカーがアスファルトの地面を蹴る。
ナルトの花火大会の先約の主は勿論あの銀髪の大人だ。携帯の待ち受け画面と睨めっこしていたナルトは、夕暮れの空を振り仰ぎつつ、モクモクと煙が立ち昇る工場地帯へと視線を向けた。
待ち合わせの時間まではまだ少しだけ時間がある。
「……久し振りに寄ってくかな」
花火大会のある河原を通り過ぎ、住宅街へとナルトは歩き、迷うことなく目的の場所へと辿り着いた。
身体が覚えていた記憶なのだろうか。それは家路までの道のり。今はもう、そこにナルトが「帰る」ことは正確にはないが。
「こんなに小さい家だったけ」
よく売却もされずに残っていたものだと思う。水色の屋根の平屋。ナルトは思い出より幾分古びた波風の表札の文字を確かめるように撫でる。
ガラにもなく感傷的な気分になった己に苦笑して、もう部外者となってしまった家屋に、足を踏み入れる。
もっと手酷く荒れてるかと思った庭は、短い草がちらほら生えているだけで、思い出の中のままだった。いや、ナルトが小さかった頃は花壇に花やハーブがたくさん植えられていただろうか。
自分が生まれた家。柔らかい土の感触に、懐かしさが込み上げて来て、ナルトは庭の隅っこにある物置きに立った時、まるで自分がほんの小さな子供に戻ったような錯覚に囚われた。
そしてふと思い出す。
「えーと鍵、鍵っと。確かここらへんだったような…。おー、あったあった」
物置の脇にある大木のウロにナルトが手を入れ、中を探る。出て来たのは物置の鍵。己の古びた記憶を辿り、それが一致するたびに説明出来ない喜びが込み上げて来る。例えるなら、ちょっと泣きそうな、だけど嬉しくて面映いような。
「うわ、くしゃみでそうだってば」
ナルトは錆びた鍵を差し込み扉を引き、埃っぽい内部に足を踏み入れた。手で顔を覆いながらも目的のものを探すために、ナルトはきょろきょろと埃の舞う室内を見回して、「おおおっ!」と歓声を上げる。
端から見ていたら15歳の少年が、幼子のように独り言を言って、はしゃいでる光景は相当珍妙に映ったことだろうが、ナルトは目的のものを見つけた高揚感でそれどころではない。
シシシと笑いながら、「宝箱!」とクレヨンで殴り書きされたダンボール箱を頭上に高々と持ち上げる。
「我ながら堂々とした字だってば、将来大物になる器だってばよ!」
物置から出て庭にしゃがみ込み、ナルトは段ボール箱の中身を早速出して見る。中に入ってたのは、おそらくは当時のナルトにとっては宝物だったと思われるガラクタたち。折れた空色のクレヨン、つるつるとした手触りの石ころ、落書きが描かれている画用紙、ひび割れた水鉄砲、炭酸水に入ってるビー玉。
後から後から、なんでこんなもの入れてるのだろうと苦笑が込み上げてくる宝物たちばかりが飛び出して来て当時の自分の思考回路に苦笑する。
しかしダンボール箱の中を漁っていたナルトの手がある一冊の本を手に取った瞬間固まる。ボロボロのページが薄っすら黄ばんだ古ぼけた絵本。
ナルトは何かに吸い寄せられるように、冊子を手に取る。
「灰色ねずみは…、オレの魔法使い?」
それは、子供の頃お気に入りだった絵本のタイトルだ。何度も両親に頼んで読み聞かせてもらったことを今でも覚えていた。ぱらぱらとページを捲っていくと、最後のページでくしゃくしゃの、それも血のついた紙切れがはらりと落ちる。
それを受け取った時のナルトの手が血だらけだったからなのだが、ナルトの記憶には残っていない。
「なんだってばこれ……」
血の付着した紙切れなんて薄気味悪いだけなのだが、不思議と嫌悪感はなかった。ナルトは一度丸められたと思われるシワの伸ばされた紙切れに走り書きされている文字を辿り、小さく息を呑む。
「灰色ねずみの兄ちゃん?」
自分がひとりぼっちだったあの時期。僅かな期間だけどオレの傍にはフードを被った誰かがいた気がした。今の今までナルトはすっかり彼のことを忘れていた。
どうして、今まで忘れていたのだろう、幼いナルトに影法師ように寄り添ってくれた青年の存在。猫背気味の背格好。幼いナルトはよく長い腕に抱き締めてもらった。
顔は…、オボロケで覚えていない。
小さかったナルトには太陽を背にして覗き込む青年の顔が影掛かってよく見えなかったのだ。とくに青年はフードで頭をすっぽり覆っていたので、尚更だった。
「今思えば怪しい兄ちゃんだったってばよ―…」
だけど優しかった。それだけは覚えている。
「……ん、誰かに似ているような?」
若干のいやかなり激しいデジャブを感じたものの、ナルトは目を細めてかくんと首を傾けただけで終わった。
散らかしたダンボール箱の中身をまた元の場所に戻し、ナルトが立ち上がったところで携帯電話のメール受信音が鳴り響いた。
『バイトお疲れさま。今からそっちに向かうよ』
「うわ、戻らなきゃ」
ナルトは血の付いた紙切れを急いでポケットに突っ込む。ポケットの中に入っているガマグチの財布が指の先に掠る。
ナルトは足早に、来た道を戻りながらも、ガマちゃんの中に入っているこれまたクシャクシャの紙切れと、ダンボール箱から出てきた紙切れ見比べて顔が曇らせる。
あの頃はあの青年が自分に何を渡したのかわからなかったが、今のナルトにはそこに書かれている文字がどこに続いているものなのかはっきりとわかっていた。
「……んで」
なんで、とナルトの唇から掠れた音が落とされる。
「なんでだってば灰色ねずみ…。おまえ何者だったんだってばよ」
呟きつつも、ナルトは前方で、電信柱に凭れ掛かっている大人を発見して、表情を明るくさせた。
「ごめんってばカカシ先生、待った?オレってばちょっと寄り道しててさ」
「んー、今来たとこだからいいよ」
おでこを掻き揚げられてキスを落とされ、くすぐったさからナルトはクスクスと笑う。カカシと旧知の人間なら遅刻癖の彼が少々遅れたとはいえ時間通り待ち合わせ場所に現れたことに驚きだっただろう。
「さ、行こうか。花火大会始まっちゃうよ」
「カカシ先生、メールありがとってば。返事なかなか返せなくてごめんなー」
片手を差し出され、ナルトは、目を細めてからカカシの手に指を絡める。男性としては細い方なのだろうが、ゴツゴツとして大きなカカシの指は同性だが、まだナルトにはないもので、骨格が華奢なことを密かに気にしているナルトは憧れてしまう。
「オレもカカシ先生みてぇになれるかなぁ」
「ん?」
「へへへ。オレってばまだまだ成長期で伸び盛り。カッコ良くて立派な大人の男になりたいなぁって思ったんだってば」
「ナルト。おまえ、オレを褒めてもなんも出ないぞ?」
カカシが照れていることが面白かったのか、イタズラっぽくニマニマと笑った少年に苦笑してカカシは身体を反転させた。次の瞬間にはナルトの背中が塀にくっついていた。
「カカシ先生」
「ナルト、ちょっとだけここでキスしていーい?」
カカシはナルトと五指を絡めたまま、口の端を吊り上げる。
「顔、傾けて?」
「わ、でも」
「オレが隠して上げるから大丈夫だよ」
ひと気のあるところではイチャつけないから、ナルトはカカシに隙を見てはよくキスを強請られていた。人で賑わう花火大会ではキスがシヅライことはわかっていたが、ナルトが躊躇っていると、
「はい。時間切れ」
「んっ」
カカシの端正な顔が近付いて来て、ナルトはぎゅっと目を瞑る。
「ん、ん、ん…」
「ナールト、力抜いて楽にしなさいよ?」
何度、唇を重ねてもナルトは一向にキスに慣れない。この先のステップに進むのはいつになることやらと緊張からか肩を上げて身体を強張らせるナルトを見下ろして、可愛いなぁなんて思いつつカカシは角度を変えて何度もナルトの口内を頂く。
とうとう観念したナルトも、カカシの首に腕を絡める。大人がふっと柔らかく笑ったような気がしたが、爪先立ちになって、より深く自分の口の中で蠢くカカシの舌に、外にいることも忘れて翻弄される。ナルトは無意識にカカシの服を握って、甘い吐息を漏らした。
まだキスの合い間の息継ぎになれないナルトは大人の巧みなキスにすぐに酸欠状態になってしまい、逃げうつように下を向くと、いつの間にか、両頬を持たれて、掬い上げられるようにキスされた。眉を顰め薄っすらと瞳を開けると色違いの瞳に情熱的な視線を注がれていた。
この人の恋人になったんだよなぁと実感する瞬間。信じられないことに、自分は十四歳も年上の大人の欲を受け取る存在になのだ。
それもリードされるほう…。年の差や経験値から言ってもカカシがナルトをリードすることは当然の成り行きかもしれないが、戸惑いを隠すことは出来ない。
それを選択したのはナルト自身だが、幼稚園児の恋愛ではないから、キスの延長線上にある行為のことも知っている。カカシから求められたら、受け入れる覚悟は出来ていた。カカシが自分とそういう関係になることを望んでいることも、わかっている。以前に一度だけ冗談のように仄めかされたことがあったから。
だけどそれが、カカシの本音であると、気が付かないほどナルトも子供ではない。
大人のカカシと付き合うことは、肉体的な関係を含んでくるということをナルトは、覚悟していた。
「ん、ちゅ……」
「ナァルト…、可愛い」
「はぁ…ん」
もう子供ではない。わかっている。
カカシの腕がきつく背中に回される。
「―――っ」
壁に押し付けられ、ちゅ、ちゅ、と舌を吸われる。いつの間にか口の端にはどちらのものとも知らない唾液が伝っていた。頭の角度を変えられた瞬間、ナルトのポケットの中でかさりと皺くちゃの古びた紙切れが音を立てた。
魔法使いの住処だよと言って渡された紙切れ。
オレの……、灰色ねずみ。
そう幼いナルトの絶対的な味方であった存在。彼から貰った紙切れには、ナルトを育ててくれた老人が今わの際で渡してくれた紙切れと同じ文字が並んでいた。
ナルトが今住んでいるアパートから駅二つほど距離のそこは、おとぎばなし風に言ってみれば、魔法使いの住処。
ナルトは無意識に、今自分に口付けているカカシの銀髪を愛おしそうに撫でる。カカシと一緒にいると気分が落ち着いた。それがいつ頃から刷り込まれた感情であるか、ナルトはまだ気付かない。
ナルトの絶対的な味方であった灰色ねずみは、今は、はたけカカシと本当の名前を名乗って傍にいる。
くちゅりと濡れた水音が耳に響いて、ナルトは瞳を細めた。
今のオレなら、逢いに行けるかな。
カカシと出会ってナルトの中に起きた心境の変化。
―――……うちゃん。
ああ、また避け続けていた一歩を踏み出す時が来たのかもしれない。
うちはサスケくんの災難
うちはサスケ12歳だ。Web拍手?それはなんだ?
オレには関係ないことだな。
(いやだからもう勘弁してください)
この間、ドベがカカシに追われているとかでオレの家に逃げ込んできたが、あのウスラトンカチどもはいったいなにをやってるんだ?
結局サクラの家に世話になっているようだが、同じチームメイトとしてはあいつのことが心配だ。サクラの話ではカカシの奴がナルトに良からぬ思いを抱いてるっていうぢゃねぇか。
まぁ、そんなことは前から知っていたけどな。
いつかブチ切れるだろうとは思っていたが案外速かったな。
我慢がきかなかくなったのか?
~中略~
カカシがドベを押し倒した?
ち。怪しい奴だとは思ってはいたがまさかそこまでとはな。
ん?オレがナルトのことをどう思ってるのかって?
べ、べつにあんなウスラトンカチのことをなんとも思ってねぇよっ。
気になったりとか全然してない、まったくしてないぞ!
うちはサスケくんの災難
うちはサスケが玄関前で蹲る己の担当上忍を発見したのは一週間分の買い出しを済ませた帰り道だった。
木の葉有数の名家うちはの門前で涙の水たまりをつくって地面に突っ伏すこの里で一等腕が良いと評判の上忍。
なぜこの男が己の家の前で強かに泣いているのか知りたくもなかったが、邪魔な背中を跨がない限り家に入れなかった。
「おい、ウスラトンカチ。そこをどけ」
ゲシ、と無情な蹴りが大人の背中に入る。大体にして、この男が奇行に走る時の原因はほぼ100%決まっている。メソメソと啜り泣く上忍の口から漏れている音を拾えば案の定「ナルトー、ナルトー、」「会いたいよー、寂しいよー」「オレをいじめて楽しいのー?」のエンドレスコール。
サスケの脳裏に能天気な顔で笑っている、全体的にオレンジ色の物体が思い浮かんだ。
ウスラトンカチどもが!!
舌打ちして、サスケはそのまま上忍師を踏みつぶして家宅に入ろうとするが…次の瞬間、世界が反転した。
――こ、こいつっ。
片足を持ち上げられ、あっという間に逆さ吊りにされる。いくらナンバーワンルーキーと言われるサスケでも、相手は上忍。実力の差は歴然だ。
上忍から逃げ出す力はまだサスケにはない。
「サスケ、オレを足蹴にしようとするなんていい度胸だねぇ。担当上忍に対する礼儀がなってないんぢゃないの?」
いじけた態度をいっぺん底意地の悪い笑みを浮かべている大人。
嘘泣きだったのかと思われるほどケロリとしている。
おまえにだけは礼儀だとか道理を説かれたくないと思いつつも、それを口にすれば暗部・上忍仕込の陰湿な仕打ちが待っていることを心得ているかしこい少年は口を噤む。
「ほーら、くやしいでしょ。わー、サスケくんったらさかさま。普段クールなサスケくんがみっともなーい。かっこわるーい」
カカシはサスケの足を持って振り子か何かのように揺らす。あからさまに挑発しているとしか思えない不遜な態度に、さすがのサスケも堪忍袋の緒が切れて、身体を捻って上忍の頭部に蹴りを入れた。
鈍い感触に口の端に笑みを浮かべたサスケだが、煙と共に上忍のシルエットが丸太に変わった。地面に着地して態勢を整えようとした瞬間、ゴンと鈍い音がしてサスケの視界がブレる。
「オレに勝とうと思うなんて百年早いよ~、サスケ?」
ゴリ。
「はぁ、それにさー。オレ、今すごーく機嫌が悪いんだよね?」
ゴリ、ゴリ。
「あの子に会えないし、なんだか知らないけど邪魔者がわんさかいるみたいだし、もうねキレそう」
ゴリ、ゴリ、ゴリ。
「おまえに八つ当たりしてうさを晴らそうかな~」
ゴリゴリゴリゴリゴリ。頭に手を置かれ圧力を掛けられて、頭蓋骨がいやな音を立てている。虫けらをいたぶることを楽しんでいるような上忍の態度に、うちは次男坊のプライドに掛けても弱音を吐くわけにはいかないのだけど、ぐぐぐと上から掛けられる圧力に負け気味だ。
この男がどのような経緯で教職なぞを取ったのかサスケには知る由もないことだが、目の前でへらへら笑っている男は間違いなく笑いながら人の首を撥ねるタイプだと思う。
暢気な間延びした口調も、一見隙だらけな態度も全て信じてはいけない。こいつの本性は修羅。
演習中はイカガワシイ本を読んで草食動物を気取っている猫背気味の背中。そのくせ、時々向けられるのは薄く鋭い氷のような視線。牙を上手に隠した獣の匂いがぷんぷん香るのだ。
こいつの視線が…
そう。本当の意味でゆるむのはただひとりに対してだけ。そいつの名前は。
「ああ~、おまえがナルトだったらキスして、押し倒してメチャクチャに犯してやるのに」
物騒なことを言い出した男の台詞にサスケがザーッと蒼褪める。
うずまきナルト。少年のチームメイト。
「お、おか…!?ふ、ふざけるな!!!」
「…あ?なあに、サスケ。そんな顔するなよ。安心しな、おまえには食指一本も動かないから。硬いだけのヤロウの身体なんてこっちから願い下げ。男を抱くと思っただけで吐き気がするね」
当たり前だ、ウスラトンカチ!!!
誰もそんな心配はしていない。むしろサスケが蒼褪めたわけは、述べるまでもないことだが、彼のチームメイト……それも同年代で同性の、子供が変態の毒牙に掛かろうとしていることにだ。
確かに屋上での自己紹介の時からこいつは酷くオスっぽい目でナルトを見ていた。ナルトはもちろんサクラでさえ気付いていない頃からサスケはそのことに勘付いていた。
なぜなら、サスケの視線も…ナルトへと向いていたから。
ふわふわの金色頭を愛おしそうに追いかける目。格別、大事そうに騒がしい子供の頭を撫でる手つき。ベタベタとあからさまにくっつきながらも、宝物にふれるようにそっと接していたのも知っている。
スキンシップを堂々と出来る上忍に嫉妬を覚えたことは一度や二度ではない。
自分の気持ちに正直になれないサスケにとってはカカシはまさに舌打ちをしたいくらい憎らしい大人だった。
「ま、今日のところは許してあげるよ。おまえに用があって待っていたんだからね」
やっとカカシの手から解放されたサスケは、ほっと息をつく間もなく、相談なんだけどさぁと声が掛けられる。
「おまえに協力してもらいたいことがあるんだよね?」
いやだ。即答したい気持ちを抑えてどうにかしてこの上忍から逃れるすべはないだろうかと考え始めるサスケ。
「つまりおまえがサクラの家に行けば、サクラは大喜びで家に上げてくれるでしょ?」
ちょっとオレも一緒に入れてよ。
「で、オレは見事ナルトを連れ戻すことができるわけ」
そこにナルトの意思は介在するのだろうか。大体、カカシから逃げたくてサクラの家に避難したらしい相手を、連れ戻すもないだろうに。
有無を言わさず掻っ攫い、暴走しそうな上忍に、サスケの背中にいやな汗が伝う。
それに。
サスケは自分のハーフパンツのポケットに入っている紙切れの存在を思い出す。
『サスケくんへ
最高にウザい状態になったカカシ先生がサスケくんのところにいくかもしれません。
もし何か頼みごとをされても絶対きかないでください。
今こそ七班のチームワークを発揮するべきだと思うわ。
サスケくんのこと信じてます。
サクラより』
伝令用の鳥を飛ばしてまでいったいなんの手紙だと呆れていたが、まさかこんな事態であったとは。爪の甘かった己を叱咤したくなる。が、後悔してももう遅い。ゴキブリ並みにしつこくて陰湿な奴に捕まってしまったのである。
いったい自分の知らないところでどんなことが起こっていたのか知る由もないが、時々、あの桃色の少女が本当に自分のことを好きなのかと疑ってしまう。この担当上忍相手にサスケの身の安全が保障されるわけがないだろうに。
しかし、サスケにとってもナルトはチームメイトの一人だ。彼の場合、複雑な心情だが、それでも一人の人間として見てもナルトのことをきらいではない。
太陽のように明るい笑み。自分にはないものを持っている少年。
「悪いが帰ってくれ。夕飯の仕度があるんだよ」
「ふーん。へー。オレの頼みごとを断るつもり?本当にいい度胸だねぇサスケ」
カカシの瞳がすうっと鋭利に細められる。
「そういえばおまえもナルトが好きなんだよねぇ?もしかしておまえもオレとナルトの恋路を邪魔するつもり?」
「べつにウスラトンカチのことなんかこれっぽちも好きぢゃねぇよ!」
「ふーん?」
何かを含んだようなニヤついた笑みを浮かべるカカシ。
「ま、いいけどね。ライバルは少ないほうがいいに決まってるし」
何かを含んだようなニヤついた笑みを浮かべるカカシ。
「ま、いいけどね。ライバルは少ないほうがいいに決まってるし」
サスケはナルトのことをなんとも思っていない、これでいいんだよね?満面の笑みでカカシが笑う。自分の恋心を知っていてわざと言い含む言い方をする大人にサスケはぐっと黙り込む。
「てめぇは本当にサイアクな奴だな」
「んー、よく言われる」
おまえはオレとタイプが似てるからいうけどさぁ、とカカシ。
どこが…!と吐き捨てたくなりつつサスケはカカシを睨む。
「オレはねぇ、別に他人にどう思われようと関係ないんだよね。あの子さえ手に入れば」
おまえにその度胸がある?ないでしょ?
「いっとくけどあの子はもうオレのだから手ぇ出したらタダで済むと思うなよ?」
つう…とひんやりした指に顎を撫でられる。身を引こうとしたサスケだがなぜか動くことも出来ず、銀色の上司相手に固まってしまう。
「おまえは一応オレの部下だし、ナルトの大事な〝ライバル〟だから教えておいてあげる」
ナルトはなんだかんだ言っておまえのこと気に入ってるからねぇ。
おまえになんかあって泣いちゃったら可哀相でしょ?
小馬鹿にするようにせせら笑われる。
「オレの横に並ぼうなんて考えないことだよ?」
絶対零度の視線を落とされて、歯の根が知らず鳴るが、サスケはぎっと己の担当上忍を睨む。
「っざけんなよウスラトンカチ!」
「その度胸だけは褒めてあげる」
「うっせぇっ!バカにするのもいい加減にしろ」
ふっと今まで取り巻いていた殺気が弛む。
「あー、早くナルトのふにふにした体を思う存分抱き締めたーい」
いつものおちゃらけた口調に戻った上忍は、どこかに消える。あとに残されたのはサスケ。安堵のため息と共に、どっと疲れが押し寄せてくるのを感じながら、少年は誰にともなく舌打ちしたのであった。
「オレの好きな人・・・・?」
春野家に滞在し始めて数日。ナルトは女の子特有のいい匂いのするベッドの上で隣に坐る桃色の少女を見つめる。まるで女の子同士のお泊り会のような光景ではあるが、ナルトはさして疑問に思うこともなく首を傾げる。
「んんと…」
サクラの言葉にナルトはまぶたを上下させる。「サクラちゃんだってばよ!」と元気良く答えると思った子供はしかし、恥らったように頬を赤く染めた。
「前にオレを助けてくれた兄ちゃん・・・・」
「は?誰よ、それ」
「一度しか会ったことねぇんだけど、すげーカッコよかったんだってば」
ナルトは数ヶ月前のことを思い出す。
怪我の手当てしてくれたんだってばよ。オレがうずまきナルトだって知っても態度が変わらなくてびっくりした。だって大人の人にあんなに優しくしてもらった経験などなかった。名前も告げずに去っていった人。暴行されているところを颯爽と助けてくれた彼は、ナルトの記憶の中でスーパーヒーローのようになっていた。
「すーっと鼻筋が通っていて、凄く綺麗だったんだってば。美形ってああいう人のことを言うんだってばねぇ」
暴行されていたことをサクラに言うわけにはいかない。事情は話さずに、だから容貌のことだけ思い出して喋るうちに、ぽー・・・・とナルトの瞳が恋する乙女のように宙に浮く。
「で、ででもさ、オレの完璧な片想い!あれ以来、一度も会ってないし!きっと向こうはオレのことなんて忘れちゃってるってば」
顔を真っ赤にして、手をわたわたと手を振るナルト。しゅんとうつむく姿はまさに仔犬が耳を垂れてうなだれるそれ。
か、可愛い!!!
サクラは我知らず胸をときめかせ、さてナルトの意中の人物とはいったい誰なのだろうと首を捻った。
後日、はたけカカシがナルトの想い人の噂を聞いて上忍待機所をフリーズさせるほどの殺気を振りまいたのは当然の成り行き。「へぇ…ナルトに好きな奴がねぇ」と薄ら笑いながらも、目はちっとも笑っていなかった。彼の頭はすでに高速回転で「オレとナルトの幸せな未来」を邪魔する不届きな輩を葬り去るための暗殺計画を立て始めていた。
愛しい子にバレないように完全犯罪を目論むカカシ。
ナルトの意中の相手が自分だとも知らずに。
「んっまーい。サクラちゃん家のプリンは最高だってば」
「はいはい、アンタってホントよく食べるわねぇ」
ナルトはサクラと向かい合って、にこにことプリンを頬張る。
嵐の前の束の間の安息日。
素顔のカカシに一目惚れしていたナルト。ナルトの想い人を抹殺しようと画策するカカシ。
もう一度、会いたいってば兄ちゃん。ほう…と恋のため息を吐くナルト。
なんで?なんでオレのことを好きじゃないの?と己よりも先に愛する子供の心を奪った見知らぬ相手に嫉妬するカカシ。
両思いなのだが、微妙にすれ違った二人。
ちなみに、はたけカカシ殺人モード突入につき、この物語はもう一波乱の予感。
神さま、勝てる気がしません
七班の担当上忍は変っている。まず第一に、教師のくせに時間を守らない。時間厳守の忍びの世界でこれは破格の事。河に落ちた犬を助けたり、おばあちゃんの荷物を持ってあげたり、果ては人生という名の道に迷ったり、なぜ彼の通り道には厄介事ばかり転がっているのか。
ちなみに今日の遅刻の理由は、
「産気づいた妊婦さんに付き添っていてな」
というものだった。毎朝、毎朝、ご苦労なことである。いつもの如く「はい、うそ!」と声を揃えたサクラとナルト。「チッ」と舌打ちしたのはサスケ。しかし、恒例行事になりつつあるそれを終えるとナルトはとてとてとカカシの元に駆け寄っていき、大人の服の裾を控え目に掴み、引いた。
「んで、妊婦さんは平気だったってば…?」
条件反射で、「はい、うそ!」とサクラとコーラスしていたものの純粋培養のお子さまはしっかり騙されていたようで、ちっちゃな手にくいくいと引かれ上目遣いに見上げられた大人の表情は周囲も憚らないくらいだらしなくやに下がった。それに瞬間沸騰したのはサクラである。
「ナルト。騙されてるんじゃないわよ、嘘に決まってるじゃない!」
「うぇ、サ、サクラちゃん?」
サクラのあまりの剣幕にたじろぐナルト。そーだけどさ、とごにゅごにょ口の中で呟いたが「だって本当だったら大変じゃん」おなかのあたりで指を弄びつつぽそりと言ったが瞬間、「ナルト、かわいいっ」身体を小刻みに震わせて、がば!と抱きつく上司兼変態が一名。
「ぎにゃぁああ!!!!」と悲鳴をあげたのはナルト。頬を引き攣らせたのはサクラ。それまでむっつりと黙り込んでいた黒髪のチームメイトが担当上忍に向かってクナイを投げつけたのは言うまでもない。
「カカシ先生、もうちょっと言いわけにおりじなりてぃー持てってば!」
木々に刺さる無数のクナイ。火遁使用によって出来たこげ跡。上忍一名と下忍一名の戦闘で被災地となった演習場の真ん中で、ぷんすかと腹を立てる金髪碧眼のお子さま。言い訳の常套句にあっさり引っ掛かった彼ではあるが、元アカデミーのいたずらっことしてはカカシのやる気のないウソがどうにもお気に召さないらしい。不満顔のナルトにすかさず「あんたねぇ。そういう問題じゃないでしょ」とサクラのツッコミが飛ぶ。サスケといえば少し離れたところで、カカシに突っ掛るナルトを面白くなさそうな顔で見ていた。
「ナルトが毎朝起こしてくれるんならセンセーちゃんと起きるんだけどな~」
「はい、嘘ー!」
コンマ一秒で入るツッコミ。それも満面の笑顔で、である。これは本気なんだけどな~と後頭部をのんびり掻く大人は、がっくりするやらなんなやらで、そのまま子供の頭に手を置き、くしゃくしゃ掻き混ぜ、柔らかい金糸に指を絡ませていると、
「おい、ドベ。いつまでもカカシと無駄話してるんじゃねぇぞ!」
「なんだとー。無駄話なんかじゃねってば。サスケ、その喧嘩買ったってば。いざ、じんじょーに勝負、勝負―!」
むきー!と腕を振り上げてサスケに跳び掛っていくナルト。するりとをすり抜けた金色。大人は、いなくなった温もりに、手をわきわきさせつつ佇んだ。その場に残ったのはカカシとサクラで。
「…カカシ先生、それ以上は犯罪ですよ」
ぼそりと呟いた七班の紅一点をカカシはあららと見下ろす。
「さすがは、女の子。色恋沙汰には敏感なのかな?」
「モロバレじゃないですか。隠す気がないのによく言えたものですね」
それにサスケくんは私より早くに勘付いてたみたいですし?取っ組み合いを始めているサスケナルトの喧騒をものともせず、生温い笑みを交わす大人と少女。
「カカシ先生、言っておきますけど私たちはまだこど…――、」
「サクラ。センセーは愛に年齢なんて関係ないと思うぞ~」
「カカシ先生が言っても真実味がありません」
むしろ如何わしい意味にしか聞こえないのはどうしてだろうか。にこり、サクラが笑えば、カカシも片目だけしか晒していない右目を、にこり。
「カカシ先生、次の演習で二時間以上遅刻したらナルトに色街で出回っているカカシ先生の噂教えてもいいですか?」
「やだな~、サクラ。そんな昔の話を引っ張り出して。センセー今はナ・ル・ト・一・筋・だ・よ。貞操の堅いオトコに生まれ変わったんだよ~」
「12歳の男の子に貞操の危機を感じるんですけど?」
両者の間でなんとも薄ら恐ろしい空気が漂い、張り詰めた糸が臨界点を突破しようとした時、「カカシせんせってばぁああ!」カカシの背中にどーん!と金色の塊りがぶつかる。サクラは「あー…もう」と額に手を当てた。
「なーると、なにやってんのおまえ。びっくりするデショ」
あからさまにニコニコする大人。子供の腕が弾みではあるが自身の腰に回されていたからである。こんの変態!!内なるサクラが炸裂するも、傍目には教師と生徒のスキンシップで許容される範囲なので一応スルー。
「いてて。だってサスケのくせに生意気なんだってば!」
どうやらナルトはサスケに蹴り飛ばされたらしい。若干涙目になったお子さまは間髪入れずライバルのチームメイトに跳び掛かって行こうとしたが、
「ううう~?」
大人の腹の前で両腕を結ばれたためそれが敵わない。
「カカシ先生、離してってば。今日こそはサスケの奴を伸してやるんだってばよ!」
ギャーギャー騒ぎ出すナルトに「こーら、待ちなさい?」カカシの制止が掛かる。なんだってば!?と見上げる眼に苦笑して。ぽふと大人の手がナルトの頭に乗る。
「ナルト、おまえ無駄な動きが多すぎ。ついでに初動パターンがわかり易すぎ。がむしゃらに突っ込むだけじゃなくてフェイントかけることも覚えなさい?」
そのまま猫背気味の体躯を折ったカカシは身の丈の低い子供に耳打ちをする。
「サスケは小器用だけどおまえほどスタミナがないんだから、肉弾戦ならおまえのほうが断然有利なんだぞ?よく考えてから行動しなさい。ほら、行ってごらん?」
こそと告げられた内容。口布越しの吐息が耳元をくすぐり、離れる。見上げれば、ぼんやりとした顔の銀髪上司。その顔が少しだけ照れているように見えるのは気のせいか。カカシがナルトにアドバイスをくれたことは明白で、些細なことなんだけど、嬉しい。ニーッとナルトの顔に笑みが広がる。
「ま、喧嘩もまた修行なり」
照れ隠しのように、ぽんと背中を押され、ナルトの足が地面を蹴った。「サスケー、覚悟だってば!」珍しく上司らしいことをして掛けていくナルトを見送ったカカシだったが、走り出した子供がピタと振り返った。木漏れ日の中で金色の髪が煌く。
「さんきゅってば。カカシせんせー大好きぃ!」
にか!と太陽の笑み。そのまま、ぱたぱたと掛けていく少年。その場に残ったのはやっぱりカカシとサクラで、先に口を開いたのは一連のやりとりを傍観していたサクラだった。
「もう、カカシ先生たら。大っぴらにセクハラするのやめてください。上に言いつけますよ?いいですか、教師として最低限のマナーは守ってもらわないと」
「……………」
「カカシ先生?」
「……………」
「ちょっと聞いてますか?」
傍らの大人についと視線を向ければ、「――カ、カカシせん、せい???」そこにいたのは顔を真っ赤にさせた大人で、サクラは思わずぎょっと目を見開く。銀髪の上司は、口布の辺りを手で覆い、耳朶まで赤くさせていた。
「~~~~っっ」
「――ちょ、カカシ先生、大丈夫ですか」
「あー…サクラ?」
「はい?」
「今はヤバい。ヤバいから見るな」
参った、というように後頭部に手を当てて蹲る大人。これがあの上忍のはたけカカシなのだろうかと呆れてしまうような動揺っぷり。今なら木の葉にこの人ありと謳われたエリート上忍を抹殺できるのではないのか?あるいは世の中のために実行するべきかともこっそり思ってしまったりして、はからずもサクラの拳に力が入る。幸いにして雀の涙ほど残っていた教師への恩情で踏み止まったが
「あー、はいはい。あっち向いてればいいんですか?」
しばらく逡巡したあとサクラは、26歳の大人の居た堪れないその姿に免じて、これからは少しばかりのセクハラ行為なら目を瞑ってあげようかしらと思った。一方、はたけカカシと言えば。
「っとに――意外性№1にもほどがあるデショ。なにあの子。なにあのかわいさ」
反則デショ。と激しく悶え中。
「サクラァ」
「なんですか」
「あいつ、忍としての才能あるかもね?とんでもないフェイント仕掛けてくるよ」
上忍の、それもはたけカカシの不意をつくお子さま。
「センセー、ほっんとあいつには勝てる気がしない」
「惚れた弱味ですね」
ご愁傷様です。あっさりと言い放った少女に、オレの心臓考えてよ、とがっくりうなだれる上忍。バクバクと未だ脈打つ左胸。
相手の隙をつくこと。それは忍にとって重要な要素だ。予想も付かない行動をする意外性№1のどたばた忍者はある意味、忍としての素質があるのかもしれない。ちなみにカカシに向けた笑顔をちらみしたサスケ少年はナルトの頭突きを見事喰らったらしい。
空を振り仰ぐと、ぷかぷかとのんきに浮かぶ雲。銀髪上忍は空の上で傍観者たる立場を気取っているどっかの誰かに向かって何事か文句を呟いた。果たしてその陳情が汲まれる日は来るのか。それは、はたけカカシ本人にも、そして全ての鍵を握っているかもしれないうずまきナルトにもわからない。そんな晴天午後も近い時分のことであった。
空気猫取扱説明書概要
ここは二次創作小説置場です。無断転載は禁止。本物のカカシ先生とナルトくん、作者様とは一切関係がありません。苦手な人は逃げて下さい。
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管理人の生態
自己紹介
名前 空気猫、または猫
職業 ノラ
趣味 散歩・ゴミ箱漁り
餌 カカナル
夢 集団行動
唄 椎名林檎
性質 人間未満
日記 猫日和
ある日、カカナルという名のブラックホールに迷いこむ。困ったことに抜け出せそうにない。
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